体験的SV業務 -SVが行わなくてはいけない開発業務

(商業界 飲食店経営1998年7月号掲載)

1)グリドルの改善は温度計の開発から

米国旅行というのは報奨旅行だと思っていたらとんでもない、勉強してきたのだからその分の成果を出せと厳しい命令が下った。

その当時の最大の問題点は忙しい店舗でハンバーガーが旨く焼けない。売り上げに対応できるだけの量と品質を維持できないと言うことだった。

そこで、なにが問題点なのかを明確にする為の、店舗での温度チェックが必要であった。当時の温度計はバイメタル式の精度の低い物でグリドルの上に3つぐらい温度計を並べその平均を見るような原始的な物であった。アメリカのマニュアルはF表示であり、日本では計量法の問題で両方を表示する物はなく作成せざるをえなかった。当時サーミスターセンサーを使ったアナログの精度の高い物があったがサーミスターセンサーを使う為応答速度が大変遅く、温度チェックに時間がかかり、センサー自身の感熱部のサイズが大きくそれがグリドルの表面温度を下げてしまい不正確でもあった。グリドルの温度は大変デリケートであり、ドアーが開き風が吹き込んでしまっただけで温度は10℃下がるほどである。また精度の高い温度計は値段も大変高く店舗に導入する事は出来なかった。

そんな頃米国旅行で知り合った天才エンジニアからコンベアータイプの自動化グリドル開発依頼が日本に舞い込んだ。日本のエンジニアーはその機械を見てこんな複雑な機械の開発を手伝わされたら大変という事でみんな逃げ出してしまい、何もわからない筆者が手伝わされる羽目になってしまった。コンベアーグリドルということで温度制御が複雑であり、サーミスターセンサーのアナログ温度計では応答が遅く、温度計測に1時間も時間がかかってしまい温度データーを取るだけで一苦労であった。当時ある大手の温度計測メーカーY社から初めてサーモカップルセンサーを使用したディジタル表示の温度計が発売された。値段が高かったので当時の会社でも1台しかなく引くてあまたの人気機種であった。丁度アナログ式サーミスターセンサー温度計のメーカーS社がコンベアーグリドルの温度コントロールを作っており、その社長と一緒に働く機会があった。そこでアナログのサーミスター温度計と、サーモカップルのディジタル温度計を比較して見せたところ、よしわかったそんなに文句いうんだったら作ってやろうじゃないかというような事でS社と開発がスタートしたのであった。メーカーに日参してはセンサーの構造や、メーターの構造の講義を受けつつ論議を重ねながら共に設計をしていったのである。当時他にも優秀なメーカーはあり検討を重ねたが、最終的にS社に決めたのは、Y社やR社は大変優秀な機器を作るがそれを検品する体制が整っていなかったからである。S社は計測器を作る経験は少ないがセンサーの専業メーカーであり、センサーの精度をチェックする恒温槽を数十台持っており各温度の精度をチェッック出来、温度精度プラスマイナス2℃の温度計を完成する事が出来た。当初の100台は筆者達で全品各温度帯での検品を実施した。

[ 温度計のカリブレーション ]

どんな正確な温度計でも使うに従って誤差が発生するので時々温度計の精度のチェックが必要になる。正確な温度計のチェックはメーカーに送り返し、精度をチェックしてもらう必要があるが、調理現場でも簡単にチェックができる。センサーには表面温度と液体を計測するプローブがついているので、液体を計測するプローブを使用しチェックをする。まず、細かく砕いた氷を入れた大きめのステンレス計測カップなどを2つ用意する。一つのカップに冷水を入れよくかき回し、冷却する。その水をもう一つの氷の入ったカップに入れさらに攪拌しよく冷却する。氷が溶けようとする温度は0℃であるからだ。そのカップの中にセンサーを入れ温度を計測する。その際の温度が0℃プラスマイナス2℃であれば問題はない。次に薬缶などに水を入れガス台にかけ沸騰させる。ぐらぐら沸騰した状態の湯の温度を計測し、その表示が100℃プラスマイナス2℃であればよい。

