従業員の能力を引き出す、カウンセリング
チェーン本部サポート 第12回(商業界 飲食店経営2002年)
スーパーバイザーの育成で最も必要なのは、部下のやる気を最大限に引き出す能力を身につけさせることだ。そのために会議で、従業員に会社の情報を100%公開させたり、業務改善提案をさせたり、従業員の不満を吸収する技術を、過去何回かに分けて、説明をしてきた。
しかし、会議などで他の従業員が同席していると遠慮したり、恥ずかしがったり、他人に弱みを見せたくなかったり、と色々な事情で本音を言わない場合が多い。特に日本人や東洋人は西欧人と違い自分の意見や本音をなかなか行ってくれない。それを解決するためには個別ミーティングで、個々の従業員と腹を割ってじっくりと話すことが重要である。個別ミーティングをカウンセリングという。
カウンセリングの目的は2つある
- 店舗の売り上げ不振や利益率の低下、QSCの低下などの現象を見つけるために問題が発生してからカウンセリングを行う。
- 従業員の態度が悪い、チームワークが悪い、遅刻や欠勤退職が多い、等の個別の問題点の原因を探るために行う。
これが欧米流のカウンセリングだが、シャイな日本人の場合は、個人的な信頼関係が確立していないと、急にカウンセリングを行うと言われても本音を言わないのだ。
そこで、事前に個別のミーティングを行い、部下にSVや管理者の人間性を理解してもらい、SVは部下の従業員の個性や個人的な生活、考え方を理解しておく必要がある。カウンセリングと言う横文字を使うと堅くなって何も話さなくなるので、ちょっとコーヒーを飲もうよと行って面談を行う。店舗がすいていれば店舗の片隅でも良いし、混んでいれば、外部の喫茶店を使う。
SVはまず自己紹介をすることから始め、次ぎに何故従業員と話したいかの目的を明確に話す。自己紹介では学生時代の経験、アルバイト経験、仕事の経験、当社に入ってからどんな仕事をして現在に至ったか、失敗談を含めて話すようにすると親近感が芽生える。次ぎに、店舗に対してSVが抱いている問題点、目標を明確に伝える。そこまで話すと従業員はSVがどんな人で、これから何をしようとしているのか理解できたはずだ。ここまで話したら今度は従業員の話を聞く。アルバイトパートの学歴、専攻、過去のアルバイト経験、進学など将来の目的、就職先希望などを聞き出す。その際に大事なことはパートアルバイトの特技を聞き出すことだ。人間必ず得意な分野を持っている。例えば秘書の学校に通っている、簿記を習って将来会計士になる、デザインの学校に通っている、電気大学で電子工学を習っておりパソコンが得意だ、車の修理が得意だ、等、彼らの特技を聞き出すことだ。店舗の仕事は多岐にわたっている。彼らの勉強している専門分野が会社に必要なら、その機会を与える。中には会社に就職を希望していたりする場合がある。もし就職を希望しており、それがかなえられるなら人事部に話して見よう。思いがけない人材と能力を発見できるはずだ。
このように、インフォーマルな個人面談を日頃から積み重ね、部下との信頼関係を気づきあげておくと、いざ問題が発生して、フォーマルなカウンセリングをしなければいけなくなると効果が大きく出てくる。
<さてフォーマルなカウンセリングとは何だろうか?>
カウンセリングとは相手の話をじっくり聞いて、反論せずにアドバイスするということだ。カウンセリングは、問題があったために行うこともあるし、やる気を引き出すために行われることもある。カウンセリングは、仕事やプライベートで悩みがあり、アドバイスを必要にとしている人に、やる気と具体的な改善計画を立てさせやすくするようにするコミュニケーションの一つだ。
カウンセリング は相手の話を聞くだけでなく、良い方向に導いてあげるという重要な役割を持つ。社員やパートアルバイトを育成する際に、適切な指導とカウンセリングを行い、具体的な方向性を示し、また、毎日しっかりマネージメントを行っていれば、よりよい結果を生乱すことが出来る。部下のカウンセリングを行うことにより、能力を大幅にのばすことが出来るかもしれないし、部下の労働生産性を高めたり、売り上げが低迷しているお店の売り上げを回復したり、会社の規律や規則がきちんと守られ、事故や問題を減少させることが出来るのだ。
部下を厳しく躾ければよいとか、厳罰を与えればよいという考え方は古い。これからはトレーニングやカウンセリングを通じて部下が自らやる気を出すようにしなくてはいけない。部下に正しいカウンセリングとトレーニングを行えば、彼らはあなたの期待どおりに行動するはずだ。
