新しい衛生管理HACCP 第5回「つけない その3 衛生管理の基本:手洗い」(日本食糧新聞社 外食レストラン新聞1999年5月3日)

衛生管理の基本は手洗いにはじまり、手洗いに終わる
人間はゴキブリと同じで食中毒菌を運んでいます。人間の手はトイレに行ったり、汚れた物をさわったり、お客の食べた皿を片づけたりした際に、食中毒菌や場合によっては伝染病菌に汚染されているのです。いや汚い物にさわっていないから大丈夫だと思わないでください。先回も申し上げたように人間の傷口、ふけ、口内、にはブドウ球菌が存在しているのです。手に傷がなくても、飲食業のように皿やダスターなどをしょっちゅう水洗いしていると、手荒れやあかぎれを起こし、そこにブドウ球菌を繁殖させているのです。
手洗い
そうです。食中毒の基本は手洗いなのです。そんなことを言うと、そんなの当たり前だ、昔から手をきちんと洗っているよとおっしゃるかもしれません。では手を洗っただけで大丈夫なのでしょうか。手洗いの時にはどんな洗剤を使っているのですか?手洗いの頻度はどの位なのですか?手洗いの後、手を何で拭いていますか?
最近の細菌は進化し、大腸菌o157のようにごく少量でも発症する危険な菌もあります。と言うことは従来のような手洗いではだめかもしれません。洗うという作業を考えてみましょう。

洗うというのは先ず手に着いた汚れや菌を落とすことなのです。汚れを落とすには水だけではだめです。油汚れなどは特に落ちにくいので、石鹸や手洗い用の中性洗剤を使います。中性洗剤などは界面活性剤という成分が、手の傷などの細かいところまで浸透し、汚れに付着し、水と共に洗い流してくれます。これで汚れや細菌は殆ど除去することが出来ます。従来の食中毒菌であればこれでよいのでしょうが、大腸菌o-157のように少量でも食中毒を発生するような菌に対してはこれでは十分ではありません。手に少量残った細菌を殺菌することが必要なのです。

殺菌
そうなると手洗い洗剤を使った後、殺菌剤を使うことになるのです。手洗いの殺菌剤というと従来は塩化ベンザルコニウムなどの逆性石鹸を使用します。手洗いは通常の石鹸や洗剤を使用し、その後に逆性石鹸で殺菌するわけです。この場合注意が必要で、石鹸や洗剤分をきちんと流し落としてから、逆性石鹸を使用しないと効果が出ないと言うことです。手洗いの後にアルコールを吹き付けて殺菌をするという方法がありますが、アルコールの種類によっては手荒れを起こしたり、全体に行き渡らないと言う欠点もあります。
手洗い洗剤の選択のポイントを見てみましょう。先ず、洗剤自体の洗浄力が強いこと。洗浄と殺菌を同時に行えること。手荒れがし難いこと。等です。殺菌剤として、化粧品などに使われるイルガサンDP300と言う薬品を使う優れた洗剤もあります。手洗い洗剤を購入する際には先ず、自分の手を洗って、汚れ落ちがよいか、手荒れがしにくいか、効果のある殺菌剤を使っているか確認しましょう。

手拭き
殺菌を完璧にしたと言って安心してはいけません。殺菌した手を手ぬぐいや前掛けで拭いては台無しです。かえって細菌を付着させるのです。手拭きは厨房であれば使い捨てのペーパータオルを使用し、客席やトイレでは温風乾燥機を使用しましょう。
手洗いの頻度
幾らちゃんと手洗いをしたと言っても、朝、お店にはいるときに一回だけしか洗わないないのでは効果がありません。手を洗った後何もしないでも30分ほどすると細菌を発見することがあります。幾ら慎重に手を洗っても完全に菌を死滅させることは出来ないのです。少量の菌が手のどこかに隠れていてそれが増殖を開始するからです。そのために定期的に手洗いをしなくてはいけません。30分に一回の手洗いは必要です。また、トイレに行った後、汚れた物にさわった後、肩より上に手を挙げたら(ブドウ球菌のいる顔や髪の毛にさわる可能性があるから)、必ず手を洗う習慣を身につけましょう。
衛生手袋
サラダや刺身など火を通さない食品や、お弁当等の喫食まで時間がかかる料理に手で直接触れるのは危険です。少量のブドウ球菌などが繁殖するからです。なるべく、使い捨ての衛生手袋を使用しましょう。
手の身だしなみ
身だしなみの基本は手からはじまります。幾ら良い洗剤やペーパータオルを使用しても、肝心の手が細菌にとって居心地が良くては困ります。居心地の良い手とは細菌が隠れやすい形状のことです。指輪や、時計をして調理をしてはいけません、指輪や時計と手の間には汗や垢が溜まり、細菌にとって住み心地の良い住処となります。最悪なのは爪を伸ばし、色の濃いマニュキアを塗ることです。細菌を居着かせ、発見しにくくするからです。
マニキュアをしていない爪を短くし、アクセサリーをつけないからと言って安心は出来ません。手荒れやあかぎれを起こすと、そこにブドウ球菌がいるからです。手荒れをしないように、洗い場ではゴム手袋を使用し、水仕事の後は手荒れ止めのクリームを塗る等のケアーをして上げましょう。

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