先端食トレンドを斬る- 今年はCVSの麺類が外食市場を喰ってしまう(柴田書店 月刊食堂1999年5月号)

<デリ部門強化で外食市場の切り崩し図る食品スーパー>

現在、外食全体が落ち込んでいるのは、景気の変動という原因の他に、競争の激化が挙げられる。競争といっても、外食という狭い範囲内のものではない。コンビニエンスストア(CVS)や食品スーパーといった、垣根を超えた競争相手が出現し、外食の市場を蚕食しているのである。
例えば、セブンイレブンのファーストフード(FF)部門である。昨年マクドナルドは空前絶後の利益を上げるなど、絶好調であったといっていい。しかし、その売上高2500億円は、94年度のセブンイレブンのFFの売上高3299億円に及ばない。しかもその差は広がりつつあるのだ。

これは日本だけに限ったことではない。アメリカにおいてもデリ、つまり惣菜分野が急成長している。アメリカではCVSは日本ほど発展していないので、主役は食品スーパーだ。先日訪米したときにスーパーのコンサルタントと話しをする機会を得たが、アメリカでは今、スーパーが大きく変わりつつあるという。特にデリの強化が著しく進んでいるというのだ。

これまでスーパーの売り物といえば、素材であった。ところが素材だけでは荒利が低い。そこで荒利のとれるデリが脚光を浴びることになった。もうひとつ、実はこちらが大きな問題提起になっているのだが、アメリカの40代の女性の70%は働いているのだという。そして、そうした女性たちの夕食の調理時間は15分しかないというデータも上がっている。これでは素材を購入して調理することなど不可能といっていい。ということは、スーパーも従来の素材型の商品構成では対応できないわけである。

実際、現在はデリを入れないと売り上げが落ちてしまうスーパーも多い。その点に注意してスーパーを回ってみると、かつて泥臭さを感じさせた西海岸のセーフウェイにもスチームコンベクションオーブンやロティサリーオーブンが導入されているし、デリコーナーもすばらしくよくなっている。

こうした傾向の発端は、やはりボストンマーケットの出現であろう。ボストンマーケットの登場で、まず影響を受けたのはケンタッキー・フライドチキン(KFC)だ。同チェーンはFFSと捉えられているが、もともとは惣菜屋なのだ。その証拠に、マクドナルドやバーガーキングは昼の売り上げがメインなのに対し、KFCは昼よりも夜、バーレルをテイクアウトして家庭で食べるという購買スタイルが中心だ。要するに惣菜なのである。

ただし。ディープフライでは毎日食べ続けることは出来ない。特にヘルシー志向の時代には、デリ惣菜であっても、栄養のバランスを考えたものでなくてはならない。つまり、家庭で調理する時間がない、しかしヘルシーなものを食べたいというニーズに、ロティサリーのチキン、ハムやポットパイ、そしてサラダを充実させることで応えたのがボストンマーケットの成功を呼んだのである。その影響を受けた結果、KFCはホームキッチンコンセプトを開発し、もう一度デリのマーケットに帰ってきた。同時に、スーパーも慌ててボストンマーケットに対抗しうるデリコーナーを設けるようになってきたわけである。

しかも、スーパーの中には、イートインのコーナーを設けるところが出現している。サンディエゴのホートンブラザのノードストロームの地下にはファーマーズマーケットという食品スーパーが入っている。このスーパーの一角にデリやグルメコーヒー、ベーカリーがあるのだが、その目の前には中庭があって、そこにテーブルが並べられている。デリやコーヒーバーで買った商品をその場で食べることが可能なのだ。ダウンタウンだから、昼時ともなれば、近所のビジネスマンがそこで食事をしているわけである。

チョイスの幅は広いし、何しろスーパーだから価格も低い。加えて、スーパーの売り方も、例えば野菜を野積みで陳列するなど、産直やヘルシー感を積極的にアピールし始めて、より訴求力を高めているのだから、これで確実にレストランのお客は喰われていることになる。要するに外食のお客を取り組むことに、スーパーは真剣に取り組み始めたのだ。

