コンセプトとメニュー開発繁盛店を作り上げるには

21世紀に向けた本部のあり方 第10回(商業界 飲食店経営2000年10月号)

この不景気の時代でも続々と新規コンセプト店舗開店し続けている元気一杯のチェーンがある。それら元気なチェーンは一部の大企業を除けば、ここ10年ほどで急成長したチェーンだ。成功している共通点を見ると、時代や客のニーズの変化を的確に捉え、多業態や新規コンセプトを開発している会社だ。

成功している企業はマルチコンセプトを目指し、複数の業態コンセプトの開発や新メニュー開発をスピードに行っている。単に新規のコンセプトや新メニューを開発するだけでは他社に真似をされてしまう。他社に真似のされないコンセプトや新規メニュー開発の能力が必要になる。

従来のチェーン本部は一回決めたことを店舗がしっかり守っているかどうか、監視、指導をする警察官の役割であったが、これからのチェーン本部の役割は芸術家のように常に新しい業態、コンセプト、メニューを開発し、店舗現場がそれを楽しく実践できるようにコーディネートをするというマルチな役割を要求されるようになってきた。

ではどうやって新コンセプトを開発し展開し続けていくのだろうか。これから生き残るチェーン本部の最大の課題である新コンセプトと時代にあったメニュー開発能力を見てみよう。

1) 食のトレンドを正確に捉える能力が必要だ

食のトレンドの把握=マクロなトレンドの把握=政治、経済、社会、動向による影響

最近は景気の良い米国の外食産業が日本に進出してきたり、米国飲食店をヒントにして新業態を開発する例が増えてきた。直接の進出では、ワタミフードサービスが米国カジュアルレストランのTGIフライデーと合弁会社を作ったり、スガキヤコーポレーションがシナモンロールの専門店、シナボンと提携し行列の作る店舗を展開したり、米国一のステーキレストランチェーンのアウトバックステーキハウスがWDIと合弁会社を作り進出をしたり、米国の子供向けテーマレストランの第一人者のレインフォレストカフェが三菱商事と提携しディズニーランドに隣接したイクスピリアに第一号店を開店した。では、現在大流行の米国飲食チェーンとの提携やその物真似は成功を保証するのだろうか?

数年前に大船松竹撮影所後のテーマパークに、ある大手居酒屋チェーンが米国で大繁盛のテックスメックス業態を開店した。テックスメックスは米国のカジュアルレストランの業態で一番人気であり、日本でも成功するだろうと判断したのだろう。しかし、このテーマパークは簡単に言えば「ふうてんの寅さん」がテーマのような和風のレトロの場所であり、年輩の多い客層にはテックスメックスの洒落た店は全くマッチしなかった。もちろん、テーマパーク自体が不振で数年後に閉鎖になってしまった。

米国でテックスメックスはイタリアンに次いで人気の料理であるが、それが日本でも流行るという短絡的な考え方が失敗の原因だ。飲食業の流行には必ず、政治的、経済的、社会的な背景があり、それらの背景は日米で共通した部分と異なる部分があるからだ。

米国の飲食業の状況を見てみよう。政治的な背景は交際費への課税から社用接待需要から個人需要への変化により高単価のフレンチが衰退し、より低価格で楽しめるカジュアルな飲食店へシフトした。80年から90年代全般の経済的な不振の状態の中、レストランは家族や友人でも楽しめる、より低単価の業態へ変化をしてきた。政府の新興産業への支援、特に第3次産業、サービス産業への振興策から、新しい産業は続々と誕生したがそれらの産業は人件費と土地の安い南に立地した。団塊の世代の老齢化現象から定年退職後の人は温暖な南部に移動する、南下現象が見られるようになった。

以上のような背景が交差し、外食は個人消費が中心となり、新興産業の南下と人口老齢化による南下の影響で服装がカジュアルになり、そんな服装で良いカジュアルで楽しい店が求められるようになった。米国で一番伸びているのがイタリアンで、次がテックスメックス、カリビアンだ。イタリアンは米国人にとってのお袋の味(カンファタブルフード)であり、テックスメックスはテキサスやメキシコ周辺の料理、カリビアンはフロリダ界隈の料理だ。つまり人口が南下しそれらの料理に馴染んだというのが、それらの料理が流行る理由であり、馴染みのない日本では受けないと言うことがおわかりいただけるだろう。

このあたりの詳細は8月号、9月号をご参考にしていただきたい。

2)トレンド把握の実例

11年前にフロリダのタンパというリゾートの町でアウトバックステーキハウスというステーキレストランが誕生した。現在は世界で650店のレストランを経営する世界一のステーキレストランチェーンに成長している。このチェーンは3名の外食のプロが外食のトレンドを正確に把握し、どうやったら大繁盛し、最大限の利益が上がるか試行錯誤しながら作ったレストランチェーンだ。ではその秘密を見てみよう。

