米国レストランピリ辛情報 「69# Buca di Beppo」(綜合ユニコム 月刊レジャー産業資料2007年5月号 NO.487)

ブッカ・デ・ディッポBucca di Beppo
米国人にとってのお袋の味とはイタリアンだ。米国にはイタリア系の移民が多いが、イタリア人のお母さんは料理が上手というイメージがあり、イタリア系でなくても子供にはイタリア料理を食べさせる。筆者も25年ほど前に家族で米国に2年ほど駐在したことがあるが、家の食卓にはミートボール・スパゲッティやラザニアなどが並んでいた。子供の通う保育園の日本人お母さんたちが子供達が米国に早くなじむように人気料理を教えあっていたからだ。
イタリア料理を売り物にするチェーン店としては、ブリンカー・インターナショナルが経営する2つのチェーン、マカロニ�グリルとマジアーノがある。天才レストラン・コンセプト・メーカーのフィル・ロマーノ氏が開発したマカロニ・グリルはカジュアルなイタリア家庭料理が売りで、店内は明るい雰囲気だ。マジアーノはシカゴのレストラン王と言われるリチャード・メルマン氏が開発した。禁酒法時代のニューヨークのイタリアンレストランの重厚なイメージだ。両コンセプトとも米国では大ヒットしている。
両店の影に隠れて大ヒットしたイタリアンのコンセプトがブッカ・デ・ディッポBuca di Beppoだ。コンセプトは南イタリアから米国へ移住した人たちの食べる料理だ。店名の由来は「ジョーの地下室”Joe’s Basement”」 (Beppoは南イタリアではJoeのスラング。Bucaはイタリア語で地下室の意味。現在、同チェーンは96店舗を持ち、経営はナスダックに上場しているBuca, Inc社だ.
Buca di Beppoのコンセプトは、日曜日の礼拝の後に、祖母の家で家族が集まって繰り広げる食宴だ。店舗面積は300席を越える大型店で、店内はまるで博物館のように昔の映画ポスターや、彫像、2500枚以上の写真で埋め尽くされており、1940年から50年代のイタリアの雰囲気を感じさせる。しかし、重厚な雰囲気ではなく昔のイタリアをちょっとパロディ風に見せている。しかも店内は数箇所に区切られており、それぞれがテーマ性を持っている。ちょっと行き過ぎの感じのする雰囲気で、営業はディナータイムだけだった(チェーン化を成し遂げた現在では、料理の分量を減らしたランチメニューを開発し昼も営業している)。行き過ぎなのは内装だけではない、料理も大皿にこぼれんばかりに盛り付けし、そのお皿を集まった家族や友人たちで廻して料理を取り分けるのだ。料理が運ばれるとテーブルに並んだ人たちの目はそのボリュームに釘付けとなり、一瞬シーンとなる。一皿の分量は3~5人前もあるからだ。しかし数秒後には大騒ぎの食宴の開幕だ。このお店の雰囲気、そして料理の分量に驚かされた人々の口コミでお店の評判を上げたのだ。
創業メンバーの一人はMicatrottoオハイオ州クリーブランドのリトルイタリーで育った経験から、料理はイタリア南部の移民が米国に渡り、米国の食材を取り入れて作り上げたスタイルだ。ボリュームだけでなく、ガーリックをたっぷり使ったトマトソースのシンプルな味付を特徴としている。
創業のメンバーはミカトロット氏Micatrottoとフィル�ロバーツ氏 Phil Robertsで1993年にこのコンセプトを作り上げた。コンセプトの作成に当たっては頻繁にイタリア南部の農家を訪問し、色々な料理を食べ続け、彼らは家族経営の小さなレストランを気に入り、南イタリア出身のシェフを雇い数ヶ月かけて料理を開発させたのだった。
一号店は1993年にミネアポリスのアパートビルの地下室で開店した。1996年にはカリフォルニアの高級住宅街のパロアルト市開店し大ヒットし、その勢いで5店舗まで成長した。そして、1999年には20店となり、ナスダック市場に株式を公開した。2002年には店舗数は68店舗となり、Vinny T’sと言う業態を買収した。
その後も成長を続け一時は100店舗を越す勢いであったが、数年後に会社は苦境に陥った。2005年には赤字が増加し、米国証券取引委員会は2005年に証券取引法に基づき同社の調査に入った。2006年6月7日にはブッカ社の3名の元経営者が20万ドル以上を横領したと告訴され、投資家は会社の虚偽の発表により投資損害を受けたと集団訴訟を起こしている。その結果、2名の創業者は退任し、数店舗を閉鎖し、2006年9月25日にブッカ社は11店の Vinny T’sを売却した。
米国では、2001年11月にエンロン、2002年6月にワールドコム(2002年6月)の不正会計等による企業破綻が相次ぎ、経営責任者と財務責任者の責任の明確化と不正行為に対する罰則の強化を定める「企業改革法、通称SOX法」が成立した。米国外食企業で初めてこの法律に基づき摘発されたのがブッカ社だったのだ。

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http://www.bucainc.com/

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