一方、外食の方も黙っていない。例えば、フレッシュチョイスというレストランは、サラダバーと焼きたてパンの専門店という形で、デリやスーパーのお客を取り組もうとしているわけである。フードコートの中でも、デリ風のサラダショップなどが大流行しているのだ。

話は前後するが、惣菜マーケットはこれからまだ伸びると言われている。というのは、西暦2000年にはどの年齢層の女性でも、70%は働いているだろうと予測されているからだ。

<セブンイレブンでこの夏冷麺が売れると思う理由>

以上はアメリカの状況なのだが、これはほとんど日本に当てはまるといっていいだろう。アメリカの場合は食品スーパーだが、日本の場合はCVSがその役割を果たしている。現在の中食のマーケットサイズは6兆8000億円と言われている。これは現在も増加しつつある。それは即ち、27兆円から30兆円といわれる外食市場、そして120兆円から150兆円といわれる小売業の市場のいずれかが蚕食されるということになる。
これまで中食を支えているのは若い人たちだといわれていた。ところが、すでに年配者も中食を買っている時代なのである。これはどういうことなのかというと、女性は55歳以上になると食事を家で作るのが嫌になるらしいのだ。というのはまず子供が育ってしまうからだ。基本的には母親は子供のために食事を作っているのだが、子供が育ってしまえば作る必要はなくなる。共稼ぎも増えているから、作らなくていいのならそれにこしたことはない。そして、その年代は年々下がっているともいわれている。

若い人は当然CVSを利用するし、家で作らない家庭が増えるから、これからは中食の分野はますます伸びてくるはずだ。実際、東秀のオリジナル弁当、ダイエーのきゃぷてんクックを見ていると、若い人よりも主婦が客層の中心だ。商品も今までは家で作っていたであろう煮物やきんぴらである。

年配の人々は、CVSも利用している。CVSのFFSで伸びているのは調理麺と生ずしだ。これは今までそば店や寿司店、あるいはテイクアウトの寿司チェーンという外食が担っていた世界だ。特に調理麺、中でも冷麺(加熱しないそばやうどん)は、ここ2年間で急速に伸びている。これはふた夏猛暑が続いていたことが大きい。

その調理麺を誰が食べているか見てみると、まずOLなどの女性、それに年配の人々である。外食にとって脅威なのは、今年セブンイレブンが更に調理麺に力を入れていることだ。これまでの同チェーンの調理場の欠点は欠品、つまり品切れを起こしていた点である。なぜそのようなことが起こるかというと、冷麺というのは気温が28℃を超えると急速に売れるからだ。

気温と食品の売れ行きには相関があり、FFSでも28℃を超えるとシェイクやアイスクリームの売れ行きは落ちて水物が売れるようになる。暑いならアイスクリームなどは売れるように思われるが、28℃を超えるとしつこくなってしまうから売れなくなるのだ。つまり、さっぱりしたものが食べたくなる境目が28℃だと推察できる。CVSでもそれは同様で、28℃までは弁当でいいが、それを超えると冷麺が出るようになる。

セブンイレブンの売上を支えているのは、膨大な情報量だといわれている。ロスがなく、しかも欠品を起こさない適正な発注が出来るのも、過去のデータをもとにしているからだ。ところが、冷麺のように、気温が28℃を超えると一気に売れるような商品は、これから夏に向かっていく時期は、過去のデータが当てにならなくなる。そこでセブンイレブンは昨年から冷麺については過去のデータをなくした。要するに、オーナーが自分で発注量を考えなければならないようにしたのだ。オーナーは真剣に予測をせざるを得なくなり、その結果、欠品がなくなり、売上も上がった。むしろ過去のデータに頼りきりで発注している商品よりも、いい結果をもたらしたのである。

