価格競争時代に打ち勝つ連載 第8回(商業界 飲食店経営1994年11月号)

SV制度の見直し

SV制度を見直し合理的な店舗管理を確立せよ

米国タコベル社のリエンジニアリングの流れの中で、中間管理職の削減、特にSV制度の廃止を行った。それに追随する形で大手チェーンのバーガーキング社もSV制度を廃止した。マクドナルド社もSV制度を廃止するべく準備している。
米国の大手チェーンは会社が創立後20年以上経過している。そのためマーケットが成熟しただけではなく、チェーンの人材も豊富に育っている。チェーンができたての時には、1~2年で店長になれ、店長の年齢は20代であった。しかし、トレーニングシステムが充実し、店長になるまでに必要なトレーニングコースと経験が明確になり、会社の組織も肥大化し、店長になるのに5~8年もかかるようになった。

店長も能力の差があるからSVになれる人材と、店長のままでいる人材とに別れるようになってきた。その結果10年以上も店長をしている30代から40代のベテランの店長が数多くでてきたのである。

従来は、部下の管理は7人が限界であるという米国軍隊のマネージメントの鉄則により、SVの管理店舗は5ー6店舗がほとんどであった。SVの店舗に対する厳しい管理監督は若い20代の結婚をしていない、経験の浅い店長を対象にする物であった。

しかしながら、30代から40代のベテラン店長が多くなると、家庭もあるのでそんなに馬鹿なことをしなくなる。ベテランの店長が多くなればそれだけSVの負担が減少し、担当店舗の数を増やすことが可能になってきた。

大手チェーンではさらに教育制度の改革を行った。SVの大きな機能は、Q、S、Cと人、物、金の管理である。その内最も重要なのは、人のトレーニングである。会社の規模が小さい内はSVの教育に対する役割は大きな物であった。しかし、SVの経験の長短と、フランチャイズチェーンの新規オーナーへのトレーニングが常時必要になり、トレーニング体制の整備を行ったのだ。SVの業務を減少するためにその役割分担を分析し、トレーニングの補佐を専門に行うトレーニングマネージャーなどの制度を充実した。

米国ファーストフードチェーンの80%以上の店舗はフランチャイジーによって運営されている。そのフランチャイジーも店舗運営の経験が長くなっている。また、米国の独占禁止法の強い規制の元に、広告宣伝予算、店舗使用食材の共同購入、場合によってはトレーニングまで、フランチャイジーの共同組合が行うようになってきた。つまり、本社、本部の機能を地区の現場レベルで持つようになってきた。その結果チェーン本部もスタッフを数多く揃える必要がなくなってきた。ある大手チェーンではチェーン本部の最大の役割はブランドの管理だけなのだとまで言い切っている。

更に、コンピューターシステムとPOSの完備により店舗の情報が直ちに本部に吸い上げることが可能であり、従来のSVによる経営報告の必要性がなくなってきた。

それらの結果、従来のような厳格なSVによる店舗管理の必要性がなくなり、SVの削減が可能になってきた。場合によってはSVを完全に廃止し、地区マネージャーが30店舗ほどを直接管理するようになってきた。また、SV制度を温存しても10店舗ほどの数の店舗を管理させ、生産性を向上させている。

この米国のリエンジニアリングの動向をみて日本でも、SV制度を廃止する傾向にあるが、その問題点と必要な対策を見てみよう。

1.SVの業務はなんであろうか?
SVを廃止することは簡単である。ただしSVのしていた仕事はなくすことはできず、 誰かがやらなければならないのだ。よく勘違いするのだが、SVをスタッフ業務であると思っていることである。SVはラインの仕事をしているのだ。
SVの業務のうち、金銭管理、金銭監査、文書伝達、売上管理、勤怠管理、予算管理などはコンピューターのシステムにより解決できる。SVが本当に店舗でやらなければならないことは、店舗のQSC評価、人事評価、トレーニング、利益管理である。

