新しい衛生管理HACCP 第3回「つけない」(日本食糧新聞社 外食レストラン新聞1999年3月1日)

蠅、ゴキブリ、ネズミ、そして、人間???
定期的に殺虫や殺鼠などをするのはなぜでしょうか。お客様が蠅、ゴキブリ、ネズミを見て気持ち悪くなるからです。かわいい昆虫や動物なのになぜ気持ちが悪くなるのでしょうか?蠅、ゴキブリ、ネズミは有害な細菌を持っているからです。彼らはトイレやゴミ箱、汚物などを徘徊し、体の周囲に有害な細菌を付着し食品に触れた際に、汚染されるからです。つけないとは、それらの有害な細菌を保有する昆虫や動物を店内に入れないようにすると言うことです。しかし、完璧に昆虫や動物を遮断しても食中毒の危険は変わりません。
実は人間こそが細菌汚染の最大の媒介物なのです。なぜ人間が蠅、ゴキブリ、ネズミと同じく細菌汚染の原因になるのでしょうか?

食中毒の原因の菌は海水中に存在する腸炎ビブリオ、牛豚ネズミなどが原因のサルモネラ、そして人間を原因とするブドウ球菌です。ブドウ球菌はふけ、髪の毛、傷口などに自然に存在しています。戦前の軍隊では上官のいじめに復讐するために、ご飯にふけをかけて腹痛を起こさせることがありました。これはブドウ球菌を温かいご飯にかけて、時間をおくと繁殖し、嘔吐、腹痛、下痢を起こすというものです。

また、普段は健康な人でも実は食中毒菌の保菌者ということがあります。サルモネラ菌の場合、人口の0.03%の人が健康でありながら保菌していると言われています。本人は健康なのですが、その菌が他の人に移ると発症する場合があります。最近、食中毒菌として脚光を浴びた、病原性大腸菌のo-157は腸内に住む細菌で、データーはないのですが健康保菌者もいるものと思われています。

食中毒よりも症状が強いコレラ、赤痢などの伝染病も海外旅行の多い昨今では、サラダや、生魚などの火を通さない料理の摂取により、日本にお土産として時々届けられています。その保菌者が調理人だったらどうなるでしょうか?

ここで自覚が必要なのは自分が健康だから大丈夫だというのではなく、自分は健康でも有害な食中毒菌を持っているかもしれないと言う自覚で行動することです。

1)くしゃみ
まず、風邪などの病気にならないことです。風邪などをひいてくしゃみをすると食品に貴方の腸内細菌が(場合によっては食中毒菌)をばらまくことになるからです。風邪などをひいたら、食品をいじらないか、マスクをきちんとかけて仕事をすると言う気配りをしましょう。
2)下痢
下痢などの症状が出たら、風邪だろうなどと簡単に考えないで、食品を扱う仕事の従事しないで、医者に行って診断を受けましょう。また、普段から、食事などは十分注意しましょう。サルモネラの食中毒にかかり、自分で抗生物質などを飲んで治療しようとすると、サルモネラが抗生物質に耐性をもち、なかなか、サルモネラ菌を退治できなくなり、いわゆる健康保菌者となります。
3)味見
料理の鉄人という人気番組があります。大変料理人の地位を高くした番組で高く評価されていますが、欠点もあります。出場者が鍋に直接指を入れてなめたり、レードルに口を付けて味見をするという危険な行動です。味見は、自分専用のスプーンや猪口を使い、食品の汚染を起こさないと言う気配りが必要です。
ある宿泊施設でサルモネラの食中毒を出したことがあります。300人ほどの客と従業員に被害が出て、死亡者が1名でました。その原因は客の食べ残した菓子を(卵はサルモネラ汚染の可能性がある)食べて、数人の若い調理人がサルモネラの食中毒にかかり、下痢を我慢して働いていたために被害が広がったのもです。料理人達は厨房で、煙草を吸ったり、飲み物を飲んだり、残り物を指で摘んで食べるという習慣があり、それが大事故につながったわけです。経験の深い調理人は無事だったのですが、若い無自覚な調理人が事故を引き起こしたのです。

4)髪の毛
板前やコックが帽子をかぶるというのは格好ではなく衛生上の観点からです。髪の毛に付着しているブドウ球菌を落とさないためです。長い髪の毛は乱れがちであり、気にして手で直すとブドウ球菌が付着するから髪の毛はなるべく短く刈り上げるか、帽子に隠れる長さにすると言う当たり前の心がけが必要です。
5)怪我をした手で食品をさわらない
包丁をいじったり、熱い鍋を扱うので、切り傷や、火傷が絶えません。もし手指に傷や火傷を負ったら、傷口にブドウ球菌が繁殖しているので、調理に従事してはいけません。
以上のことは当たり前だと思うだけでなく、部下になぜそんな身だしなみが必要なのかをわかりやすく説明すると言うことが皆さんの仕事なのです。自分で考えろと放り出すのでなく、部下が分かるまで懇切丁寧に説明するという辛抱強さも食中毒を防ぐ秘訣なのです。

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