スターバックスの副社長ディブ・オルセン氏との対談(柴田書店 月刊食堂1996年8月号)

「スターバックス」の副社長ディブ・オルセン氏は語る。
「ここまでこだわったコーヒーの味を日本人はまだ知らないね」

<はじめにコーヒーへの情熱ありき>


破竹の勢いで快進撃中ですが、現在の店数はどのくらいになったのでしょう。当初はわりとスローで慎重に拡大されていたように思いますが…。
デイブ
アメリカとカナダ合わせて900店を超えています。何しろ、最近は1週間に5~6店舗のペースで店を開けています。この9月末には1,000店の大台に乗るのは確実です。わが社は1971年に3人のコーヒー好きの青年が集まって、シアトルの中心部にあるパイクプレースというところで店を持ったのがはじまりです。それから15年間で6店を開いただけだから、とても慎重だったのは確かです。でも86年からは、我々がやろうとしているコーヒービジネスについて自信が深まったこともあって、それからは拡大基調できています。基本的にスターバックスが狙うコーヒーマーケットが拡がったのと、それ以上に私たちに出店力がついたことが大きいのですがね。

全て直営できていますよね。これはアメリカのチェーンビジネスでもきわめて例外的な感じを受けます。
デイブ
私たちは直営展開がいいと考えています。というのも直営の方がコントロールがききますから。私たちはコーヒーという製品を売っているとは思っていません。コーヒーとそれを楽しむ環境、すなわちスターバックスでしか味わえない「体験」を売っているのです。どんなに優れたコーヒーを売っていても、サービスがめちゃめちゃであれば、スターバックスの存在価値はゼロに等しい。
そういうカルチャーで企業を運営しているので、そのカルチャーが店の隅々にまで行き届く直営に固執しているのです。


つまりは、コーヒーへのこだわりということでしょうね。
デイブ
よくビジネス成功のキーワードを聞かれるんですが、ただシンプルに「はじめにコーヒーへの情熱ありき」としか言いようがありません。成功の秘密というものはたいていは単純なもので、スターバックスの場合も25年前、3人の若者がもう少しおいしいコーヒーをみんなに飲んでもらおうじゃないか、とパイクプレースでコーヒーの他にコーヒー豆を売り、おいしく出せる機器をおき、コーヒーカップなんかも販売してみた。その時の熱い気持ちがカルチャーになっているわけです。
飛躍の秘密は単純。コーヒーとピープル。このふたつに集中してビジネスをすること。どちらかに偏ってもダメなんです。それはコーヒーという製品の品質だけでなく、それをサービスする人の質の高さ、内装や音楽といった雰囲気のすばらしさ、店が滑らかにオペレーションされるシステムの整備まで、すべてが問題になるわけです。


ササビーさんとも相性が良さそうですね。
デイブ
ベスト・パートナーです。やはりリティラーとしてのスピリットを基本として持っている。この部分でのコーポレートカルチャーを共有できたことが、この契約がスムーズに成立した最大の理由だと思います。それと、ピープルを重視する経営姿勢にも大変深い理解を示されたことも大事なポイントでしょうね。コーヒー&ピープル。この2つが不可分のものであることを、お互いが分かち合うことがこれからのパートナーシップを強固にしていくはずです。
<従業員が支える「スターバックス体験」という商品>


なるほど、それでスターバックスというチェーンが他のファーストフードビジネスとちょっと色合いが違う理由が理解できます。もともと小売業の側面を持っているから雰囲気が異なってくる。
デイブ
コーヒーだけではなく、それにまつわる文化まで提供するというのが理念ですからね。だから、私どもは店作りでも標準化よりも、多様なテイストを内包させることの方が大事だと考えてます。店に流すBGMひとつとっても、ジャズなのですが相当に気を配っていますし、それをオリジナルCDにして販売しているほどです。

スターバックスがコーヒーだけを売っているのではない。スターバックス体験を売っているのだというひとつの証がジャズのCD…。
デイブ
スターバックスの成功は何百万もの細かなディテールの積み重ねで作られているものです。原料の調達時点でコーヒー農家が品質のよくない豆を収穫して送ってきて、それをわが社が無検査で使ってしまえば、それでスターバックスはおしまいです。逆にどんなにいいコーヒーを出しても、店でのサービスが悪ければ同じくアウト。だからたとえBGMひとつとってもおろそかにできない。そういうビジネスを我々はやっています。

その何百万ものディテールの中できわめて特徴的なのは、従業員の教育が行き届いていることですね。
デイブ
ピープル。これを大切にしたいと申しました。我々にとってのピープルはまずもって社員やパートタイマーの人々です。我々の用語には従業員(エンプロイー)という言葉はありません。正社員もアルバイトも等し並みにパートナーと呼んでいます。コーヒーを誇り高く、文化の香りとともに売る人達は、決して我々が雇った人達ではなく、事業のパートナーと呼ぶべきですから。それでパートナーにはアルバイトも含め週20時間働く人には全員にストックオプション(自社株所有)の権利と医療保険をつけています。これはアメリカの外食業界ではきわめて異例な優遇措置だと考えています。

本当に、スターバックスには店の「活気」というものがあります。トレーニングにも特別なシステムがあります。
デイブ
最近では、トレーニングという言葉もわが社からなくそうと言ってます。トレーニングというと、業務の一部という感じで月曜から金曜までは何となく一生懸命やるものの、週末になると忘れてしまうといったイメージがしてならないんです。ですからわが社ではトレーニングではなくラーニング(学習)なのであるといってます。ラーニングのための専用施設が全米で20カ所以上もありますが、大事なのはお店そのものがラーニングの場であるということです。
<豆は三大生産地域から調達。ローストがノウハウ>


話がオルセンさんの専門領域である原材料の調達になりますが、いまはどこの国のコーヒーを主に使ってらっしゃるのですか。
デイブ
やっとそこに話がきました(笑)。現在は地球上の三大生産地から豆を調達しています。南太平洋はインドネシアとパプアニューギニア、ラテンアメリカではコロンビアやガテマラなど。それに東アフリカのケニヤとエチオピアなどです。今回もインドネシアでコーヒー農家を訪れて、いい人間関係をつくってきた帰り道なんですよ。私の仕事はもっぱら良好な人間関係をグローバルにつくることです。

豆を輸入し、直営工場でローストするわけですね。
デイブ
工場がシアトルに2カ所、そして東海岸(ペンシルバニア)に新しくつくったものを合わせ合計3カ所になりました。独自のローストは他人には任せられません。これは直営工場でないとできないのです。

日本に古くからある喫茶店とか、ドトールコーヒーショップのようなチェーン店もご覧になっていると思いますが。
デイブ
日本がある意味ではアメリカ以上にコーヒー嗜好国であることは確かですし、ドトールさんのようなビジネスに対しても喫茶店の経営者に方たちにも尊敬の念を覚えます。しかし、他人が何をやっているかではなく、我々に何ができるかを真剣に考えるときです。

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