<カウンセリングの6ステップ>
1. 目的を述べる
普段から個別面談により信頼関係を築いている場合には、相手をリラックスさせようといたずらに雑談を長くすることは、かえって、相手に心不安感を持たせるだけなので、なるべく早く本題に入る。例:「山田君、君は毎月何日か遅刻することが気になり、理由を聞きたいのだけれど」「木下君、今日は、君が昨日調理場で働いていたときに他の人と言い争いになった事について話したいのだが」
と部下に、何について話しをするのかを具体的にしっかり伝える。
2. 問題点を説明する
問題点を明確にすることにより、その後の具体的なカウンセリングが進むので、大変重要である。問題点は自分が直接見たり、観察した事実を基に具体的に状況を説明する。部下にも何が問題として取り上げられているか理解する時間を与え、それに対し反論や弁解をする機会を与えなくてはいけない。一方的、断定的に話をしていくと、それだけ守りも堅くなり殻に閉じこもると真実が見えなくなる。SVが感じている問題点は、見たとおりに簡潔に説明し、部下に弁明や弁解をする機会を与えなくてはいけない。
正しい話しかけ例
「このところ、毎月2~3日、1時間ほど遅刻をいているけれど、体調が悪いのか、それとも他に困っていることでもあるのかい?」
間違った話しかけ例
「どうして時間通りに来ないんだ、やる気がないのか。そんな調子だったら、時給を下げるか、タイトルダウンだぞ。どうするんだ」
3. 相手の話を聞く
上記のステップ1と2をどんなに上手にやっても、ここで相手が防御の態勢に入ってしまうことがあるので、ここでは相手の話しを辛抱強く、最後まで聞くようにしなくてはいけない。カウンセリングの目的を述べ、問題点を具体的に説明していれば、守りの態勢はそれほど強くならないはずだ。そのような相手の態勢をどう扱うかによって、問題点を良い方向に持っていくことができるか、より大きな成果が得られるかが決まる。なるべくパートアルバイトの立場にたって話しを辛抱強く聞くことだ。
以下がよい聞き方の例だ
<1>受け入れる
「なるほど、大変だね、それは困ったね」などと言ったり、相槌をうったり、うなずいたりしながら相手の話しを聞くようにする。相手の目を見て、積極的に聞いているという真摯な態度を示す。
<2>繰り返す
真剣に聞いている事を示すために、相手が言ったことを同じ言葉で繰り返したりして、同情の態度を示す。
<3>言い換える
相手が言ってきたことをわかりやすい言葉に言い換えて伝える。
例:「そうか、お母さんが具合悪くて、家事を手伝わなくてはいけないのか?」
<4>相手の考えを引き出す質問
「はい」とか「いいえ」で答えられる質問でなく、相手が話せるような質問をする。
例:「遅刻しそうなときにはどんな連絡方法を取るのですか?」そして、簡単な答には「何で?」「何時そうなったの?」「どうしてそんな事になったの?」と掘り下げてみる。
<5>沈黙の技術
相手に話を続けさせるためには、部下が話し終わった後、すぐにSVが話し出さないで間をおいて黙っていると、気まずく感じるので部下は引き続き話し始める。沈黙が「引き続き話をして下さい」と言っていることに感じさせるからだ。
部下の言い分を聞くことにより、SVは部下から信頼されるようになると同時に、問題点を更に詳しく分析、把握できるようになる。
4. 問題点に関して部下の同意を得る
SVと部下の両者が問題点があることを認めない限り、効果的な解決策を得ることはできない。部下に、自分自身がその問題点に対してどう考えているかを言わなくてはいけない。部下の考えがSVの考えと一致した場合は、次のステップに進む。同意を見なかった場合は、ステップ2と3を繰り返す。問題点に関して同意が得られるまでは、次のステップに進んではいけない。
5. 相手と一緒に解決策を決める
部下と一緒に解決策を決めることが大切な理由は2つある。
<1>現実的
人は自分自身で達成、改善できる方法を選定する。
<2>積極的に取り組む
自分で解決策を決めれば自ら積極的に改善をする。部下は上司のSVが勝手に解決策を立案した場合よりも、自分で改善計画を立てた方が積極的に取り組むようになる。
問題点の解決方法を考える際に、部下に解決策に関与させるには「この問題を解決するためにはどうしたらよいのだろう?君だったらどうする?どんな解決策をとる?」等と聞くと良い。
