業種・業態別動向 「今後の飲食店、業種業態別展望(和・洋・中)」(日本食糧新聞社 外食レストラン新聞1997年12月15日)

1)和食
和食の世界には逆風が吹いている。証券会社、銀行の破綻と官官接待の自粛により高級な和食店の経営が成り立たなくなっている。証券会社の周囲の高級天ぷら店などが閉店をせざるを得ない状態となっている。客単価が1万円以上の和食の店舗はよほどの特徴がないと生き残れないだろう。従来のように名声店であるという事にあぐらをかいていると苦戦を免れない。先日、築地にある超有名料亭の銀座支店で食事をした。出てくるメニューを聞いてもサービスする人は全く答えられず一々,板前に聞かなくてはならない状態だった。その板前も「この素人」がという客を馬鹿にした態度で答える状態ですっかり気分を害してしまった。それでもの凄く美味しければまだ良いのだが大した食事ではないときている。特にがっかりしたのは料理の盛りつけに工夫が全く感じられなかったという事だ。 和食といえば京都が本場だが、京都の料理はお高く止まって料金も無茶苦茶に高いというイメージがあるようだ。しかし、本当の京都の老舗の店は顧客の動向をしっかり把握し時代に合った料理を出している。最近の京都の料理界の若手の先頭を切っている懐石割烹菊の井がその典型的な老舗だ。

料金も若い方が個人で利用できるようにと夕食で12000円から17000円のコースだ。注文し,料理がくるとまず、各料理毎に説明が必要かどうか丁寧に聞いてくれる。お願いすると料理毎に材料と料理の料理法などを丁寧に説明してくれる。京料理が初めての若い方でも恥ずかしくなく説明を聞けるというのはうれしい心遣いだ。料理の味もすばらしいのだが、見た目の盛りつけなどの色彩感覚にも優れて女性は思わず見とれてなかなか箸をつけられない。

京都料理というと見る目はきれいだが、量が少なく物足りないというイメージが強いが、菊の井のポリシーは異なる。若い人でも食べきれないたっぷりとした量をだすという物だ。お腹がいっぱいになったコースの最後に,秋だったら松茸ご飯をたっぷり出す。「もうお腹がいっぱいで食べられないよ」と言うと,ではお土産にどうぞといってたっぷりとしたご飯をお土産に詰めてくれる。家に持って帰ると家族が美味しいといって喜び,是非次はつれていってくれと言われる。高級な和食でも気取らないサービスを心がけているので人気の京料理の店舗だ。老舗でも常に初心を忘れず一見の客といえども大切にするという心がけが大事だという例だろう。

景気低迷の時代には接待需要は低下し、実質的な料理を家族や友人と楽しくカジュアルに食べられる業態が人気を出て,より低価格なカジュアルな和食がでてくるだろう。このジャンルで注目を浴びているのが大阪のちゃんとフードサービスの新業態の橙家だ。本格的な和食を4000円台で提供し大繁盛店となっている。接待需要が低迷し壊滅的な状態の北新地の料理屋から、やる気のある若い板前を採用し,本格的な和食を低価格で提供しようと言う形態だ。安くても店内の雰囲気に気を遣ったので、若い女性だけで和食とお酒を楽しむという新しいジャンルの開発に成功している。

2)洋食
米国ではフレンチは過去の遺物となっている、値段が高すぎ雰囲気が気取っているのでカジュアルウエアーで気軽に食事ができないと言う理由だ。その中で流行っているのはアメリカン料理というジャンルだ。正確に言うとカリフォルニアイタリアンとかカリフォルニアフレンチだ。フランスのヌーベルクジーンが誕生したと同時期に,米国サンフランシスコに渡ったフランス料理がシェ・パニーズというレストランでカリフォルニアフレンチとして生まれ変わった。その系統を引いてニューヨークで大人気なのがAureolという店だ。この店の特徴は女性をターゲットにし生花をふんだんに装飾に使った店づくりだ。年間に数百万円も生花を購入していたのでとうとう自分で花屋を開業したほどだ。シェフのチャーリーパーマーはインターネットのCIA(カリナリー・インスティチュート・オブ・アメリカ)調理ページでも人気だが、立体的な芸術的な料理とともにその斬新なデザートでアメリカ中の女性の人気の的だ。

日本ではこの景気低迷期にも関わらず新宿パークハイアットのニューヨークグリルは開店して数年もたつのにまだ大人気だ。高級ホテルの高層階のダイニングルームであるのに15000円ほどで食事ができるので相変わらず予約が難しいという状況だ。食事そのものはグリル料理が中心でさっぱりしているが、店舗の内装雰囲気がダントツで人気が衰えないようだ。

不人気のホテルのフレンチに革命を起こしたのはパンパシフィックホテルに開店した石鍋さんのクイーンアリスだろう。ホテルでありながら従来の「迎賓館」などと同じく、ディナーで7500円という値づけとその料理のすばらしさは毎日超満員の繁盛ぶりだ。日本のホテルのレストランも欧米の様に有名シェフのレストランを開店する時代が来たようだ。クイーンアリスのすばらしいのは、フランス料理が初めての若者でも気楽に食べられる値段と雰囲気を提供し、フランス料理の客層の裾野を広げているという事だろう。

