チェーンストアのここに学べ 第4回目「ハンバーガーはおにぎりだ」(日本食糧新聞社 外食レストラン新聞1998年7月6日・7月20日)
米国チェーンのジャンルの中でハンバーガーが最大のマーケットを持っているが、日本のハンバーガーマーケットはまだそれに比べるとまだまだ小さい。米国人にとって、ハンバーガーはおにぎりで、コカコーラは味噌汁、フレンチフライはお新香という風土の違いがあるからだ。しかし、若い世代の洋風化傾向を見てみるとハンバーガーマーケットはまだまだ伸びるだろう。そこで、ハンバーガーとは何かをよく見てみよう。
ファーストフードの経験
筆者はハンバーガーは単なるスナックで食事だとは思っていなかった。ましてや、タコベルなどのメキシカンファーストフードであるタコス等は料理の前に食べる前菜だと思っていた。
14年ほど前に米国に駐在していたときの事だ。米国に日本からわざわざ来たというので友人が家に招待してくれた。友人の家はたどり着くのにトウモロコシ畑を1時間ほど走らなければいけないほど田舎のシカゴの郊外だった。ぽつんとした十字路にマクドナルドの小さな店が現れた。それが友人の経営するマクドナルドの店舗だった。そんな田舎だから売り上げ規模は小さく細々とした経営状態だった。せっかく遠くから来たのだから家で食事をと招待された。家について驚いた。家の前には大型のモーターボートが止めてあり、部屋数は10部屋以上もある豪邸だった。聞いてみたら店は小さいが2店舗も持っており、土地も安いのでこんな豪邸がもてると言うことだった。「今日はせっかく遠くから来てくれたから、家族全員集まって豪華な食事をしよう」というから期待して食事時を待った。友人の父母も集まって食事になった。最初に出たのは大きな皿に盛られたタコスだった。美味しかったのだが、最初からいっぱい食べるとメインディッシュが食べられなくなると思って、軽く食べて次は何が出るかと期待していた。次に出たのは大きなチョコレートケーキのデザートだった。何とタコスがメインディッシュだったのだ。なんて貧しい食事だと思ってしまった。
また、ある時は会社の上司から家に招待された、シカゴの裕福な郊外にある家だった。ここでも筆者を歓迎するために家族全員が集まってバーベキューをしようという。これはステーキでもたっぷり食べられると期待していたら、出てきた料理はハンバーガーのバーベキューだった。
米国の普通の家庭ではタコスやハンバーガーはごく日常食であり、ハンバーガーを庭で炭火で焼いて食べるのはご馳走なのだというのを知ったのは米国に数年滞在して分かった経験だ。食事というのは家族の団らんであり、主婦は招いた客をもてなすのに厨房にこもりっきりで調理に懸命になるのではなく、いかに招いた客と歓談するかという事に気を配る。料理そのものは二の次なのだ。集まって食事を楽しむのが主な目的であるから、食事そのものはいかに簡単に調理できるかが重要であり、タコスやハンバーガーなどの日本人にとってスナックとしか思えないものがメインの食事なのだ。だから、たかがハンバーガーと行っても彼らには日本人のおにぎりと同じでこだわりがある。肉が美味しいとか、付け合わせのピックルスの味や、ぱりぱり感、オニオンが生でなくてはいけないとか、オニオンの種類はなど細かいことに気を配る。おにぎりの米の種類や炊き方、梅干しの品質にこだわるのと同じなのだ。
ではファーストフードを食事であるという観点からもう一度冷静に見てみよう。
ファーストフードというと、早いだけの、脂ぎった、安っぽい、貧しい食事であるという風に思われている。例えばハンバーガー等はジャンクフードの代表として軽蔑されているようである。ジャンクフードとは何であろうか?単に脂ぎった商品を意味するのだろうか?