このCAセンサーを使用したデジタル温度計の特性は比較的直線的に温度と比例して微電流を発生するのでこの0℃と100℃の温度が合っていればその他の温度帯での誤差もそれほど大きくならない。このやり方で最低月に一度くらいは温度計をチェックすると良いこのカリブレーションの手法も実は、温度計の開発でその会社の温度計のチェックの手法から学んだ事なのだ。

2)グリドルの改善

この温度計の完成により店舗の品質管理基準は大幅に高まり、また機器に対する問題点も明確になったのである。特に温度のばらつき、温度の快復速度、温度の精度などが明確になってきた。特にグリドルの温度分布の問題が明確になり、バーナーの形状、本数、空気の流れ、応答の早いサーモスタットの採用など、試行錯誤で改善を進める事が出来た。日本は冷凍のパティで最初からスタートしたにもかかわらず、グリドルをフレッシュミート用の温度リカバリーの遅いタイプを導入していた。さらに通常の2.5倍の大型のミートパティを導入する事になり問題が大きくなってしまった。フレッシュミート用の機器はサーモスタットが温度が下がるのを感知するとガスバルブを徐々に開けていき負荷が最大になるとバルブの開度を大きくし供給ガス量を増やし、温度が戻っていくとガスバルブを徐々に閉じていき、オーバーシュートしないようにしてあり、温度の安定性は大変良いものであった。しかし冷凍の熱負荷の高いミートを焼くには温度の回復が遅過ぎた。さらに、温度センサーがグリドルの鉄板の下部に接触して取り付けられており、温度の感知も悪かった。そこで、冷凍用のグリドルを導入することにした。新型のグリドルは、サーモスタットセンサーをグリドルの鉄板内部に埋め込み応答性を早くしさらに、電気式のサーモスタットにし温度の低下を関知すると、ガスバルブを即座に開くタイプであり温度の回復の早い物であった。しかしながらこのグリドルを店舗に導入しても、ピーク時にはまだ焼けないというクレームが店舗から寄せられた。

当時のガス会社にいっても、業務用厨房に対する理解や研究はまったくなされておらず、ああーこんな資料がありますよと持ってこられたのが溶鉱炉の資料だったりする有り様であった。また、機械の技術陣も店舗建設で忙しく運営担当の筆者が改善せざるを得なくなった。そこで試行錯誤で実際に機械を改良する事からスタートしていった。グリドルのバーナーに穴を開け直し燃焼の実験を徹夜で何日も実施した。またアメリカの機械のマニュアルを熟読し、各パーツの作動を検証していった。当時機械はほとんど国産化しており、外見はアメリカ製と同じであったが中身は全く違うのであった。当時の厨房機器メーカーはガスプレッシャーレギュレーターの役割を理解せず、グリドル、フライヤーに取り付けていなかったのが大きな原因であった。機械を設置しテストランするのは夜間であったり、ガスの消費量が少ない時であった為、高いガス圧で、ガスのオリフィスのノズルの直径を小さく設定する為、いざ店舗がオープンし昼のピークのガスを最大に使用するようになると、多くの機器がガスを使用するのでガスの圧力が落ち、火力が弱くなり調理ができなくなるのであった。そこでプレッシャーレギュレーターを設置させ問題は解決されるはずであった。

今度は作業上の生産性の問題が出てきた。当時のグリドルのサイズは幅が1m50cmであった。これは1種類の肉を焼くだけの温度の回復の遅いグリドルでは問題がなかったが、2種類のサイズの肉を焼くには、グリドルの温度を変更する必要があり効率的には2台のグリドルが必要になってきた。また従来は二人の人間が一台のグリドルで作業をしていたが作業導線がぶつかり効率が悪く、一人で作業するには作業導線が長すぎるという問題がある。人間の作業範囲は直径90cmが歩かないで出来る作業範囲であり、グリドルの幅を90cmにした。

次に問題になってきたのはグリドルの周囲のエアーフロー、バーナーの設計による燃焼効率とCO/CO2、ピーク時のガス圧の低下、グリドル表面の温度のばらつき、機械設置工事の問題、店舗での機械の調整メンテナンスの標準化等であった。

3)オペレーション開発

機械だけ改善しても機械の能力はフルに発揮は出来なかった。店舗のマネージャー達に対し、オペレーションマニュアル、機器マニュアル、店舗のメインテナンス制度の導入等のトレーニング方法を開発し、トレーニングコースに取り入れ、トレーニングも実施ししなければならなかった。

