大手外食フランチャイズの業態開発現場(日本経済新聞社 日経MJ2004年3月)

大手外食フランチャイズの業態開発は、既存業態の売上を上げるためのメニュー開発と新業態開発の2通りある。

1) メニュー開発
大手フランチャイズチェーンは全国展開を行うためにテレビコマーシャルで店舗のイメージと商品、サービスなどを訴求する。ブランドの異なる新規業態などを開発するためには、テレビコマーシャル放映という莫大な投資が必要だ。そのため、既存店の売上を活性化させるメニュー開発の手法を取り入れる。ではそのメニュー開発の手法を見てみよう。
<1>調査
まず、地域別に自社の知名度、販売商品の知名度、利用度、競合の利用度、等マーケットでの位置づけを調査する。価格とメニューの面で競合に対してどの位優位に立っているか、どの部分が弱いのかを見わけるわけだ。
<2>試作
調査の結果に基づいて、シェフに(外食産業大手では多くの有名シェフを開発要員として委託。米国の大手チェーンも同様)開発を指示し、試食会で評価する。
次にシェフの味を工場ラインで再現できるか、店舗で再現できるかという観点で開発評価を開始する。同時に、栄養学的な評価、安全性の評価、原材料コストの評価、購買が可能かどうかの評価などを評価し、一般消費者の試食テストをおこなう。この段階をクリアーした商品は次に、店舗で問題なく調理ができるかというオペレーション上の問題点を洗い出す。
<3>消費者調査とテレビマーケティング
渋谷、新宿、銀座などの大都市において、自社のターゲット顧客に近い年齢、性別の人を選び出し、300サンプルほどの商品評価を行う。
次に、15店舗ほどのマーケットテストで、商品の売上動向、他の商品への影響度など、顧客動向を詳細に分析し、最後に、テレビマーケットテストを実施する。テレビを使用しない段階の売れ行きと、使用した段階の売れ行きで大きな違いが出ることがあるからだ。
テレビ終了後に売上、客数、客単価、商品の組み合わせ、持ち帰り状況など詳細にデーターを分析する。テレビ終了後に売上が激減したり、他の既存商品の売上が落ちてはならないからだ。
2)新業態開発
大手チェーンが展開する一つのブランドは、ある一定以上の店舗数になると陳腐化してしまう。また消費者は「チェーン経営=美味しくない、格好悪い」というイメージを持つようになってきている。大量のテレビコマーシャルを放映しても、必ずしも企業イメージを高めないと言う問題を生じている。そのため大手フランチャイズチェーンは新商品開発だけでなく、新規業態を開発する必要が出てきている。
<1>自社で企画をたて、料理、店舗デザインまで全てを開発する。
自社の開発チームで開発させると、店舗の規模、設備、使用食材、従業員のレベル等に適合させて開発を行うので失敗はしない。しかし、斬新な新業態は生まれず、既存業態とも競合するので、経営として成功しにくい。自社で行うのであれば外部の人材をスカウトして全く新しい視点で開発させることが望ましい。
<2>既存の店舗またはチェーンを買い取る
有名調理人などが開発した新業態はデザインやメニューは素晴らしいが、原価や人件費管理、販売促進の手段を知らないので、経営上は成功しない。それらの新業態をチェックし、もし顧客が満足している業態であれば、経営管理の手法と資金を投入すればチェーン展開が可能か検討すると成功率は高い。
<3>業態開発会社に新業態を開発させる
自社開発が無理な場合は、新業態開発会社に開発させると良い。海外フランチャイズチェーンとの提携は良いアイディアだが、必ずしも日本人に向いていない場合が多いし、経費の関係で利益が出にくい。海外の業態などをヒントに業態開発会社に任せると成功しやすい。また、和風居酒屋などの専門業態開発会社に依頼すると、自社で開発するよりも斬新なデザイン、イメージを演出することが可能になる。
<4>海外のチェーンと提携する。
ブランドが確立し、店舗オペレーションがしっかりした海外のチェーンと提携するのは慎重に行う必要がある。大手チェーン2社が海外の有名チェーンと提携したが、海外では既に峠を過ぎた業態であった。そのため、両コンセプトとも伸び悩んでいる。海外事情を正確に把握し、何故その業態が良いのか、将来性はどうなのか、日本に持ってきたらどうなるかを慎重に検討する必要がある。  ある企業が5年ほど前に成長性が高いサンドイッチ業態を米国と提携した。コンセプトは斬新であったが、加盟金とロイヤルティが高過ぎて利益が出なかった。また、店舗展開の手法が稚拙であり、短期間で莫大な損失を出し撤退した。米国で急成長をしていても日本側の受け入れ態勢とマネージメント能力は必要不可欠なのだ。
3) 最後に
大手チェーンの新商品開発には時間と膨大な費用が必要なので、新商品は年間に4つも出ればよい方だ。大手フランチャイズチェーンに加盟する場合は新商品開発能力や、新業態開発の面でどの様な実績があるかを検討し、本当に投資対象として正しいか判断しよう。
大手チェーンの業態開発 特徴
新メニューを開発する。 既存店の活性化を図るため効果的だが、使用する食材、店舗形態による制約が多い。
自社で企画をたて、料理、店舗デザインまで全てを開発する。 失敗は少ないが斬新な店舗デザインや料理を実現することはできない。
既存の店舗またはチェーンを買い取る 有名調理人などが開発した業態を買い取り多店舗経営のノウハウを投入してチェーン展開する。コンセプトさえしっかりしていれば成功率は高い。
業態開発会社に新業態を開発させる 自社で開発するより開発速度は速く、斬新なデザイン、イメージを演出することが可能になる。
海外のチェーンと提携する。 商品やイメージは完成しており、知名度が高いが、契約金やロイヤルティが高いと売上が上がっても経営として成り立たない

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