ファーストフードはジャンクフードか
従来、外で食べる食事の条件は、バランスのとれた栄養、カロリーのたっぷりある食事であった。しかし、現在の豊かな世界では栄養バランスや、カロリーよりも大事なものがある。それは安全な食事であるかどうかということである。安全とはどういうことなのであろうか?食品添加物を最小限しか使用していない。農薬の残留濃度がない。毒性のある重金属類の検出がない。ホルモン剤の残留がない。塩分の濃度が低くコントロールされている。原材料中に有害な食中毒菌が付着していない。調理後の食品に有害な細菌は付いていない、等であろう。
現在の一般的なファミリーレストラ等ではメニュー数は100以上あり、1つのメニューの原材料の構成数は20以上になる。ということは、およそ2000品目の原材料の安全を確認する必要があるのである。実際にレストランの商品管理でそこまでの安全確認をしているところ少ない。ほとんどは外部の業者から購入する際に、商品に付いたラベルを見るくらいで、実際に全原材料の成分検査、細菌検査を実施しているチェーンは数少ないであろう。商品数が多ければ殆どやれないのである。ファーストフードのように商品アイテム数が少ないのは、原材料の安全管理からも重要な要素なのだ。
ちなみに、ファーストフードの代表的なハンバーガーの構成を見てみよう。バーガーの構成は、バンズ、ひき肉、ピクルス、ケチャップ、マスタード、オニオンとシンプルである。ハンバーガーの挽き肉は、肉の脂の成分を一定量にコントロールする。さらに肉を挽き肉にする際のメッシュと温度を正確にコントロールする。肉の成形は機械で自動的に行う。全行程において温度コントロール摂氏0℃以下でその作業をする。そして成形されたハンバーガーパティはすぐに窒素ガス冷凍し、マイナス20℃まで急速冷却される。そのため、食品添加物を使用して保存期間を長くする必要はないのである。また、肉をつなげるための結着剤の使用も不要なのである。冷凍保管するので当然のことながら、色をきれいに見せる発色剤も不要なのである。大手ハンバーガーチェーンで使用するハンバーガーパティは一切無添加なのである。
いや、レストランは冷蔵の食材を使っているのに対し、ファーストフードは安い冷凍食材を使っているのでジャンクフードなのだという人もいる。
それでは、レストランで販売するハンバーグミートパティを冷蔵で、サプライヤーから購入しているとどうなるであろうか、冷蔵で流通するために、保管期間を長くする必要があり、数種の合成保存料を使用しなければならない。発色をよくするための発色剤、肉質が柔らかくなる水分保留剤、細菌が発生しないよう合成保存料、匂いをよくするための香料と最低でも5種類の食品添加物が入っているのではないだろうか。
最近では、冷凍食品に対する考え方が変わってきている。例えば、共同農場を運営する山岸などは、ハム、ソーセージ、豚肉、餃子などは、冷凍で流通している。理由は保存のための食品添加物を使用しなくても良いからであるといっている。冷凍食品の宅配で急成長している、シュガーレディーも同じである。安全のために食品添加物を使用していないので、高級な冷凍品であるといって売上を延ばしていのだ。
また、いつでも同じメニューを提供するために、安定した原材料の供給を図らなければならない。そのためには、世界各国から食材を購入する必要がある。現在多くのレストランで使用されているフレンチフライは、多くが冷凍で輸入されている。フレンチフライを生から作るには、皮剥き、カット、ゆであげ、1次揚げ、2次揚げと複雑な手間が必要なのである。更に産地、収穫時期により、糖分の含有量が変化し、揚げ色が変わるなどデリケートな商品でもある。生のままで輸入すると発芽を抑えるため、ポストハーベストなどの農薬を使用せざるを得ないので、産地で一時加工後冷凍し日本に輸入した方が安全であり、一時加工の排水処理や、廃棄物などの公害問題の処理もスムーズなのである。また、冷凍食品であるので、日持ちが良く安定した値段で購入でき、お客様に安価に提供できる。
ハンバーガーの歴史
ハンバーガーの語源はドイツのハンブルグという地名からきていると言われている。ドイツ料理にタルタルステーキというのがある。牛の生肉を細かくチョップして生のまま食べる料理である。ちょうど韓国料理のユッケと似ている。このタルタルステーキを焼いたのがハンバーグである。このハンバーグが移民により米国へもたらされ、万国博覧会でそのハンバーグをパンにはさんでサンドイッチにしたのを売出し、ハンバーガーと名付けたというのが、ハンバーガー誕生の通説である。