1店舗のグリドルの台数の増加により、グリドル清掃作業の改善も必要になってきた。従来グリドルは夜鉄板を熱いうちにクレンザーを撒き、金だわしで汗びっしょりかきながら清掃するのであった。新人のアルバイトに作業をさせると次の日には止めてしまうような重作業なのであった。また、金属性の金だわしの破片がグリドルに付着しそれがハンバーガーに混入するといる事故が発生した。その為に金だわしを使用しなくても良い、高温タイプのグリドルクリーナーの開発が必要になった。実験には実際の店舗でグリドルを清掃するしかなく、毎晩閉店時間の異なる店舗3店を歩き洗剤の成分を試行錯誤で改善しながら作り上げていった。(前回の稿を参考)

4)原材料の開発

ミートパティの焼けを良くする為にはグリドルの改良だけでは無理であった。ミート自体が柔らかく火が通り易くなくてはならなかったのである。その為には新型のミートの成形器の導入が必要であった。また新型の成形器をいれるだけでは工場におけるミート品質の向上は出来ないので工場にグリドルを設置しその調整方法と、ミートのオペレーションをトレーニングし、ミートの完成品の品質基準を確立した。

5)機械の設置作業のトレーニング

更に機械を店舗に導入する際の業者のチェックポイントを明確にしていった。とくに新規厨房機器メーカーの導入にともない、機器設置のトレーニング を実施した。グリドルの表面の温度分布、温度の上昇時間、グリドルのガス圧とインプットkcal、ダクトの風量等きちんと計測するようになった。その為、店舗の各機器の能力は大幅に上がり、店舗による差もなく、1時間あたり楽に50万円の売上を達成する事が出来るようになってきた。本来は建設部(当時)が業者のトレーニングをするのだが、筆者がスペックを厳しく追及したり、設置工事に口やかましく仕事をさせるので、「文句を言うおまえが責任を持って業者トレーニングをやれ」とやらされたわけだ。

6)レイアウトと作業性の分析

筆者は1時間に最大75万円の売上の経験がある。そのとき販売したハンバーガーの数は1500個であった。つまりファーストフードの場合ファミリーレストランの10倍近い製造能力が必要になるのである。そのときに調理したハンバーグミートの枚数は1時間に正確に1500枚であった。

つまりファーストフードの場合は時間当たりの販売数量が多いため、厨房機器の製造能力の知識及び、生産性をあげるためのオペレーションの知識が必要になるのである。

[ 売上条件と製造能力 ]
グリドルを使用する商品の売上比率を定め、1時間に必要な製造個数を算出する。そして、グリドルで製造するミートの個数と重量、サイズを決める。これにより必要なグリドルのサイズと、能力が決定する。

・ 1時間の最大可能売上高25万円。
・ グリドルを使用するミートサンドイッチの 売上を40%とする。
・ ミートサンドイッチの平均単価を250円 とすると1時間あたりの販売数は400個 になり、400枚のミートを焼く必要がでる。
・ ミートパティのサイズは45g。
・ ミートパティの直径は100mm。

[ オペレーションに左右される機器能力 ]
調理能力は単にグリドルの能力によってだけで決まるのではない。店舗でどの様なオペレーションで調理するのかでも能力が左右されるのだ。オーダー毎に作業するバッチ処理方式と、連続処理方式では以下のように能力が変わるのだ。

* バッチ処理のオペレーション
12枚焼いてから次の12枚を焼く
一度に焼く最大の枚数は12枚。
焼成時間は2分10秒間。
1時間で332枚のミートを焼成出来る。
* 連続処理のオペレーション
12枚のミートを焼いてひっくり返した後 、次の12枚の ミートを並べる。
70秒毎に12枚の肉を焼成出来る。
1時間で600枚のミートを焼ける。
バッチ処理に対して1.8倍の生産量。

[ 人間の作業に対する考察 ]
人間的な作業ロスを考え、生産能力を計算上の70%とすると、1時間に420枚の生産枚数となる。

これでも1時間25万円の売上を達成することは可能であり、グリドルの能力も余裕がでる。実際の能力としては420枚とするが機械の製造能力としては1時間に600枚を焼成できる能力に設定する。さらに機械をカリカリにチューニングして人を入れ込むと先のように750枚も焼けるようになるわけだ。

