ラスベガス、オーランドのテーマレストラン(商業界 飲食店経営1998年3月号)

景気絶不調の日本とは異なり、レーガン大統領時代からの政府の規制緩和と所得税の低減という景気回復策がその原動力となり米国の企業は元気を取り戻した。史上最高の株価で景気のよいウオール街を持ったマンハッタンと、コンピューターのメッカ、シリコンバレーの景気は煮えたぎっている。そして、ラスベガスの人口はここ10年間で倍になっている。米国で最も人口の伸び率が高いのだ。

景気が良くなったからギャンブルに走るのだろうかと思っていたがどうもそれだけではないようだ。実は米国の産業と人口の構造変化が人口の移動をもたらしているようだ。米国の産業は船による流通網の発達した5大湖沿岸の北部,デトロイト、ミシガン、シカゴ周辺からに立地し、鉄鋼や自動車などの産業が発達した。しかし、日本をはじめとするコストの低い海外諸国との競争に敗れ、サービス業やコンピュータなど新しい産業にシフトをしだした。コンピューター産業などの若い産業はベンチャービジネスとして誕生しているから人件費の高い五大湖周辺よりも土地や人件費の低い南に立地をするようになった。 また、日本と同様の老齢化に入りつつあるので、土地が安く気候などの環境の良いやすい南に人口が移動しているわけだ。

その中で砂漠がほとんどをしめるネバダ州の人気が高まっている。ネバダ州は従来砂漠しかない魅力のない州であり税収も少ない貧乏な土地だったが,ラスベガスにおけるギャンブルの成功から現在は豊かな州の一つとなり、普通の州では個人の所得に対して7ー8%徴収する住民税を無料にしている。そのため、年金生活をしている老人が気候が温暖で食事も安いカジノの町に移住を開始したというわけだ。

筆者のマクドナルド時代の上司の軍事顧問だった鬼軍曹が昨年リタイアーし、ネバダ州のもう一つのギャンブルの町リノに移住した。リノはカリフォルニア州とネバダ州の境でネバダ州側にはギャンブルの町リノ、カリフォルニア州側には高級リゾートのタホ湖やスキー場がある。しかし、サンフランシスコから車で4時間もかかる遠い文明から遠く離れた不便なところだ。何でそんな不便なところに行くのかと聞いたら,州税がただだし(米国人は本当に無駄なお金を使わない地味な国民性を持っている),今ではインターネットがあるから文明とは断絶することはないと言っていた。そのため退職の半年前から筆者たち元部下はパソコンのセットアップ、インターネットの接続などを手伝わされたという経緯がある。そんなパソコンなどの文明の利器を携えたハイテク老人たちが快適なラスベガスの生活を追い求めるようになったというのが10年間で人口が倍になったという理由だ。

(ラスベガスの現状と将来)
ラスベガスがなぜ急成長しているのだろうか。例えばフラミンゴホテルの従業員は4500人いるが、彼らの一ヶ月の給料を1週間分のスロットマシンの売上でまかなえるくらいだといわれている。現在5005室を誇る最大のホテルMGMの投資額は約500ミリオンドルで、一日のランニングコストは1.5ミリオンドルだが、年間の利益は400ミリオンにもなる。勿論全てのホテルが成功しているわけではなく、ストラッドタワーは破産法を申請している。元々の計画が甘く、金利11%で借り入れを行っていたためだ。部屋数も2000室と中途半端であり、後で追加の建設中の部屋が中途で挫折したままだ。世界で一番高いジェットコースターで有名になったが、カジノ内部への導線の設計が悪く、人気がカジノの売上につながらず、会社更生法の申請をしたわけだ。

そんな失敗を横目にさらに拡大が進んでいる。現在一番大きなホテルは客室500部屋のMGMだが、98年秋にはフラミンゴヒルトンの前に、Bellagioというホテルができる。テーマはイタリア、コモ湖畔の村のイメージで、ホテルの前に巨大な人工湖を作る。2688室で、本格的なイタリアンレストランと超高級ブティックを売り物にする。投資コストは900-1.25ビリオンドルだ。

98年末にはParadiseという3800室のホテルがピラミッド型で有名なルクソールの南にできる。古代の失われた大陸のイメージでメインテーマは海だ。800ミリオンドルの投資となる。