バーベキューとして炭火で焼くのが伝統の調理方法であるが、それをレストランで提供するのは、煙が多く安全上むずかしかった。そこで、代わりに鉄板のグリドルで焼くようになってきたのである。網でハンバーグを焼くのはこつがいって大変難しいが、鉄板であるとひっくり返すのも簡単であり、中の肉汁も内部に閉じ込められ、肉のロスが少なく一般的な調理方法として普及してきたのである。
第2次世界大戦の前から、米国では車社会となりつつあり、また、新天地である西海岸への人口の移動が発生した。これにより、ドライブインレストランが増加していったのである。そこで新しいサンドイッチであるハンバーガーは人気者になったのである。
カリフォルニアのある町で、ディックとマックという、マクドナルド兄弟が1950年にまったく新しいファーストフードレストランを考案した。今までのドライブインレストランと異なり、ウエイトレスや陶器の皿を使わない、セルフサービス方式のドライブインレストランである。これが現在のマクドナルドの原型である。そこでは、一種類のハンバーガーとフレンチフライ、シェイク、コーラという限定メニューであった。シェイクを作るマルチミキサーのセールスマンをしていた、レイ・クロックがマクドナルド兄弟の店と出合い一目惚れし、兄弟からマクドナルドの権利を買い取り、シカゴのディスプレインというオヘア空港からすぐ近くの町に1号店を開いたのである。現在は記念として博物館として当時そのままの姿を保存してある。そのレイアウトを見ると現在のマクドナルド社の厨房と余り変わらないので驚く。それだけ、マクドナルド兄弟の考案した厨房の設計は素晴らしかったのである。マクドナルド兄弟は、テニスコートに原寸大のレイアウトを描き作業性を検討したといわれている。その素晴らしいシステムに、優秀なセールスマンであり、人に対する偉大なモチベーターである、レイ・クロックが出会ったのがマクドナルド社が今日まで生き残り、世界最大のレストランチェーンとなった秘密である。
勿論マクドナルド社の成功を指をくわえてみているわけはなく続々とチェーン店が出現した。バーガーシェフ、バーガーキング、ハーディーズ、ウエンディーズ、カールスジュニアー等であり、ハンバーガーチェーンのビジネスは巨大なものになった。
ハンバーガーの調理機器
ハンバーガーの調理にはグリドルと、バンズトースター、作業テーブル、ホールディングビンとに分かれる。そのほかに、フライヤー、飲物のシェイクフリーザー、コークディスペンサー、コーヒーマシンなどである。
ミートパティの調理方法は2種類ある。鉄板タイプのグリドルを使用するのが、マクドナルド、ウエンディーズ、ハーディーズ等のハンバーガーチェーンである。グリドルは簡単であり、他の朝食メニューの卵料理などを調理でき、汎用性が高いので最も一般的に使用されている。また、厚さの異なるミートを焼く場合でも、時間を長くすれば良いのでメニューの多角化には向いている。
しかし、グリドルの場合は片側を焼いた後ひっくり返す必要があり、重労働で調理時間が長いという問題がある。それを解決するために、サンドイッチ方式の鉄板で、ミートパティを上下から挟んで同時に焼くという、クラムシェルグリドルが開発された。日本でも採用され出しているが、やや問題があるようである。上下から挟むときにその間隔が正確でないと、生焼けが出たり、焼け過ぎでドライなミートになったりするのである。機械とミートパティそのものの精度は0.1mmを要求されるのである。
もう一つの方法は伝統的なバーベキュー直火タイプのオーブンにコンベアーを組み合わせて、上下から自動的に焼くシステムである。このコンベアーグリドルを使用するのは、バーガーキングとカールスジュニアーである。92年度の米国のベストの新商品は、バーガーキングのバーベキューチキンサンドイッチ「BKブロイラー」である。これは伝統的なバーベキュータイプの直火焼きのコンベアーグリドルの良い面が最大限出ているサンドイッチであるといわれている。
ハンバーガーの提供方法
従来のレストランの調理システムは、オーダーが入ってから調理をする、クック・ツー・オーダーであった。ハンバーガーは出来たてで温かく品質はよいが、調理に時間がかかるという欠点があった。しかしながらいまだにその利点を生かしているチェーンはある。米国ではカールスジュニアー、日本ではモスバーガーであり、手作りの品質の良さを訴え成功しているのである。
マクドナルドの初期の頃のメニューはハンバーガーが1種類であり、そのため全メニューで10品目くらいであったのである。そのためハンバーガーを事前に調理してウオーマーに保管しておき、オーダーがあったらすぐに提供できるようにしていた。これをストック・ツー・オーダーシステムと呼ぶ。このシステムによりテイクアウトのビジネスを成功させることが出来、かつドライブスルーのような新しいビジネスチャンスを物にする事が出来たのである。
