外食資料集 「回転寿司」(綜合ユニコム 月刊レジャー産業資料2008年9月号)

回転寿司

寿司は江戸前寿司として江戸時代に屋台の軽食として発生した最も古いファストフードであり、高級な業態として定着していた。しかし、外食の大衆化の面では価格の表示がなかったり、時価であるなどの問題点からチェーン化に乗り遅れた。しかし、70年代に入ると小僧寿し等のテイクアウト寿司が寿司を低価格に提供し大衆の食事となった。同時期に大阪の立ち喰い寿司店経営者・白石義明氏が回転寿司考案し1958年に大阪で開業した。その後回転寿司機能の実用新案登録を行い、元禄産業を設立し「元禄寿司」の名称で回転寿司を展開した。実用新案だけでなく、飲食店の名称として「まわる」「廻る」「回転」などを商標登録して独占的なチェーン展開をしていた。しかし、1997年に元禄産業が飲食店における「回転」の使用を解放した。それ以来、大手企業が回転寿司業態への参入を加速するようになった。その結果、回転寿司はファミリーレストランに取って代わる存在となってきた。しかし、90年代になり、銀の皿のような宅配寿司チェーンが誕生するようになったり、食品スーパーや、コンビニなどでも寿司を低価格に販売するようになり、回転寿司の売上の伸びは一時低迷するようになった。

回転寿司の競合相手はファミリーレストラン、焼肉食べ放題、ブッフェ、であり、最も競合度の強い業態は焼肉食べ放題であった。しかし、2003年に米国でBSEが発生し、日本は米国産牛肉の輸入を禁止し、食べ放題の焼肉店の勢いがなくなった。また、相変わらずの低価格業態へのニーズの強さに対応する、安さが魅力で低価格の回転寿司チェーンの売上が好調である。2002年からは市場全体の売上高は拡大を続けている。対面のすし業態においても価格を明示したり、一皿105円など低価格で提供するチェーンが台頭している。

回転寿司トップ企業はカッパ・クリエイト(07年608億円)、次はあきんど�スシローで(07年590億円)、くら寿司(07年484億円)、元気寿司(07年266億円)が続く。関西で無添加寿司を売り物にする「無添くら寿司」や「あきんど・スシロー」は首都圏に進出を開始し、首都圏での回転寿司業態は激戦状態である。
この回転寿司の好調ぶりを見た大手外食チェーン企業は、回転寿司業態への参入を図った。外食業界第2位のすかいらーくは経営していた和食業態をベースに京樽から人材をスカウトして魚屋路(ととやみち)という回転寿司業態を開発し、現在は24店を経営している。吉野家は会社更生法を申請した京樽を支援し、京樽は吉野家の支援の元、和食業態から回転寿司の海鮮三崎港をへ転換し展開している。また、投資ファンドも好調な回転寿司業態に注目し、M&Aを実施している。米ゴールドマン・サックスとリサ・パートナーズの投資銀行二社が2008年年4月から回転すしのマリンポリスの大株主になっている。マリンポリスは、中国地方や九州、米国に合計132店展開し、年商120億円の業界8位の規模だ。

牛丼のすき家を経営しているゼンショーは不振ファミリーレストランなどをM&Aで手中に入れて規模を大きくしていたが、米国産牛のBSE発生を機に食材の多様化を進めるため、饂飩やドーナツなどを展開する大和フーズを子会社にし、2007年3月には回転寿司業態大手カッパ�クリエイトの資本参加、関西のあきんど・スシローの株式取得等、相次いで規模の拡大を計画した。しかし、2008年後半の米国サブプライム問題の発生の影響か、回転寿司の成果を出せないまま、それらの株式を売却せざるを得なくなってしまった。

飲酒運転規制の強化と地方経済の低迷に苦しんでいる居酒屋業界の大手企業のマルシェはマルシェ2008年9月にカウンター寿司(客単価3000円)「寿司一献 湊町東店」を大阪に1号店を開店した。3年以内に30店舗体制を目指し、中国・上海など海外出店も検討している。サンマルクは洋食レストランを全国展開しているが回転寿司「すし処(どころ)函館市場」などを子会社を通じて運営している。
大手企業の好調ぶりを見て関東では銚子丸がチェーン展開を開始して、上場を果たし80店舗200億円の年商を目指すなど、好調な回転寿司業界への新規参入が続くようだ。

富士経済が2008年7月10日に発表した日本の外食産業調査によれば、「回転寿司・テイクアウト寿司・宅配寿司、の寿司3業態合計市場は2008年には前年比3.9%増の5,550億円。回転寿司市場は、2007年に上位チェーンの多くが新規出店を抑制し既存店の強化に取り組み前年比5.7%増の3.900億円となった。安価な寿司を食べるだけではなく、タッチパネル式の注文システムの導入や、皿5枚で景品が当たるなど楽しみの要素もあり、ファミリーレストランの需要を取り込みながら当面は成長を続けると見込まれる。ただし、すしネタの魚介類を中心に各種食材の価格が急上昇しており、特に105円均一チェーンはメニュー価格に反映させることが困難であるため、利益の圧迫が予測される。