7)生産量に対応したグリドルサイズの決定

1時間に焼成する枚数が決定したので、次に必要なグリドルのサイズを決定する。

直径100mmの冷凍肉を一回に12枚づつ焼き、連続処理方式で焼成すると、1台のグリドルには最低6列のミートが並ばなければならない。また、グリドルの表面全体の温度は均一ではないわけで、グリドルの作業面の周囲100mmは使用しないようにする。必要なサイズは800mm四方のサイズになる。しかしながら、標準のグリドルサイズというのがあり、米国ではこの規格に近いサイズで3フィートの幅のグリドルがある。他の機械とのサイズのバランスから決める必要もあり、この場合3フィート(90cm)にする。

冷凍肉を置いたときグリドル表面の温度が余り低下しないようにするには。グリドルの鉄板を厚くしなければならない。鉄板の厚さを決めるには冷凍のミートパティを並べて、ひっくり返す時にグリドル表面の温度を計測し、必要な熱量を蓄積できるだけの厚さに設定する。安定した表面温度を保つ上でも最低20mmは必要になる。

また、冷凍肉を置いたらすぐにサーモスタットが感知し点火しなければならない。そのためには、サーモスタットの種類と、グリドル内部への埋め込み方法、位置が問題になってくる。また、サーモスタットの位置と、ミートを置く位置は同じでないと、温度を感知できず温度の回復が遅くなる。

8)ガス入力と熱効率

45gの冷凍肉を焼成するのに必要なエネルギーは、1枚あたり15kcalであるから、600枚の焼成には9000kcal必要になる。

次に熱効率を定めなければならない。熱効率は燃焼方式に左右されるのでここで明確に熱効率を定める。かりに50%の熱効率を定めるとすると、18000kcalのガス入力が必要になる。

グリドルの表面の放射熱損失は約2500kcal必要であり、合計で約20000~25000kcalは必要になる。

上記の売上設定と、商品の出数、調理オペレーションを基に、設計し、試作する。できた試作のグリドルの評価を以下のように実施する。

9)グリドルの性能測定方法

1. 熱効率の測定方法
日本の場合エネルギーコストが高価なので、熱効率は重視しなければならない。ブンゼン式のバーナーの場合には30~40%の熱効率であるが、高性能のグリドルは赤外線式バーナーを使用し、熱効率は50~65%になっている。熱効率がよいのは、遠赤外線効果により、熱効率が3%位向上する。しかし、最も効果が大きいのは、一次空気が100%であり、余分な2次空気を必要としないからだ。2次空気はガス燃焼に必要であるが、同時にグリドルを冷やす元凶でもあるので、それを減らすことが出来れば熱効率は大幅に向上する。

<測定方法>

1.水平に置いたグリドル全面に鉄板で囲いを作り水を20cm程入れられるようにする。そして水を10cm程入れる。
2.次に、バーナーに点火し水が沸騰するまで加熱する。グリドル表面全体が安定して沸騰し始めたら、水の深さを計測しストップウオッチにより時間を計測し始める。
3.一定時間計測し、その間のガスの使用量、水の蒸発量を計測する。
水の蒸発量に水1ccの蒸発潜熱539kcalをかけ、それをガスの使用量と発熱量をかけたもので割ると、熱効率が算出できる。

