技術情報「クックチル定義その1」(日本厨房工業会 月刊厨房)

クックチルの現状の問題点と定義
クックチルが日本に導入されて早、数年が経過している。しかしながらまだ普及しているという状況ではなく、やや混乱しているという状況である。なぜ混乱しているかというと、いくつかのクックチルの種類と、真空調理の混同という状態に陥っているからだ。そこで今回はクックチルの歴史と定義をわかりやすく図解してみよう。
調理の目的
まず、調理というのは何のために行うのだろうか。調理には5つの目的がある
加熱することにより、蛋白質を凝固させたり、野菜などのセルロ~スを柔らかくして食べやすくする。
加熱することにより、食品の水分を少なくし旨み成分を凝縮しおいしくする。また、肉などを焦がすことにより、香や美味しさをだす。
野菜などに含まれている、生だと有害な物質を無害化する。
加熱することにより食品中の酵素を不活性化し、食品の保存性をます。
加熱することにより食品中の有害な細菌を殺したり、減少させたりし、安全に食べられる様にする。また、ある程度保存できるようになる。
以上の働きがあるが、大きく分けると食品の味を美味しくすることと、細菌を殺すことにより安全に食べられることに分けることができる。図3の食品と温度の関係を見てみよう。5℃から60℃の温度帯では細菌は最も活性化し、増殖する。しかし、76―82℃以上に加熱することにより殆どの細菌は死滅する。また、この温度帯では食肉や魚の蛋白質も凝固し食べやすくなる。つまり、温度をかけることにより食べやすく、安全になるわけだ。
調理システムの種類とクックチル
温度チャートではクックチルが数々の調理方法の中でどんな位置づけになるか図1を見て見よう。一般的な調理方法は、図1の1にあるようにクックサ~ブ。つまり調理後にすぐ食べるものだ。家庭ではそれでもよいだろうが、レストランや集団給食のように提供時間が一定でない場合があるので2のように調理後保温して提供する方式があり、現在かなり一般的に取り入れられている。しかしながら、調理をした食品を保存しそれを時間が経ってから提供しようとするには、細菌の増殖による食中毒という問題がある。
76℃まで加熱しても菌は完全に死ぬつまり滅菌するわけではない。正確に言えば菌が減少するだけである。また、殆どの菌は減少したり死滅するが、芽包菌のように100でも死滅しない菌もいる。いったん加熱調理した食品の温度が緩慢に下がる60℃から5℃の間は、細菌にとって活動しやすい温度帯となり、残っていた細菌や、付着した空中の浮遊菌が増殖することになる。その日のうちに調理をしたものをすぐに食べると食中毒は少ないが、調理後数時間たった冷めた食品を食べると食中毒が多いはそのためだ。家庭の弁当の場合ご飯を弁当に詰め、それを冷ます。冷まさないうちにおかずを入れて蓋をするとご飯の熱で細菌の丁度よい繁殖温度になるからだ。

例えば古い話であるが、軍隊などでふけ飯というのがあった。軍隊での上官の暴行に怒った兵士が、食事のご飯にふけをかけ、ふけに存在しているぶどう球菌がその快適な温度で増殖し、ものの見事に食中毒を引き起こすのである。

このように調理後の食品の保管を考える場合残存する細菌をどうするかという問題が起きる。そこで図1の3のように缶詰やレトルト食品が考え出された。これは調理した食品を缶や、レトルトパウチにつめて100℃以上の高温で時間をかけて、殺菌をするものである。これは殆ど滅菌状態になるので、食品を常温で長期間保存することが可能になった。また、密閉状態で空気と接触しないので、食品中の油が酸化しないというメリットもあった。しかしながら、食品を100℃以上の高温で加熱するために、食品のスパイス中の香が飛んでしまったり、味が大きく変化するという問題があり、一般的な調理法としては適切でなかった。

そこで4や5のように調理後冷凍にして、細菌を冬眠させる方法が取られるようになった。冷凍することにより細菌の繁殖を押さえることができ、食品の長期保存が可能になったのだが、食肉や、魚、野菜などの細胞膜が冷凍したり、解凍したりする工程で破壊され、美味しさの成分が流失し、味や触感が減退してしまうという問題が発生する。また、冷凍したり、それを解凍、加熱することは大きな熱エネルギ~を必要とし、エネルギ~効率のよい調理保管方法の必要性が出てきた。