99年春にはMGMグランドを抜く最大のホテルが誕生する。6000室を誇る。春に第一期で3036室、第2期で3000室となる。イタリアベニスのテーマで、ホテルの中に人工の水路を造りゴンドラを行き交いさせる。シーザースパレスの高級ショッピングモールのフォーラムの2倍の大きさのショッピングモールを計画している。3.4ビリオンドルという巨大な投資を予定している。

99年末にはParisというパリの町をテーマにした2914室のホテルがバリーの南にできる。投資コストは750ミリオンドルだ。

ラスベガスはギャンブルの町から大型のテーマタウンへ大きく変貌を遂げつつある。米国厨房工業展などもこの町で開催されたが、ウエット&ワイルドというプールなどのある遊園地でインタナショナルの参加者を招いたパーティが催し大人気だった。ラスベガスは会社のコンベンションや、家族で来ても楽しい町にしようと言うことで、各ホテルの内外で無料のショーを行っている。トレジャーアイランドホテル(宝島ホテル)の前で行っている、海賊船と軍船の撃ち合いのショーはスケールが大きく大人気だ。大型帆船をホテル前の人工湖に浮かせ、実際の大砲の撃ち合いを行うのだ。もちろん空砲だろうが、大砲が命中すると熱い爆風が吹き寄せるくらいリアルである。そして最後には海賊船が勝ち、軍船が実際に湖に沈没するという見事な物だ。

(ラスベガスのレストラン)
ラスベガスに合わせて数多くのテーマレストランが出現しているのでその紹介をするが、その前に米国の外食のトレンドを理解しておこう。

人口の老齢化と南下は外食産業にも大きな影響を与えている。日本と同じなのだが戦後に生まれた団塊の世代は米国で最も大きな人口となっている。その団塊の世代の老齢化につれて人々は、昔食べていた味を求める回帰現象が起きる。それがお袋の味、英語でいうとカンファタブルフードだ。アメリカ人にとってのおふくろの味はミートローフ、マッシュポテト、フライドチキン、ラザニア、ミートボールスパゲッティなどのイタリア家庭料理であり、料理のジャンルでトップの伸びを示している。イタリアの移民が多かったという理由もあるが、米国人にとってイタリアのお母さんというのは料理上手だというイメージがあり家庭の食事で良くイタリア料理を出していたというのがお袋の味=イタリアか低料理という理由だ。それが、ウオルフギャングパックやカリフォルニアピザキッチン等のカリフォルニアイタリアンが大人気の理由となっている。

また、人口の老齢化と、産業の変化による南部への人口移動により、その地方の味に馴染みだしたという現象が起きている。また、南部つまりテキサスやメキシコ国境、フロリダ周辺へ移動することによりテキサス料理,メキシコ料理(テックスメックスという)、フロリダ周辺の島のカリビアン料理を食べるようになりその味に親しみだした。それらの料理は従来のアメリカ料理とは異なり、肉中心ではなく、豆やトウモロコシなどの植物繊維をたっぷり含んだ健康的で安価な食事だというのも老齢化社会に受け入れられた大きな理由だ。

そういうわけで米国の食のトレンドは1番がイタリアン、次が、カリビアン、テックスメックスとなったわけだ。キーワードはカンファタブルフード(お袋の味)、カジュアルテーマレストランとなるわけだ。これから紹介するテーマレストランはどこもこのカンファタブルフードを出している。

では見るべきレストランを紹介しよう。

1.MGMホテル
1.子供のテーマレストラン・レインフォレストカフェ
97年の暮れにホテルのメインエントランスに開店した。大人だけテーマレストランで楽しんではいけないと言うことで子供のテーマレストランとして誕生したのがレインフォレストカフェだ。

レインフォレスト(=熱帯雨林)の名の通り、店内はアフリカのジャングルをイメージしたデザインが施されている。入り口には生きているインコをおいて本物感を訴え,入り口の水槽にはワニが居て口をがばっと開けて子供を驚かせる。中はまるでジャングルで、熱帯魚の水槽やインコが飛び交っています。入り口からはスーベニアーショップを通ってレストランに行くと案内嬢は像のイスに座っています。店内はまるでジャングルで食べているような雰囲気で、食べている最中模型だと思っていた象が急に叫び、動き出してびっくりさせる。

フードの単価は10ドル前後、チルドレンメニューでも5ドル程度だから、ファーストフードなどに比べればはるかに高いのだが,親子で平均すれば客単価は15ドル以内で収まる。料理は他のテーマレストランと同様にカンファタブルフードだ。