しかし、チェーンが出来てから15年もするとお客様は、大型サンドイッチやソースの異なるサンドイッチ、チキンサンドイッチ、朝食メニューや、多国籍料理を望むようになってきた。そのため、数多くの商品を保温する必要があるが、商品の保管時間を過ぎて破棄する必要が出たり、製造に時間がかかり、サービングタイムに問題が出るようになってきた。完成品のサンドイッチとして保温しておくと、ソースや肉汁がバンズに染み込んでしまうという問題が出てくる。そこで、調理に時間がかかるミートなどを事前に焼いておき、それを正確な湿度コントロールが出来る保管庫に保管しておく方法が出てきた。これにより、焼いたミートを30分から1時間も保管する事が出来、作業が分散化し商品の破棄も少なくなり、オーダー後の商品のサービングタイムが格段に早くなるというメリットが出てきた。これをアッセンブル・ツー・オーダーシステムと呼ぶ。現在では、多くのチェーンで採用されるようになってきている。ハンバーガーは、簡単な食事であるが、買うに待たせない、サービスのスピードが速い、ドライブスルーなどの車を降りないで買えるシステムがある等の、サービスのスピードが一番のノウハウだ。短時間で提供できる調理や提供のシステムを常に開発しておりそれが、ハンバーガーチェーンの売り上げを伸ばしている最大の原動力になっている。
スピードも大事だがやはり品質が決め手だ
マクドナルドの採用したアッセンブルツーオーダーのシステムはステージングシステムとして全店舗に採用されサービス時間の短縮に大きな効果を収めたが、マクドナルドはここで大きな間違いを犯した。焼いたミートパティを挟むバンズはトースターで焼いてからホールディングキャビネットで保管するが、客に提供する前に保管したミートパティをはさみ包装してから電子レンジで再加熱する。どうせ再加熱するならバンズをトースターで焼く必要はないじゃないかという論理だ。
バンズを焼く理由は切り口を高温の熱板で焼き、焦げ目を付けて(キャラメライズという)肉汁や、ケチャップなどの調味料がバンズにしみこまないようにするためだ。水分がバンズにしみこむとべちゃべちゃになり美味しくなくなるからだ。同時にバンズを温めて美味しく感じさせるのも重要だ。
そこで、電子レンジで温めるのだから、バンズに肉汁がしみこまないような工夫をすれば良いではないかという事で、バンズに品質を変え、トーストしないようにしてしまった。しかし、トーストによる香りが失われたり、バンズの触感が変わったという事で段々消費者の人気がなくなり、昨年度の調査ではチェーンの中で最もハンバーガーの品質の評価が低くなってしまった。その間に競争相手の一つであるウエンディーズは品質の改善を進め、96年にインアンドアウトに奪われた品質一番の座を奪い返していた。その結果マクドナルドの売り上げと株価は低迷を続けていた。
また、既存店の売り上げの低迷を補うために続けていた米国国内における積極的なマクドナルドの新規出店戦略がフランチャイジーの既存店に対する売り上げを浸食しジーの間に不満が大きく膨れ上がっていった。
今後
そのジーの不満に、とうとうマクドナルドが動き始めた。それが、今年2月に開催されたフロリダオーランドのディズニーワールドで開かれたコンベンションにおける新調理システムの発表だった。品質を向上するために電子レンジでハンバーガーを再加熱することを中止し、そのかわり、商品の温度を高く保ち、かつ、サービング時間を短縮する新しい調理システムを開発したのだ。今後数百億円を駆けて既存店の厨房を改造するとしている。さらに、経営トップの入れ替えを行った。国内を担当したエド・レンジ氏とCEOだったマイク・クインラン氏の代わりにジャック・グリーンバーグ氏がCEOにつくという発表を行った。
経営トップが変わったことで今後のマクドナルドは積極的なメニュー開発や、財務面の改善を行うと思われ、またまたハンバーガー業界に旋風が巻き起こされそうな勢いである。このマクドナルドの動きを反映して低迷していた株価は一気に上昇している。
日本ではマクドナルドの独り勝ちの状態であるが、米国の状況から見て、マクドナルドに出来ない商品の特徴を生かし、かつ、積極的な出店を行うチェーンが出てくると米国のようにハンバーガー業界に活気が生まれ、再度マーケットは大きく伸びるのではないだろうか。
ハンバーガーチェーンの食材は、牛肉、豚肉、鳥肉、魚、小麦粉、野菜と世界中から安定して確保でき、もっともポピュラーであり安定した利益を出すことが可能だ。やり方によっては今後まだまだ大きく広がるジャンルだろう。