しかし、SVの時間の使い方を見てみると、報告業務や書類作成業務が多いのに気がつく。つまり本社や上司が要求する、売上報告、利益報告、店舗現状報告である。また、本社での連絡会議や本社より店舗に伝える業務の連絡会議も多い。さらに、本社よりの伝達の書類の配達も多いのだ。これらの業務はSVの本来の業務と全く関係無いので思い切って削除するべきだ。

SVの本来の業務である、QSC評価と、人事評価、トレーニング、などにさく時間はSVの労働時間の70%以上なければ本来の仕事をしているとはいえない。店舗や本社での雑用が多いと、単に移動時間のロスにすぎなくなる。

SV制度を廃止するか、担当店舗を増加する場合それだけの物理的なカバーがー必要だということを忘れてはならない。

2.店舗の半分以上がフランチャイジーの店舗であり、フランチャイジーの管理ノウハウ が確立しているか?
フランチャイズチェーンを管理するのは、フィールドレプレゼンタティブと呼ばれ、決してSVとは言われない。もし現在SVがフランチャイズ店舗も管理しているようなら、そのチェーンの管理能力は不十分であると思われ、まだSV制度の廃止は不可能である。フランチャイズチェーンを管理するフィールドリプリゼンタティブは直営のSVと異なり、上司ではないのでフランチャイジーに命令すること出来ない。フランチャイジーが売上の向上や、従業員のトレーニングで困っていたらアドバイスをする、つまり、コンサルタントなのである。経験の豊かなフランチャイジーを教えるには、経験と知識、大人を扱う処方を身につけていなければならない。
もし、SVが店長をガンガン怒鳴って仕事をする鬼軍曹的な仕事の方法をとれば、経験の長い店長はやる気を失い、ハイハイと返事をして仕事をSVに任せてしまうだろう。SVは店舗にどっぷりつかり仕事をしたという充実感を感じながら、店長の仕事に専念するのだ。スーパーバイザーではなくスーパー店長なのだ。 これからの直営店舗の管理の方法は、フィールドリプリゼンタティブの観点にたち、経験の長い優秀な店長のへのアドバイスをするという、権限委譲ををしなければならない。そうしないと、SVの担当店舗を増加したり、地区マネージャーが30店舗を直接管理することは出来ないのである。

3.従業員の将来はどうするのか?
直営店舗のマネージャーはサラリーマンであり、会社で出世することは大きな生きがいなのだ。当然、店長の次の職務はSV、次は地区マネージャー、地区部長、地区本部長であると、コースの目標を定めている。それがある日突然、リエンジニアリングでそのコースがなくなってしまったらどうであろうか?当然やる気を失うのである。それを防ぐためには、将来のコースを分かりやすく説明することが
必要である。SVの業務がなくなることは、将来の出世が遅くなることなのである。日本においては現場労働は名誉なものと思われていないので、本人と家族にとって切実な問題となるのだ。

そこで、出世以外に社員のモラルを高めることが必要である。それは、働きに応じた評価と、給料の向上である。SVがなくなることは当然店長の業務の質を高める必要があるので、それに見合った給料を出す必要がある。また、将来のゴールの一つとして、フランチャイジーとして独立できる道をつくってやれば、元々客商売が好きで入った人たちは、将来に希望をもって頑張ることが出来るのだ。

SV制度を廃止する前に実施しなければならないこと

1.秘書、事務職の廃止
SV制度を廃止する前に実施しなければならないのは、本社機構の無駄を省くことである。本社経費の削減を真っ先に実施しなければならない。
あなたの会社には秘書がいるのだろうか。その秘書は何をしているのか?もし、電話の取次、ワープロ、FAXなどの雑用をしているのなら即廃止するべきである。

なにか書類をつくりそれを,FAXするとする。まず、書類を手書きでかく。秘書を呼び、それを秘書にワープロに入れさせる。プリントをさせる。プリントを持ってこさせる。ワープロに間違いがないか点検する。良ければ、秘書を呼び、FAXの宛名を書かせて、FAXを送付させる。FAXした文書をファイルさせる。日時が経ち、送付したFAXに対して返事がきたら秘書が持ってくる。送付した文書を秘書にファイルから探させて読む。ファイルをさせる。これだけの作業に秘書は10以上の作業が必要になるのだ。