ニューヨークグリルに劣らず大人気のロイズという米国から来たレストランがある。価値観のあるトレンディーな料理を出すのが人気の秘密だと思われているが、実は従業員の個性的なサービスが特徴だ。ハワイ在住のロイ山口さんの手になるレストランで、料理だけでなくサービスも個性的で楽しくなるような工夫をしている。オーダーエントリーシステムを使用せず、分散型のPOSを使用することで顧客と目を合わせてオーダーを取るとか,サービススタッフにも名刺を持たせて顧客に積極的に応対する,誕生日を迎えるお客には簡単な誕生ケーキと従業員のバースデーソングでもてなす,などきめの細かいヒューマンタッチのサービスで若い人に大人気だ。

低価格の洋風居酒屋の分野では大阪で急成長しているちゃんとフードサービスというチェーンがある。低価格で変わった料理が出すのが成長の原因だと思っていたが、実はユニークな従業員教育にある。店舗のメニューは決まっているが、細かな盛りつけまでは強制をしていない。年をとった世代は白黒のテレビで育っているが、若い世代はカラーテレビで育っており色の感覚は抜群で、そのセンスを引き出せばユニークな格好のより盛りつけが可能になるからだという岡田社長の持論からだ。と言っても利益管理にはシビアーで15店舗を5つの事業部に分け毎月月次決算で厳しい数字による比較を行うという競争原理をしっかり導入している。 このような若い従業員のやる気を引き出す手法の開発と人材開発こそが業績不振を吹き飛ばすために必要だろう。

3)中国料理(東南アジア料理含む)
今はまさにイタリアンが大盛況で新宿高島屋や京都の新駅ビルなどはイタリアン料理が全盛だ。米国でもイタリアンが大盛況だ。その理由はイタリア人のお母さんというのは理想的な料理の名人であり、米国人にとって最高のお袋の味だ。子供の頃から食べ親しんだ味だから年をとってから懐かしくなり大繁盛しているわけだ。日本でイタリアンがはやっているのはフランス料理ほど高級で高くはないが、パスタやピザのように食べやすく、イタリアンファッションの様に格好が良いという理由だ。しかしパスタやピザ以外はやはり脂っこいしなじめないという声も聞こえてきた。格好が良いが食べやすい料理の出現が必要なようだ。

過去、格好の良いエスニックと言うことでタイやベトナム料理が流行ったがあまりに高価な根付けと極端な味付けでブームは去ってしまった。が、身近な東南アジア旅行などで本格的な味になじんだ消費者はもう一度その味を食べたいと思うようになっている。しかし、今までのような高価な値段ではなく食べやすい味と雰囲気、価格を備えた料理が流行りだしている。洋食でも述べたが、米国から上陸したロイズという店はハワイで大人気になった店で、料理の種類は環太平洋料理といわれている。野菜と魚をふんだんに使ったカリフォルニアイタリアンに,和食、ベトナム、タイ、中華、韓国、の味をミックスした物だ。各地の味を食べやすいようにアレンジして出すので大人気になったわけだ。

米国のシカゴでもアメリカ版ミシュランのZAGATで高い評価をもらっている、Arun’sというタイレストランがある。従来のタイ料理というと本格的な店は料理が本格的すぎて味が強烈で敬遠されていたが、ここでは料理の盛りつけに気を遣い、芸術的な盛りつけで大人気だ。味はタイ料理とは思えないマイルドな味で誰でも親しみやすく,店内が美術館の様に清潔なので大人気だ。その他ダスキンなどの提携しているシカゴのレストラン王のリチャード・メルマン氏の新コンセプトのBenPaoも中華料理を中心にタイ、ベトナム料理を組み合わせて大人気だ。ニューヨークでも東南アジア料理が人気でAjaという店がファッションモデルなどの間で大人気だ。

日本でも中華料理の新しい挑戦をしているのは熊谷キハチさんのキハチチャイナや石鍋さんのトーランドットなどが注目されているが、よりカジュアルな雰囲気を作り出しているのが、際コーポレーションの中華レストランチェーンだ。同社の店舗は38店舗ほどもあるが、特色のある中華料理はそれぞれ店名とコンセプトを変えて出店している。香港飲茶のテーマ大鴻運天天酒楼、北京料理の陸春坊日月飯荘を大成功させた後,昨年出店した北京ダックを中心とした胡同四合坊は,店舗の雰囲気といいメニューの構成、特にデザートの充実は中華料理としてはすばらしい物がある。やはり中華といっても店それぞれの特徴を強く訴求する必要があるという事だろう。従来のように北京、広東、四川,何でもあれの中華では魅力がなくなったというわけだ。

日本でもイタリアンから食べやすい中華料理,韓国料理や東南アジア料理物をカジュアルな雰囲気で提供すれば大成功するだろう。これらのエスニックは従来のように高級な本格的な物ではなく,より食べやすい味付けで、カラフルな美しい盛りつけ、バリューのある見事なデザートによる女性客の獲得だろう。

「まとめ」
バブルの時代から料理の鉄人の番組を経て今の消費者はものすごく料理の知識を持っている。これからは消費者の知識に負けないように素材の工夫、盛りつけ、味付けであっと驚かせる工夫が必要だ。また、料理だけではなくデザートの充実も女性客を獲得するという意味ではどのジャンルでも大切なキーポイントになる。女性を大事にするためにはさらに店内に生花を飾るなどの和らいだ内装、スマイルのあふれるカジュアルな接客サービスが必要不可欠だろう。

そして料理やサービスだけでなく他と差別化のできる明確な特徴や強みが必要になるだろう。

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