AV店の経営手法 第8回「フランチャイズシステム」(エーブイデータ出版 AVデータ)

フランチャイズシステム

今までマニュアル作りとか従業員の評価とは堅い話をしてきており、個人営業のAV店でなぜそんな難しいことを言うのかと思われたかもしれない。しかし、AV店は従来の規制外の新しい業態であり、難しさはあるが大きなビジネスになる可能性があると思っているからだ。つまりチェーン展開が可能な業態ではないかという事だ。

現在の日本の不況と、米国の活況を見てみると、産業の変換期に来ていることがわかる。日本の不況は耐久消費財製造業中心の行き詰まりからくる物で、米国の活況は規制緩和に伴うサービス業の急成長だといわれている。米国や日本のような先進国は良い物があふれており、単に良い物というだけでは、もうすでに持っている人には売れないのだ。それよりも働いて忙しい中でどうやって時間を有効に使うか、生活を楽しむかというサービスを求めている。

美容院とか花の業界を例に取ってみてみよう。両者とも日本での市場規模は2兆円以下の小さなもので、その中のリーディング企業も店頭公開企業が数社、年商規模で100億以下の状況だ。この市場規模には大企業が参入できないし、利益も出せないだろう。花の業界は花という物を販売しているように見えるが、花は耐久消費財ではなく数日で消耗する物だ。物と言うより花のある優雅な空間、雰囲気を販売しているのだ。

美容院のノウハウは何かというと美容師のトレーニングだ。美容の技術は機械化では成し遂げない、あくまでも職人の芸術なのだ。この職人の訓練は専門学校で今年から2年もかかるようになった。しかも学校を出ても使い物にならず、その後3年の実務訓練が必要だという前時代的な物だ。ところが作業を見てみるとトレーニング方法が欠如している。人の有り余る前時代的な徒弟奉公制を未だに守っている。

外食産業では同じくコックという徒弟奉公制がある。そんな時間のかかるコックを養成していては100店以上のチェーンを短期間で開店できない。そこで、セントラルキッチンを作り、一次調理加工をし、店舗はアルバイトでも調理できるように合理化した。調理は簡略化できたが、それでもある程度の調理とサービスの技術が必要だ。そこで、トレーニングセンターを作り合理的なトレーニング方法によって、4週間で一人前の調理師を育成できるようしたわけだ。それが日本の外食産業を28兆円の産業に育て上げた原動力だ。

ある美容院はその従業員の短期育成のノウハウを導入し、3ヶ月で一人前の美容師を養成するという仕組みを編み出した。その結果、15店のチェーンを築き上げるのに10年以上もかかっていたのが、1年間で店舗数を倍にして、今年度は50店舗を越えようとしている。

同じ考え方は花の業界にもいえる。切り花は市場で仕入れてそれを店舗で加工する。店舗で加工するには、仕入れと時間と経験、加工の店舗スペースが必要だ。それで外食と同じくセントラル加工場を作り、売れ筋の切り花セットに加工し店舗に配送する。従業員はトレーニングセンターで集中トレーニングするという手法も取り入れた。店舗で加工する必要はないから客の集まる。スーパーの店頭などに小型店を展開することが出来るようにもなり、あっと言う間に20店舗近くまで急成長している。

両方の業種とも今後成長をするための課題は、急速な多店舗展開だ。100店舗ほどは自前の店舗展開が可能だが、それ以上の展開を自前で行うためには資金と人材が不足する。まごまごしていると新規参入という競合を迎える。そのためには他の資本と人材を入れた急成長が必要だ。その一つの手法がフランチャイズシステムだ。では外食業を例にとってフランチャイズのメリットを見てみよう。

[フランチャイズシステムによる地方展開のメリット]
地元に融け込んでいるので、地元企業や住民が優先して来店してくれるので、売上が安定している。出店をするときに地元企業は優先されるし、情報を早く入手できる。
地元の特徴や好みに合わせたきめの細かい商品や値段設定出来る。
地元の新聞ラジオなどのパブリシティに取り上げられることが多い。地元の企業とタイアップの広告や宣伝が可能だ。
地元から外への人事移動がないので、地元の優秀な人材を低コストで調達できる。給料は大手チェーン本部の存在する物価の高い地区の給与ベースでなく地元の給与ベースですむ。採用も地元に密着すれば容易であり、退職率も少ない。
地方独特の気候を理解しているので、最適な建物、設備の設計が出来るのでランニングコストを下げることが可能だ。
以上が地元企業の最大のメリットである。しかし、地元企業には欠点もある。