2. 鉄板表面の温度分布テスト
グリドルは温度の回復が早いだけではなく、焼けムラを生じない様に、表面温度が均一でなくてはならない。
温度ムラの原因はバーナーの配置、バーナーの設計、排気流量とグリドル表面の風量、鉄板の材質などである。 鉄板表面の肉を焼く場所に計測点をマークし、室温からスタートして、調理温度になるまで、一定時間ごとに各計測点の温度を計測していく。次に、1時間ほど放置しグリドルの温度の変化をチェックする。
問題があればまず排気風量を正しく設定する。次にガス入力を各バーナー均一になっているかチェックする。空調の冷却風が直接グリドルの表面に当たらないようにする。
左右の温度ムラについては、はじの方が温度が低めにでるので、バーナーの入力を大きくするか、バーナーの配置を変更して対処する。
前後の温度ムラは排気風量をチェックする。それでも駄目な場合はバーナーチューブの奥と手前の火力をバッフルなどで調整する。 なお、燃焼状態が良くないとカーボンがたまり性能が低下しやすいので燃焼状態が見れるようにしなければならない。
グリドルが設定温度に達してから、ミートを焼かないで放置しておくと、温度ムラが出ることがある。これは口火を常時点火している、ブンゼンバーナー式のグリドルで顕著である。口火がグリドル前面を加熱することと、2次空気が多いためグリドル後部を冷却するためである。口火の大きさは立ち消えがない範囲で小さくする方が良い。また、空調機の冷却空気が直接当たる場合は大きく温度差が出るので注意が必要だ。
ミートを焼き始めてから温度差が出ることがある。これは、サーモスタットの配置とミートの置き方により影響されるのだ。

3. 温度の安定性、温度回復時間及び、応答時間の測定
グリドルの表面温度が設定温度に対し一定の温度で保たれていないと、ミートの焦げ目が微妙に変わり風味が安定しない原因となる。低すぎると色が薄く、高すぎると焦げすぎるし、グリドル表面にカーボンが付着し焼けがかえって悪くなる。

・ 温度安定性と静特性の負荷のチェック
調理温度に設定し1時間にバーナーが点火している合計時間を測定する。これは静特性といい、何も調理をしない状態で調理温度を保つにはどのくらいのエネルギーを消費するかを測定するものである。また、温度の回復時間の測定にもなる。

・ 温度が下がってバーナーに点火する最低の温度とバーナーが消える最高温度をチェックする。さらにバーナーが消えてから、どのくらい温度が上昇するかチェックする。これは温度計のセンサーの感度をチェックするものである。
・ 鉄板の各箇所の温度分布を計測する。温度のムラは5℃以下でなければならない。

4. 調理能力テスト
グリドル上に冷凍ミートを12枚並べて調理する。並べてからサーモスタットランプの点灯する時間と、バーナーに点火するまでの時間、焼き終わった時の温度と、温度が回復し、サーモスタットが消えるまでの時間を計測し、サーモスタットが消えてから温度がどの位上昇するかチェックする。 これは、連続調理の為に大変重要である。
次に、冷凍ミートを12枚並べミートをひっくり返す際のグリドルの最低温度を計測する。余り温度が低いとミートの焼成はうまく行かない、この能力を左右するのは、鉄板の厚さ、サーモスタットの感知である。幾らグリドルのガス入力があっても鉄板が薄かったり、サーモスタットの感知が悪くては温度は低下し肉の焼成は旨く行かないのである。

5. 消費エネルギーチェック
1時間の最大能力の半分の200枚の冷凍ミートを調理し、そのガス使用量を計測する。そのガス使用量から(3)で計測した1時間あたりの静特性時のガス使用量を差引き、焼成した200枚で割ると1枚あたりの消費エネルギーを算出できる。
この計算を行うことにより、正確な原価コントロールが可能になる。また、エネルギー使用量に問題があるときには、商品の販売個数から妥当なエネルギーコストを算出でき、問題点の発見が容易になる。

10)グリドルに対する法的な規制

以上で開発は終了した訳であるが、この後さらに細かい仕様を定めなければならない。

1. 各規制による設計基準
グリドルの仕様を作成するに当たり、ガス、電気、衛生、消防、建築、仕様者の安全、などの各種の法規制を満たすものでなければならない。
米国の機械であれば、ガスの場合AGA、電気はUL、衛生はNSF、安全はOSHAの各基準を満たしている必要がある。米国のこれらの基準はOSHAをのぞいて、民間の団体の自主規制であるが、これらの規制がない場合、火災保険などの保険に加入できず、なにか事故が発生したときには、使用者の責任になるので殆どその基準を満たすようになっている。また、その基準を作成するのは、各厨房機器メーカーや、電気、ガス、消防の専門家が参加し常に現実に見合うように見直しをされている。日本の場合、基準は厳しいが常に例外規定があり、現実とかけ離れている例が多く、規制官庁を跨ぐ場合、変更にかなり時間がかかるという問題がある。行政の簡素化を行いもっと民間で基準を合理的に作成運用する必要があるだろう。