パソコンにFAXモデム(パソコンの文書データーを電話信号に変換する装置)をつけ、作成した書類をプリントアウトすることなくそのまま、FAXできるのである。もし、自分専用のパソコンを常時稼働させておけば、FAXをパソコンから送受信でき、必要ならプリントをすることができる。10以上の工程を全く机から動くことなく実行できるのである。また、後での文章の保存、検索も容易なのだ。

皆さんもオフィスのコンピューター化をまず自分で実行することが必要ではないだろうか。もし、まだパソコンをマスターしていなければ即購入し、実行しなければならない。ただし、購入したらすぐソフトを使用しないで、まず、ブラインドタッチというキーボードを見ないでキーを打つ手法をマスターする必要がある。さもないと、使いこなすことは出来ない。きちんとした学び方をすれば1週間でマスター出来ることを保証する。

少なくとも本社スタッフの全員、経営者、SVは携帯用のコンピュータを常時もって歩き、自分できめ細かくデーターを分析したり、作成できなければならない。

電話は各個人のボイスメールを設ける。かかってきた電話はすべて直接本人につながり、本人がいなければ自動的にボイスメールに録音し、本人のポケットベルを呼び出し、折り返し電話をする。米国では人口衛星利用のポケットベルがあり、全米どこにいても連絡がつくのだ。すでに米国の多くのレストランチェーンで採用している。ボイスメールは自社でコンピューターで管理する方法と、外部のボイスメール業者と契約する方法がある。外部の業者であると月間費用で5000円くらいだ。

SVの自宅に専用配線をする場合、留守番電話機能付きのFAXを購入すれば、受信したFAXと伝言をポケットベルで教えることが出来る。FAXは携帯用のパソコンで遠隔地から取り出せることが可能だ。

FAXの場合送信した情報をファイルできるがそれを利用して文章の加工が出来ない。しかし、パソコン通信を利用した文書送付は、そのまま活用が出来るので便利だ。費用的にも月に1‾2万円もあれば業務用として利用が可能だ。

2.本社組織の簡素化
部、課の統一、廃止をする。新しい業務ができたときに部をつくってはならない。本社は常にスリムでなければならない。どうしても必要な業務が発生した場合、プロジェクトチームをつくり、兼業で作業に当たる。
チームに5人以上参加させてはならない。参加者には、会社でのタイトルに関係なく権限を与え、実行させる。参加者は所属部の代弁者ではないことを認識し、上司はメンバーの意志決定にあたり、圧力をかけてはならない。

チェーンの規模が小さいときには現場の仕事と兼任でプロジェクトチームを作らざるを得ない。上司も日常業務が忙しいから、よけいなことに口を出さず権限を大幅に与える。部も少ないから、必然的に全メンバーで5人くらいしかいない。また、でた結果は自分達で店舗や他部に説明説得する必要があり、真剣味がでる。

しかし、チェーンが大きくなり余裕が出来ると、プロジェクトチームでなく専門の部と専任者がいた方が効率がよいのではないかと思いだす。また、各部の部長は日常業務に煩わされることがなくなり、他部との力関係の維持を気にかけるようになり、全部の会議でなにをやっているかを知りたくなる。そのため、会議に決定権のある人物を送るのでなく、詳しく報告をできる人物を送るようになる。必然的に参加する人は、会社全体の方向でなく上司の意向による発言をするようになる。

会議の主催者は、結論を早く出すよりも、各部との事前の根回しに追われ、業務改善が最優先でなくなってくる。会社のすべての業務の目的は、お客様を満足させて売上を上げることなのだ、ということを忘れてはならないのだ。

また、SV制度を廃止する前に、給与計算業務、コンピューター業務、福利厚生業務、総務部、人事部、広告宣伝部の全部または一部の業務を、外部に委託するアウトソーシングを実施し、本社の軽量化をはかる必要がある。

