非公式コミュニケーションで従業員の不満解決

チェーン本部サポート 第11回(商業界 飲食店経営2002年)

会社が大きくなるにつれ従業員の不満も大きくなる。最初は小さな不満もだんだん大きくなると、従業員のモラルが低くなり店舗のQSCを悪化させ、気がつくと売り上げと利益を大きく低下させる。
 従業員の不満を小さい内に把握し、解決するのがSVの大きな仕事となる。前回は公式コミュニケーションとして評価の行い方を見てきた。正しい評価を下すことは従業員の不満を解決する大きな原動力となるが、評価だけで従業員の不満が解決するわけではない。例えば、エアコンが効いていない、暑い厨房で働くことがいやだ。休憩室のエアコンが効いていないので疲れがとれない。従業員同士のいじめがある。など、評価以外で不満がある場合が多い。場合によっては店長が従業員をいじめたり、セクハラを行ったりする場合がある。それらの問題点を早めに把握して解決しなくてはいけない。

しかし、上司との人間関係、給料、待遇、福利厚生、環境、従業員同士の人間関係など、不満を言うのはやる気がないと勘違いされると思い、言いにくいのが現状だ。SVは以下の4つの手法を身につけ不平不満を早めに解消するようにしなくてはいけない。

1)働きがいアンケート調査

まず、全従業員に働きがいはどうかというアンケート調査を行う。複数の店舗を持つ場合、アンケート調査の総合データーをまとめ、店舗毎、SV毎、地区毎に比較すると、色々な問題点が浮かび上がってくる。
 アンケートを実施する際には、全員を集めたミーティングを開き、その目的を明確に伝え、働きやすい店を実現するために実施する旨を伝え、その場で書かせる。アンケートには氏名などは記入しなくて良いと明確に伝える。
 アンケートのサンプルは以下の通りであり、同じフォームを継続して使用する。毎年内容を変更すると問題点が解決しているのか、悪化しているのかわからなくなるからだ。

働きがいアンケート調査

 はいいいえ
<1>良い仕事をした時、それなりに認められている。  
<2>昇格は仕事能力と評価に基づいて行われている。  
<3>何をどのようにすれば給与がアップするか知っている。  
<4>今までだいたい自分で予想していたとおりの給与アップであった。  
<5>自分に対する上司の扱いは公平である。  
<6>仲間と働くことは楽しい。  
<7>性別、年令、出身に関する差別がない。  
<8>上司は自分の仕事の内容や能力を十分理解している。  
<9>上司は常に一貫した指示を与えてくれている。  
<10>上司はあなたの問題点や悩みを解決してくれる。  
<11>会社や店舗の規則と方針の説明を受けている。  
<12>会社や店舗の規則と方針はきちんと実施されている。  
<13>会社のマニュアルに基づいたトレーニングを受けている。  
<14>会社で働くことを誇りに思う。  
<15>職務の範囲内で仕事を任せてもらっている。  
<16>従業員の利点、福利厚生などについての説明を受けている。  
<17>会社を辞めようと思ったことはない。  
<18>メニュー、営業時間変更などの営業方針変更などを十分に説明されている。  
<19>店に働きに来るのが楽しい。  
<20>休憩はきちんと与えられている。  
<21>店の教材整備は行き届いている。  
<22>休憩室は綺麗で快適である。  
<23>店のユニフォームの管理は良い。  
<24>規則に違反した場合の処分は公平である。  
<25>勤務予定表は少なくとも7日前に掲示されている。  
<26>上司は休日や休暇の希望を、店舗に支障のない限り聞き入れてくれる。  
<27>自分の勤務時間希望を可能な限り聞き入れてくれる。  
<28>悩みや相談事があるときに上司は時間をとって聞いてくれる。  
<29>従業員ミーティングはおもしろく、有益である。  
<30>従業員ミーティングの実施回数に満足している。  
<31>ここ半年の間に従業員ミーティングに出席したことがある。  
<32>ここ半年の間に問題提起ミーティングに出席したことがある。  
<33>問題提起ミーティングは、店をよりよい職場にするのに役立つと思う。  
<34>ここ半年の間に、勤務評価を受けたことがある。  
<35>前回の勤務評価に納得している。  
<36>会社の諸規則に述べられている内容は守られている。  
<37>仕事のローテーションに満足している。  
<38>空調が適度に効いており、働きやすい。  
<39>自分の仕事に使う設備と器具は整備が行き届いている。  
<40>サービス残業はない。  
<41>労働時間に応じた年次有給休暇を取らせてくれる。  
<42>上司や社員は部下を丁寧に扱っている。  
<43>スケジュール以外の超過勤務を要請されることは少ない。  
<44>上司は、部下の名前を知っている。  
<45>この店の従業員人数は、十分に揃っている。  
<46>店内では差別がない。  
<47>店内でセクハラがない。  
<48>上司や社員は不正を働かない。  
<49>上司や社員は法律に触れた行動をとっていない。  
<50>仕事状の怪我や病気は労災を申請してくれる。  


