先端食トレンドを斬る- 米国テーマレストランが繁盛するこれだけの理由(柴田書店 月刊食堂1996年3月号)

<お客を楽しませるという思想を学べ>

年末から年始にかけての2週間を、私はアメリカ西海岸で過ごした。今回の視察では「ユニバーサルスタジオ」をはじめとするテーマパークとレストランの関係、、「ボストンマーケット」に刺激を受けて急激にレベルアップしている食品スーパーのデリ部門、ファーストフードの値下げ合戦以降の動向などをリサーチしてきたので、今月から3回にわたって報告していきたい。
今回はまずテーマパークとレストランのあり方について考えてみたい。私は、昨年11月号の本稿でテーマレストランを取り上げ、「お客を心から楽しませる、エンタティンメント性のあるサービスが鍵となる」と述べた。その後、鎌倉シネマワールドを訪ねたのだが、正直に言ってがっかりした。

まず、ロケーションがよくない。いまどき駐車場のないテーマパークなどは論外である。仮に駐車場があったとしても、混雑がひどい湘南のあの場所には行く気もおきない。ということは、ロケーション的にふさわしくない場所に開設したことになる。また、アトラクションにも魅力が乏しい。たとえば忍者ショーにしても、日光江戸村のそれに遠く及ばぬものである。

そのようなことは飲食業にとってはどうでもいいことだと言われてしまえばそれまでだが、レストラン街にしても、施設を見たときに感じた違和感をぬぐい去ることはできなかった。見た目は派手だが中身のないレストランが多かった鎌倉シネマワールドの中で、唯一頑張っているなと感じたのが大庄のテックスメックスレストランである「ロデオスター」だ。ここは商品はもちろん、サービス、内装もすばらしかったのだが、ただ、施設との関係性には疑問を持った。テックスメックスは、確かにアメリカで流行っているコンセプトではある。しかし、鎌倉というロケーション、シネマワールドというテーマとテックスメックスがどうつながるのか、ということはいくら考えても私には理解できなかった。

私は、鎌倉シネマワールドでがっかりした事実を胸に収めて、今回再びアメリカのテーマパークを回ってみた。そして、改めて実感したのはエンタテインメントについての日米の差であった。さまざまな分野で日米の差はなくなったという言い方がされているが、ことエンタテインメント、人を喜ばせることに関しては、まだまだ何十年もの差があると言っていいだろう。テーマパークに付随するレストランについても同様なことが言える。

何度も述べてきたように、レストランとは単に食べるためだけの場所ではない。お客を楽しませることが大前提であり、楽しませるものの中に商品、サービス、雰囲気などがあるのだ。単純においしいものを提供するということでは、デリに負けてしまうかもしれない。あるいは自動販売機だっていいわけだ。しかし、サービスや雰囲気という、他では提供できないものがあるから、お客はレストランで食事を楽しむことができる。

私は、日本のレストラン、いやサービス産業全体でいちばん遅れているのが人を楽しませるという部分だと思っている。だからこそ、飲食業の方々にはぜひ、ユニバーサルスタジオを見ていただきたい。人を楽しませるという原点を、そこで感じ取っていただきたいからだ。

<米国のコンセプトを移植するときは「翻訳」が要>

ではユニバーサルスタジオのどこを見るか。まずひとつ目は、スタジオ内のアトラクションである。とくに、お客をアトラクションそのものに参加させ、楽しませるという思想、そしてそのためのテクニックは、ぜひとも学び取っていただきたい部分である。
話は若干それてしまうのだが、日米のエンタテインメントの差はサービスに対する考え方の違いに起因するのではないだろうか。日本のサービスは一期一会という思想が根底にあるといっていい。今日しか会えないかもしれないので最善を尽くすという緊迫感のサービスなのだ。そのように教えられ、教育しているから笑顔もない、こわばったサービスとなる。ところがアメリカの場合は、サービスとは楽しませるものであり、そのために何をするかという発想である。つまり、サービスという同じ言葉ではあっても、その裏に込められた意味は違っているのだ。

