今、ユーザーが求めるファーストフードの厨房設計 シリーズ第9回 「機器能力設定」(日本厨房工業会 月刊厨房)

機器能力設定

メニュー別の売上数の算出と必要機器設定
キッチンデザインのステップのうち、ロケーション別の売上を算出するところまで前回述べた。次にメニュー別の売上数から必要厨房機器の設定をし、レイアウトするのである。しかしこの作業を店舗毎にやるのでは何の為にチェーン展開をするのかがわからないのである。チェーン展開をするうちに店舗の売上のパターンを見つけ、標準化する事により、時間とコストの削減をはかることが可能なのである。
一般的なレストランの機器とレイアウト
一般的なレストランやファミリーレストランではメニューの絞り込みをやっていないため、キッチンは何でもできる無難な調理機器の選定とレイアウトになってしまうのである。レストランの場合、売上数は製造能力でなく客席の回転数で決まるのである。客席数が120あったとする。完全に席が埋まる事がないから満席率が80%として、96人のお客様が座れるわけである。最大の回転数で1・5回転であるから、144人のお客様が1時間の最大客数である。客単価が1000円として1時間に15万円が売上の最大である。(ファミリーレストランの場合)つまり単品で150個以上販売する事はないのである。一般的には一日に100個も同じメニューがでれば大ヒットなのである。単一のメニューで売上の10%以上を占めることは滅多にないのである。
ファーストフードの機器とレイアウト
ところがファーストフードではオーダーをしてからすぐに商品を食べることができるので、客席の回転数が高く、1時間に3回転が可能なのである。そのため同じ客席数として、288人の客をさばくことが可能である。さらに、ファーストフードは売上の50~70%が持ち帰りである。かりに最大の70%の持ち帰り比率であると、1時間に960人の客をさばくことが可能である。つまりファーストフードは同じ客席数で、一般レストランの約7倍の客数をさばくことができるのである。さらに、販売メニューを絞っているので単品のメニューで売上の30%を売り上げることが可能なのである。
実際に筆者は1時間に最大75万円の売上の経験がある。そのとき販売したハンバーガーの数は1500個であった。つまりファーストフードの場合ファミリーレストランの10倍近い製造能力が必要になるのである。そのときに調理したハンバーグミートの枚数は1時間に正確に1500枚であった。

つまりファーストフードの場合は時間当たりの販売数量が多いため、厨房機器の製造能力の知識及び、生産性をあげるためのオペレーションの知識が必要になるのである。

時間当たり販売数と調理機器の能力設定
店舗のロケーション別の売上パターンが決まり、ピーク係数を算出すると、1時間の予想売上高がでる。たとえばハンバーガーショップの店舗の最大時間帯売上設定が25万円であるとする。そのうちグリドルを使用するミートサンドイッチの売上が40%を占め、ミートサンドイッチの平均単価が250円であるとする。そうすると
25万円×40%÷250円=400

つまり400個のミートサンドイッチを1時間に販売することになる。ということは1時間に400枚のミートパティを焼く必要があるのである。

ミートパティのサイズは一般的に45gである。なぜ45gかというと、米国ではまだ一般的にポンドを重量の基準で使用している。1ポンドは450g であり、45gは1/10ポンドである。一般的に10:1(テン・ツー・ワン)ミートパティといわれている。大型のミートパティは4:1またはクオーターパウンド(113g,1/4ポンド)といわれる。直径は100mmが一般的である。

オペレーションを小型の45gの冷凍ミートパティの場合でみてみよう。

一度に焼く最大の枚数は10~12枚である。図1を見ながら説明しよう。まず、ミートをグリドルの上に並べるのに、5秒間。それから25秒後にミートをターナーでグリドルに密着するように5秒間で押さえつける。そうすると冷凍のミートが解凍を始め、周囲の肉が解けて均一に焼けていく。そのまま25秒間焼く。次にミートをターナーで10秒間で裏返す。ミートに調味料をかけさらに45秒間焼く。ミートに十分火が通ったら10秒間でグリドルから取り上げ、バンズのうえに乗せる。グリドルを5秒間で清掃しカーボンを取り去る。合計時間は2分10秒間である。1時間では332枚のミートを焼くことができるのである。