2. グリドルの材質、特に鉄板の材質
グリドルの耐用年数は10年とし、各部品は消耗品をのぞき等しいものとする。グリドルの奥行き、幅、高さは作業の生産性を左右するので慎重に設定する必要がある。
鉄板の材質は大変重要である。特に鉄板の硬度が十分に高くないとミートの焦げかすをとる際に表面を傷つけるし、その金属カスが肉に付着し異物混入事件となる。
また、グリドルの表面が傷つき平面度が保てないと肉の焼けムラを発生し、十分に焼けず、食中毒を発生する原因となる。

3. 入力の設定
* ガス
使用ガス種類と対応のオリフィスの口径
各ガス種類によりマニフォールド内ガス圧とオリフィスの口径を決定する。
マニフォールド内ガス圧の決定は余裕を見て決めるべきである。現在は天然ガスや、LPGが普及し問題は少なくなったが、いまだに都市ガス特に5Cとか6Cなどのむずかしいガスも残っており、設定ガス圧も余裕を持つべきである。筆者の経験ではCガスの場合設定マニフォールド圧を45mmH2Oにしている。
妥当なガス圧の設定には、グリドルを店舗に設置してから、全てのガス機器を燃焼させ(湯沸かし器を忘れてはならない)、グリドルの全てのバーナーに点火して、マニフォールド圧を計測する。実際の場合ガス機器の稼働率は50~70%位にすぎないが、周囲のガスの使用状況がわからないのでここまで慎重に設定するのだ。

* 電気
電気グリドルの場合、ガスより構造がシンプルであるが、大きい電気容量を必要とするので、電気を遮断するコンタクターの信頼製のチェックが必要である。電気グリドルのトラブルは多くはコンタクターの焼損である。厨房の空気には調理によるオイルミストが多く含まれており、それがコンタクターに付着し焼損の原因となる。元々容量が多くスパークを発生するので耐久力に問題があることが多い。最近ではコンタクターを使用しないマーキュリーリレーの使用が増加しており、信頼性は高いようだ。また、接点を使用しない比例制御のトライアックなどを使用する例も増加してきたが、周囲温度などを低く保つ必要があるので注意が必要だ。

4. 温度コントロールと安全装置
温度コントロール装置は安全管理上最も重要であり、その仕様はよく検討する必要がある。

* 口火が点灯しない場合の安全対策
口火が消えていないのに、温度が下がったことを感知して生ガスが流れると、ガス爆発の危険性があるので、生ガスが流れない対策が必要である。一般的には熱電対を使用し口火が消えたらガスバルブを閉じるようにしている。最近では、自動点火装置の普及により、フレームロッド方式で、燃焼状態を監視する方式もあり安全性を増している。フレームロッド方式のメリットは口火が風で消えてしまっても自動的に再点火するので、知らずにグリドルの温度が下がり調理できなくなるという問題がなく作業上優れている。
フレームロッド方式には二種類あり、バーナーが点火する際に毎回点火する方式で口火を省略する方法と、朝スイッチを入れたときに一回口火に点火し、後は口火が消えたときに再度自動点火する方式である。
前者の場合は口火を常時点灯していないのでグリドル表面の温度を均一に保つことができ、かつ省エネルギーになるので最も一般的である。ただし、点火する際のイグナイターのノイズがコンピューターを使用している機器を誤動作する場合があるので注意が必要だ。また、信頼製の低下もあるので定期的な点検と交換が必要になる。