(1)食のトレンドの分析

当時、米国では健康問題から牛肉離れを起こし、より脂肪の少ない鳥やターキー料理の人気が出始めた。新規事業だからトレンドを分析し、鳥などの料理を扱うレストランを考えるのが普通だろ。しかし、実際の消費状況を分析して見たら、スーパーや小売店などで購入して家で調理する場合は牛肉を購入しないで,鳥やターキーなどを購入するようになってきているが、外食の場合,米国人にとってのご馳走であるステーキを食べるというのが主力であることが分かった。しかも客単価が高いというメリットもわかった。そこで周囲の反対を押し切ってステーキチェーンを展開することにしたわけだ。

(2)味の特徴

米国でステーキを売り物にしているレストランは多い。そこで特徴を出すためには個性のある味を出す必要がある。牛肉の味のポイントはグレードの高い肉を熟成して旨味を最大限に出すことであり、そのために独自の飼育プログラムを作成し,米国最大手の飼育業者に委託して飼育から熟成に至るまで独自の管理基準で品質管理を行った。店舗には熟成したステーキをポーションカットし衛生的にプラスチック包装した状態で配送する。

チェーンレストランでは未熟練のアルバイトに調理をさせるために調理済みの冷凍食材を使用するが、それでは他社との差別化ができない。そこで、なるべく生の食材を店舗で加工してだすように考えた。冷凍食品は海老などのごく一部であり、冷凍品を使うのが一般的なベークドポテトやフライドポテトなども生のポテトから店舗で加工する。ソースやドレッシングは全て店舗でマヨネーズ,バター、スパイス、等をミキシングしてフレッシュな物を使用する。デザートなどもアイスクリームを除いて全て店舗で調理する。例えばサラダに使用するクルトンの場合でも、新鮮な食パンを毎日購入し、小さくカットし、オーブンできつね色に焼き上げる。次にガーリックベースのソースを塗り(ソースも全て手作り)またオーブンで焼き上げる等、手間暇をかけて丁寧に作り上げている。

肝心の味の点では独自のスパイスを売り物にする。創業者の1人がニューオリンズのポパイを作った会社の大繁盛店で働いた経験を生かし、人口の南への移動を背景に、大人気のニューオリンズのケイジャンスパイスの効いた味を実現した。アウトバックステーキハウスの売り物はケイジャンスパイスをたっぷり使ったステーキにある。ステーキの焼き方は、下火焼きチャーブロイラー(ローンスター)、上火焼きチャーブロイラー(モートンズ、ピータールーガー)、グリドルなど色々あるがアウトバックはスパイスを最大限に生かすためにグリドルを採用した。

(3)生活のトレンド:カジュアル化をどう捉えるか

コンピューター産業などの新興産業の南部立地と、老齢化する団塊の世代の南移住という人口の南下現象は、人々の服装をカジュアルに変えた。従来のステーキハウスは高級であり、重厚で、堅苦しいサービスが特徴であり、客のカジュアルな服装にそぐわなくなってしまった。

そこで、彼らは店舗のテーマをオーストラリアの自然(以前はやった映画のクロコダイルダンディーのイメージ)とし、従業員も半ズボンやポロシャツのカジュアルな恰好をさせ、本格的なステーキを気楽な雰囲気で食べられるようにした。

サービスも強化した。普通のレストランは1人のウエイターの担当テーブル数は4テーブルが普通だが、それをきめの細かいサービスのできる2テーブルにした。座った客を立ったまま見下ろして注文を取ると威圧感がある。そこで、隣の席が空いていればそこに座り、席がなければ床に膝を着いて視線を同じレベルに会わせて、くだけた口調で注文をとると言う演出を付け加えた。

(4)立地

人口の南下という現象を分析した彼らは本社をフロリダのタンパに置き、南部の都市から店舗展開を開始した。投資効率を上げるために土地の高価な大都市内部は出店せず、新興の都市郊外という当地路線を徹底して展開していった。