しかし、1時間に400枚が必要なのでもう少し能力が必要である。それではもう1台グリドルを増加するのであろうか。そうすると、投資額が大きくなり、償却費、金利、厨房面積の増大による家賃の増大等の固定経費増大、また、作業の増加による人件費増、ガス代、電気代(排気風量の増大による、モーター駆動、空調負荷の電気代)、清掃用の洗剤使用量の増大など、変動経費(ランニングコスト)も大きく増えるのである。

図1の作業1でミートを焼く作業を図解してみた。肉を並べるときの作業中は、ほかの作業を平行することはできない。それを実線で表示する。次に肉を押さえた後、焼くときにはその作業にしばられることがなく、他の作業をすることができる。これを点線で表示する。そこで実線が重ならないようにもう一つのミートを焼く作業を平行して時間をづらし行ってみよう。作業2がそれである。作業1の肉をかえした後に45秒間の時間があるので、それから次の作業2に取りかかることができる。これでみると70秒毎に12枚の肉を焼くことができるのである。つまり、1時間で600枚のミートを焼くことが作業上可能になるのである。つまり1.8倍の生産量になるのである。

この作業をするグリドルのサイズは計算上図2のようになる。直径100mmの冷凍肉を一回に12枚づつ焼くと、1台のグリドルには最低6列のミートが並ばなければならない。また、グリドルの表面全体の温度は均一ではないわけで、周囲100mmは使用しないようにすると、必要なサイズは図2のように800mm四方のサイズになる。こうして、必要な調理機器のサイズを無駄なく決定する。

次に1時間に600枚の冷凍肉を焼くグリドルに必要なガスインプットを算出する必要がある。肉を焼くのに必要な熱エネルギーは、内部温度の上昇、外部温度の上昇、蒸発潜熱、などから計算する。45gの冷凍肉であると、水分率、損失水分率により異なるが多めにみても1枚あたり15kcal必要である。600枚をかけると9000kcal必要である。グリドルの熱効率は効率の最も良いもので50%であるから。18000kcalのインプットが必要である。さらに、グリドルの表面の放射熱損失などを考えると、約25000kcal必要である。

なお、ガスのインプットのみでなく冷凍肉を置いたときグリドル表面の温度が余り低下すると、肉が煮えたような状態で品質が劣化する。それを防ぐため、グリドルの鉄板を厚くし温度の低下を防ぐ。また、冷凍肉を置いたらすぐにサーモスタットが感知し点火するようにすると、温度の低下を防ぐことができ品質が上がるのである。以上の作業により必要なグリドルのスペックを決定することができる。

連続調理により1時間に600枚を焼くことができるといったが、実際の作業を考えなければならない。作業途中での念入りな清掃や、ミス、一息つくといった人間的な作業ロスを考えると、生産能力は計算上の70%とする方が実際の能力に近くなるのである。そうすると1時間に420枚の生産枚数となる。これで1時間25万円の売上を達成することは可能なのである。

こうやって作業的な余裕を見ることにより、大きなお祭などの行事で売上が25万円以上いっても余裕をもって対処できるのである。設計能力が600枚であれば、機器の能力が多少低下しても、品質の低下をきたさないのである。

調理機器全体のバランス
さて、ハンバーガーの販売能力は1時間に25万円になったが、夏休みになると学校が休みになるので売上が平常月より上昇する。さらに、暑さのためにドリンク、特にシェイクの売上が伸びるのである。シェイクの年間の売上比率は10%位であるが、夏になると20%以上になるのである。25万円の20%で、単価200円とすると、1時間に250杯のシェイクがでるので、それだけの能力のある機械を入れる必要がある。シェイクなどの冷却機器は1時間あたりの能力を表示してあるのでそれを参考にすれば良いように思われるが、水冷や、空冷の冷却機器は一般的に外気温が26~28℃位の温度の時の能力を表示しており、日本の夏の35℃くらいの温度になると能力が極端に低下するので、機械の表示能力を温度換算する必要がある。
また、冷却機器は冷媒のフレオンガスの低圧圧力を正しくセットしないと、効率よく冷却しないので、定期的な調整とコンデンサーなどの清掃が必要である。また、消耗備品などの定期交換をしないと機器は正しく作動しない。そのため、単に性能の良い機器を選定するだけでなく、説明書、メインテナンスマニュアルがきちんとできているかも、選定の際の重要なチェック項目である。

