チェーン本部をサポートする 飲食業の技術革新(商業界 飲食店経営2001年4月号)

「チェーン化の技術」

<技術改革:売り上げを大幅に伸ばす調理技術革命>

マクドナルドのメイドフォーユーシステム誕生に至るまでの調理技術革命の歴史

マクドナルド、バーガーキング、ウエンディーズ、ジャックインザボックス、ハーディーズ、ホワイトキャッスルなどのハンバーガービジネスは米国外食産業の基幹産業といえる。日本マクドナルドは低価格を武器にした他店舗戦略で独走中だ。そのマクドナルドが米国において急速に導入を実施し、日本でも導入中の「メード・フォー・ユー」誕生に至るまでの調理技術革命の変遷を見てみよう。

1)原点を見つめる

どんなに巨大な外食チェーンであっても必ず一号店からスタートしている。一号店の繁盛を土台に多店舗展開を開始するのだ。その一号店をみることは企業のチェーン展開のノウハウを見ることと同じである。KFCやマクドナルド等大手チェーンの現在の姿を真似をしようとしても消化不良を起こしてしまう。大手のチェーンが創業時に何をしていたのかを見ることが一番参考になるのだ。

KFCとマクドナルドの一号店は両方とも博物館として保存されており、それを見学すると両社の創業時の状態が良く理解できる。

KFC社はケンタッキー州のカービーンという場所に一号店であるサンダース・カフェを博物館として残している。創業者のカーネル・サンダンダースはこのテキサスのカービンという田舎町の州道沿いで旅行客用のモーテルを経営しており、宿泊客の要望によって、ガソリンスタンドと食堂を作ったのだ。

南部ではフライドチキンはポピュラーな食べ物であり、旅行客にも当然フライドチキンを提供していたのだ。特殊な調味料と、圧力鍋での調理に工夫を凝らしていたので、フライドチキンは人気商品であったのだ。内部は博物館になっており、当時そのままの状態を再現してある。厨房は普通のレストランと同じであり、色々な料理を出していた普通の町のレストランだ。その一つのメニューとして、レンジの上で一般的な圧力鍋を使用し調理していたのがフライドチキンだ。圧力釜と並んで味の特徴を出したのはスパイスだ。カーネル・サンダースは11種類のスパイスを調合し、塩と、小麦粉と混ぜ、圧力釜とそのスパイスを使うことで独自の味を作り出していたのだ。

このサンダースカフェは1940年に開業したが、その10年後の50年に州道の代わりにハイウエイが建設され、店舗前の通行量が減少した為、売上が激減し、商売をやって行く事が出来なくなった。そこで、カーネル・サンダースは11種類のスパイスを調合したフライドチキンの調味料を売り出し、やがては調理方法や経営の方法の指導までするケンタッキーフライドチキンと言うフランチャイズチェーンの展開に発展したのである。

KFCは町の食堂のメニューの中から自信のある一品を選び出し、それを洗練させ、レシピー化し、フランチャイズチェーンの仕組みを使ってチェーン展開をしたのが良く理解できるだろう。

KFCの一号店Sanders Cafe
会社のページhttp://www.kentuckyfriedchicken.com
歴史http://www.kentuckyfriedchicken.com/about/story.htm
住所exit 29 on Interstate 75 in Corbin, KY.
問い合わせ931-381-3000 (内線1)

2)マクドナルド一号店

ハンバーガーの語源はドイツのハンブルグという地名からきていると言われている。ドイツ料理に牛の生肉を細かくチョップして生のまま食べる、韓国料理のユッケと似たタルタルステーキと言う料理がある。このタルタルステーキを焼いたのがハンバーグである。このハンバーグが移民により米国へもたらされ、万国博覧会でそのハンバーグをパンにはさんでサンドイッチにしたのを売出し、ハンバーガーと名付けたというのが、ハンバーガー誕生の通説である。