東京などの流行がわからず、メニュー開発などで遅れる。
セミナーなどの教育機関が地方にないので最新の経営情報の入手がしにくい。
従業員の移動がないので、なれ合いになりやすく、マンネリが生じる。
以上の地元企業のメリットだけを生かして、デメリットをなくすのが、フランチャイズシステムだ。

地元出身の、やる気のある経営者にチェーン店のフランチャイジーとして加盟させることにより、大手チェーンの欠点が一気に改善できる。

フランチャイザーとして店舗を展開していく上で重要なのは、優れたフランチャイジーの選定だ。以下がフランチャイジーの選定のやりかただ。

エリア毎にテリトリーを決め、エリアフランチャイズ権を与える。エリア内の店舗はフランチャイジーが自ら運営する。
エリアのサブフランチャイズ権を与える。加盟者はサブフランチャイザーとして、地区内でフランチャイジーを募集し、フランチャイザーとして機能する。
個人フランチャイジーよりも地方の優良企業を選んでフランチャイジーにする。しかしテリトリーは決めない。
1店舗毎に個人フランチャイジーを選定していく。
1.と2.のエリア毎にテリトリーを決めてフランチャイズ権を与えて、直営もしくはサブフランチャイズ展開をする方式の場合、多くは個人ではなく地方の優良企業を撰ぶことが多い。地方の優良企業を選定することにより、地元に密着しながら短時間でチェーン展開をすることが可能だ。また、企業組織であるので、チェーン運営の方法を組織的に学ぶことが可能で効率が高い。

この方式は米国のフランチャイズチェーンの展開で一般的に用いられており、短時間で大量出店が可能で、効率が高い。最近ではウエンディーズやドミノピザ、サブウエイ等がこの手法で短期間で大チェーンに成長している。この手法で数年で大チェーンになろうとしているのが、ボストンチキンだ。数年前にボストンの小さなローティサリーチキン(回転式のオーブンでじっくり丸毎の鳥を焼きあげる方式)チェーンであったボストンチキンを、米国最大のビデオレンタルチェーンにした、ブロックバスターズの経営陣が買い取った。シカゴの郊外のネイパービルからコロラドに本社を移し、現在1000店までに急成長している。

その人気の秘密は、サブフランチャイズシステムによる急成長だ。ボストンチキンによると短期間に4000店舗のチェーンになることが可能だそうだ。全米各地域に優秀な地元企業を撰び、各企業に開店させれば、達成できるのだといっている。

経営陣はブロックバスターズを短期間で全米一のビデオレンタルチェーンにしたのであり、経営能力も十分だ。さらに、経営陣にKFCの副社長や、マクドナルドのスタッフ等、業界のベテランをスカウトしており、その行方は注目されている。

このエリアを与える方式のフランチャイズで数多くのチェーンが成功しているが、当然のことながら失敗も多いのだ。最近の最大の失敗はエル・ポヨ・ロコ社だ。米国コーヒーショップのデニーズ社の経営する網焼きチキンのフランチャイズチェーンで、日本では大手商社がチェーン展開のフランチャイザーとして全国展開を計画した。各地域の優良企業を選定し、短期の日本全国同時展開をめざしたのである。全国で数十店舗を展開したが残念ながら全て失敗してしまった。失敗の最大の原因は直営店舗によるノウハウの蓄積が少ないまま、熟練のスーパーバイザー不在で店舗展開をしたことだ。また、テレビコマーシャルのサポートもなしに全国展開したので知名度が不足し、売り上げが上がらなかったということだ。もう一つの失敗の理由は、地方の飲食業の経験が余りない優良企業をフランチャイジー選んだことであろう。確かに地方の優良企業は地区にとけ込んでおり、物件情報と人材が豊富である。しかし、それらの企業が異業種に乗りだした最大の理由は、団塊の世代の管理職の人減らしであった。40ー50才の人たちが店舗で若い人に混じって苦労して働く姿はまるで拷問の様であり、店舗は暗い雰囲気で外食の明るく楽しいはつらつとした雰囲気が欠如しており、また来ようと言う気にはなれなかったのだ。

テリトリー制で急成長を遂げることは可能だが、巨大化したフランチャイジーのコントロールで苦しみ、QSCの維持が難しくなっている例も多い。この方式をとる場合にはサブフランチャイジーのコントロールに十分注意しなければならない。寿司や弁当チェーンでサブフランチャイジーから脱退し自分で同様のチェーンを展開することも多いのだ。裁判になる例も多いので、契約書を慎重に作成する必要がある。

