0912第30回 海外視察団調査団 HOST2009及びヨーロッパ厨房施設調査団報告書第1回目(日本厨房工業会 月刊厨房2009年12月号)
社団法人日本厨房工業会主催の第30回海外調査団「HOST2009 及び ヨーロッパ厨房施設視察団」にコーディネーターとして参加してきたので、今回から2回にわけて報告をいたします。
今回の調査団の参加者は団長の日本洗浄機株式会社社長中川幹夫様、副団長エレクトロラックス・ジャパン株式会社部長上原義治様、副団長服部工業専務取締役服部英男様、その他15名、総勢18名にご参加いただいた。
出発は2009年10月24日でまず、HOST2009の開催されるイタリア・ミラノ市に3泊、エレクトロラックス社の工場見学のためにベネチア1泊、そして、厨房施設見学にパリ2泊の視察スケジュールだ。
今回の視察に当たってはヨーロッパ最大手の家電及び業務用厨房機器メーカーであるエレクトロラックス・ジャパン株式会社のフードサービス部部長の上原様のご協力により、HOST2009会場でのプレゼンテーション、工場見学、エレクトロラックス社様ユーザーのベネチアのヒルトンホテル厨房、パリ市の市職員向け給食施設、等の見学を中心に実施した。また、ミラノでは現地に事務所を設置されてイタリアの厨房機器メーカーに大変詳しい、FMI社社長木本武雄様にもご協力いただき、HOST2009会場ではブラストチラー機器の大手メーカーIRINOX社のプレゼンテーション、チンバリー社のスタッフの方によるミラノ市内のバールの見学、そして、ミラノ市内のレストランのご紹介をいただいた。最後のパリ市では今回の参加者でもある東京ガスガス株式会社最適厨房研究会事務局の桑名朝子様に、東京ガス様の関連会社のフランス料理文化センターが提携しているパリ市商工会議所運営の料理及び伝統技術学校のフェランディー校見学、及び、パリ市内の新旧フランス料理店のご紹介をしていただいた。
1日目成田発13:40分の日本航空ミラノ直行便を利用
まず、成田空港で結団式を行い、空路12時間かけてミラノに到着したのは夕方でした。そのまま、バスでミラノ中央駅前のドーリア・グランド・ホテルのチェックインし翌日に備え早めに就寝。
2日目 HOST2009会場見学
7時に朝食をとり、8時半にホテルをバスで出発40分ほどかけて会場に向かう。ミラノ市は2015年に開催される万博をひかえて街の中ではあちこちで建物の建築が始まっている。環境をテーマに開催するそうだ。街を見ていると、日本ではほとんど見ることのなくなった、市電が多いのに気が付く。さらに、懐かしいトローリーバス(電気バス)が走っている。興味深かったのは市電の電線をトローリーバスが共有していること。そして街中では市電とトローリーバス、バスなどの大勢の乗れる乗り物用の車線が道路中央にあり、混雑しないで走れるような工夫がしてある。また、市内には地下鉄もあるので、個人的な交通移動手段の車中心の社会から、効率的で環境にやさしい移動手段への取り組みが見えてくる。万博に備えてさらにどのような環境対策を行うか注目されるだろう。
そんな活気のあふれる街を見ながら初日のHOST2009会場にむかう。HOSTはヨーロッパ最大のホテル・レストランショーで、毎年開催され、今年で36回目となる。この展示会に見学に来るのは海外からは143カ国33000人、合計で125000人の来場者を数える。ヨーロッパだけではなく、地中海沿岸、中近東、中国、インド、アジアなどからも幅広く来場している。展示は40ヶ国から1,445社が参加している。http://www.host.fieramilano.it/
会場中央の通路を挟んで6つほどの大きな建物にカテゴリー別に展示がなされている。米国でもNRAショーやNAFEMショーなど厨房関係の大きな展示会があるが、ただ参加しても巨大な会場を歩くだけで疲れてしまう。影響力のある厨房関係メーカーに業界動向や調理機器の動向を伺い、それから会場を見るのが一番わかりやすい。1昨年に米国NAFEMショーを見学した際には米国大手厨房機器メーカー・グループのEnodis社のブースを訪問し、技術動向のレクチャーを受けたことがある。今回は同様のレクチャーを受けられるようにエレクトロラックス・ジャパンの上原様にコーディネートをお願いした。エレクトロラックス社はスエーデンに本社がある民生用の電気製品の最大手であり、業務用厨房機器部門のエレクトロラックス・プロフェッショナル社はイタリアに本社と工場を置く総合調理機器メーカーである。