ただし、6000店を超えるチェーンだけに、真剣に予想するオーナーもいればそうでないオーナーもいる。そこでセブンイレブンは今年から天気予報のシステムを導入したのである。それも20km四方のエリアの温度カーブ、湿度カーブが6時間毎に更新されるという最新のウェザーニュースを見ながら発注できるというシステムだ。これはこの夏に向けて、ものすごい武器になるはずだ。

その結果、外食、つまりそば店はCVSに喰われていくことになる。実際、そば店は減少しているのに、そば全体の消費量は伸びている。つまり、CVSがそば店を呑み込んでいるのだ。

もうひとつ、CVSでは冷凍うどんも大きな伸びを示している。この伸びを支えているのも、高齢者や主婦層である。以前からあったが、今一つ伸びていなかった冷凍うどんは、高齢の特に男性客がその存在を知るようになってから急速に伸びているのだ。

こうしたことからわかるのは、セブンイレブンに代表されるCVSは高齢者や主婦層をターゲットとして捉え始めているということだ。商品開発の方向を見ていてもそれは明らかだ。そば、うどんの強化はもちろん、弁当や惣菜にしても薄味にするなど、利用客の年齢変化を意識している。

<新しい設備と技術の普及が中食の伸びを支える>

CVSのFFCのあおりをじかに受けているのが、持ち帰り弁当チェーンである。なぜ厳しいのかというと、これまでのようにショーケース1本、7‾10アイテムの弁当だけでやっていくというのでは、チョイスの幅が狭すぎるのだ。例えば、オリジン弁当の前身であるファミリー弁当は、典型的な持ち帰り弁当店で、弁当のチョイスの幅はごく限られており、そのため売上はまさにCVSに喰われて落ち込んでいた。それを打破するために開発されたのがオリジン弁当なのだが、惣菜を加えること、お客のチョイスの幅を一気に拡大したことが成功につながった、と私は分析している。
ということは、持ち帰り弁当の世界では、今後は店の規模を広げ、CVSのFFCコーナーよりもチョイスの幅を広げたところだけが生き残れると考えていいだろう。実際、熊本のヒライなどは50坪ぐらいの規模があり、中にはイートインコーナーが設けられている。これはすでに外食と同じだ。

オリジン弁当など、いわゆるスクラッチで製造している弁当総菜店で必ずつきまとう問題が、品質のバラツキと衛生面の管理問題である。これは、以前に触れたクックチルのシステムを導入すれば解決する。きゃぷてんクックなどでは、完全にクックチルシステムを使った集中型加工を想定しているようである。

クックチルがテーマのときにも触れたように、クックチルは万能の調理法ではない。焼き物などもできないことはないのだが、おいしくはない。しかし、それらは店内調理すればいいのだ。逆に煮物などは店内調理する必要はないし、実際にタンブルチラーで作った方がおいしくなる。したがって、クックチルと店内調理をうまく組み合わせれば、おいしくて生産性の高い惣菜チェーンが生まれる可能性もある。その意味では、きゃぷてんクックの動向は注目される。

一方、CVSに遅れをとっていた食品スーパーも中食分野に力を入れている。素材を売って2割5分程度の粗利をとっていた彼らには、調理して粗利が4割になったら御の字なのだ。しかも原価で6割もかけられるのだから、当然おいしいものが出来る。外食よりもバリューがあって、しかも粗利がとれるのだから、勢い力が入るというものだ。

かつて、スーパーは同じような考えから店内調理で惣菜を売ろうとして失敗している。なぜ失敗したのかというと、それをパートタイマーという人手に頼っていたからだ。だからバラツキが生じるなどレベルが低く、生産性も低かった。ところが、現在はしっかりと設備投資を行い、セントラルキッチンと見まごうばかりの厨房を備えている。サミットの厨房などは、並のレストランでは太刀打ちできない充実ぶりだ。かつての失敗は考えられないといっていいだろう。

胃袋はあくまでひとつだということを考えると、外食はこうした分野での動向にますます注目していかなければならない。

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