2ndアシスタントマネージャー時代

(商業界 飲食店経営1996年7月号掲載)

ひらのマネージャー時代
効率よく仕事を覚えるには
当時のマクドナルドはまだマニュアルを綺麗に翻訳して印刷するなどの整備は十分でなかったが、仕事上必要なQSCを守る基準、規則は大量にありそれをハンバーガー大学で教え込むわけだ。その大量のマニュアルを覚えようとするのは筆者のようなメモリーの少ない人間には不可能だった。
しかも米国直輸入の横文字が氾濫しているからさっぱりわからないことだらけだ。習ったことを店舗で基準まで達成しようとすると失敗の連続だった。ドーナツ時代は何か困ったことやわからないことがあっても、ドーナツを食べながらコーヒーを飲んでじっくりと考える暇があった。

また、店長はドーナツマンという職人であり、店舗で最も権力を持つことが出来アルバイトは皆服従していた。しかし、マクドナルドでは全然違う環境だった。

ドーナツでは売れた時間帯でもたかが数万円の売り上げだった。従業員も最大6名くらいしか働く必要がなかった。

しかし、マクドナルドの昼時のラッシュはすごい物があり、アルバイトが15名、時間帯売り上げが15万円以上も売れる場合がある。(当時のハンバーガーの値段は80円だったのに)なれない筆者にとってはまるでハンバーガーが空飛ぶ円盤みたいに宙を飛び交って見えた。

そんな忙しい状況下では問題点に対して即座に正しい決定を下さなくてはいけないし、ピーク時に向けての準備も具体的にしていないと同じアルバイトの人数でも時間帯の売り上げが大きく異なるのだ。つまり、時間帯責任者のマネージャーの準備と人員配置により売り上げが異なるという点だ。

ドーナツ時代は売り上げを上げるためには美味しいドーナツの品質に気をつけて、近隣への販売促進が必要だったが、ブームにのったマクドナルドではマネージャーのフロアーコントロールが売り上げを決定するのであった。開店は8時からであり、マネージャーは7時に入店するのだが、準備をきちんとするためには朝の6時半からこないといけないのだった。

当時のマクドナルドはブームにのり売り上げは絶好調だった。今のようにアルバイトのトレーニングプログラムもないし評価制度もなかった。時給も全員同じ200円一律だった。

そんな状況で忙しくてはアルバイトは職人化し、無能な社員の言うことを聞かなくなってしまうのだ。店長にすれば筆者のようななれない社員よりベテランのアルバイトの方が有能であり頼りになり、当然の事ながら彼らをちやほやするようになる。そうすると新入りの社員を馬鹿にしていじめるようになる。

例えば朝開店準備に入ったときに開店担当のアルバイトがわざと遅刻をしたりする。それに悩まされた筆者は入店時間の1時間前に店に入り、アルバイトの行う開店作業をやることにした。当然朝6時頃入るから、独身の筆者は朝食を食べないで入店する。昼過ぎまで休憩がないから、腹の足しにするためと目を覚ませるために朝のラッシュが終わった後、コーヒーと牛乳を買い、コーヒーカップに冷たい牛乳を入れ、温度を下げてから一階の厨房から2階の事務室に行く間の数秒間に一気に飲み干すという特技を身につけるようになった。それ以来マクドナルド在籍中は店舗を訪問するとコーヒーと牛乳を買って飲むという習慣が身に付いた訳だ。

こうやって改めて店長見習いの仕事をやるのは大変役に立った。ダンキンドーナツでは店長を長く務め自信があったが、個々でもう一度店長の仕事は何なのかをじっくり学ぶのに大変良い機会であった。短期間の間にいろいろの店長を見ることが出来それが自分が店長になったときに大変役に立ったのだ。仕事を覚えるのに無我夢中で仕事をするという肉体派の仕事のマスターも重要だが、ベテランの店長の仕事をじっくり比較して見るというのも大変勉強になるのだった。

