本部軽量化のためのSV制度の見直し

21世紀に向けた本部のあり方 第2回(商業界 飲食店経営2000年2月号)

本部の軽量化は単純なリストラではない

軽量化により体力が減少してはこまる。筋肉質の体質にしながら無駄な贅肉を落とすのが本来の軽量化だ。軽量化の前に強化しなくてはいけない部門もでてくる。本部に必要なものは商品�業態の開発部、店舗開発部、店舗社員の教育部、財務部、店舗運営部(SVやSVを管理する運営陣)、監査部(本部、店舗がキチンと運営されているかの実態監査をする)などの攻撃を主体とする部署と、それ以外の従来の総務、経理、人事、購買、情報システム、機器開発、メインテナンス、など守りの部署に分かれる。

チェーンの規模があまり大きい内にそれらの機能を備えることは無駄になる。SVが店舗の管理を行いながら、それらのスタッフ業務をカバーしていけば効率は上がるはずだ。

勿論、スタッフ業務に熱心になって肝心の店舗業務がおろそかになってはいけない。プロジェクトチームを作成し、必要なら店舗の持ち数を減らし他のSVのフォローアップの元にプロジェクトチームに専念し、プロジェクトが成功したら、再度店舗の業務に専念すればよい。必要だからと要って専門スタッフの部署を作るとプロジェクトが終わってから不要になった部署でも組織の自己保存から不要な仕事を作りだし、企業の意志決定を遅延させる原因となる。

本部の軽量化のためにはSVの能力とスキルのアップが必要不可欠だ。

SVは本社の指示を伝える伝書鳩ではないし、チェックマンや摘発者でもない。

1)SVの業務は店舗QSCのチェックではない。店舗のQSCの改善が大きな仕事だ。

SVは店舗のQSCのチェック担当者であり、ラインの長でなくてはならない。店舗のQSCをSVがチェックし、店長を管理する地区長などが改善をすると言う分業の考え方は組織を複雑化し、責任を曖昧にしているので早急な改善が必要だ。

QSCチェックの目的は、現場の問題点を発見し改善することであり、チェックそのものは課程にすぎない。SVが店舗を観察し、QSCの問題点を発見し、報告書を書き、それを店舗担当の地区長が閲覧し、店舗に赴き改善をする。一見合理的のようだが、改善を担当する者が店舗におもむくまで問題が放置されることになる。

店舗のQSCが乱れる大きな原因は、店長代行責任者(店長不在時)や従業員の能力不足、売り上げ予測の間違い、人員不足、原材料不足、調理機器の不調、等である。その殆どが現場をチェックするSV(多くは店長経験をしたオペレーションのベテランだ)が陣頭指揮をとったり、手配をすることにより、その場で解決できることだ。

そして、店長代行責任者や従業員の能力が不足していたら、日を改めて時間を十分にとって教育するとか店長と教育計画を打ち合わせればよい。売り上げ予測の間違い等による原材料不足があれば近隣の店舗に電話をして手配したり、人員不足であれば人員に余裕のある他店舗にヘルプの養成をするなどの応急処置をしてから、販売予測の建て方、近隣の店舗との連係プレイのあり方などをじっくり教えればよい。

この様にオペレーションのベテランSVは現場に問題があればその場で改善するのが本来の仕事である。店舗の問題はSVの問題であると言うことを明確にすれば、問題点だけ指摘してその場を立ち去る無責任社員は居なくなるのだ。

SVが店長の直接の上司でなければ、その場で改善命令を出しても店長が従わないという組織上の問題が生じる。QSCの指摘により地区長が評価を加えればよいのだが、単なるチェックシートを見てもその原因は何か、問題はその時点だけの問題か、何時も存在する問題なのかを知ることは出来ないのだ。

2)QSCのチェックは外注できるのか?

