エルダー時代の商業施設考(株式会社インターライフ Zero hour vol.54)
戦後、1946~47年生まれの団塊の世代が老齢化を迎える時代となった。シニア向けの飲食ゾーンと言うと結構古ぼけたコンセプトを持ってくるのだが、団塊の世代は日本の高度成長時代に育ち、仕事や遊びで海外旅行を当たり前のように行っている。この目の肥えた世代にはまやかしのコンセプトは通用しない。
従来型のショッピングモールの飲食ゾーンはチェーン系のファミリーレストランか、ファスト・フード、そしてフードコートが一般的だ。どちらかというと小さな子供連れに向いた店造り、料理が特徴だ。そんな子供だましの飲食施設ではこれからのシニア世代は満足できないだろう。
1) 交通の便と街造り
従来の日本の街造りは住居、学校、オフィス街、官庁街、歓楽街を整然と分けた物であった。しかし、便利そうに見えて何か手続きなどをする際に移動距離が必要だという欠点がある。シニア世代は時間が充分にある。しかし、年齢が高くなると移動することが難儀であり、買い物や食事を楽しみに行く回数が減少する。
筆者はサンフランシスコ郊外のシリコンバレー住んだことがあり、現在も家族が住んでおり時々訪問する。従来は米国も街作りはゾーニングと言って明確に分けていたが、最近は住居、商業施設、オフィス街を一体とする開発が行われている。
シリコンバレーの一のショッピングモール、ヴァレーフェアーの横に開店した、サンタナ・ローと言う階上に住居を備えた近隣型ショッピングモールがそれだ。
http://www.westfield.com/us/centres/california/valleyfair/
http://www.santanarow.com/
ヨーロッパの古い町並みを模したビル街(ユニバーサルスタジオのようなビル街だ)の階上をモダンなコンドミニアムにして、階下に洒落たレストランやお店を誘致した。夫婦だけでじっくり食事をする際にはその洒落たお店で楽しめる。孫達が訪ねてきた場合にはモールのフードコートに行けばよい。ヴァレーフェアーショッピングモールには家具屋、高級デパートのノードストローム、大衆的デパートのメイシーズ、その他専門店もある。最近はブランドショップも揃え、買い物はサンフランシスコまで出かける必要は全くない。
しかし、近隣に居住していないシニアが大型ショッピングモールを訪問して困るのは、車を運転していっても駐車場からレストランが遠く歩くのが難儀だと言うことだ。その対応として高級レストランをショッピングモールの入り口周辺に設置し、レストランに来る客にバレットパーキングと言う有料のサービスを実施している。車をレストラン前に付ると、従業員が駐車場に運転していってくれるサービスだ。このサービスによりシニアも気楽にショッピングモールに出かけることができるようになった。また足の不自由な人にたいしては店舗前に身体障害者用のパーキングを設置し、車路からスロープを付け車椅子で店舗にそのまま入れるように配慮している。
シニア向けの商業施設を考えるときには商業施設の設計だけでなく、住居とオフィス街のバランスと交通手段と言う便宜性も同時に考えるべきだろう。
日本では関西のJR芦屋駅周辺がシニアにとって生活がしやすいと言われている。駅上にはショッピングモールとレストラン街が並んでいる。幾つかの大型マンションが駅から直接ペデストリアンデッキでつながっており、雨に濡れずに家に帰れる。ペデストリアンデッキを降りるとタクシーとバスの乗り場があり家まで歩かずに帰れる。地下には神戸生協が大型の食品売り場を設けているので、買い物も便利だ。それらのビル群の地下には連結した大型駐車場を備えており、電車だけでなく、車での買い物にも便利となっている。
駅周辺には地球健康家族などのお持ち帰り惣菜店も開店しており、家で簡単に食事もできる。洋服や家具などの高額の買い物をする場合にもJR快速で大阪に15分で到着できる。
最近の日本は郊外の大型ショッピングモールが全盛だが、車の運転できないシニアにとっては便利とは言えない。日本の発達した鉄道網の便利さとシニア向けの駅周辺ショッピングモール、そしてマンション群の組合せ考えるべきだろう。
2) 食の安全と健康
シニアの食に必要不可欠なのは安全で健康に良いと言うことだ。老齢化すると食品を買って帰って家で調理をするのは体力が必要だし面倒だといって、バランスの取れた食事をしないで体を悪くして入院することがある。入院して病院のバランスの取れた食事を3食キチンと食べることによって体力を取り戻す。しかし退院するとまた食事をとらず体をこわしてしまうと言う悪循環だ。
しかし、外食レストランは働き盛りを対象に作った料理であり、シニアにはカロリーが高すぎたり、塩分の問題、食品添加物の懸念がある。
米国でも健康や安全への懸念が高まり、オーガニック食材を取り扱う食品スーパーが急成長している。その一つがWhole Foods と言う食品スーパーであり、1980年にテキサスで1号店を開店してから現在までに156店と急成長している。
http://www.wholefoods.com/
日本でもオーガニック食材を扱う食品店はあるが、規模は小さくお店は汚くちょっとマニアックな人が行くと言うイメージだ。しかし、Whole Foodsは高級食品スーパーの趣の内外装デザインである。品揃えも豊富で、数十種類のオーガニックのビールやワインまで並んでいる。老齢化が進むと何処の国も医療費の高騰が国民負担を増すので、なるべく医者に行かなくても良いように規制緩和をして、簡単な医薬品を何処でも帰るようにする対策をとる。米国はいち早く、漢方薬などの比較的安全な薬は食品スーパーなどでも健康補助食品として販売を認めるようになった。Whole Foodsでは大きな漢方薬のスペースを割いて販売をしている。
