「上がったり下がったり、マックの政策混乱か」(オフィス2020 AIM「2020BD」8月号)

日本マクドナルドは7月9日に、8月5日から全国3900店舗の全店で、ハンバーガーを現行の80円から過去最低の59円に値下げすることを発表した。チーズバーガー120円から79円、フランクバーガーも150円から75円に下げることになった。マクドナルドは今年2月に平日半額を取りやめたばかりだが、7月12日付の日本経済新聞によれば、八木康行社長は「1~6月の売上高が満足のいかない数字だっただけに、価格を重要視する消費者へのアピールも必要と考えた」と語っている。だたし、この値下げ政策は一時的なものになる可能性もある。値下げ商品は3カ月ごとに入れ替えていく予定で、ハンバーガーが値下げの対象から外れれば再び80円で販売する。なお、ロイターの発表によれば、値下げをした日本マクドナルドの8月5日の店舗売上高は12億570万円で、前年比2.3%増、前週(7月29日)比では17.7%増加した。また来店客数は約410万人で、前年比28.4%増となった。

フードサービスコンサルティング
(有)清晃 代表取締役
王 利彰

今回の値下げについて、「マクドナルドは一体どうしてしまったのだろう」と思っている業界関係者は多いと思います。年末年始や夏休みなどファミリーが動くシーズンの売上は上がるため、夏はディスカウントに見せた高単価商品を登場させるというのが、いままでのマクドナルドのやり方だったわけです。ところが、稼げる夏場に急に値下げを発表をした。この値下げの発表があった記者会見の場は、もともと夏の新商品の発表会だったそうです。その場で急に一枚の紙が回されて、それに値下げのことが書いてあった。社内でもかなり性急に決定されたんじゃないですかね。

この価格戦略がだれの目から見ても、ちぐはぐに映るのはシーズンによるものだけではありません。
マクドナルドは現在「マックトーキョー」といった高単価路線を進めています。これは将来的に起こり得るであろうインフレを見越してのことだと思います。ところが高単価路線で拡大していくことと、低価格路線で絞り込んでいくことは相反する戦略なんです。

恐らく藤田田さんが介入したんでしょう。藤田さんが今年の2月に65円の半額バーガーをやめたのは、為替相場が円安基調だったことと、インフレ政策を竹中平蔵大臣が訴えていたことが大きい。竹中大臣は藤田財団の顧問をやっていたものだから、そういう情報が藤田さんの耳に入っていたんでしょう。

ところが完全に読み違いだった。円高の状況が続き、2月以降の売上が既存店ベースで前年同月比約16%も落ち込んでしまった。ここまで売上が落ちると、フランチャイズはもちろん、直営店もキャッシュフローはマイナスでしょう。今回の値下げは3ヶ月ごとに入れ替えるということですが、115円前後の円相場が続く限りは値下げ政策を続けるのではないでしょうか。

今回の値下げと、前回の半額セールとの最大の違いは、以前ほどのインパクトがないことでしょうね。マスコミの報道も冷ややかだし、前回は「英断」というイメージを植え付けることに成功しましたが、今回は「未練がましい」といったところでしょうか。外食産業にも取り立てて大きな影響はないでしょう。

マクドナルドのライバルはコンビニエンスストアですが、最近のコンビニはサービス業に特化している印象があってまともにぶつかっていない。しいて言えば弁当屋は影響を受けるかもしれない。ほかほか弁当が290円の弁当を出しているのはマクドナルドを意識しているからだと思いますが・・・。ほかの業態も今回はどれくらい続くかを見るんじゃないですか。夏場はこれで売上を落とす可能性も高い。店側が準備するにも期間が短すぎるし、削ったままのアルバイトも増やす時間がないですしね。

マクドナルドはこれからはマックトーキョーのように新業態に乗り出していくと思います。長期的にはインフレになることを考えて、価格を上げたいと考えているでしょう。そのため、「プレタマンジェ」と提携しているし、「ファーストカジュアル」というファーストフードよりも手作り感がある業態のフランチャイズをアメリカでたくさん買収している。将来的にはそういった新しい業態が日本に進出するようになるでしょう。

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