店舗に来るお客様はハンバーガーだけではなく、フレンチフライやシェイクを組み合わせてオーダーするのである。ハンバーガーを焼く能力が高くても、シェイクの販売能力が20万円しかないと、全体の売上は20万円しか行かないのである。つまり、ピークの売上は厨房の最低能力の機械で制限されるのである。メインの機械の能力だけに気を取られるのではなく、全体の機器のバランスをとることが必要である。すべての販売商品の売上比率を計算し、時間帯予想販売数を算出し、バランスのとれた厨房機器設備にする必要がある。

手作業の調理の能力を向上するには
さて、この考え方はハンバーガーだけではなく、手作業のファーストフードであるドーナツ店でも同様である。イーストドーナツは20kgのドーナツを作るのに仕込から発酵、フライまで含めると図3のように3時間半かかるのである。20KGのイーストドーナツでドーナツは655個できる。8時間労働であるとイーストドーナツは2回製造できるそうすると1310個のイーストドーナツができる。ケーキドーナツは10KGを50分間でできるので、1回のケーキドーナツを製造できる。10kgでドーナツは310個できる。イーストを40kg,ケーキドーナツを10kg製造すると、1620個の製造能力である。これ以上になるともう一人ドーナツ製造の人間が必要になる。
では図3のイーストドーナツの製造を見てみよう。1次発酵と2次発酵の間は作業をすることがないのである。そこでこの間にケーキドーナツとチョコケーキドーナツを10kgづつ製造できるのである。そしてイーストドーナツをフライした後、フレンチクルーラー5kgを30分間で製造することができる。フレンチクルーラーは5kgで230個のドーナツになる。つまり4時間でドーナツを1505個製造できる。8時間労働で3010個の製造ができるのである。

つまり作業時間の無駄を無くすことにより、生産性を86%も向上することができるのである。厨房の生産能力を考えるときには、単に機械の製造能力や数だけではなく、作業者がどうやって時間の無駄を無くし生産性を高められるかも考慮しなければならない。厨房設計の際には調理の方法を良く把握し、作業時間の配分までの知識がないと生産能力を正しく算出することができず、実際に必要な調理能力より大きな厨房を作ることになり、採算性は大きく下がるのである。

厨房の拡張性
以上のように売上が決まることにより、時間あたりの商品生産量が決まり、それにより機械の能力、数が決まる。ただここで注意しなければならないのは、売上は変動するということである。最初に売上を設定しても、商圏の人口が増大することにより、年々販売量が増えるということである。つまり、厨房の生産量を設定するときに、将来の販売予測をして置かないとすぐに厨房の能力が一杯になり、全体をやり直す無駄が生じるのである。そのために、将来の売上の増大を見越してある程度の余力を持たせて置く必要がある。そして、常時厨房の能力が正しいかモニターする必要がある。
現在はPOSが普及しているので、POSから時間当たりの販売個数のDATAを入手できる機種を選定すれば常に状況を把握できるし、それを本社のコンピュータで集計すれば、店舗の製造能力をきちんと把握できるのである。

また、計画当初にはない新メニューの登場が考えられる。しかし、最初からそれを予測し厨房設備をすることは、設備コストが増大する問題があるので、将来新メニューが入ったときには厨房を拡大できるように設計して置く必要がある。特に厨房を容易に拡大できるようにするのは重要である。例えば、厨房の裏に倉庫を設置し、必要なとき簡単な工事で厨房を拡張できるようにして置けば低コストですむのである。

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