* 温度センサー
温度センサーには、メカニカルタイプの液膨張タイプ、サーミスター、熱電対、白金抵抗体などがある。 液膨張タイプは米国のロバートショー等が主なものであるが、種類が3種類ある。旧型では温度に比例してガスの流量を制御するもので、表面温度を一定に保てる点で優れていたが、冷凍ミートには対応が遅く、熱効率も悪いので今では余り使われていない。そのほかスナップアクション、スローアクションのタイプがある。スナップアクションは接点容量が大きいので良く使用されているが、作動にフリクションがあるため、温度の幅が大きく応答速度が遅い、という問題がある。スローアクションは液膨張を直接接点の開閉に使用するので応答が早く、精度も高い。ただしグリドルに使用するにはセンサーの直径と形状が異なるので、互換性はない。
サーミスターの作動原理は温度により変化する抵抗を利用し、微電流のミリアンペアーを計測し温度に変換する。比較的に安価で、特定の温度帯で精度が高いというメリットがある。しかし、使用する温度幅が広い場合には、温度カーブが直線的でないので、精度が低くなるという問題がある。
熱電対は温度カーブが比較的直線的であるので、一般的に使用されている。熱電対の原理は異なった金属の接触面を加熱すると、電気を起こすというものである。CAというセンサーはクロメルとアルメルという金属の頭文字であり、金属の組み合わせにより特性が異なる。電気といっても微電力であるから、それを増幅するために回路がきちんと設計する必要があり、サーミスター方式より高価になる。しかし、形状がフレキシブルであるためグリドルで使用されるようになってきた。 白金抵抗体は最も精度の高い方式である。原理はサーミスターと同様であるが、抵抗値はどの温度帯でも直線的であり精度が高いという特徴がある。しかし、グリドルなどでは加工上の問題から、余り使用されていない。

* 温度センサーの取付方法
旧型のグリドルではセンサーをグリドルの下に取り付けているタイプがあるが、応答が悪いので現在はグリドル鉄板に埋め込みタイプが主流である。鉄板に埋め込む位置の選定はユーザーの調理パターンにより変わるので慎重に設定しなければならない。また、表面から近い方が応答性が良いが、余り近いとグリドルの表面が削れて露出するという問題があるので、深さとグリドル材質の硬さを慎重に設定する必要がある。
開けた穴にセンサーを埋め込む場合、隙間があると熱が伝わりにくく応答が悪いので、熱伝導を向上するシーラーを埋め込む。

* 温度コントロール
温度コントロールの表示方法はアナログとデジタルがある。温度調整をする場合デジタルの方が容易であり、普及し出している。 その場合、温度コントロールの表示が狂った場合の誤差修正が簡単に出来ないとならない。

* 加熱防止器
どんなに精度の高い温度計を使用していても、壊れる可能性はあり、安全のため加熱防止器が必要である。加熱防止器は温度固定のメカニカルタイプを使用し、温度コントロールとは異なるバルブを使用しなければならない。
また、グリドルを加熱するときに排気ダクトファンが稼働していないと、加熱し火災の危険がある。特に、点火する前にダクトを作動しないと危険であるので、ダクトブレーカーとのインターロック回路の設定をし、ダクトのスイッチを入れないと点火しないようにする必要がある。

5. ガスバーナー都市ガス、天然ガス、LPGに対応すること。少なくと部品交換ですべてのガス種に対応しなければならない。 バーナーは交換可能であり、耐久力があり、頻繁な清掃を必要としないこと。 燃焼したガスの排気中の一酸化炭素と二酸化炭素の比率をチェックし、基準以内でなければならない。
6. 周辺機器 グリドルのガス配管の直径は十分なガスを供給するものであること。
7. グリドルの清掃方法 引き出して清掃できるようにフレキシブルホースを使用し、ホースを簡単に脱着できるようにする。ときどき引き出してグリドルの後部などや下部の油の堆積を清掃し、火事にならないようにしなければならない。 また、地震の際の安全対策上建物に固定出来るようにする。

11)最後に
以上のようにたった一つのグリドルという機械の開発にこれだけのステップと作業があるのがおわかり戴けるだろう。書くと簡単に見えるが、実際の作業は店舗が閉店してからの深夜作業の実験につぐ実験であり、体力が一番の武器だった。店舗数が150店舗になるまでのほとんどの店舗で徹夜の実験をしなくてはいけなかったからだ。文章にすると簡単なようだがこれだけの改善には筆者が部長になるまでの10年ほどの時間が必要だったし、建設部や他のSVなどの多大な協力を仰がなくてはならなかった。しかし、この肉体労働者の経験からどんな機械でも一目で使える機械か、どうか判断できるようになったのは大きな財産となった。

お断り

このシリーズで書いてある内容はあくまでも筆者の個人的な経験から書いたものであり、実際の各チェーン店の内容や、マニュアル、システムを正確に述べた物ではありません。また、筆者の個人的な記憶を元に書いておりますので事実とは異なる場合があることをご了承下さい。

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