3.SV業務の効率をあげるには
ガストやマクドナルドなどのエブリデー・ロー・プライス戦略に追随を迫られている皆 さんは、同時にSV制度の廃止を迫られていると思う。しかし現在の日本の飲食店チェーンはやっとSV制度を導入したところであり、まだ、廃止できる状況ではない。SVの効率を上げ、SV本来の仕事に集中させ、担当店舗数を出来るだけ多くするのが現実的な解決策である。
ではSVの仕事の効率をあげる具体策を考えてみよう。

1)  データーシステムの合理化
POSシステム、パソコンシステム、本社とのコンピューターネットワークの導入により、店舗の店長がSVの助け無しに 予算達成度、利益管理、人件費管理、材料原価率管理、メニュー別販売高、売上予測、アルバイトスケジュール自動作成。など分析に必要な内容を明確にし問題点を分析できるシステムを作り上げる。また、出来た情報をSVは携帯用コンピュターをもち、パソコン通信やネットワークを活用しながら、どこにいても店舗の状態を把握し、点検、分析できるようにする。

2)  SVのコミュニケーションシステムの合理化
SVの家に,FAX、ボイスメールを導入し、必要のないとき以外は会社に来なくて良いようにする。SVへの電話は自動的にボイスメールに伝達され電話が合ったことを、ポケットベルに伝達し直ちに応答することができるようにする。必要なら、携帯電話を持たせることにより、本社店舗運営部の秘書、事務員は不要になる。

また、SVは自宅、店舗での報告書作りが可能になり、無駄なオフィススペースが不要になる。会議は必要なときに、場所を借りて行えば会社のスペースもかなり削減できる。伝達書類は、パソコン通信やネットワークで行い、全員に同時通報されるようにする。出張清算や小口現金の清算報告をパソコンで行い、経理に送付する。金銭は本人の口座に振り込む。または、会社口座引き落としのクレジットカードを持たせ清算させる。

3)  トレーニングの補助機能
SVのもっとも大事な仕事はトレーニングをすることであるが、担当店舗が増加すると、時期や地区の出店状況により、トレーニングの必要な店舗のバラツキが発生する。それを補うために、トレーニングマネージャー的な補完機関が必要になる。また、SVを上司以外の人が客観的にトレーニングできるので効果的である。

4)  店舗の利益管理を専門家が管理する
SVの大きな責任に利益管理がある。店舗ごとの利益管理は店長がやるが、エリア全体 の利益管理はSV単位である。SVは店舗の金銭の流れ、使い方、利益管理を監査する必 要がある。しかし、SVは経理の専門家ではなく、QSCの専門家であるから、経理の専 門家が店舗の金の流れや利益管理をモニターしてSVにアドバイスすれば、SVはQSC に専念しながらも、きめ細かな利益管理をすることが出来、生産性が高くなる。

<最後に>
SVの削減や廃止などのリエンジニアリングをやるには、SVの業務を物理的に補完することが必要だ。そうしないと、店舗のモラル、QSCを下落させ、その結果、売上、利益も減少する可能性があるのだ。
100店舗以上のチェーンはコンピューターを活用したシステムの確立が必要だ。そしてSVの店舗指導に当てる時間を増加し、店舗現場での指導に専念させQSCを強化し合理化をはかるべきだ。そして可能ならSVの担当店舗を増加させ生産性を向上させよう。また、社員の将来の受け皿作りのために、社員フランチャイズ制度の充実をはからなければならない。

15ー100のチェーンはSV制度の確立に全力をあげるべきだ。大手チェーンのSV制度廃止に騙されては行けない。もし大手チェーンがSV制度を廃止するのならオペレーションで差をつける絶好のチャンスだ。

15店舗以下のチェーンでは店舗が4店舗以上になったらSV制度をつくろう。優秀なSVは将来の幹部候補生なのだ。この段階では本社スタッフは0でも良いのだ。

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