(5)チェーン理論の欠点:従業員のやる気

創業者の3名は以前、カジュアルダインイングの創始者であるブリンカーインターナショナルなどで働いた経験があり、チェーンレストランのデメリットを認識していた。チェーンレストランは成長期には順調に店舗をのばすが、店舗がある程度古くなると売り上げが低下を始めると言うことだ。チェーンレストランは経営効率を重んじるから、新規開店の際にはベテランの店長を配置し、従業員の採用、トレーニングを行わせ、一番忙しい新規開店を行わせる。数ヶ月して店舗の状態が安定すると、ベテランの店長は次の新規開店の任務に就くのだ。その後任として新規の経験の浅い店長が就任する。人間であるから前任店長の雇った従業員と新任の店長が旨く行く方がおかしいわけだ。人間関係がぎくしゃくすると面白くなくなった従業員は退職し、顔の知った顧客も店離れをおこす。これがチェーンレストランの最大の欠点のわけだ。

そこで、店長と言う従業員ではなく、出資をするマネージングパートナーとして5年契約をする事にした。マネージングパートナーは25000ドルと言う大金を投資し、パートナーとなる。給与は年俸45000ドルの他にキャッシュフロー(利益と減価償却)の10%を受け取る。平均では11万ドルという米国のレストランの平均の3倍もの給料となる。同じことは本部にも言える。チェーン企業は事業の拡大に伴い、スーパーバイザーや地区運営部長、地区本部のための地域支社の設置、本社人事部、総務部など管理部門が肥大しがちだ。そこで地区の本部長もパートナーとなり、5万ドル出資する。年俸はマネージングパートナーと同じで45000ドル、インセンティブとしてキャッシュフローの9%をもらう。店舗のマネージングパートナーと異なり自分の担当店舗全体のキャッシュフローの9%だから結構な金額となる。そのかわり、地区支社はなく、自分の家にFAXと電話、パソコンを設置し、管理業務に当たる。店長ではなく、マネージングパートナーだから、チェーン店のような厳しい管理は必要なく、無駄な人間はいらない。マネージングパートナーの定着性がよいから社員やアルバイトの定着も良く、そのため本社の人事部や総務が必要ない。その結果本社の人員は店舗数650店に対して30人しかいない。超軽量の本社なのだ。その結果11年経過して、マネージングパートナー以上の職位で退職したのは10人もいないと豪語している。

勿論,インセンティブだけが定着性に貢献しているのではない。アウトバックは原則としてランチ営業をしていない。ランチ営業をすれば売り上げは上がるだろうが、客単価が低いので利益が出ない割には従業員の労働時間が長くなるのでやらない。従業員は週5日、一日8時間の労働を基本として、仕事を一所懸命した後は遊べる余裕のある環境を実現している。

経営者のやる気も大事だ。社長のオーサリバン氏がタンパという田舎に本社を構えた理由は単純だ。一週間に5日仕事をしながらゴルフが出きる場所を探したらタンパになったのだという。そんな経営者の遊び心が楽しい会社を作った原動力の一つだ。

(6)最後に

アウトバックステーキハウスの経営手法は1店舗1店舗繁昌店を築き上げ、気がついたら巨大なチェーンとなったことだ。中小チェーン企業にとって大いに参考になる手法だ。

3)トレンド情報の入手の手法

(1)トレンドウオッチング

繁盛店舗や、競合する、目指す店舗の情報を常に見ておくこと。その店舗は料理のジャンルのトップ店舗でなくてはならない。そのトップレストランと自分の店舗とを客観的に客の立場で比較するという作業が必要になる。その作業をベンチマークサーベイという。

その内容は、QSC、人物金の6項目だ。


  1. Qとは品質のことで、味、量、温度、盛りつけ、食器、栄養価、トレンドを追っているか、全体のバランスがよいか、という点で判断する。
  2. S  
    Sとはサービスのことで、応対は親切で親しみがあるか、スマイルがあるか、料理の提供時間は早いか、会計は正確か、ミスをしたときに処置は適正か、経営者、マネージャーがフロアーに目を光らしているか、等だ。  
    ここで言うサービスとは、従来の日本のサービスの一期一会ではなく、フレンドリースマイルがあるかという点に注意しなければいけない。

  3. Cとはクレンリネス、綺麗で清潔なことだ。清潔というのは店舗の内外装、テーブルの上、食器、従業員の身だしなみ、調理場のシェフの外観、動作、などからトイレまで含む。  
    クレンリネスは地域差がある。東京はCSQの順がレストランを選ぶ基準で、大阪はQSCだ。と言ってもQはクオンティティー、つまり量がある、Sはスピードが早い、Cはコスト、つまり値段だという笑い話があるほど基準が異なる。
  4. 人 
    従業員の質だ。どれだけ良い人材を確保し、どうやってトレーニングしているかを見る。

