商業施設の食動向(株式会社インターライフ Zero hour vol.51)

2003年4月に秋の新幹線品川駅開業を背景に、オフィスを中心にホテルや賃貸マンション群の品川コモンズという高層ビル街が完成した。飲食店も丸ビル、汐留、六本木ヒルズとは異なり、比較的にリーズナブルな、プレタマンジェ(マクドナルドのサンドイッチ業態)、夢庵、バーミヤン、ビルディ等のチェーンレストランを誘致した。
http://www.grandcommons.com/

もちろん、新築の高層ビルに似合ったちょっとお洒落な飲食店も開店している。「OUTBACK BER & GRILL(アウトバック バー&グリル)」だ。米国一のステーキハウスチェーンの新業態で、「シドニースタイルの洗練されたダイニングに進化」と言う、洒落た洋風居酒屋だ。開店披露宴の後、友人達と帰る途中、誰ともなく、「ちょっと気楽な居酒屋で一杯やりましょうか」と

言うことになった。
さて、グランドコモンズ周辺を探したが、新しい街だから駅前には赤提灯などない。あきらめて品川駅の改札を入ったら、駅上のレストラン街が目に入った。そのちょっと奥まった場所に大賑わいの居酒屋があるではないか。常磐軒と言う弁当会社が経営する薩摩屋敷と言うお店だ。ごく普通の居酒屋であるが、日本酒が充実しており、客の99%は男性のサラリーマンだ。http://www.tokiwaken.co.jp/
酒業界の情報では月坪60万円ぐらい売るという。160席の面積だから、月間5000万円ほどの売上となるだろう。その成功のポイントは、駅上という最高の立地、朝から夜までの長時間営業、サラリーマンにターゲットを絞った気楽なお店、と言うことだ。
駅ビルは最近改装が相次いでいる。ある駅ビルは有名デザイナーに依頼して、個性的なお店を誘致したのは良いが、利用客とあまりに乖離をしており、私などの年齢にとっては一回行ったらそれで終わりとなってしまう。品川の薩摩屋敷のように生活感があり、毎日ちょっと寄りたくなるお店こそこれからの駅ビルに求められるのではないだろうか?

今年の5月にLAとサンフランシスコ郊外のショッピングモールを観察して感じたのは郊外に夜の街ができていると言うことだった。LAではシネマコンプレックスを中心として、洒落たレストラン街が軒を連ねている、
アーバインスペクトラム  http://www.irvinespectrumcenter.com/

ザ・ブロック・アット・オレンジ   http://www.blockatorange.com/index2.html
を見た。昼と夜の顔は全く変わり、平日の夜も若者でにぎわっていた。まるで新宿歌舞伎町が映画館を中心に飲食店が栄えているのと同様に、シネマコンプレックスと洒落たレストランを組み合わせている。シネマコンプレックスには大型の百貨店は不要で、洒落たレストランが必要だ。その主役はチーズケーキファクトリーだ。

http://www.thecheesecakefactory.com

チーズケーキファクトリーは60店ほどのチェーンだが、1店舗あたりの平均売上が年商12億円という巨大なお店だ。大型で洒落た内外装だけではなく、巨大な売上をスムーズにさばく調理システムを備えている。
シネマコンプレックス中心のショッピングモールや小型の近隣型ショッピングモールの飲食店街でファーストフード人気の時代は終わった。今、人気があるのが、ファーストカジュアルと言う業態だ。ファーストフードよりも健康志向、本物志向の大人向けのセミセルフサービス店だ。ワインやビールなども提供し、夜も利用できる。その代表格がペイウエイだ。http://www.peiwei.com/

ペイウエイはPF.Chang  http://www.pfchangs.com/ と言うアメリカ人向けの洒落た中華料理屋のファーストカジュアル版で、チーズケーキファクトリー、ペイウエイ、PF.Chang等の入っているショッピングモールは若者の集まる洒落た街というお墨付きがつくと言う。
帰路、シリコンバレーに立ち寄ったら、新しいショッピングモールができていることに気がついた。シリコンバレー1のショッピングモール、ヴァレーフェアーの横に開店した、サンタナ・ローと言う階上に住居を備えた近隣型ショッピングモールだ。
http://www.westfield.com/us/centres/california/valleyfair/
http://www.santanarow.com/

ヨーロッパの古い町並みを模したビル街(ユニバーサルスタジオのようなビル街だ)の階上をモダンなコンドミニアムにして、階下に洒落たレストランやお店を誘致した。米国郊外のコンドミニアムは近隣型ショッピングモールに隣接することはあっても、階上にコンドミニアムを設置することは少なかった(少なくともカリフォルニアにおいては)。
ヴァレーフェアーショッピングモールも夜は比較的早く客足が落ちていたが、隣接地に住居を備えたモールが開店することにより夜の賑わいを見るようになり、入り口にはつい最近チーズケーキファクトリーが開店し、夜9時半でもウエイティングは1時間と夜遅くまで賑わいを見せるようになった。
一昨年に開店した、東京郊外の大和オークシティはイオンとイトーヨーカ堂の2つのGSMに囲まれた巨大なショッピングモールだ。飲食店として恵比寿にあるカリフォルニア料理の意欲的なレストランを開店したが、人気が出なく閑散としていた。その最大の原因は平日と夜間の売上の低さだ。ショッピングモール内や隣接地に住宅を設け、売上能力の高いチーズケーキファクトリーやペイウエイのような飲食店の開発が必要になっているといえるだろう。
以上

追加コメント
日本も一時は職住接近と言うことで郊外住宅街駅前にサテライトオフィスを開く実験をしたが、失敗に終わってしまった。郊外に展開していた住宅も土地の下落により都心回帰の時代となった。その一番大きな原因は郊外に生活臭のある魅力のあるコミュニティを作れなかったからだろう。米国はニューヨークやLAなど巨大な都市はあるが、大企業や人口の集中はない。人によっては居住の州から一歩も出たことがない人がいるくらいだ。その大きな理由は居住者に便利なコミュニティづくりだ。
筆者は20年ほど前にシリコンバレーに2年ほど居住し、今でも家族が住んでいるので年に何回か訪問する。小さな街(ITのメッカだが、街そのものは素朴で地味だ)だが、筆者の住んでいたコンドミニアムから、半径30分以内に、自動車運転試験所、市役所、警察、消防、登記所、病院、大学、大型ショッピングモール、アウトレット、ディスカウントストアー(ウオールマート、コストコ等)、レジャーランド、広大な公園、海岸、国際空港、すべてそろっており、日常生活に不自由はない。通勤だが、住宅街に隣接してIT関連の企業が軒を並べており通勤時間は15分から30分だ。もちろん、サンフランシスコ市内に通いたいという人は1時間以上必要だが、一般的には仕事を住宅地近隣に探す。
シリコンバレーの所属する近隣の市町村組織のHP
http://www.abag.ca.gov/

日本は地価下落による都心回帰の傾向にあるが、この結果、郊外や地方都市の荒廃の時代が来るだろう。地震などの災害から逃れられない日本は、米国のように地方分散を真剣に考えなくてはいけない。それには都心と同じ住居、エンターテイメント、仕事、等を提供できるような仕組みを考案する必要が出てくるだろう。

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