第2次世界大戦前後、車社会となった米国では住宅が郊外へ展開するドーナツ化現象が起こり、郊外型のドライブインレストランが増加した。特に気候の温暖なカリフォルニアでは郊外型のドライブインが急速に発展を遂げた。

そのカリフォルニアのサンバルディーノで、ディックとマックという、マクドナルド兄弟が1950年にまったく新しいファーストフードレストランを考案した。今までのドライブインレストランと異なり、ウエイトレスや陶器の皿を使わない、セルフサービス方式のドライブインレストランである。そこでは、2種類のハンバーガーとフレンチフライ、シェイク、コーラという限定メニューを提供していた。シェイクを作るマルチミキサーのセールスマンをしていた、マクドナルド社創業者の故レイ・クロック氏がマクドナルド兄弟の店と出合い一目惚れし、兄弟からマクドナルドの権利を買い取り、シカゴのディスプレインというオヘア空港からすぐ近くの町に1号店を開いたのである。現在は博物館として当時そのままの姿を保存してある。そのレイアウトを見ると現在のマクドナルド社の厨房と余り変わっていない。テニスコートに原寸大のレイアウトを描き作業性を検討したマクドナルド兄弟の店舗設計が優れていたからだ。

3)ハンバーガーの調理と提供方法

伝統的なハンバーガーは屋外で炭火を使った網焼きだが、炭火では火加減が難しいのでガスの炎を熱源にするチャーブロイラーが作られた。チャーブロイラーは肉の香りが出て大変美味しい焼き方だが、それでも熟練したコックが必要であった。そこでマクドナルドはサーモスタットで一定の温度に保たれるガス加熱のグリドルを使用し、アルバイトでも美味しいハンバーガーを焼けるようにした。

マクドナルド兄弟が工夫を凝らしたのが、サービスのスピードを上げることだった。普通は注文を受けてから調理を開始するので、できあがるまでに客は5-6分間待たされる。コーヒーショップであれば客は座って飲物を飲みながら待っているから問題ないが、マクドナルド兄弟は客席がない持ち帰り専門の店を作ろうと考えたので、注文をしたらすぐに商品を提供できるように考えた。

そこで、料理の種類をハンバーガーとチーズバーガーの2種類に絞り込み、ハンバーガーを売上げ予測に基づいて事前に調理後、包装しウオーマーに保管して置く。できあがって10分間経過したハンバーガーは廃棄処分することにより何時でも最高の品質のハンバーガーを提供できるようにした。

売り上げの繁閑に迅速に対応出来るためにグリドルの向きを変更したのが大きなノウハウだ。ハンバーガーの厨房のお手本となったのはデニーズなどのコーヒーショップであり、注文を受けた調理人は客に背を向けて、壁際に並べたグリドルやフライヤーで調理をする。コーヒーショップであれば、客は飲み物を飲みながら料理が出来るのをゆっくり待っても良いのだが、ファーストフードの場合、持ち帰り中心であり、客は待つことを嫌う。コーヒーショップのキッチンレイアウトだと忙しくなればなるほど客に背を向けて調理に専念するので、客の動向が見えなくなるという欠点がある。そこで排気ダクトの形状を変更するなどの工夫をこらし、グリドルやフライヤーの向きを変え、調理をしながら客の方を見れるようにした。(写真3)そして、グリドルの裏側にウオーマーを置き、そこにできあがったハンバーガーを紙で包装して10分間を限度に保温保管する。

カウンターマン(客の注文受けをする係で、当初は男子であった)は客の注文を受けたら、ウオーマーから包装されたハンバーガーを取り出し、注文後1分以内に提供できるようにした。これをストック・ツー・オーダー・システムという。このシステムによりテイクアウト中心の効率の高いハンバーガービジネスを成功させることが出来たわけだ。

4)創業時のシンプルな調理設備

ハンバーガーの調理にはグリドル(写真4)と、作業テーブル、ホールディングビンとに分かれる。そのほかに、フライヤー、飲物のシェイクフリーザー、コークディスペンサー、コーヒーマシンなどである。当時まだコンピューター化がなされていないので、POSは導入されていない。博物館には当時の手書きの売上げ日報などが展示されており、創業時のシステムが完成されていない頃の帳票のあり方などが参考になる。