筆者のドーナツ時代は店長と言うより職人だった。品質管理と販売促進は一生懸命やったが、利益管理や経費管理は部下にまかせっきりだった。マクドナルドでも同じだと思っていたのは大きな勘違いだった。マクドナルドのマネージャーの業務はピーク時のフロアーコントロールと、人件費管理、食材費管理と言う厳しい利益管理だった。毎週、棚卸しを行い、各食材の使用量、人件費、その他の経費を細かく算出する週間利益管理を毎週日曜日に徹夜で行うのだった。

マクドナルドではペニービジネスと言って、1円の利益を大事にする。当時のドーナツの食材コストは約25%位であったが、マクドナルドは牛肉を使用しているため、38―42%と桁違いに高い食材原価率であった。だからちょっとでも人件費をオーバーしたり、食材の無駄を出したら利益がでないと言う厳しい物であった。そのため、タマネギやケチャップの歩留まりまで厳しく管理し、ケチャップの缶を開封した後、ラバースパチュウラで一滴も残らないように掻き取るほどであった。

日曜日に徹夜して店舗運営上の無駄を追求し、それを頭に入れながらフロアコントロールし、アルバイトがケチャップの缶を開けた後ラバスパチュウラを使っているかという具体的なチェックを行うのだ。この数値を把握したフロアーコントロールというのがマクドナルドのマネージャーの具体的な業務であり、数値管理の弱かった筆者は苦手なペーパーワークに毎週悩まされたわけだ。この経験で本当の数値管理を身につけることが可能になったのだ。この2ndアシスタントマネージャー時代からスーパーバイザーに昇進するまでの2年間は殆ど毎週1回は徹夜で書類を作成していた。お陰で免許証更新時に仮性近視となり眼鏡を作らざるを得なくなったくらいだ。

ダンキンドーナツ時代と異なり、時間に追われ刻々と正しい決断を下すためには失敗が許されない。しかし、ハンバーガー大学で習ったことを全てこなすには筆者の記憶力ではおぼつかない。そこでやらなければいけない内容をリストアップし、チェックリストを作成するようにした。

当時の課題はアルバイトを十分に集めることであり、毎日10人以上のアルバイトの面接に明け暮れていた。異なるマネージャーが面接をすると基準が異なり、マクドナルドの合わないアルバイトを採用することになり、店長を激怒させることが多々あった。そこでアルバイトの基準をリストアップしたチェックリストを作成し誰でも同じ基準に乗っ取って採用し、連絡のミスがないようにすることにした。暇なダンキンドーナツ時代に身につけていたチェックリストの作成法が大変役に立った。

次にやる必要があったのが1日の仕事の手順書を作ることだった。マニュアルで決められたことをきちんとやるにはチェックリストだけでなく作業割り当てをきちんとしなくてはいけない。作業割り当ては店舗の売り上げ状況により異なるので店舗毎により作成しなくてはいけない。それが先月号で説明した作業割り当て表だ。

ダンキンドーナツで作成になれていた筆者はすぐにそれを作成することが可能になった。ダンキンドーナツ時代は暇であったが、その間にマニュアル作りの手法などをじっくり学び実践していたのが役に立った。ダンキンドーナツ時代にじっくり勉強していなければ、空飛ぶハンバーガーが飛び交うマクドナルドの戦場ではそんなことをする暇もなく、 Up or outの弾丸に打ち抜かれていたことだろう。忙しくなってから勉強するのではなく、暇な内に勉強しそれを忙しい会社に転職し使うという積極性が、10店舗を越えようと努力している諸君にも必要なのではないだろうか。

ドーナツ時代には品質管理をきちんとしなければならないし一日中ドーナツを作り、食事にドーナツを食べていたため、マクドナルドに転職したときには虫歯を数多くやんでいた。また、マクドナルドのハイペースの仕事に付いていくのがやっとだった筆者は数多くの失敗を繰り返した。売り上げを大型金庫に保管しておくのだが、その重い扉を閉めるときにうっかり指を挟んでしまった。大型の扉は重く指をつぶし、爪をはがす手術をしなければならなくなり、1ヶ月は手が使い物にならなかった。

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