米国レストランピリ辛情報 「日米マクドナルド不振の背景 その1」(綜合ユニコム 月刊レジャー産業資料2003年3月号 NO.437)

昨年末から日米マクドナルドの同時不振はマクドナルド社始まって以来の異例な事態であり、その原因を分析してみよう。

外部のスカウト人事で頻繁にCEOの首を据え換える米国企業は多い。しかし、マクドナルド社は1955年創業以来、初代のクロック氏の後を継いだ、フレッド・ターナー氏、次のマイク・クインラン氏、はマクドナルド店のアルバイト出身から経営トップに上り詰めた現場のたたき上げだった。 しかし、数年前にクインラン氏の後CEOになったジャック・グリーンバーグ氏はマクドナルド社の公認会計士の出身であり、店舗の運営には疎かった。

世界一の巨大な企業となると財務運営の舵取りが重要であり、それがグリーンバーグ氏がCEOになった理由であるが、それが店舗運営上で大きな誤りを犯したと言われている。
マクドナルドの成功は迅速な料理提供である。創業時は料理の種類をハンバーガーとチーズバーガーの2種類に絞り込み、ハンバーガーを売上げ予測に基づいて事前に調理後、包装しウオーマーに10分間保管して置く。10分間経過したハンバーガーは廃棄処分する。この仕組みで1分以内に提供できるようになった。

米国2番手のバーガーキングは伝統的な炭火焼きにこだわり、コンベアーに乗せたミートを上下からガスの直火で焼く。バンズもミートを焼くコンベアーの下部の鉄板に接触しながら自動的に焼き上がる。さらに、調理に時間がかかるミートとバンズを事前に焼きあげ、加湿保管庫に10分間保管し、客の注文後、ミート、バンズ、ケチャップ、マスタード、野菜を注文通りに組み立て包装し、包装後のハンバーガーを電子レンジで数秒加熱し熱々のハンバーガーを提供できるようにした。待たないで自分好みの熱々のハンバーガーを買えるこのシステムは大人気を呼び、バーガーキングは米国第2位のハンバーガーチェーンとしてマクドナルドを追撃し始めた。
http://www.burgerking.com/

マクドナルドの調理システムを開発した天才エンジニアのジム・シンドラー氏は30年以上前からバーガーキングの調理システムに注目し、コンベアーグリルに対抗してクラムシェルグリル(サンドイッチグリル)と言う上下の鉄板で同時に肉を焼き上げる自動調理機器を開発し、半分の時間で調理ができるようにした。シンドラー氏後継者の機器開発部はさらに、高精度なコンピューター制御による加湿保管庫(ステージングキャビネット)を開発し、焼いたミートを20分間保温するシステムを作り上げ、ステージングシステムと呼んだ。マクドナルドのシステムは焼き上げたバンズを常温で保管し、保温したミートと組み合わせて電子レンジで加熱する物であった。

このステージングシステムは厨房の合理化と小型化に大きく貢献し、サテライト店舗と言う小型店舗の展開を可能にした。その結果、空港、ショッピングセンターのフードコート、ガソリンスタンドなどとの複合店、大学、病院、など従来開店できなかったロケーションに進出する事を可能にして店舗の急速展開を可能にした。

しかしバーガーキングシステムの後追いの電子レンジを使うシステムではは味の低下を招き、バーガーキングを越えることはできなかった。そこで1999年からメイド・フォー・ユーと言う熱々ハンバーガー提供システムを全店舗へ導入開始をした。
従来のステージングシステムはハンバーガーを包装後電子レンジで加熱していたが、電子レンジ調理は味の劣化を招き、客のイメージも良くないと言うことで廃止した。その代わりバンズを15秒以下で焼き上げる超高速トースター(従来は30-60秒かかった)を開発し、注文後即座にバンズを焼き上げ熱々のハンバーガーを電子レンジなしで提供できるようにした。

従来のシステムでは焼き上げたミートを保管する高精度加湿保温庫と、フライしたチキンやフィッシュポーションを保管する乾燥保温庫の2種類が必要であったが、複雑な作業とスペースを削減するため、ミートとフライ物を同時に保温保管できる高精度のマルチホールディングキャビネットを開発した。(高速トースターとマルチホールディングキャビネットはマクドナルド社がパテントを保有している)

さらに、ハンバーガーをウオーマーに10分間保管する事を止めた。客の注文後、調理組み立てを行い、できあがったハンバーガーは客に提供するまでの数秒の間にも冷めないようにランチングパッドという小型の保温スペースに置き、客に熱々のハンバーガーを提供できるようにした。
この素晴らしいシステムで競合他社をけ落とせるはずであったが、このシステムが原因で日米のマクドナルドは低迷を始めたのである。

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