6. 相手に結論を出させる
カウンセリングを終える前に、部下が次にどういう改善行動を取るか、目標を立てさせ、それを実現するために必要なタイムプランニング作成させる。
<誰のカウンセリングを行うか、なぜその人のカウンセリングを行うのか>
基本的に、カウンセリングをする場合は以下の4種類だ。
1) 良い仕事をしている部下
これは4つの状況の中で最も容易だ。それは問題がないからだ。この場合のカウンセリングは、部下に新しいことを教えたり、その人が更に伸びるようにしたりするためにより高度な目標や課題を与えることにより、前向きで積極的な仕事への取り組みをさせるようにすることだ。勤務態度や規則を守っているからと言って満足していては部下の能力は伸びない。仕事上の問題がなくても部下が自己育成、将来の目的を明確に持っているか確認する。そして、将来の目標を明確に作成させ、必要なトレーニングや教育、研修計画を一緒に作成し、部下の能力をより向上させるように持っていく。
2) 良い仕事をしていない部下
この場合は、部下に問題点を指摘しなくてはいけないので難しいカウンセリングとなる。厳しい事実を伝えて仕事を改善させようとすると、部下は自分を守る姿勢をとりがちだ。部下の人格を否定するのではなく、仕事そのものだけを改善して欲しいと言うことをわからせることが大事である。仕事を改善させるために人格も否定してしまうことがあるが、それではよけい守りの姿勢になり、ついには耳を閉ざしてしまうので慎重にカウンセリングを進行しなくてはいけない。
3) 勤務状態は良いが規則の違反をした部下
部下が規則を破った場合、カウンセリングを行う前に答を出しておかなければな らないことと、とるべき手順がある。
<1>どの規則が当てはまるか?
その規則のことが既に社内で部下全員に伝えられていたか。部下に違反した規則を知っていたか確認をしなくてはいけない。
<2>その規則は現状にあったものか?
規則の中には店舗の勤務実体にそぐわない旧式の物もある。規則は常に最新のものにして、現状に合わないものは取り消していくようにする。
<3>どのような処分をする?
規則が破られるたびに、それに対する処分、処罰を考え出すのではなく、規則をつくる時点で、それが破られた場合に取る処分処罰を決めておかないと、人により異なる処分処罰を受けるという不公平が発生する。
<4>その規則は一貫性をもって適用されているか?
扱いに一貫性がないと不公平になるばかりでなく、差別ということで問題にされることになるかもしれない。全員がその規則のことを知っており、それに違反した場合は同様の扱いを受けるようにする。ある規則が、十分理解されていないために破られたと思われる場合は、その規則をしっかりと伝え、いつから実施されるかを公表しなくてはならない。
<5>カウンセリングをする前に事実を集める
噂だけを頼るのではなく、必要な証拠を集めたり、他の従業員に聞いたり、自分の目で確認する。
<6>相手の言い分も聞く
部下には自分の立場を主張したり、弁護する権利がある事を認識し、部下に退位して問答無用の態度をとってはならない。
4) 勤務状態も悪く規則の違反も繰り返す部下
勤務状態が悪く規則違反を繰り返す部下に対しては、既に何回もカウンセリングをしているはずだ。このような部下が限度を越えた規則違反を犯す場合や改善の傾向が見えない場合は、状況によっては解雇しなければならない。しかし、解雇を決定する前にそれまでに取った対応、対策、カウンセリングの内容が
- 公平か
- 一貫しているか
- 事実に基づいているか
- 証拠はあるか
などを過去の文書や記録から確認をしておく。絶対にカウンセリングの場で感情的になって解雇してはならない。冷静になり、解雇すべきかどうかは上司や本社の人事部と一緒に決めなければならない。
以上1年間にわたって経営者によるSVの育成を学んできた。基本は部下の気持ちをどのように察し、やる気を引き出すかである。これらの手法を自ら試して部下のやる気を引き出して店舗の業績につなげていただきたい。
以上
お断り
このシリーズで書いてある内容はあくまでも筆者の個人的な経験から書いたものであり、実際の各チェーン店の内容や、マニュアル、システムを正確に述べた物ではありません。また、筆者の個人的な記憶を元に書いておりますので事実とは異なる場合があることをご了承下さい。