5)最初は食材の工夫が必要

チェーン展開を進める上で一番重要なのは味の統一だ。チェーンレストランの利益を出す基本は、熟練した調理人の代わりにアルバイトに調理をさせるようにすることだ。そのためには店舗での調理作業はなるべくシンプルにし、最終の加熱調理行程だけにしなくてはいけない。ファミリーレストランであれば自社のセントラルキッチンで調理済みの商品を運ぶが、FFの場合には食材の仕様書を造り、それに基づいて外部の食材加工業者に発注する仕組みを取り入れた。

現在のマクドナルドの食材は全て仕様書発注で、マクドナルド専用の食材だ。しかし、一号店を開店した当時のマクドナルドの規模では仕様書発注といっても町の肉屋や牛乳屋に注文するくらいの規模であり、各店舗で仕様書通りの食材が搬入されるかチェックしなくてはいけなかった。

<1>食肉(ミートパティ)

食肉は生で挽肉を整形して生で仕入れていた。創業時のオペレーションマニュアルは89ページという質素な物であるが、その中のFood Specifications(食品規格)に、使用する肉の等級と、部位、脂肪含有率、挽肉の荒さ、使用する成型器、一つあたりの重量、直径、厚さ、を明記してある。それらの仕様を肉屋に伝えて各地の店舗で調達したわけだ。

<2>マックシェイク

マクドナルドの商品群でハンバーガーと並んで重要なのはマックシェイクといわれるミルクシェイクとマックフライポテトといわれるフレンチフライだ。当時のシェイクはハードアイスクリームをスクープですくい、それにフレーバーとミルクを入れ、ミキサーで飲みやすい固さに攪拌した物だった。それでは殺到する客を捌くことは出来ないので、ソフトクリームフリーザーをベースにアイスクリームよりも脂肪度を落としたミルクミックスを入れ、凍らせる。ソフトクリームのように堅くならない状態でステンレスのカップに入れ、バニラ、ストロベリー、チョコレート、等のシロップと一緒にミキサーにかけたわけだ。それまではミキサーは一つのモーターと一つのスピンドルの組み合わせであったが、マクドナルドの店ではそれでは足りない。そこで大型モーターとプーリーを組み合わせ、同時に5つのスピンドルを駆動するマルチミキサーを発注した。そのマルチミキサーのセールスマンであったレイ・クロック氏(マクドナルド社創業者)がマクドナルド兄弟の一号店を知るきっかけとなったのだ。

マックシェイクの品質を左右するのが、シェイクミックスの成分だ。シェイクは各地の牛乳製造メーカーに製造委託するのだがその際に規格を伝えなくてはいけない。そこでマニュアルに、

  • 乳脂肪率
  • 乳固形分
  • 糖分の種類と比率
  • 安定剤(シェイクの粘度と空気混合率を左右する重要な成分)の種類と比率
  • 塩分比率
  • バニラ香料の比率

を明記し、一定の品質を保つようにした。

<3>マックフライポテト

1号店で今のマクドナルドと一番異なる作業が、マックフライポテトだろう。米国は世界有数のポテトの産地だ。そのため年間を通してフレッシュのポテトを入手することが出来る。店舗ではピーリングマシンという洗濯機のような容器に入れ、水と一緒に回転させると皮がむける。そのポテトをカッターで細長くカット、水洗いし、水を切ってからフライヤーで低温一度揚げをする。この作業をブランチングといって毎朝、数時間必要な作業だ。ピーク時に会わせてフライバスケットに入れラックにかけておく。当時はマクドナルドの営業時間は朝10時頃からでありそんな仕込み作業も可能だったのだ。