意識的にしろ、そうでないにしろ、日本のサービスは茶道におけるおもてなしを手本にして形成されてきた。しかし、すべての業態がそうである必要はないのではなかろうか。もちろん、懐石などのある種のジャンルでは持ち続けるべきだとは思うが、テーマレストランなどカジュアルな業態では一期一会を捨てるべき時期に来ていると私は考えている。

ユニバーサルスタジオでは、外に設けられたシティウォークもしっかり見ておく必要がある。ここには「トニー・ローマ」や「ウォルフギャング・パック」といったロサンジェルスの名物のレストランが並んでいる。西海岸に来てロサンジェルスを満喫できるレストランをおいているのだ。お客が何のためにこの場所に来るのか、きちんと理解し、それにふさわしい店を選んでいる。要するにトータルコーディネーションがきちんとできているわけだ。逆に言えば、それができていないから、鎌倉シネマワールドは、ちぐはぐな印象を与えるのであろう。

別の見方をすれば、ユニバーサルスタジオという成功コンセプトを日本に持ってくるときに翻訳を間違えたということもできる。これは、外食業がアメリカでヒットしたコンセプトを日本に移植するときに起こりがちな間違いと同質である。たとえば、アメリカでテックスメックスやカリビアンのレストランが急成長していると、日本にそのまま持ってくるケースが多い。しかし、たいていは失敗するはずだ。

アメリカでテックスメックスやカリビアンが伸びているのは、人口動態という背景があるからだ。これにはふたつの理由がある。まず全体的に高齢化しているために、暖かくて暮らしやすいところに人口が移っているということがひとつ目の理由だ。ふたつ目の理由は、北部から発達した鉄鋼や自動車などの産業が衰退し、コンピュータなど新しい産業が生まれてきたためだ。新興産業は土地の安い南部からスタートする。これらの理由から人口が南下しているのである。

人口が増え、旅行する機会も増えると、南部の料理であるカリビアンフードやテックスメックスフードを食べる機会も増加する。なじみの料理になってきたからこそ、これらは伸びてきたわけである。ところが、日本にはこうした下地がない。だからうまくいかないのだ。あえて日本に翻訳すれば、テックスメックスやカリビアンは中国料理や韓国料理、あるいは企業進出や旅行者が急増している東南アジアの料理というイメージで捉えるべきなのだ。

こうした視点で考えると、日光江戸村はアメリカのテーマパークを非常にうまく翻訳していると感心する。食べ物にしても、茶屋風の店で、だんごやお焼きのように昔風のものを提供しているではないか。全体のイメージの統一がきちんとできているのである。 さて、ユニバーサルスタジオとともに見ていただきたいのがディズニーランドだ。ディズニーランドで感心するのは、お客を待たせているときも楽しんでもらおうという考え方だ。つまり、アトラクションに入るために並んでいる時でも、お客を退屈させない工夫があちこちに取り入れられているのだ。これもいついかなる時もお客に楽しんでもらおうというエンタテインメント性が基本になっている。

もうひとつ注目したいのは、レストランが高級化してきている点だ。まず、ディズニーランドホテルのレストランは、トレンドを取り入れてイタリアンに変わっており、たいへんおいしくなっている。また、園内の飲食施設も変わってきている。かつてディズニーランド内のキッチンにはハイテク機器は使われていなかった。アルバイトが使うことが前提なので、水を被っても故障しない機器のみの、いわゆるディズニーランドスペックと呼ばれるキッチン仕様があったのだ。ところが、今回行ったらロティサリーオーブンやエスプレッソマシンなど、時流の機器類がかなり導入されていた。つまり園内の飲食施設もトレンドに合わせて変化しているのである。とくに、園内飲食施設の設備、設計、キャバシティに対する内容、そして、メニューに至るまで、すべてユニバーサルスタジオよりも上であった。ただし、シティウォークまで含めれば、ユニバーサルスタジオに軍配は上がるだろう。