2.ウオルフギャングパック
カジノの中にはロサンゼルスの最も有名なピザレストランのウオルフギャング・パックがある。LAのカジュアルなイタリアンの雰囲気でカラフルな店とにこやかなサービスで大人気だ。

2.ニューヨークニューヨーク
MGMの前にある、今一番新しいホテルのニューヨークニューヨークのカジノのフロアーにあるフードコートはイタリアの下町をイメージしたテーマ性のあるフードコートだ。また、イタリアンレストラン、チャイニーズレストランもデザインの優れたテーマ性のある店だ。

3.MGM周辺のテーマレストラン
ホテル周辺にはテーマレストランが集まっている。

1.スポーツのオールスターカフェ
プラネットハリウッドの系列の店だ。ニューヨークのタイムズスクエアに1号店を作ったスポーツをテーマにしたオールスターカフェの2号店ができた。店内はまるでドーム球場のような雰囲気だ。内装はスポーツ選手のユニフォームなどをテーマにしている。キッチンはオープンキッチンでカジュアルな雰囲気を出しトイレもプラネットハリウッドと同じくテーマ性を持たせてサービスもばっちりだ。

2.マッチョマンのハーレーダビッドソン
ライダーやオートバイに関心を持っている人々のためのテーマレストランが「ハーレー・ダビッドソン」だ。やはりマンハッタンに1号店を開いて大成功し、ここに2号店を開いた。大人の客をターゲットにしているので女性従業員がとても素敵なのが特徴だ。

3.モータウン
レコードで有名なモータウンをテーマにしたレストランでブラックミュージックを演奏している。

4.カントリースター
カントリーソングをテーマにしたレストランで一号店はユニバーサルスタジオだ。

4.ハードロックカフェホテル
元祖のテーマレストランはハードロックカフェで、ロックミユージックをテーマに世界中に展開している。厨房はオープンキッチンで中で調理をするのを見ながら食事が出来るようになっている。この町ではとうとうレストランだけでなくホテルまで造ってしまった

5.フォーラムショッピングモール
1.プラネット・ハリウッド
一番人気のプラネット・ハリウッドは俳優のシルベスタースタローンなどが出資して作ったハリウッドをテーマにしたお店で、店内は映画で使った小道具や、衣装をふんだんに内装に使っている。また、トイレも凝っていて、鏡を覗くとまるでジョーズに食べられたように見える。

2.スパーゴ
このラスベガス一番の高級ショッピングモールはイタリアのローマをイメージしたテーマショッピングモールでイタリアの高級ブティックが並んでおり,その中心にあるのがスパーゴだ。ウオルフギャング・パック氏がロスで開業し大人気となったイタリアンレストランで、オープンキッチンのカリフォルニアイタリアンを食べさせる店だ。盛りつけ、味もだが従業員のサービスが素晴らしいのが特徴だ。

6.ファッションモール
海賊戦で有名なトレージャーアイランドホテルの横にあるショッピングモールの中にも美味しい店がある。

1.潜水艦のダイブ
モールの入り口に,プラネットハリウッドと同じく映画監督スチーブンス・スピルバーグが作ったテーマレストラン,ダイブがある。町の中に忽然と潜水艦が浮かんでおり、ハッチをくぐり抜けて中に入ると、まるで潜水艦の中にいるような面白さだ。

2.オープンキッチンのモートン
シカゴは昔から牛の市場として有名で数多くの食肉業者が居る。口の肥えた食肉業者が良く行く有名なステーキレストランがモートンだ。高級なシックな店だが、サービスが素晴らしい。入り口を入るとまず目に入ってくるのが肉をがんがん焼いているオープンキッチンだ。血も滴るような新鮮な肉をカウンターに山積みして思わず涎が出てくる。

メニューがないのが特徴で、まるで屋台のテキ屋のテッカバイ口上のようにメニューの説明を現物とともに可愛いウエイトレスがやってくれる。(日本人には早すぎて分からないので特別に日本語のメニューが用意されている。)

ステーキ屋なのだが生牡蠣、スモークサーモン、メキシコ湾のエビ、等が新鮮でとっても美味しいのが特徴だ。筆者の大好物は3kgもあるメインロブスターのグリルで醤油とレモンで食べると最高だ。ステーキも勿論ほっぺたが落ちるほど美味しいのだがステーキも同じく醤油をかけると食欲もりもりになる。最後のだめ押しがデザートのスフレで,焼きたてを出すために料理と一緒に頼みます。注意は2人で分けて丁度良いくらいのボリュームだ。ラスベガスに行ったら是非モートンを試すべきだろう。