欧米の厨房機器メーカーは日本の総合厨房機器メーカーとは異なり、一つの調理機器に特化していることが多い。スチームコンベクションオーブンのラショナル社やブラストチラーのイリノックス社、コーヒーマシンのチンバリー社のようにその製品で業界のトップを占めるように、一つの調理機器の分野に集中し特徴を出している。
その業界のなかで、エレクトロラックスのように総合的な調理機器を持っているケースは珍しい。幅広い業務用調理機器を開発し製造するには研究開発に大変な投資を必要とするわけで、家電製品として世界最大規模のエレクトロラックス社だから可能なのだろう。
エレクトロラックス社は1980年代にエレクトロラックス社のグループ入りしたザヌーシZanussi社がイタリアにあったため、その本社と工場に会社エレクトロラックス・プロフェッショナル社を業務用厨房機器用の会社として設置したとのことだ。
http://professional.electrolux.com/node1528.asp
場所はミラノからバスで4時間ほど離れた
Via Segaluzza, 30 Vallenoncello, 33170 Pordenone, Italy
にあり。顧客用にプレゼンテーション用の施設があるので、展示会見学の後に訪問する予定だ。
さて、まず会場でエレクトロラックス社の業務用調理機器の展示を見学することにした。色々な調理機器を漫然と展示するのではなく、テーマを持って展示している。今年からの試みだそうだが、小売、外食、のチェーンと提携して特別に開発した調理機器を展示している。
1)高速サンドイッチ・トースター
サンドイッチ・ステーションSandowich Stationの開発に当たっては英国を中心としてグルメサンドイッチチェーンを展開しているプレタマンジェ社向けの高速サンドイッチ・トースターを展示している。
http://www.pret.com/
http://www.electroluxprofessional.com/Files/Pdfs/Electrolux/0_hsg-panini-grill.pdf
イタリアのバールなどで使われているパニーニ等を焼く、両面焼きトースターの高速版だ。バールなどではサービススピードを要求する顧客のために、サンドイッチを造って包装して冷蔵庫に入れてある。そのまま持って帰る客もいるが、暖かいサンドイッチを要求する顧客には両面焼きのトースターで焼きあげてくれる。しかし、比較的に厚いサンドイッチなので通常は3分ほど時間がかかってしまう。それでは時間を急いでいる顧客を満足させることができない。そこでエレクトロラックス社はマイクロウエーブとヒーターを組み合わせて30秒で分厚いサンドイッチを焼き上げるHSG Paniniというトースターを開発した。通常のパニーニトースターのように両面で焼き上げる。
上面のトースターはアルミニウム製で溝をつけた構造にして、テフロンなどのノンスッティック加工をしてある。温度は最高250℃まで上げられる。使用する際にはさらにテフロンシートをその上に置き、サンドイッチが焦げ付かないようにする。溝を切ってあるのでサンドイッチに通常のパニーニグリルのような棒状の焦げ目が美味しそうにつく。下部のプレートはクオーツガラスを使用しておりその下にあるヒーターが発生する遠赤外線で加熱調理する。下部のプレートはクオーツガラスなのでその中心にマグネトロンを設置し、サンドイッチの中心部に電磁波を放射し電子レンジのように加熱する。通常のパニーニ用両面グリルが調理に3分ほど時間がかかるのは、中心にあるチーズなどが解けるために必要なのだ。しかし、外部の加熱と同時に中心部分の食材をマイクロウエーブで加熱すれば、調理時間は格段に速くなり、30秒前後で加熱調理できるという仕組みだ。