2)問題提起ミーティング

アンケート調査により大体の問題点を把握したら今度はその問題点をさらに具体的に掘り起こすことが必要になる。そこで、従業員を集め、問題提起ミーティングを開く。働きがいアンケート調査と、問題提起ミーティングの目的は、従業員に対し会社は従業員が働きやすくなるように、常に従業員の不平不満を聞き入れ、それを改善することをシステムとして持っていると言うことを示すことである。この2つのシステムは従業員に告知し、年間予定表などで実施予定日を公開する。

<1>人数と選定方法

問題提起ミーティングは全従業員を集めても効率が悪いので、7~8名の従業員をランダムに選択し、ミーティングを開催する。ただし、調理やサービス等の職種や、時間帯で偏らないように注意する。

<2>会社の姿勢

問題提起ミーティングは会社が店舗で働く人々の考え、提案、問題に耳を傾け、その解決に真剣に取り組むなのだという姿勢を示す効果的な手法であり、店舗営業面の改善、従業員のモラール向上、従業員の経営参会意識の向上、コミュニケーションの向上、会社のルールや規則の徹底、に有効である。

<3>開催の頻度と場所

ミーティングの開催は出来れば3ヶ月に一度、最低でも半年に1回の実施が望ましい。経営陣や社員にとって耳の痛いことも話さなくてはいけないので、開催する場所は、外部の人が聞き耳を立てることのない静かな会議室などをつかう。ミーティングの時間は通常2~3時間必要だ。
 会社の方針を伝えたり、店舗現場からの要望を会社に上げるための従業員ミーティングの1ヶ月ほど前にこの問題提起ミーティングを開き、従業員ミーティングまでに改善できることを決め、ミーティングで発表すると良い。

<4>ミーティングの目的を説明する

問題提起ミーティングは何故開催するかという目的を従業員に明確に伝えないと成功しない。会社に問題点がある場合、陰で文句を言うのではなく、その問題点を経営陣に正確に伝えて、問題解決をするのは従業員の責務と権利であると説明する。

<5>言いにくい内容を聞き出すテクニック。

問題提起ミーティングは欧米的な手法で、欧米人のように経営陣に遠慮しないでフランクに意見を述べる環境で有効であり、日本人のように遠慮しがちな人種には向いていない手法である。意見を言うことで会社に要注意人物だと思われたり、昇進や昇給に悪い影響を与えるのではないかと懐疑的になりがちだからだ。
そこで、白紙のレポート用紙を配り「お店の問題点をリストアップしてください。QSCや人物金の分野でも問題や不満を感じることを書いてください。参加している貴方自身が不平不満を感じていることだけでなく、他の従業員が普段感じている不平不満、改善が必要な箇所も書いてください」と言って書かせる。さらに書いた紙は回収しないで、参加のメンバーの一人にそれを読み上げさせることを伝える。その内容を黒板に書き、どの問題が多いのかをわかるようにする。参加者のメンバーに読み上げさせるのは書体で誰が書いたかわかるという恐れを抱かせないためだ。また、書記を指定し、黒板に書き上げた内容、その後のディスカッションの内容を書かせるようにする。ミーティングの主催者がメモを取ると誰の発言を記録しているのではないかと疑念を持つので、一切メモを取らず、書記に言葉で伝えて記録をさせる。
そして黒板に書かれた内容で一番提言の多い内容から、ディスカッションしていく。なかなか発言しにくいので、端から指名して「こういう意見が多く出ているが、貴方はどう思いますか?何が問題なのですか?貴方でなく他の従業員の方の抱えている問題や悩みは何ですか?」と順番に尋ねていく。

<6>ミーティングの進行

最初はおそるおそる発言をするが、だんだん時間がたってくると中には積極的な発言をする従業員が居るので、はじめは静かで遠慮がちな従業員も徐々に話し出すようになる。論議を活発にするために注意しないといけないのは、

(a) 言い返してはいけない

上司の自分を攻撃する内容や、自分の思っている内容と違う指摘に対して、怒ったり、弁解したりてはいけない。辛抱して聞き上手にならなくてはいけない。怒ったり、弁解したりすると部下の従業員は意見を言わなくなり、本音を聞き出すことが出来なくなる。

(b) 誉める

「お、鋭い指摘だね、良く気がつくね」等と誉めることにより、発言に自信を持ち、より具体的な発言をするようになる。

(c) 質問を掘り下げる

「君の意見はこういうことですか?別の言い方をするとこういうことになりますか?こうしたら良くなると言うことなのですか?」と相手の言葉を言い換えたり、掘り下げたりすると、より具体的な発言となってくる。

(d) 防御しない

上司の自分の非を認めたくないと、つい、言い訳をしたり、弁明をしたりしがちだが、それが正しいことでも間違っていることでも、弁明や弁解をするとその後の発言を引き出すことが出来なくなる。嫌な発言でも虚心坦懐にポーカーフェイスで聞き続ける辛抱が必要だ。従業員によってはわざと上司を怒らせてどうなるかを見極める場合もあるので、挑発に乗らないように注意を払うこと。

