新しい衛生管理HACCP 第14回「殺菌する その4 加熱調理 天ぷらなどの揚げ物」(日本食糧新聞社 外食レストラン新聞2000年3月6日)

「殺す=殺菌=加熱殺菌」
てんぷらは戦国時代の末期にポルトガルから長崎を経由し日本に伝来した料理であるといわれています。キリスト教徒の多いヨーロッパでは金曜日に魚を食べますが、魚の生臭さを消すためにてんぷらバッターをつけフライしたのです。英語でフリッターと言います。このフリッターと言う調理法がポルトガル人によって、日本に伝えられ、江戸にきて江戸湾の近海魚の美味しい調理方法として天ぷらに発展したのです。

刺身や寿司などの生魚は美味しいのですが、食中毒という観点から考えるとあまり感心した調理法ではないし、体の弱い人や老人などの抵抗力の弱い人は魚が好きでも食べることができません。そんな人でも魚を安心して美味しく食べる手法として天ぷらは人気を呼んできました。しかし、衣に含まれる油分がカロリーが高いと言って揚げ物を敬遠するようになってきましたが、堺市の大規模な食中毒事件以来、油で揚げるのは安全な調理法として見直されるようになりました。

さて、先回は加熱調理食品は、中心部が75度Cで1分間以上又はこれと同等以上まで加熱する事の重要性を学びました。揚げる際の油の温度は160~180度Cと高温で食中毒の心配のないと言うことで見直されている調理法ですが、油の温度が高温だからと言って安心しては行けません。食品の中心温度が75度C以上にならないと安心できないのです。

一般的な衣は薄力粉と卵、水のみです。衣は魚などの具の回りに付着し高温の油で揚げられるときに、含んだ水分が蒸発し油におき変えられます。高温の油で衣きつね色になり衣は堅くなり、具の水分の蒸発を妨げ、食材の美味しさを逃さず柔らかく仕上げるのです。食材の瑞々しい美味しさ、新鮮な油、衣の香り、が一体となり美味しい天ぷらを楽しめるのです。

普通のエビ天ぷらなどは衣をつけてから油にいれ、1分30秒から2分であがります。十分に加熱されると、衣が油で固まり、食材の水分が中に閉じこめられますが、高温の油で加熱され、食材の温度も高温になり、中の水分も沸騰し水蒸気となります。つまり、天ぷらの衣を水蒸気でふくらませ、油面に浮き上がってくるのです。衣の色と浮き上がり具合で調理を判断し菜箸で揚げるのですが、勘で調理をすると生揚げや揚げ過ぎのおそれがあります。長年の修行が必要な職人を抱える高級な天ぷら屋は普通の天ぷら鍋を使用しますが、一般の飲食店ではそうも行きません。安定した天ぷらを安価に揚げるために最近では温度を一定に保つサーモスタット付きのフライヤーを使うようになりました。

火の通りがよい海老や野菜は良いのですが、かき揚げのように大きな揚げ物は低温でじっくり中まで火を通す必要があり、温度と時間の正確な管理が必要になってきます。ベテランがいなくても美味しい天ぷらを揚げられるように、サーモスタットの付いたフライヤーを使うのが味と衛生管理の両立の上で必要なのです。でもサーモスタット付きのフライヤーを使っているからと言って安心しては行けません。以下にその注意点を見てみましょう。

油の温度を保つサーモスタット

油温を一定に保つサーモスタット
サーモスタットの温度計の設定が180度Cになっているからと言って安心してはいけません。温度計の設定と油の温度が同じか確認が必要なのです。機械ですから使っているうちに狂いがでてきます。毎日、正確なデジタル温度計でサーモスタットの設定温度と油温が合っているか確認する作業をしましょう。
フライヤーやサーモスタットの特性
サーモスタットが付いているフライヤーでも、サーモスタットの温度関知センサーの位置、感度により温度のばらつきや、揚げ物を入れて温度が下がった際の応答性が悪いと油温が下がり、一定の時間がたっても食材の温度が上がらず、食中毒の危険だけでなく、衣に油を吸い込んでべたっとした味になります。実際に調理をしてから購入しましょう。
油量と食材量のバランス
いくら性能の良い良いフライヤーを購入しても、油の量が規定より少なかったら、食材を投入したらすぐに油温が下がるし、多すぎると油温の上昇が遅くなり、やはり油っぽい仕上がりとなってしまいます。
温度の回復力

フライヤーは油の量を正しく入れても、元々の火力が弱かったり、生食用の火力の弱いフライヤーで大量の調理を連続したり、冷凍食品を揚げると油の温度が下がってしまいます。売り上げや食材に適したフライヤーを使いましょう。

フライヤーの性能を左右するのは温度の安定性の他に油の温度回復力が大事です。180度Cの温度の油に食材を投入すると温度は20-30度C下がり、食材に火が通る頃に温度は180度C近くに回復するような温度回復力が重要です。これはフライヤーの設定火力の他にフライヤーの熱交換機の手入れにより左右されます。

フライヤーは電気でもガスでも長く使っていくうちに油が熱交換機にカーボンとなって付着し、熱を伝達しなくなります。定期的にそのカーボンを強力アルカリ洗剤などで洗い落とす注意が必要です。
温度以外の注意点

天ぷらバッターには生の食材をつけますので、細菌温繁殖のおそれがあります。細菌が繁殖しないように温度を下げて保管したり、定期的に破棄する注意が必要です。

もう一つ重要なのは油の酸化です。食中毒菌は死滅しても、使っている油が古く酸化していると食あたりを起こし食中毒以上の症状がでることがありますので注意しましょう。

まず、新鮮な油を使用しましょう。新鮮とは油が酸化していないかと言うことです。日本は油の酸化に対する基準が最も厳しい国で、保健所は使用している油の酸化度の抜き取り検査を実施します。

最も油を使用する業界は、インスタントラーメンです。油で揚げた麺をすぐに食べるのなら問題ありませんが、揚げた麺を袋詰めし、小売り店の店頭に何ヵ月も並べて常温で販売すると、店頭で太陽の直射日光を浴び、あっという間に酸化します。そこで日本独自の厳しい油の酸化基準が定められ、使用する油の酸化度は2.5以下でなくてはならないのです。これは店舗で油を毎日加熱すると、たいして量を揚げていなくても、3~5日位でその数値に達してしまうほど厳しい水準です。この基準を越えた油は廃棄処分しなくてはなりません。

てんぷらの場合衣重量の10~50%が油です。そこで毎日揚げるてんぷらの量が多く十分に油を吸い取ればその分、さし油をしなければなりません。これを油の回転率と言います。毎日鍋の揚げ油と同じ量のさし油をする場合、油は1回転すると言い、1日に1回転すると油の酸化度はあまり進まず常に新鮮な状態を保つことができます。天ぷら以外の揚げ物であまり油を差し油しない場合は頻繁に油を交換する必要があるのです。  油の酸化度や交換基準を調べる簡単な試験紙が市販していますので使用すると良いでしょう。
以上

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