チェーンストアのここに学べ 第1回目「チェーンとして成功する味づくり」(日本食糧新聞社 外食レストラン新聞1998年4月6日)
チェーンストアーを生業店の方が見ると「何だ繁盛している割に美味しくないじゃないか!うちの方がよっぽど美味しいのに」と思われる方が多いようだ。しかし、美味しいフランス料理は数多く存在するが,チェーン化ができていないの何故だろうか?
数多くの店を開くためには数多くの顧客が必要なのだが,商圏内の人口には限りがあるし、増加するわけでもないので、来店頻度を高める必要がある。フランス料理のように美味しすぎる料理は毎日食べるには,財布だけでなく胃袋もきついので来店頻度は低くなる。そうすると大きい商圏が必要で、なかなかチェーン化ができないわけだ。しかし、単純な味噌汁とご飯は毎日食べても飽きない。「商いは飽きない」と同じで、毎日食べても飽きのこない味を出すことがチェーンレストランになる秘訣なのだ。
1950年代カーネル・サンダースと言う人がケンタッキー州カービンという町の州道沿いにモーテル、ガソリンスタンドを経営していた。立ち寄る旅行客のために、モーテルの横でサンダース.キャフェという食堂を開き、朝食から夕食までファミリーレストランのように数多くの料理を提供していた。そのメニューの一つとして南部ではポピュラーなフライドチキンをだしていた。
繁盛していたガソリンスタンドとモーテルも,戦後の経済復興政策の一つであるハイウエー建設計画により、州道の代わりにハイウエイが建設され、店舗前の通行量が減少し商売をやって行く事が出来なくなった。そこで、顧客に人気のあったフライドチキンの調味料を売り出し、やがては調理方法や経営の方法の指導までするフランチャイズチェーンの経営に発展した。これが世界最大のフランドチキンチェーンのKFCの誕生だ。1号店のサンダース.キャフェは現在では博物館になっており、当時そのままの状態を再現してある。ではその秘訣を見てみよう。
[特許の調理法]
KFCの最大の特徴はテレビコマーシャルでもわかるように圧力釜をつかった特許を取った調理方法だ。その原理を見てみよう。
オープンフライヤーで調理した場合、肉温が70℃以上になっても、骨の内部の髄温は60℃位であり、骨から血の色をした髄液が流れ出して食欲を減少させる。180℃の油温でフライしても、常圧では水は100℃ で沸騰するので、水分がある限りは品温を80℃ 以上にすることは難しい。肉の温度を上げようとすると、肉は水分を失い固くなってしまう。
卵とミルクで作られたバッターと香辛料の混ざったブレディングで表面を覆われた鳥肉を180℃に熱した油を満たした圧力釜に入れ蓋をする。鳥の表面がキャラメライズ(狐色になって)され固まり、内部の旨み成分の流失を防ぐ。
加熱されたチキンから水蒸気が出て釜の内部の圧力を上昇させ水の沸点を上昇させるため、加圧の程度に応じて100℃よりも高い温度にフライ材料を短時間で加熱することが出来る。1.85~2.0気圧でフライすると、水の沸騰温度は116℃~121℃ になり、肉の内部温度は90℃ に容易に達する。その為に、骨からの肉離れがよい柔らかい肉質となる。髄液の温度も80℃以上に上がり,固まって、流れ出す事がなくなる。その為、肉の内部や骨の黒ずみがなく髄液の臭いも出ない。 チキンを入れてから数分で油の温度は下がってくるが,火力は130℃位の低温を保つ程度の弱火で良い。その温度でも、水の沸点が116℃以上なので肉の調理は充分に行える省エネルギーの調理法でもある
[コック不要のシステム]
圧力釜を使用することにより美味しい調理をアルバイトでもできる様になった。どんなに繁盛した有名なフランス料理でもシェフが代わると味が落ち評判が落ちることが多い。シェフに頼ると味を一定に保つことができないと言うことだ。個人芸に頼っていてはチェーンとはなり得ない。シェフがいなくても一流の味を出せるシステムを確立できたところがチェーンになりうるのだ。そういう意味で圧力釜を採用することは味を良くするだけでなくアルバイトでもできる標準化を可能にし、世界最大のフライドチキンチェーンになれたわけだ。