(e) 出来ないことを確約してはいけない

全員の時間給を上げるとか、ボーナスを増額するとか、店舗を改装するなど、自分の決裁権限外の回答をしてはいけない。自分の決済権限を越えるような要望に対しては、経営者や本部に問い合わせや提案をしてみるなどと答える。

(f) 問題解決は素早くする

問題解決できることは素早く解決し従業員にミーティングなどで伝える。発見した問題点や良い提案を解決しないと信頼関係がなくなってしまい、問題提起ミーティングに参加をしなくなってしまうからだ。全ての問題点や提起された内容を解決するのは無理かもしれないが、優先順位の高いものから迅速に解決する努力を見せることが従業員の信頼を勝ち取る上で重要となる。

(g) ミーティングの終わりに

2時間ほど経過し、問題点が明確になったら、ミーティングを終了する旨を告げる。その際に、「今日、みんなが提言にしてくれた内容は検討し、数日の内に優先順位を付け問題解決の提案を従業員ミーティングで発表します。勿論、すべて解決できるわけではありませんが、出来る範囲から解決をするように努力します。今日は本当に積極的に発言してくれてありがとう」と礼を言って終わります。

<7>問題提起ミーティング後が重要だ

問題提起ミーティングにどれだけ問題解決を素早く行い、その結果を発表するかは大変重要であり、そのやり方は3段階で行う。

(a) 問題点の改善計画を明確にする。

ミーティング実施者は、1週間以内に他の社員達に問題提起ミーティングの報告を行い、解決策を一緒に検討する。それぞれの問題点には優先順位をつけ、一人ずつ担当者を決める。問題によっては店舗で解決できないので、上司のSVや地区部長、場合によっては経営陣に提案したり判断を仰ぐ。

(b) 問題点の解決

優先順位の高い問題点は直ちに解決する。問題によっては複雑で解決に時間のかかるものもあるが、問題提起ミーティングの結果を従業員に伝える前に問題解決の行動を起こしておかなくてはならない。

(c)結果報告

問題提起ミーティングを実施してから2~3週間以内に従業員ミーティングを開き、ミーティングで提起された問題点の内、何を解決したが、何をしているのかを説明する。これを行うことにより部下の従業員から信頼されるようになり、より積極的な問題解決の提案が出てくるようになる。

3)問題点の絞り込みに必要な個別面談

働きがいアンケート調査と問題提起ミーティングだけでは、本当に大きな問題や不満を発見できるわけではない。ミーティングなどでは本音を言いにくいからだ。ミーティングを通じて参加従業員の表情や態度がどうであるか注意して観察する。そして、何か発言したいことがあるが発言できないとか、不満がまだありそうな従業員をミーティングの後で、個別に呼び、膝をつき合わせて話をしなくてはならない。
個別面談ではアンケート調査と問題提起ミーティングの内容をベースに、従業員の個人的な問題提起をさせたり、本当に悩んでいる従業員が誰であるか聞き出していく。最初はなかなか本音を言わないのだが、問題提起ミーティング後、確実に改善実行を見せていくことにより、従業員の心はだんだん開いて本音を言ってくれるようになる。

4)オンブスマン制度

店舗の店長やSV、地区部長が部下に厳しい態度をとったり、意識して不正やいじめを行う場合、アンケート調査、ミーティング、個別面接、を行っても後が怖いと従業員は本音を言わない。特に上司の横領、セクハラや差別などのデリケートな問題は言いにくい物であり、上司に言うと処罰を受けるのではないかという恐れから、不満を溜めたまま退職したり、不平不満が爆発して労働基準局や裁判所、マスコミ、などに訴え、企業イメージを著しく低下させる恐れがある。
 気の弱い人や、文句を言えない人のためにあるのがオンブスマン制度だ。北欧で考案されたシステムで、地方行政などに不満のある人が、信頼を置ける中立の立場の人(オンブスマン)にクレームを言うことが出来る。オンブスマンはクレームを言い立てた人の個人的な情報を開かさずに、問題点を調べ、行政の問題があればその解決を行うようにする。企業の場合も温厚で中立の立場の人を選び、自分の上司を通じては問題解決を出来ないと感じている人に、それらの不平、不満、問題点を自分の評価を傷つけないように、またはやめさせられないように秘密を厳守して問題解決させる仕組みだ。

上記の4つは本来は店長の役割であるが、店長に問題があったり、新人の店長で慣れていない、問題点が大きいと思われる、等の場合には、SVや地区部長、経営者自らが実行しなくてはいけない。

以上

お断り

このシリーズで書いてある内容はあくまでも筆者の個人的な経験から書いたものであり、実際の各チェーン店の内容や、マニュアル、システムを正確に述べた物ではありません。また、筆者の個人的な記憶を元に書いておりますので事実とは異なる場合があることをご了承下さい。

著書 経営参考図書 一覧
TOP