最もザーとジーの訴訟が多いのはこのカテゴリーである。裁判の理由は、最初に売上を保証されたがそれが達成できない、スーパーバイザーの指導がない、費用を払っているのに適切な広告宣伝をしていない、指定食材のコストが高すぎる、商品開発をしてくれない等である。フランチャイザーが悪い場合もおおいが、金儲けばかり考えてチェーンに加入する企業とのトラブルが多いようで、選定するときに充分注意する必要があるだろう。

3.のテリトリーを与えないで地方の優良企業をフランチャイジーに選定する方式は、ミスタードーナツ、KFCが採用し大成功し、それぞれ1000店以上の大チェーンに育っている。その成功の最大の理由は地方の企業がまだ元気で、若い人材がいたということである。しかしチェーン展開を開始してから20年以上経過し店長と同時に会社も老齢化し一時の店舗展開の勢いを失ってきているようだ。

4.の1店舗毎に個人フランチャイジーを選定していく方式は、時間がかかるので余り一般的でないが、時間がかかる分堅実であり、1、2、3のような企業の老齢化という問題とは無縁であり、いつも若々しいのでチェーン展開のペースが落ちないのだ。この方式で大成功しているのが、モスバーガーだ。モスバーガーチェーンに加盟するのは、面接試験を通らなければならない。単に人を使って金儲けをする人は加盟することは出来ないのだ。いったんフランチャイジーになっても複数の店舗をもらうのは容易ではない。モスバーガーのシステムを維持するのは本社のスーパーバイザーではない。フランチャイジーの共栄会の組織が自主的にQSCを厳しく管理している。自分の店舗と共栄会の両方の運営で実績を上げ、はじめて次の店舗をもらえるのだ。数店の店舗を持っていても、まだ従業員の先頭にたって日常の運営に当たるフランチャイジーが多いのが、ディスカウントをしないでも売上を維持していく最大の理由だろう。このモスバーガーの個人フランチャイジーを選定する方式は、日本的に見えるが実は米国マクドナルド社のとっている基本的な戦略なのだ。マクドナルド社が米国で最大のチェーン数を築き上げたのはこの個人フランチャイズシステムによるのだ。フランチャイジーが常に先頭にたって日常の業務に付いていることが、QSCを最大限に保つ秘訣だ。

[成功するフランチャイズチェーンの条件]
成功するフランチャイズチェーンは以下の項目を満たしていなければならない。

加入することにより売上を大幅に上げることが出来る。
明確な商標(ブランド)を持っており、それが十分知れ渡っている。独特の商品と従業員トレーニングノウハウ等があり、他に簡単に真似をされない。
継続的な広告宣伝で売上を上げている。TVコマーシャルなどの広告宣伝のノウハウを確立して、マーケットシェアーを常に高く保っている。
販売促進の実例を数多く持っており、各地域の競合に合わせて具体的に実施できる。
経験のあるSVが育っており、店舗経営指導を具体的にできる。十分な数の直営店を保有し、常に、新しい商品、経営方法、広告宣伝方法等を開発し、それを具体的に指導できる人材を育成している。
商品開発が積極的で常にマーケットリーダーである。品質管理が完ぺきで全国どこでも同じ品質とサービスを保証する。
購入した店舗の営業権利を売買できる市場が確立している。
省エネルギー、ローコストの店舗設計のノウハウがあり、常に最適のコストで提供できる。
安定した商品をもっとも安く供給できる。
FC契約でフランチャイジーの権利と、義務が明確になっている。
上記でもっとも注意しなければならないのは、商品の供給だ。あるチェーンではロイヤリティーは1%と最も低いが、本社のマージンを乗せた食材を指定業者から購入しなければならないようだ。他のチェーンとの原価の相違から推定するに、原価に10%程のマージンが乗っているのではないかと思われる場合もある。一般の市場価格より高い価格で購入させることは今後公正取引委員会の規制に引っかかることも予想され注意が必要だ。

次に注意するのは、広告宣伝だ。フランチャイズチェーンに加入して売上が上がるためには、名前の通ったブランドでなければならない。地方まで短時間でブランドを浸透させるには優れた、広告宣伝が必要だ。

3番目に重要なのは、フランチャイズチェーンによりザーとジーの両者が公平に儲けなければいけないのだ。ザーにとって大事なのは、加盟金、ロイヤリティーなどの収入だ。ロイヤリティーは最も高いチェーンでも8%、一般的には3%位だ。しかし、きちんとした機能を持つチェーン本部のコストは売上に対して5%は必要だ。そうするとフランチャイズチェーンにより最大でも3%しか儲からないのでは、チェーン展開をするメリットがない。しかしロイヤリティーは8%が限界だろう。そして材量供給などで儲けを出せないとしたらどうすれば良いのだろう。次回にその仕組みを説明しよう。

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