テーマレストラン・プラネットハリウッド失敗の原因(商業界 飲食店経営1999年10月号)

99年第一四半期の時点でプラネットハリウッドは売上は75ミリオンドルであったが、34.7ミリオンドルの損失を出した。6月の時点の株価は62セントと紙くず同然となっていた。そして8月にチャプター11〔米国会社更生法〕を申請した時点では,店舗数は80店弱で、負債は250ミリオンドルを超える悲惨な状態であった。

91年に彗星のごとく現れ、急成長を遂げたプラネットハリウッドが彗星のように消え去りつつあるわけだ。ファッションカフェ、ダイブ、モータウンカフェ、カントリースター、などのテーマレストランも不振を極めている。一時は成長株であったテーマレストランのジャンルの衰退の原因は何であろうか。

1.過去の売上状況
R&I誌1997年7月15日号の米国外食企業のトップ400のリスト〔1996年度の売上である〕。では222.5ミリオンドルの売上で102位〔前年比の売上は45%アップ〕、Hard Rock Cafeは216ミリオンの売上で107位であった。
98年7月15日号(97年度売上)ではプラネットハリウッドは342.7ミリオンドルの売上で75位まで上りつめた。(Hard Rock Cafeは250.1ミリオンドルで97位)

そして98年7月15日号(98年度売上)ではプラネットハリウッドは80店舗で244.2ミリオンドル〔前年比マイナス28.7%〕で107位と悲惨な状況となった。(Hard Rock Cafeは271ミリオンドルで97位と維持をした)

ハードロックカフェはプラネットハリウッドの比べ好調のようだが、収益性の低下と株価の低迷に悩み,今年に入り社長が退任し、現在店舗の売却も噂されている。

子供向けのテーマレストランであるレインフォレストカフェは98年度で214ミリオンドルの売上で前年に98%の売上伸びで好調のように見える。しかし、良く見てみると98年度の既存店の前年比売上は9%低下し、特に後半の第4四半期は10%減となっている。今年になり、料理のレベルを上げようと有名シェフ数名と契約し、料理のレベルアップに懸命だが既存店の売上の落ち込みを防ぐことはできない状況だ。

その既存店の売上を防ぐために新店舗の開店を行っているので、会社全体の売上が伸びているわけで、いつプラネットハリウッドのように悲惨な状態にならないとも限らないというのが業界の一般的な見解となっている。

2.会社の歴史
プラネットハリウッドインターナショナル社はイギリス人のRobert Ian Earl氏が1991年に創業した。氏はイギリス生まれの創業当時44歳のテーマレストランの経営のプロフェッショナルだった。父親はイギリスの有名な歌手であり、舞台で活躍していた。しかし、エンターテイメントの世界に入らず、イギリスのホテルレストラン学部を卒業後、テーマレストランの世界に入った。イギリスの大手テーマレストランの経営に手を染めた後、米国にわたり、ディズニーワールドのあるオーランドでテーマレストランを経営し、ハードロックカフェの運営も責任者としてまかされた経験を持つ。氏がディズニーランド風のサービスを身につけた原点だ。そして、Sylvester Stallone、Arnold Schwarzeneggre, Bruce Willis, Demi Mooreなどの映画俳優に出資を募り、プラネットハリウッドをスタートした。
当初の店舗であるディズニーワールド内のディズニービレッジ店は、地球の形をした超大型の店舗で,年商20ミリオンを超える超繁盛店で急速な展開を行った。3年後には20店舗を超え、年商も170ミリオンドルと急成長していった。

3.営業形態
ディズニーワールド内の店舗は巨大な地球儀の形をして、600席以上の客席を設けた巨大な店舗だ。店内はユニバーサルスタジオのセットで食事をしているような雰囲気を味わえるように、ヒットした映画の小道具や衣装を置き、店内のスクリーンには映画を流して、ムード一杯だ。パブリシティも旨く、開店時には出資している有名ハリウッドスター出席の元に開店パーティーをやるので、店を訪問するとスターに会えるのではないかと思わせる。客席だけでなくトイレに行っても鏡がジョーズの形をしており、覗くとまるでジョーズに食べられたような印象を受けるような遊びをちりばめている。勿論従業員もカジュアルな恰好をして客と一緒にわいわい楽しむわけだ。ま、米国版テーマ居酒屋の乗りだろう。
ハードロックカフェのが成功した要因は料理もあるが、Tシャツなどのお土産を販売したことだ。多くの米国人は世界各国のハードロックカフェをまわり、そのTシャツのコレクションをすることがブームになったくらいだ。勿論安いTシャツだけでなく、他の高価なお土産も販売し利益率を大幅に高めるようにしているわけだ。その手法をしっかり取り入れ入り口にはおみやげ物の販売店を設置し積極的に販売している。