そこで調理後の食品を冷凍しないで細菌の繁殖を押さえる方法はないものだろうかと考えられたのが、調理後の食品を急速に冷却し、細菌の繁殖しやすい危険な温度帯を短時間に通過させ3℃以下の温度まで下げ、細菌の繁殖を最低限度にしようというクックチル方式が考え出された。それが6と7のクックチル方式になるわけだ。

クックチルの基本コンセプト
では図2のクックチルの基本コンセプト図を見てみよう。食材供給業者から集中調理センタ~に食材を納入してもらい、各食材毎に温度帯を分けて保管する。ここで注意するのは食肉、魚、乳製品、野菜などの複合汚染がおきないように別々に保存するということ。原材料と調理後の食品は別の冷蔵冷凍庫に保存しなければならない。次に準備をする。魚であればまず、頭と内臓を除去し洗浄する。食肉でも同じであるが内臓には細菌が最も多く存在するので、それを除去し、水で洗浄する。それから3枚におろし再度洗浄してから、調理に入る。野菜も同様だ。食肉ばかりに気を取られているが、クックチルにとって最も注意が必要なのは野菜だからだ。野菜についている土は完全に除去しなければならない。土中にいる嫌気菌である、芽包菌は100℃加熱しても死滅せず熱のショックでかえって目覚めて繁殖をし出す危険があるからだ。クックチルは加熱温度が最高でも82℃であるので細菌は完全に死滅しないので、下準備の際に如何に細菌を持ち込まないかのコントロ~ルが重要だからである。
準備をした食材を加熱調理する。調理が終了した食材を短時間のうちに急速冷却し、3℃以下に冷却する。冷却した食品を3℃以下の氷温帯で保管し、5日から45日間保管できる。保管した食品は必要により各サテライトキッチンに配送し、必要なら氷温庫に保管し必要に応じて再加熱して提供する。以上のようにクックチルのコンセプトそのものは新しいものではなく、昔からの食品工業界で採用された手法であり30年以上の歴史がある。

クックチルの歴史
図4オリジナルクックチルのナッカシステム
1960年代にスエ~デンの病院のおいて食品の保存方法の研究が開始された。特に63年にスウエ~デンのナッカ病院でおいしい食事を安全に保存できないかという研究が開始された。図4がナッカ病院で開発されたオリジナルのクックチルシステムだ。このポイントはフライ、焼く、オ~ブン加熱、茹でるなどの調理で中心温度を80℃まで加熱し、細菌を死滅させた状態で真空パックし、さらに100℃で湯煎し、直ちに水冷冷却トンネルで60分間という短時間で10℃間で冷却し、さらに4℃まで冷却し、保管するというものだ。保管温度は4℃で21日間保管が可能だというものだ。80℃まで再加熱し、残存している細菌を殺してしまおうという完璧なシステムだった。このシステムにより従来1日に1,200食しかし製造できなかったのが7500食まで製造することが可能になり、300km以上も離れた精神病院にも食品を供給することが可能になった。ここで注目されるのはこのシステムが食品を真空パックし加熱することだ。食品の劣化の主な原因は酵素や細菌の増殖であるが、もう一つ重要なのは食品に含まれる油脂分が空気中の酸素により酸化することだ。酸化により味が悪くなるだけでなく食当たりの原因にもなるわけだ。その食品をプラスチックバックに真空包装することにより、空気との接触がなくなり食品の酸化が防げることになった。また、空気はダウンジャケットでも分かるように断熱材であり、食品を包装し加熱する際に空気が残っていると部分的な熱の伝導熱が妨げられ、調理温度むらが出る原因にもなる。真空包装することにより、加熱と冷却が効率よく行われることになる。つまり、オリジナルのクックチルの要件は、調理温度と、短時間冷却、真空包装、低温保存ということになる。
しかしながらこのシステムは従来の調理機器であるフライヤ~、オ~ブン、ケトルなどが必要であり、さらに7mの長さの冷却トンネルが必要であり、調理場は機械であふれていた。

このナッカシステムがその後のクックチルに大きな影響を与えたのは製造した食品の衛生学的な検証のデ~タ~なのだ。5百万食の膨大な衛生検査の結果、この完璧なクックチルシステムでは細菌の増殖は見出せることができなかった。しかしながら、衛生的な見地から見るとよいシステムでも加熱を3回も行うことによる食品の劣化が問題になってきた。

以下次号

参考文献
Cook Chill Catering Technology and Management
著者 Nicholas Light ,Anne Walker
出版社 Elsevier Aoolied Science

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