佐伯とプーリアの二拠点生活

南イタリア美食便り

食べることは生きること。何を、どう食べるか、または食べたいのか、という問いと人生をどう生きるか、生きたいのかというこのふたつの問いに対する答えは根底に共通する価値観が流れていると思います。そんなことを漠然と考えたりするのは、佐伯とプーリアの二拠点生活を始めて約15ヶ月が経ち、ちょうど半分づつの時間を両方で過ごしたことによって私の意識に変化が起こっているからかも知れません。

佐伯にいる間は単身赴任状態であることから、一番気が滅入るのが孤食が多いということ。何事も自分の心持ち次第で楽しむことは出来るだろうと思っても、自分のためだけに食材を選び食事を作り1人で食べるという行為を心の底から楽しめるという境地には到底至れそうもありません。食べることも生きることも誰かと共有するという要素が私には重要なのだということを実感しています。

私の佐伯での日常的な食料品調達先は、ローカルチェーンのスーパー、ナショナルチェーンのスーパー、もしくは道の駅、個人経営の専門店です。佐伯で手に入らないものは産直通販サイトから買ったりもしますが、できるだけ佐伯産のものを買いたいと思っています。種類は限られていますし佐伯産だから質が高いと一概に言える訳ではないとも思います。しかし鮮度は高く値段は安いことが多いし、望めば作った人と知り合いになったり実際に尋ねたりできるという地元ならではの繋がりが嬉しいと感じます。

この感覚はプーリアの田舎暮らしで当然のように培ったものだと思います。プーリアの夏のズッキーニ攻めの様にその季節たくさん採れるものをいかに色々な食べ方をして消費するかという課題。それを克服するために考え出された料理だったり保存食だったりが郷土食を作りだしていることを知って食についての意識が大きく変わりました。驚くべきヴァラエティの豊かさを誇るプーリアの郷土食。そのヴァラエティがあってこそ地産地消が成り立つのだと思います。

イタリアは国民性として食に対するこだわりが強い国であることは間違いないのですが、それはすなわち自分の人生を生きることに対するこだわりの強さとでも言えるのでしょう。そう考えるとイタリア人のおしゃれに対するこだわりや自己主張の強さも根っこは同じところなんだろうと納得が行きます。こだわりの強さは往々にして合理的ではないのですが、それが個性でもあります。戦後イタリアの地方都市再生が日本より早い段階で始まりプーリアが農業と観光を軸に発展している現状から日本の地方都市が学ぶことがあるとすれば、そういった自己肯定感とこだわりの強さを助長することかも知れません。

大橋 美奈子

大橋 美奈子

東京生まれ。演劇プロデューサーを志し、高校卒業後アメリカ留学。ニューヨーク大学芸術学部在学中は舞台、映画で俳優及びプロデューサーとして活躍。卒業後、メディア関係のリサーチ、コーディネイト会社を設立。現在はホスピタリティビジネスのコンサルタントである夫ジョヴァンニの故郷であるイタリア・プーリアから“外食とはエンターティメントである”という考えのもと“感動”を創る仕事を支えています。

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