4.米国でテーマレストランが流行った理由。
1.経済的な理由
米国バブルは日本より早くはじけ、80年代後半から90年代全般は不況の時代であった。バブルの時にはヤッピーだのディンクスなどの人種が、着飾りグルメレストランに通った。単価は100ドルも越えるようなフレンチレストランに通ったのだ。それがバブルがはじけ高級なフレンチレストランに行ける金がある人がいなくなってしまったし、レーガンの税制改革で接待交際費が経費として控除しにくくなったと言うこともあり、食事の場が接待に使われることが少なくなった。そのため接待需要に支えられたフレンチレストランは衰退し、フレンチのシェフがだぶつき一時は会社の給食に職を求めるような状況に陥った(現在の日本の和食の板前がだぶついているのと同じような状況だ)
そして、外食は接待の場から、仲の良い友人や家族と共に楽しむ場と替わっていった。自腹で食べるのだからあまり高くなく、気楽で楽しめるレストランを望むようになった。

2.服装
米国が現在のように活況を帯びてきたのは従来の重工業ではなく新興産業のソフトやサービス業が伸びたからだ。コンピューターやソフトウエアーの会社は鉄工業、自動車製造業が立地する五大湖沿岸は労働組合の組織率が高いため人件費が高いのを嫌い、土地も安い南部に立地をするようになった。元々、カジュアルな業界であったが南部に立地することにより服装はよりカジュアルとなり、何時もポロシャツにチノパンツと言う服装になった。
金曜日には仲間や家族と食事に行くわけだが、そんな気楽な恰好で雰囲気の重厚なフレンチレストランや高級ステーキハウスには入りにくいと言う状況になり、よりカジュアルで気楽な店を要望するようになった。しかし、贅沢な生活を覚えると今更ファミリーレストランには行けない、カジュアルだけど特別な店に行きたいと思うようになる。

3.出す料理
米国の状況で忘れてはいけないのは人口移動だ。最近は老齢化が進んでいるのと、産業の盛衰のために、人口が南に移動しつつある。フロリダやメキシコの近くにだ。そして移動した土地の食事を食べる内にそれがすっかり気に入り、その食事を出すレストランが急に人気がでてきた。それが、カリビアン料理とテックスメックス料理だ。テックスメックスはテキサスからメキシコ周辺で食べる、トウモロコシや豆を中心にした料理と、バーベキュウ料理の組み合わせだ。あまり油を使わない、繊維質の多い食事が特徴だ。カリビアン料理はケイジャンや中南米、メキシコ料理の影響を受け、やはり繊維質の多い健康な食事だ。
また、人間年をとるとむかし食べたお袋の味が恋しくなる。米国人にとってのお袋の味というのは実はイタリアンだ。イタリアからの移民が多かったのと、イタリア人のお母さんは料理名人と言うイメージがあるので、イタリア系でなくても子供にイタリア料理(ラザニヤ、ミートボールスパゲティなど)を食べさせていた。だから米国人のお袋の味はイタリア料理となる。それを英語でカンファタブルフードと言うわけだ。快適な食事と誤訳しているようだが、正確にはお袋の味だ。カンファタブルフードはイタリアンを意味するわけだが、高齢者が南部に移住するようになり,広義ではイタリアン、テックスメックス、カリビアンをも意味するようになった。

そのカンファタブルフードと、食事を楽しくさせるカジュアルでテーマ性のある雰囲気がドッキングしテーマレストランを誕生したのだ。

5.だめになった理由
一時は急成長を遂げたプラネットハリウッドが失墜した原因を見てみよう
1.ブランドの確立
テーマレストランは、日常性からはなれた憧れの店でなくてはいけない。ハンバーガーチェーンのように町にあふれていては価値がなく店舗の希少価値がないのだ。プラネットハリウッドは当初フロリダオーランドのディズニーワールド内やニューヨーク、サンフランシスコ、ラスベガス、ロサンゼルスなどの観光地に開店し、わざわざ行く希少価値があった。しかし、急速展開により80店舗も開店すると大都市には複数のプラネットハリウッドを見るようになり、希少価値を失ってしまった。また、急速展開により、ハードロックカフェのようにロゴの入ったTシャツを収集し,誇らしげに着て歩く熱烈なファンを作り上げることができず、ブランドの確立をすることができなかった。
2.投下資本が高い
プラネットハリウッドやオールスターカフェは大型の建物と特殊な内装を要求し、多額の投下資本がかかる。しかも、観光客に依存しており、平日よりも,休日,日曜日に売上が高いという稼働率の問題もあり、損益分岐点が他の外食店舗よりも高すぎるのが、既存店売上の落ち込みにより収支が急速に悪化した原因だろう。
3.価値がない
客はテーマレストランをどう思っていたのか別表のアンケート調査を見てみよう。
テーマレストランはその独特の内装と雰囲気に多額の投資をしているので、雰囲気の評価はレインフォレストカフェを筆頭に高い評価を得ている。しかし、カジュアルで楽しいというのがテーマレストランに求められる条件であり、雰囲気と共に良いサービスを求められる。その大事なサービスの点でプラネットハリウッドは42点とディナーハウスのMacaroni GrillやT.G.I. Friday、ステーキのOutbackに大差を付けられている。