その対策としてあきんど・スシローは2008年9月1日から寿司ネタを自由に選んで食べられるちらし寿司の販売を一部店舗で始めたり、カッパ・クリエイトも平日のランチタイム限定で一皿94円でテスト販売しだしている。くら寿司は関西地域の一部店舗で平日のランチタイムにおにぎりの販売を始めるなど、低価格志向のサラリーマンのランチ需要の取り込みを狙っているなど、回転寿司業界は低価格で昼食時間の顧客争奪戦を開始している。
新規顧客を開発するためには子供に人気のあるキャラクター商品を開発したり、子供や女性の好きなデザートメニューの開発をするなど魅力の強化に努めている。
回転寿司は店内飲食が中心であるが、持ち帰りを強化し出した企業もある。81店舗を展開する岡山のマリンポリスはインターネットですしのテークアウトの予約注文ができるシステムを直営全店に導入し、待ち時間なしで持ち帰れる利便性を武器に、売上を伸ばす試みを開始している。

出店戦略では回転寿司は地域により店舗展開の密度が異なることに大手企業は注目して、回転寿司の店舗数の少ない、東北や九州に出店を開始している。
利益率の向上のためには、回転寿司レーンメーカーと一緒に研究開発をして、賞味期限を越ないように寿司の品質管理をしたり、レーンの上に放置するのではなく、タッチパネルを使用して、注文生産し出来上がった寿司を注文した顧客にレーンで正確に届ける仕組みを開発している。くら寿司などは従来全ての寿司にわさびをつけていたが、サビ抜きを注文する客は女性客を中心に六割に上ることに注目し、全ての寿司からワサビを抜くことにした。顧客は自分の好きな量だけワサビをいれてもらう。これにより、寿司製造後30分~55分間経過すると廃棄処分しなければならなかった寿司のわずかなワサビを削減することが出来る。このように魚介類の高騰の時代を向かえ、企業はよりきめ細かい対策をせざるをえなくなっている。

しかしながら今後日本での展開はファミリーレストランのように飽和状態になることが予想され、大手の元気寿司やくら寿司は海外への進出を開始しだしている。
元気寿司は1993年に海外に初進出し、ハワイに11店舗展開し今後4年以内に米国に20店舗展開する。2008年には西海岸のシアトルに2店舗出店し周辺としに3年間で6店舗出店する予定だ。また、米国以外ではFCで店舗を広げ、香港や台湾を中心に42店展開している。2008年中には1号店をジャカルタに開く予定だ。前期の米国子会社売上高は19億1400万円、FCロイヤルティー収入は1億9500万円で、前期から26%の伸びと好調だ。
無添加を売り物にするくら寿司も2008年にはロサンゼルスに回転寿司を開業している。また、金沢の回転ずしチェーン「金沢まいもん寿司」を経営するエムアンドケイ2008年にはアラブ首長国連邦(UAE)で和食レストランを二店出店する計画だ。

ファミリーレストランなどは仕入れ規模が大きく低価格な料理を提供できる大手企業が市場を独占しているが、回転寿司の場合には地場の企業が善戦している。

日本経済新聞大阪夕刊2008年07月14日によると「くら寿司のデーターでは関東圏の人気メニューはビントロで関西圏でははまちという嗜好の差がある。関西ではベストテンの圏外だが、関東では人気が高く上位に顔を出しているのが味付いくらやつぶ貝。関西に比べて関東は一目で高級感が実感できるネタが好き。ミツカングループ本社の調査では、回転ずし一人当たりの出費額は関西圏が1265円。首都圏では1515円250円も異なる。」という。このように地域の特性が異なるため、全国一律の食材やメニュー名を使用する全国チェーンに対抗して地元の企業が生き残るチャンスがある。

2008年02月27日日経MJによると地域により回転寿司店の人口当たりの数が異なっている。
回転ずし店の集積度ランキングを見ると
順位  都道府県  1店当たりの人口
1  石川県  22,577
2  岡山県  22,759
3  鳥取県  25,292
4  新潟県  27,320
5  富山県  29,256
6  栃木県  29,656
7  岩手県  30,110
8  福井県  30,429
9  茨城県  30,672
10  岐阜県  31,451

であり、海に面している県に回転寿司が多いのがわかり、消費性向に違いがあるようだ。

富山県には地場の行列の出来る回転寿司が軒を連ねており、きときと寿司などはぽつんと離れた立地でも大繁盛している。
回転寿司業態はチェーン企業でなくても地場の魚を使い、価値観を演出すれば成功しやすい業態である。

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