フランチャイズチェーンを展開しようと言う企業の中にはSV制度の構築に苦労し、SV制度をアウトソーシングしようという大胆な企てを考ている例が見受けられる。アウトソーシングしても良い機能は守りの機能、総務、経理、人事、購買、情報システム、機器開発、メインテナンス、の内のルーチンワークのみだ。

SVは現場のたたき上げであり、現場を誰よりも熟知していないといけない。業種業態が異なれば経験も異なり、店舗を訪問しても状態を瞬時に判断することは出来ない。仕事を熟知していなくても経験、年齢、難解な経営用語で指導することは可能だが、問題点を自ら模範を示して改善することは出来ない。

3)店長がいればSVは要らないのではないか?

店長が店舗のQSCと人物金の管理をするのだから、同じ管理をするSVは不要ではないかという考え方がある。例えば店舗の利益管理は店長が負うから、SVがまた利益管理を負うのは責任が明確でない、二重管理だと思いがちだ。それはSVの本当の業務内容を把握していないからだ。

では人物金の管理における店長とSVの責任の違いを見てみよう。以下のように店長は限定された店舗の範囲で管理を行うが、SVはエリア全体の利益を考えたり、場合によっては店舗の移動、閉鎖まで想定した利益管理を行わなくてはいけない。

店長の責任

  • 配属された社員で店舗を回す。
  • 社員で店舗を十分管理できなければアルバイトを採用、教育する
  • アルバイトの給与体系は変更してはならない
  • 社員、アルバイトの教育、評価を行う。
  • 教育は店長が一緒に働くマンツーマンの密度の濃い教育が中心となる。

SVの責任

  • 自分のエリアの店舗の社員数を店舗の難易度、重要度により適正に振り分ける。
  • 必要なら社員を採用するか、アルバイトから抜擢をする
  • アルバイトの募集計画を担当エリアで行うことにより効率を高める
  • 必要なら時給を変更しアルバイトを集める
  • 部下の社員を集合教育で効率よく教育する

店長の責任(現状維持)

  • 固定資産の管理
  • 建物のクレンリネス
  • 修繕

SVの責任(現状を物理的に改善)

  • 固定資産の新規購入や除却
  • 改造計画立案、
  • レイアウト変更
  • 機器購入決済権限

店長の責任(限定されている)

  • 店舗単位の利益
  • 短期的な利益の追求
  • 人件費、食材費、水道光熱費、その他の経費などを予算に基づいて管理する

SVの責任(限定されていない)

  • エリアの利益
  • 1店舗の利益でなく、エリア全体の利益の確保
  • 短期的な利益だけでなく長期的な利益の追求
  • 予算作成の段階から投資計画を明確に立て、管理を行う。

4)SVの機能 SVの機能は以下の6項目だ

  1. QSCのチェック
  2. 人物金の管理
  3. 店長の直属の上司
  4. 部下の教育担当
  5. プロジェクトチームのメンバー
  6. 店舗やマーケットの情報を経営陣に伝える

1-3の内容も重要だが、部下への教育訓練とプロジェクトチームのメンバー、情報を経営陣に伝えるという項目はより重要になる。

外食産業では教育は店舗の改善に即座に役立つようにOJTが中心になるが、そのOJTを司るのはSVしかいない。SVを単なるQSCのチェックマンにすると、店長を管理する地区長か、教育担当者を置かなくてはいけなくなり、より組織が複雑になってしまう。

また、店舗の情報を正確に経営陣に伝えるのもSVの重要な仕事だ。店長は1店舗に集中しているから、店舗の存在するマーケットの動向、競合、人口の移動、新しい大型店による商圏の変化、等を比較することができない。複数の店舗を担当するSVは自分の持っている店舗を比較できるから、そのマーケットの特性を理解することができる。店舗の売り上げが悪化すれば、店長であれば自分の責任であるから販売促進や店舗改装など現状の店舗にこだわった提案しかできない。複数の店舗を持つSVであれば、此の店舗を閉店するべきか、新しい立地へ移動するべきか、ここで投資して販売促進などを打つべきかを判断しなくてはいけない。

5)SVは何店舗まで担当できるか?