[最良の原材料の確保]
KFCは原材料のチキンも自分たちで最良の品質を保てるように考え出した。チキンは生後45日の中ヒナ、中抜きの丸1.2kgを使用する。あまり大きくなると肉質が硬くなるし、匂いが強くなってくるからだ。また、なるべく新鮮なチキンを使用するようにした。更に一般的なチキンのカットは8カットであったのを9カットにして食べやすくて値段も下げることに成功した。
特許の必要な調理機器や調理法を編み出しても、回転寿司のように特許がきれれば簡単に真似をされるのでは困る。そこで原材料の鳥の飼育から処理加工までの一貫生産システムであるチキンのインテグレーションという技法を編み出した。日本でもフライドチキン業界に参入した数多くのレストランチェーンがいたが、KFCに追いつけなかったのはその良質の原材料を安定して確保することができなかったからだ。
[味付け]
さらに,独特の10種類以上のスパイスを調合し飽きのこないさっぱりとした味を実現させた。各店舗での味の標準化を実現するために、調味料と塩を調合した状態で店舗に配送するようにした。店舗では専門のバッター液とブレディングを使用することにより何時でも何処でも同じ味を実現した。この調味料の事前調合により味が安定するだけでなく、レシピーのノウハウも守れたわけだ。
[持ち帰りができるように早いサービス]
圧力式のフライヤーは一回の調理で、必ず一定量のチキンを調理する必要があり、顧客の要望に合わせて、1個だけ調理するわけにはいかない。そのため、保温庫に一定時間保温し、保温時間内に販売するようにした。これによりサービスのスピードも上がり店内飲食だけでなく持ち帰りのビジネスも獲得することが可能になった。KFCは今流行のHMRの最初の開発者であるともいえるのだ。
[まとめ]
KFCの成功の要因は商品を誰でも普段食べている安価な鳥を使うフライドチキンに絞った事だ。但し,他の人が入手できないような品質の良い鳥を、真似のできない調理法と味付けでアルバイトでも調理できるようにしたことであるといえるだろう。チェーンになるためには優れた調理と味付けが大事だという典型的な例だろう。
[チェーンからの学び方]
チェーンから学ぶことは多々あるが、そのチェーンから何を学ぶか明確な視点がはっきりしていなくてはならない。また、チェーンから学ぶと言っても大きなチェーンになった現在のやり方を学ぶことは副作用があるので注意しなくてはならない。チェーンレストランも1店の店を成功させ、2店3店とこつこつ店舗を開店し、チェーンとなっている。皆さんの店舗と同じ規模の頃に何をしていたかを学ぶことが効果的だ。
次に学ぼうとする分野をしっかり分類し、その分野で最も優れたチェーンから学ぶのが秘訣だ。どんなに成功しているチェーンでも得意不得意があるからだ。
チェーンが1店、2店の頃から多店舗展開するには何か,必ず他店と比べて優れたノウハウや、成功の方程式を編み出しているはずだ。そのノウハウと、成功の方程式を抽出しなくてはならない。
学ぶべき分野の分類はQSC、人物金の6項目だ。Q(クオリティ)とは品質の事であり、調理のノウハウや、原材料の管理、品質管理など幅広く含む。Sはサービスの事であり、主にスピードアップのノウハウや、ドライブスルー,宅配などの革新的なノウハウを意味する。Cとはクレンリネスのことで店舗の清掃を合理的にどのように行っているか、洗剤や機材はどんな物を使用しているかを意味する。
人の管理とは、社員の教育体系、アルバイトの短期育成などが含まれる。物とは店舗建物や調理機器、設備などの維持管理の手法で、これを旨く管理しないと水道光熱費や修繕費がかかるし、設備の寿命も短くなる。金とは売上と利益管理だ。どんなに美味しい料理を出しても売れる物ではない。美味しい料理と店の場所を宣伝することが必要になる。そして当たり前のことだが利益を十分に出す必要がある。そのためには利益管理をどのように行うか、人件費、原材料管理をどのように行うかも大変大事だ。
チェーンになるのでなくても上記の分野の内,最低2カ所のノウハウを構築すると皆さんの店舗の収益性が向上し、従業員の定着性も良くなるはずだ。