  5. 設備、機械、建物にきちんと投資をしているか、手入れをしているかが重要だ。また、いくら綺麗に保っていても流行遅れになっていてはいけない。

  6. 物以外でしっかり投資しているか、宣伝はしているか、店舗はある程度拡大展開してるか、を見ていく。もし店を展開しても利益が出ているようであれば、かなり利益の出る商売だという事だ。店舗を展開していなくて利益が増加しているのは要注意だ。

(2)トレンドの分析

人々は健康志向と言っているが、本音では何を欲しているのか、というような考え方だ。そして、そのトレンドを元に顧客はどう実際に行動しているかを見極める。

ここで考えるのは健康志向か、価格志向か、エンターテイメントが望まれているのか(オープンキッチンやテーマレストランのような雰囲気、音楽など)、話題性があるのか、等だろう。

(3)繁盛店の定期視察

どんなジャンルの商売でもアンテナショップ的な最先端を行く店舗がある。レストラン業界も同じで必ず、最先端の流行を開発していくレストランがある。私が米国に行く前には、

などでレストラン情報を収集する。

次に米国の外食に携わる人間数人にトレンドを聞く。そして、最後が現地の人間だ。5年ほど前、ハリウッドのチーズケーキファクトリーという有名レストランが人気だとわかった。そして夜に今日は何処の店を訪ねようかと迷ったときに、飛び込みで入った小売店の経営者に何処の店がよいかと聞いたら、彼は即座にチーズケーキファクトリーの名前を挙げてくれ、「あまり料理の品数を頼むなよ!食べきれないぜ」とアドバイスをくれた。

http://www.thecheesecakefactory.com/

近所の商店の親父が勧めるくらいに地元に愛されているなら間違いがないと飛び込んだら、値段は安いし、量は多い、サービスは笑顔たっぷりと大変良い店だった。それ以来注目して観察していたら、今年のNRNトップ100社の中で平均店舗の売上げが約10億円という超繁盛店となっていた。

アンテナショップを自分なりに作るにはまずジャンル別に行くレストランを決めること。そして定期的にその店舗を訪問し、何がはやっているか見つけだすことだ。米国の場合、サンフランシスコ、シカゴ、ニューヨークを必ず訪問し、現地のレストランチェーンやトレンディーなレストランを定期的に回るようにする。そして、経営者や現地の専門家の話を聞く事が正確な情報を聞き出す秘訣だ。

例えば、英語で「カンファタブルフード」という言葉がある。これを訳すと「快適な食事」だ。直訳だと意味が分からない。そこで現地に人間にそれはどういう意味かその文化的な背景を尋ねてみた。そうしたら、カンファタブルフードというのは「団塊の世代が子供の頃食べた家庭の味で、主にイタリアンのミートボールスパゲティや、ラザニア、ミートローフ、マッシュドポテトだ」と言うではないか。そうだったら正確な翻訳は「お袋の味」になる。しかしながら日本のお袋の味とは異なる物になるわけだ。

次にその食事を食べに行く。丁度「レインフォレストカフェ」を訪問したときにメニューにカンファタブルフードというジャンルがあった。それを注文し食べることにより米国人にとってのお袋の味とは何かを理解できるわけだ。このようによく人の話を聞き文化的な背景を理解して論理的に組み立てて情報収集をするということが重要になる。

(4)繁盛の理由を分析する

アンテナレストランを見た後は、それと類似で繁盛している店舗を分類し、価格帯や顧客層が似ている店舗を複数訪問する。1店舗だけ見ては本当に成功するかどうかわからないからだ。そうして本当にそのメニューが成功するかどうか、他のテーブルで何を頼んでいるかチェックしてみる。

そして遠慮せずにシェフや経営者に声をかけてどんな工夫をしているか聞いてみよう。初対面でも仲良くなって経営のやり方や料理を教えてもらったり、厨房の隅々まで見せてもらう事も可能だ。

4)最後に

繁盛店を見つけだすには勘に頼り切ってはいけない。より科学的に合理的に観察、分析を継続して行うことだ。常に情報を入手しなければいけない。そのためには飲食店経営などの経営雑誌を詳細に読み込みジャンル別に分類分析をしたり、インターネットなどを使い情報を収集する(当社の食検索のURL https://www.food104.com/ を参考にしてください)、そして信頼のおける人の話をじっくり聞き、自ら分析すると言うことだ。

経費削減と言っても情報収集に時間と経費を惜しんではいけないのだ。

以上

お断り

このシリーズで書いてある内容はあくまでも筆者の個人的な経験から書いたものであり、実際の各チェーン店の内容や、マニュアル、システムを正確に述べた物ではありません。また、筆者の個人的な記憶を元に書いておりますので事実とは異なる場合があることをご了承下さい。

著書 経営参考図書 一覧
TOP