SVが担当できる管理可能な店舗数は売り上げと部下の人数で異なる。売り上げ規模の少ない業態では各店舗に社員店長を置くことが出来ない。その場合はSVがアルバイトやパートタイマーの店長を管理しながらSV業務を行う。つまりSVは店長も兼任になるのだ。そうするとより店舗に入り込まなくてはならないので、あまり多くの店舗を担当することが出来ない。しかし、設立してから長い期間経営しているチェーンでは、ベテランの社員店長が育っている。そのような場合にはSVはより多くの店舗を担当することが可能になる。

  • 基本的に店舗数で言えば5ー10店舗
  • 売り上げ規模で言えば3ー15億円のの規模となる。

店舗の人件費にSVの人件費を足して合計の人件比率がどのようになるかで設定を行っていくべきだ。

6)SVの選定

SVなどの中間管理職の選定で、一定の期間の勤務年数を要求することがあるが、それは年功序列の人剰りの時代だ。現在のように急速に変化していくマルチコンセプトの社会ではそんな悠長なことを言ってはいけない。一定の年数を義務づけたら優秀な社員は去って行く。店頭公開に20年以上もかかる時代ではない。数年で店頭公開を達成しようと言う時代には勤務経験などの足かせは一切無用。実績あるのみだ。

試験制度で選抜しようと言うのも誤りだ。先月号で申し上げたが試験制度は中国の科挙のやり方を数千年も模倣した時代遅れの産物だ。試験で選抜すれば頭はよいが現場の問題点を解決出来ない欠陥幹部を生み出すことになる。試験をするのは選別をする経営陣や上司が店舗現場を知らないからだ。SVは現場の店舗を管理し利益を最大限に上げるのが仕事だから、現場の仕事に精通し成果を出せる能力が必要だ。もし試験制度が必要だと実感したら、経営者、上司はもう一度店舗に戻り研修し、腕と目を養い直す必要があるのだ。

7)SVへの教育

店長とSVの仕事は似ているようでやや異なる。店長は1店舗のみに管理に集中すればよいから、幾ら頭が悪くても要領が悪くても人間関係に不得手でも、体を張って24時間死にものぐるいで働けば何とかなるが、SVは数多くの店を管理するので解決しなくてはならない問題点が山積みだ。そうすると仕事に優先順位をつけていかないと効率が低下する。優先順位をつけられる思い切りと冷静さが求められるのだ。

そのためには、癖のある店長、大繁盛店、売り上げ不振店、地方、都心、等、色々なタイプの店舗を担当させ、問題点発見能力や冷静さの判断能力をチェックしていく。

本部への適性はプロジェクトチームの一員として色々な業務を経験させ、どのような適性があるか、マネージメント能力はどうなのかを見極めていく。

そして、プロジェクトを経験させながら、長期的な視野に立ち経営計画を立案できる か、何事にもギブアップしない耐久力があるか、自ら学ぶ能力を持っているか、フレキシブルに対応していくか、人事管理能力(他の部門に対しても)があるかを見ていく。店舗の管理に置いては利益管理も重要だがそれ以上の人材育成が重要な職務となり、人に対して繊細な神経を持つか、相手の考えを見抜けるか、上司への説得能力があるかを見ていく。

会社の利益を左右するのだから、売り上げアップの積極的な対外折衝能力と利益管理の飽くなき追求ができるかというしぶとさも必要な条件だ。

以上

お断り

このシリーズで書いてある内容はあくまでも筆者の個人的な経験から書いたものであり、実際の各チェーン店の内容や、マニュアル、システムを正確に述べた物ではありません。また、筆者の個人的な記憶を元に書いておりますので事実とは異なる場合があることをご了承下さい。

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