カリン・マルメロ

南イタリア美食便り

プーリアの我が家にはマルメロの木があって、毎年この時期食べきれないほど実がつきます。マルメロとよく似たカリンが佐伯にもあります。

昨年、地域おこし協力隊として着任して1ヶ月ぐらい経ったこの時期、道の駅で売られていたカリンを使ってジャムを作り、クロスタータと呼ばれるタルトを作りました。地元で農泊を営む皆さんにお出ししたところ、「あーこんな食べ方したことなかった!」と喜んでいただきました。「うちでもたくさん採れるから貰ってちょうだい。」と言われわざわざお持ちくださいました。今年もお声がかかりいくつかいただいてきました。

カリンとマルメロは実の外側にうぶ毛がついているかいないかぐらいの違いで味も風味もよく似ています。独特の甘い香りは実を一つでも部屋や車の中に置いておくと芳香剤になるくらい強いです。どちらも生では食べられないので、ジャムやコンポートの他、果実酒にしたりシロップ漬けにして食されます。プーリアの我が家ではジョヴァンニが作る赤ワインと砂糖をかけてオーブン焼きにしたマルメロをチョコレートチップのアイスクリームと一緒に食べるのが大好きです。

調べてみるとカリンは中国、マルメロはイラン、トルコが原生地で、日本には経路は違うが両方とも1000年ほど前に渡来したとのこと。歴史は長いのに「名前は聞いたことあるけど見たことはない」と言う人も多いのかも知れません。庭木としてはあってもカリン酒とかカリンシロップとか毎年作っている家庭は今は多くはないでしょう。

カリンと言えばのど飴を思い浮かべる人が多いかもしれません。カリンのど飴を1985年から発売しているロッテと1000年以上前に空海が唐から持ち帰ってカリンを植えたとされる文献が残り、カリンの町として活性化を試みてきた香川県と徳島県の県堺にあるまんのう町が提携協定を結んでカリンの認知度を広げよう活動しているという記事を見つけました。国産のカリンの需要はこれから上がって行くかも知れません。カリン・マルメロファンとしては嬉しい限りです。

加工しないと食べられない果物なので、手が出しにくいこともあるでしょうが、手がかかるからこそ思いがのせられるということもあると思います。そう考えるとプーリアでは食べきれないほど成る季節の果物をジャムにして毎年クリスマスプレゼントに配っていたことを思い出しました。ジャムは自家製が基本で店で買うということが全くありませんでした。農産物を売って生計を立てている訳ではなくてもたくさんの果実や野菜に囲まれて生活しているだけでお金には換算できない心と体を豊かにする恵みを享受していると感じます。自然は至る所に手をかけることが喜びに変わる魔法を秘めていると思います。

大橋 美奈子

大橋 美奈子

東京生まれ。演劇プロデューサーを志し、高校卒業後アメリカ留学。ニューヨーク大学芸術学部在学中は舞台、映画で俳優及びプロデューサーとして活躍。卒業後、メディア関係のリサーチ、コーディネイト会社を設立。現在はホスピタリティビジネスのコンサルタントである夫ジョヴァンニの故郷であるイタリア・プーリアから“外食とはエンターティメントである”という考えのもと“感動”を創る仕事を支えています。

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