英国のプレタマンジェ社の要望により開発が行われた。プレタマンジェ社は英国で数百店舗の高級サンドイッチチェーンを提携しており、米国マクドナルド社も出資し、米国ニューヨークを中心に店舗展開をしている。日本でも7年ほど前に日本マクドナルドと提携して展開したがすでに撤退している。メタリック調のクールな店舗デザインで、冷たいサンドイッチ、ジュース、コーヒーなどをセルフサービスで提供するファスト・カジュアル業態だ。同社はオーガニックの材料を使用する品質の高さを訴求しており、サンドイッチに使うパンもオーガニックの小麦粉や健康的な全粒粉を使用する。店舗内でサンドイッチを製造するのだが、製造工程は見えないようにしているし、冷たいサンドイッチをラップしてショーケースに展示しているので、手作り感がないのが欠点で日本では撤退してしまった。冷たいサンドイッチのジャンルではコンビニの価格には勝てないし、冷たいサンドイッチは温かいハンバーガーなどにも優位性がないからだ。また、冷たい全粒粉のパンは体には良いのだろうがぼそぼそとした食感で日本人の口には合わなかった。
会場でHSG Pniniの高速トースターで焼いたプレタマンジェ社のサンドイッチを食べて驚いた。その全粒粉のパンが焼くことによってカリッとして美味しいし、中に挟んであるチーズが程良く溶けてものすごく口当たりがよいのだ。熱い料理が大好きな日本人にぴったりの味だろう。焦げ目も綺麗につくし、味も良いので思わず、数切れのサンドイッチを食べてしまった。
プレタマンジェ社のようなサンドイッチだけでなく、ハード系のイタリアのロールで造ったサンドイッチもコンガリと焼けてパンの持ち味がよく出ていた。
この高速トースターのマーケットは欧州も多いだろうが、米国では大ヒットすると思われる。エレクトロラックス社はこのHSG Pnini Grillに大変力を入れており、会場内に点在するカフェテリアやカフェに設置してサンドイッチを高速加熱調理してアッピールしていた。
2)カジュアルレストラン ブッダバー Buddha Bar
欧米でレストランとバー、DJを組み合わせたお洒落なレストランとホテルをチェーン展開しているカジュアルレストラン&ホテルの ブッダバー Buddha Barチェーン向けの調理システムだ。
http://www.buddhabar-london.com/#/about/
http://www.buddha-bar-hotel.cz/
http://www.electroluxprofessional.com/index.asp?o=n&c=R&a=&n=3917
スチームコンベクションオーブンとブラストチラーを組み合わせ、最終調理は電磁誘導加熱調理コンロとグリル加熱で行うように組み合わせたステーションだ。Molteniブランドのレンジと組み合わせて、見た目にも格好良く仕上げている。このブッダバーのお店は大変スタイリッシュであり、調理場もお洒落に仕上げたいという要望にこたえた造りだ。
最近の厨房機器は単に性能が良いだけではなくお洒落な店舗のイメージにもあったデザインを取り入れる必要があるということだろう。
3)アジア料理のCOA向けのFusion Front Cooking
http://www.electroluxprofessional.com/Files/Pdfs/Electrolux/0_Gulfood_2009.pdf
欧米ではアジアを中心としたフュージョン料理が流行っており、そのチェーンCOA社向けに開発した料理ステーションだ。カジュアルレストランで顧客の前で調理するオープンキッチンスタイルで、一つのステーションに麺茹機器と中華鍋用電磁調理器を設置し、顧客の目の前でシズル感を演出する。小型のミニ・スチームコンベクションオーブンでは中華点心を蒸しあげるなど、コンパクトでお洒落な仕上げだ。
4)小売業カルフールの惣菜用の調理システム Delishop Corner
ヨーロッパでも小売業の惣菜用のニーズは高く、ヨーロッパ小売業大手のカルフール社向けの店内調理システムと販売用のショーケースだ。中心の料理はローティサリーチキンなどの肉料理であり、スチームコンベクションオーブンとローストチキン用のアクセサリーの組み合わせなどの展示だ。