7.その他のレストラン
1.クリスステーキハウス
ニューオリンズのクリスおばさんの店だ。ステーキの特徴は軽く塩胡椒とパセリをかけて、高温の特殊なオーブンで焼く。華氏800度だ。お皿も鉄皿ではなく特殊な陶器を使い,温度を鉄皿と同じくらい熱しても割れない特殊な物で食べている間さめないように工夫をしている。

2.アウトバックステーキハウス
南部のフロリダを中心に急成長しているレストランがアウトバックだ。クロコダイルダンディーをテーマにしたカジュアルなレストランで、ウエイトレスが美人でサービスが良いのが特徴でラスベガスにはもう4件ほどもある。

3.インアンドアウトハンバーガー
米国人の最も人気のあるハンバーガーチェーンがこのインアンドアウトハンバーガーだ。町の真ん中に巨大な店がある。メニューはたった4品目しかない。特徴はモスバーガーのようにオーダー制で、生の野菜をたっぷり入っているのが特徴だ。

4.最も人気のあるディスコ
ラスベガスで若者に最も人気のあるディスコのあるのが、ホテルのRioだ。夜になると着飾った若者で一杯になる。ラスベガスで最も美人が集まるディスコで有名で、この最上階にあるVooDoo Cafeも彼らに大人気のバーだ。

このラスベガスのレストランは景気低迷の日本のレストランに対するヒントを与えてくれるだろう。米国のような成熟した社会では普段の食事はFFやスーパーの持ち帰り食材の中食を利用する。しかし、普段一生懸命働くのはラスベガスや旅行に行って楽しむためだ。旅行に行って食事をするのは家族や友人と楽しむためだ。いくら景気が良くなったと言ってもバブルの頃のようにフレンチレストランでシャンパンをばんばんあけて騒ぐというのはもう格好が悪い。普段食べ慣れている、イタリアンやテックスメックス、カリビアンの料理をリーズナブルな価格で雰囲気の良い、サービスがとびきりのテーマレストランで楽しむというのがアメリカ人の楽しみ方だ。

成熟した社会では物はあふれている。その中で差別化をするのはサービスなのだという事を学ぶのにラスベガスは最適な町だろう。

ラスベガスの情報はインターネット経由で画像や地図でじっくり見ることができる。紹介したレストランの地図やメニューも紹介している。そのURLをご紹介する。筆者のホームページの飲食店経営の記事を見てもらえばリンクしているので簡単に見ることができるのでご利用いただきたい。

Las Vegas
観光,検索
まず地元の全体的な紹介のホームページから見てみよう
http://www.lasvegas.org/
定番情報検索のYAHOOでも検索できる。
http://www.yahoo.com/Regional/U_S__States/Nevada/Cities/Las_Vegas/Lodging/Hotel_Casinos/
ホテルやカジノの建設情報はここで見てみよう。
http://www.lasvegassun.com/casinos/new/
カジノホテル
カジノホテルのホームページで直接見てみよう
http://www.primenet.com/‾donking/vegas/index.html/riviera.htm
http://www.ballyslv.com/
http://www.bellagiolasvegas.com/
http://www.pcap.com/mag_emp.htm
http://www.excalibur-casino.com/
http://www.hardrock.com/hotel/
http://harrahs.lv.com/
http://www.hilton.com/hotels/LASLHHH/index.html
http://www.luxor.com/
http://www.mgmgrand.com/
http://www.playrio.com/
http://www.accessnv.com/sands/
http://www.sheraton.com/sheraton/html/Properties/Resort/014.html
http://www.pcap.com/sahara.htm
買い物
中心街にあるショッピングモールだ。一般的なお土産や食事を楽しめる。ステーキハウスのモートンズやスピルバーグがデザインした潜水艦のダイブがある。
http://www.thefashionshow.com/
シーザースパレスに隣接した超高級ショッピングモールのFORUMのページだ。ロスの名物SPAGOやPLANET HOLYWOOD があり、その他の高級イタリアンブティックがあふれている。
http://www.shopcaesars.com/
http://www.el-portal.com/
http://www.factorystores.com/home5.html
http://www.blvdmall.com/

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