6)全国展開に伴う、冷凍食品と火力の強い調理機器の開発

<1>冷凍ミートパティの開発

当初の、フレッシュのビーフパティは美味しいのだが賞味期限が3日と短く、店舗になるべく近い食肉屋で加工する必要があった。全国展開をするようになると、それぞれの地域の小さなミート工場で加工していては効率が悪い。そこで巨大な工場で大量生産したミートパティを冷凍し、各店舗に配送するようにした。冷凍という技術に取り組んだおかげで全米に店舗展開するだけでなく、牛肉の生産国でない日本のような国に店舗展開することを可能にしたのだ。

しかし、冷凍パティを使用するのは良いことだけではなかった。当初、冷蔵パティを焼くグリドルは、通常のコーヒーショップなどで使用するグリドルと同じ程度の性能で良かったが、冷凍のパティを大量に焼上げるためには、それでは火力が不足し、忙しいときには焼けないと言う能力の問題を生じた。そこで従来のグリドルよりも火力が強く、サーモスタットの応答性の良い優れたグリドルの開発が必要になった。

http://www.garland-group.com

<2>マックシェイク

売上比率の25%以上をしめるという大人気の商品となったマックシェイクはピーク時の製造に5~6名のアルバイトが付きっきりで携わらなくてはならず、あまりの量にシェイクマシンの冷凍能力が低下したり、ミキサーが加熱して攪拌できなくなるという状態になってしまった。そこで、専門の人間がいなくても出来るように、シェイクマシンの冷凍能力を大幅に増加し、シェイクの冷凍とシロップの混合攪拌を同時に出来る、ダイレクトドローというマクドナルド専用機を開発した。この自動シェイクマシンの開発により人件費の削減と能力のアップを図ることが出来たのだ。

http://www.taylor-company.com/index.html

<3>マックフライポテト

米国内では年間を通してフレッシュポテトを入手することが出来るが、日本のような海外では同じアイダホ産のフレンチフライに向いたポテトを入手することが出来ない。30年前日本に進出した際に、北海道にアイダホのポテトを持ち込み栽培したが、土壌や風土の違いから同じポテトは出来なかった。北海道のポテトは蒸したり焼いたりするとほくほくして美味しいのだが、フレンチフライにするとカリカリした状態にならないと言う違いを経験した。

そこでアイダホ産のポテトを栽培農場に近い場所で、店舗で行うブランチング作業を行い、すぐに冷凍し店舗で上げるだけでよいような仕組みを作り上げた。皮むきやブランチングという複雑な作業から解放されて厨房の面積を削減したり、人件費を削減することが可能になった。

しかし、グリドルと同じで冷凍のポテトを上げるためにはより火力と応答の早いフライヤーが必要になる。しかもフレンチフライはデリケートであり、温度の安定性も必要とした。そこで、マクドナルドやバーガーキングなどの大手ファーストフード向のフレンチフライに向いたフライヤーの開発を行ったのが、フライマスター社であり、

http://www.frymaster.com 

同社は全世界のファーストフードマーケットの75%のマーケットシェアを握るようになった。

7)最後に

このように、大手ファーストフードチェーンも最初から加工度が高い食材を使ったり、自動化の調理機器を使っていたわけではない。そのチェーンの規模、状況に応じてだんだんと開発を進めていったのだ。食材メーカーや調理機器メーカーも大手チェーンの展開とともに成長し、現在のように立派な会社となっていったわけだ。次回から、マクドナルドと競合のバーガーキングの調理システムの歴史とその周辺技術を詳細に見てみよう。

<マクドナルドの一号店>

http://www.mcdonalds.com/corporate/info/museum/index.html/

住所

McDonald’s #1 Store Museum
400 N. Lee Street
Des Plaines, IL 60016

お断り

このシリーズで書いてある内容はあくまでも筆者の個人的な経験から書いたものであり、実際の各チェーン店の内容や、マニュアル、システムを正確に述べた物ではありません。また、筆者の個人的な記憶を元に書いておりますので事実とは異なる場合があることをご了承下さい。

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