日本のディズニーランドも、セントラルキッチンを含めてすばらしい設備を持っているのだが、アメリカのディズニーランドと比べると、残念ながら遅れているようだ。ただ、日本の場合はリモデルの時期にきており、その際には今回見たような最新の設備が導入されることは間違いないだろう。

<アメリカのレストランに残る経営者魂に感激>

テーマパークについてはまたいずれ触れるとして、次にハリウッドのロデオドライブ周辺で出会ったすばらしいレストラン2店についても報告しておきたい。
1店目はチーズケーキファクトリーである。40種類以上のチーズケーキを揃えているというのが同店の特徴なのだが、流行っているのはそれだけの理由によるものではない。まず料理のボリュームが普通の店の1.5倍から2倍はある。もちろんおいしいし、価格も高いもので17ドル、平均すれば10ドル前後と、ロデオドライブにあるレストランとしては実にリーズナブルだ。

商品もすばらしかったのだが、何よりもよかったのがスマイルである。常に笑顔を絶やさずカジュアルなサービスに徹しているのだ。リーズナブルな価格でボリュームもたっぷりしているし、メニューバラエティも多い。それに加えてサービスもすばらしいのだから1日中お客が絶えないのだろう。

もう1店、ザ・グリルという店にも感激した。その店はネイションズレストランニューズ紙が毎年10店舗を選んでいるホールオブザフェイムに昨年選定された店だ。私が訪れたのは午後3時頃で、30ドルぐらいのランチを注文した。料理は量もたっぷりだったし、今回アメリカで食べた中でもいちばんおいしかった。しかし、私が感激したのは料理についてではないのである。

その店には、実にてきぱきと休業員に指示を与えているマネージャーらしき人物がいた。こんなマネージャーがいたら経営者は楽だろうなと思い、チェックの時に話をしてみると、何と彼自身が経営者だったのである。彼は他にデリショップを5‾6店経営しているのだが、レストランはザ・グリル1店だけしかやっていないという。このようなレストランは経営者自らが店に入って目を配っていかないと、すぐに原材料コストが跳ね上がり、またサービスのレベルは下がってしまう。その結果、固定客を失うことになる。自分のお客は絶対に裏切りたくない。だから1店しかできないというのである。

なるほど、グリル料理の店ではあるが、生カキは新鮮そのものだったし、その他の素材もすばらしいものではあった。

だが、それよりも彼の考え方、そして午後3時という、普通のマネージャーは引っ込んでしまいそうな時間帯でも客席で指示を与えているという姿勢に、私は感激したのである。聞けば1日18時間、週に6日間は店に出ているという。だからこそ、全米のトップ10に名を連ねているのであろう。

異論もあろうが、彼のような考え方がレストラン経営者のあるべき姿なのではないだろうか。そういえば、クリスマスの日に何気なく訪れたサンフランシスコのiHOPもオーナーも自らが汗を流して陣頭指揮をしており、それに負けじと従業員もコマネズミのように働いていた。パンケーキの提供される時間も早かったし、レベルも高い。周辺のレストランに比べて、何組みものウエイティングが出ているのもうなずけた。iHOPのように、もはや時代遅れと思われるコンセプトであっても、経営者の姿勢ひとつで新しい店に負けない繁盛店になるのだということを、私はこの店で改めて実感した。

アメリカ視察というと、最新のチェーンレストランばかり見ることが多いが、ザ・グリルのような単独店や、フランチャイズの中の繁盛店を訪れ、日本で失われつつある“レストラン経営者の情熱”にもぜひ触れていただきたい。最後にチーズケーキファクトリーとザ・グリルの住所を掲載しておくので、ロサンゼルスを訪れた折には、ぜひ食べに行ってもらいたい。

The Cheese Cake Factory/364N Beverly Drive,Beverly Hills,California
The GRILL/9560 Dayton Way,Beverly Hills,California

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