米国はHMRと言う日本の中食(持ち帰り惣菜)のブームの元祖だ。現在では米国の食品スーパーの殆どは持ち帰り惣菜コーナーを充実させている。Whole Foodsは入り口横にオープンキッチンを設置しオーガニックの安全な持ち帰り惣菜を用意している。その売り場の前にはレストランと同レベルの見事なサラダとスープバーを設置しており、ダイエットの必要なシニアの要望にも応えられるようになっている。勿論そこで食べたい人にはイートインスペースを用意している。2004年2月にはニューヨーク・マンハッタンに大型店を開店し、250席のイートインスペースを設け大人気となっている。
日本では阪急電鉄が大阪駅に高級食品スーパーの成城石井http://www.seijoishii.co.jp/
を誘致し、JR西日本は対抗して大阪駅改札口にイカリhttp://www.ikarisuper.com/ 、を誘致するなど、駅ショッピングモールに健康で安全な食材を売り物にする高級食品スーパーが開店するようになっている。今後この傾向は続くだろう。
3) 便利性
シニアは食事を作るのが面倒である。しかし、総菜店などの持ち帰り惣菜を毎日食べるのは侘びしい。たまには日常食であっても外食をしたい。しかし、手頃なファスト・フードやファミリーレストランは若者向きが多く、料理の量や味がシニアにはあわないし、どんな食材原料を使っているかわからず不安だと言う印象を持つ。
米国で最近、ファスト・カジュアルと言う業態ができた。ファスト・フードとカジュアルレストランの間の業態に思われるが実は全く異なる業態だ。ファスト・フードやファミリーレストランの厨房はクローズドであり中でどの様に料理しているかわからない、消費者は冷凍食品を単に電子レンジで温めているだけだろうとか、栄養的に問題があるという不満を抱いていた。その消費者の不満に対応してできた業態がファスト・カジュアルだ
大人にターゲットを合わせたメニューであり、客単価は6ドルから9ドルの間である。レストランのように暖かい雰囲気の内外装デザインを採用しており、ディナーでも利用できるように、ビール、ワインなどの軽いアルコールをおいている。サービスはセミセルフサービスで、注文してお金を払ってから客席につき、料理は後から運ばれる。人々はより良い品質や鮮度の高い料理を求めており、注文後調理をしてくれるなら多少の時間は待つからだ。業態は、ベーカリーカフェ、ハンバーガー、スープサラダ、イタリアン、アジアン、メキシカン、ベーカリー、惣菜等と幅広い。一見ファスト・フードと同じようなセルフサービスであるが、食材を生の状態から健康や安全に留意して丁寧に調理していると言うことを全面に打ち出している。
高級なカジュアルレストランの雰囲気で、健康的な食事を気軽に一人でも楽しめるのが人気で、比較的年輩の方も利用している。
日本では、熊本のティア
http://www.minikuma.ne.jp/shop/tia/
名古屋柿安の三尺三寸箸
http://www.kakiyasuhonten.co.jp/tenpo/index.html
永谷園の餉餉(けけ)
http://www.nagatanien.co.jp/gaisyoku/index.html
等のようなオーガニックの食材のビュッフェ店が人気だ。安全な食材をオープンキッチンでお客様が見える場所で丁寧に作っており、それを好きなだけ食べられるため、若い主婦層だけでなく、年輩の方にも支持されている。今後のショッピングモールなどでの展開が予想される。
資料 米国ファスト・カジュアル
典型的なファースト・カジュアルの標語
電子レンジを使わない: 当店は注文後、調理をするので、少々時間がかかります。
缶詰などの調理済み商品を使わない: 当店は注文後、生の材料から丁寧に調理するので、少々時間がかかります。調理済みの食材を電子レンジで温めるだけのファーストフードとは違いますよ。
冷凍食品を使わない :ファーストフードのように冷凍食材は使わず、生の食材から調理します。
動物性油脂を使わない: 動物性油脂を使わないので、健康的です。
うまみ調味料を使わない: うまみ調味料などのごまかしを使わず、自然のうまみを組み合わせておいしい味を実現します。
チェーン店名
Cosi コジ (ベーカリーカフェ)
http://www.xandocosi.com/
Quizno’s, クイズノス (サンドイッチ)
http://www.Quiznos.com
Fuddruckers, ファドラッカース (ハンバーガー)
http://www.fuddruckers.com/
Corner Bakery コーナーベーカリー (ベーカリーカフェ)
http://www.cornerbakery.com/
Panda Express. パンダ・エキスプレス (中華)
http://www.pandaexpress.com/
Pei Wei ペイ・ウエイ (中華)
Rubio’s Baja Grill ルビオズ・バハ・グリル (メキシカン)
Panera Bread, パネラ・ブレッド (ベーカリーカフェ)
http://www.panerabread.com/
Souper Salad, スーパーサラダ (スープとサラダ)
http://www.soupersalad.com/
Montana Mills Bread Co モンタナ・ミルズ・ブレッド(ベーカリーカフェ)
http://www.montanamills.com/
In-n-Out イン・アン・アウト(フレッシュハンバーガー)
http://www.in-n-out.com/
Chick-fil-A チック・フィラ (南部のチキンチェーン)
http://www.chick-fil-a.com/