その他、今回は展示していないが、米国のデリカテッセンのディーン・アンド・デルーカ、パスタメーカーのバリラ、中近東の鳥料理チェーン、と共同で調理システム開発を行っている。
従来はホテルや高級レストランなどの高級業態向けの大型調理施設向けが多かったエレクトロラックス社であるが、最近の世界的なレストランチェーン台頭に向けた対応のようだ。
さて、今回、秘密の新製品がひっそりと奥の部屋に陳列されていた。同社の最新のマイクロウエーブ組み込み型のair-o-systemだ。何が新型かというと操作部分すべてが液晶を使用したタッチパネルで構成されている。機能的な新しい部分もあるのだろうが、まだ新機種ということで詳しい説明は受けていないが、操作部分とデザインがユニークなのだろう。厨房はどんどんオープンキッチン化する現在、調理機器のデザインは店内にぴったりマッチしなければならないが、武骨なスイッチ類やディスプレーはダメな時代だということだろう。
また、厨房設計をするうえで調理機器の最新の情報を入手するのは大変であるが、エレクトロラックス社は厨房設計家の利便性を図るようにネット上で情報を容易に入手し、設計に反映する方式をプレゼンテーションしていた。帰国後「日本からも使えるよ」とメールで親切にご案内も頂いた。
さて、会場で珍しい方にお目にかかった。オーストラリア・シドニーで超有名なレストラン・テツヤズTetsuya’sを経営している和久田哲也さんだ。Tetsuyaは世界の富豪が料理を食べに自家用ジェット機で来るので有名な高級レストランだ。その和久田さんがわざわざオーストラリアから見学に来ていたのでお話を伺った。和久田さんは素晴らしい調理機器や厨房が大好きで、自分のお店に何と5セットのフル・キッチン、家にまで2セットのキッチンを設置しているという。そのメーカーはすべてエレクトロラックス社の製品だそうで、その仕上がり、性能にぞっこんの様子だった。そのあとでエレクトロラックス社の本社工場のテストキッチンまでわざわざ訪問して勉強している姿が印象的だった。
http://www.tetsuyas.com/
http://blogs.yahoo.co.jp/hotcreationjp/51089346.html
http://www.afpbb.com/article/1405005
翌日3日目はFMI社が取り扱っているIRINOX社のブラストチラー、dynamic fresh system のプレゼンテーションを受けた。FMI社木本社長自ら通訳をしていただき、大変勉強になった。
IRINOX社は20年ほど前にブラストチラー専門の会社としてスタートし、現在世界でトップシェアーを占めている。ブラストチラーというと急速に冷却する単純な機能のように思われるが、あまり急に冷却しても食材の細胞を壊して再加熱する時の品質を劣化させてしまう。同社は特殊なセンサーを使用して食材ごとに最適な温度低下カーブを設定することに成功した。料理の中心温度をデリケートな3℃まで丁寧に冷却し、そこからマイナス18℃まで急速に低下させ、細胞を壊さないようにする。冷却工程においては常に最大の冷却をするのではなく、マイナスの温度帯に差し掛かる最も負荷の高い温度帯でち密な温度管理と負荷のコントロールをするのが大きな特徴だ。そこで単なる急速冷却をするブラストチラーの名称を使わず、イージー・フレッシュ、マルチ・フレッシュという2つの呼び名をつけた製品化をしている。
同社の品質のポイントは、単なる機械の開発ではなく、顧客の満足感である。開発に当たってはミシュラン三ッ星レストランの経験のある調理人や菓子職人、パン職人に開発をゆだねるという顧客重視をとり、あらゆる冷却のニーズにこたえられるように心がけているという姿勢が素晴らしかった。
また、料理で使用するガストロームパンとベーキングで使用するベーキングパンのサイズが微妙に異なり不便であるが、同社の機械はすべて両方のサイズのパンを入れられるなどの使い勝手に細かい配慮をしている。
プレゼンテーションの後は、同社の製品で冷却した色々な食材を食べさせて頂き、その品質の良さを体感することができた。
続く