テーマレストランチェーンにとっての競合は,他のテーマレストランだけではなく、客にとってカジュアルで楽しい店は全てだ。ここ10年ほどの外食のカジュアル化は全ての分野に広がり、ディナーハウスのMacaroni Grill(中食の超繁盛店イーチーズを生み出した,フィル・ロマーノ氏率いるイタリアンチェーン)やT.G.I. Friday〔最近ワタミと合弁会社を設立し渋谷に一号店を開店し、楽しい雰囲気とサービスで盛況だ〕、ステーキのOutback(ハードロックカフェやカプリチョーザを展開するWDIが提携し来年開業予定)はそのカジュアルな雰囲気と良いサービスの両方の面で客の評価が高いのだ。さらに大きな違いは料理の品質の評価だ。Outbackの77点、Macaroni Grillの76点は、レインフォレストの65点、プラネットハリウッドの52点を凌駕している。つまりこれらの繁盛店はQSCの点でテーマレストランよりもはるかにバランスがよく、そのため客の総合評価ははるかに高くなっている。

そして、一番問題なのは価値観だ。プラネットの18点だけでなく、レインフォレスト24、ハードロックの18点と、他のジャンルに比べ圧倒的に低いのだ。つまり、雰囲気は良いが、サービスや料理も大したことがなく、価値観は最低だというのが米国人の下した評価だ。

テーマレストランといえども料理を出すからには外食であり、客にとってはバランスの取れた価値観が重要だ。テーマレストラン、特にプラネットハリウッドの内装雰囲気を優先した装置産業の発想が客に価値観を抱かせず、凋落した最大の原因だろう。

R&I誌99年3月1日号Choice in Chains Winners  記事より引用
レストラン名 業態 総
合 品
質 種
類 価
値 S 雰

気 清

さ 便


Rainforest Cafe テーマレストラン 52 65 62 24 47 81 65 22
Planet Hollywood テーマレストラン 44 52 47 18 42 70 60 20
Hard Rock Cafe テーマレストラン 43 53 47 18 41 67 55 21
Macaroni Grill ディナーハウス 56 76 60 36 57 67 64 31
T.G.I. Friday ディナーハウス 50 63 65 34 48 53 51 37
Outback ステーキハウス 57 77 62 38 62 63 59 38
Starbucks コーヒー 44 66 43 20 40 44 51 43
Cracker Barrel ファミリー 58 73 72 49 56 61 59 37
Denny’s ファミリー 32 38 47 39 27 21 24 31
In-N-Out Burger ハンバーガー 42 64 29 47 45 31 44 36
McDonald ハンバーガー 32 30 31 36 29 22 30 49
Pizzeria Uno ピザ 46 68 55 36 41 51 42 28
Pizza Hut ピザ 36 57 37 30 33 28 29 37
Chick-fil-A チキン 40 63 35 34 39 30 38 39
KFC チキン 30 45 31 28 26 18 26 35
R&I誌99年3月1日号のChoicein Chains Winnersと言う消費者調査を見てみよう。調査会社のGreenwich社が全米の4,000家庭に調査用紙を配布し、2,876通の回答を元に作成した物である。内容は業態別にチェーンを分け、総合評価(総合)料理の品質(品質)、メニューの種類の多さ(種類)、価値(価値)、サービス(S)、雰囲気(雰囲気)、清潔さ(清潔さ)、便利さ(便利さ)で評価を5点満点でつける。高い点数が高い評価と言うことになる。

全てのジャンルを網羅できないのでテーマレストランの内、レインフォレストカフェ、プラネットハリウッド、ハードロックカフェと、その他のジャンル別のトップ評価と日本にも進出している企業の評価を比較してみた。

日本で学ぶこと
日本の経済は米国よりも5-10年ほど遅れており、米国と同じ路をたどっている。フレンチや和食などの高額な店は,企業の経費削減のあおりでどんどんつぶれていき、客は低価格で楽しい店を求めている。その声に応えて、居酒屋やカジュアルレストランのジャンルでは凝った内装のテーマレストラン風の店舗が増加しているし、ラスベガスのフォーラムショッピングモールのデッドコピーのビーナスコートが臨海副都心で開業した。
しかし、料理を出すからにはバランスの取れたQSCが大事だということを忘れてはいけない。さもないと米国のテーマレストランのように一瞬の流れ星、いや、星屑となってしまうのだ。

以上

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