プーリアのソウルフードは、プレ・ディ・ファーヴェ(乾燥そら豆のピューレ)ですが、佐伯のソウルフードは「ごまだし」でしょう。 私のキッチンにも常備されています。
農水省の郷土料理百選や文化庁の「100年フード」にも選ばれている「ごまだし」は焼いた魚を胡麻、みりん、砂糖と一緒にすり合わせ醤油を足して仕上げた万能だしとも言える調味料です。大分県の漁獲量の70%が水揚げされる佐伯ならではの保存食と言えます。元々大量に獲れた魚を余さず食べる漁師の家庭料理でありその家それぞれの味があったということです。佐伯市内の食堂でも食べられるようになったのは100年以上前とのことで、お土産用の瓶詰めが販売され始めたのは1967年だそうです。少なくなったとはいえ今でも手作りするご家庭もあるようです。
ごまだしの元祖は年間を通して獲れる白身魚のエソを使ったものですが、アジやタイなどを使ったものもあります。茹でたうどんにごまだしと薬味を加えお湯をかけてかき混ぜる「ごまだしうどん」が一番ポピュラーな食べ方ですが、私はオリーヴオイルとかぼす汁を加えた自家製ごまだしドレッシングがとても気に入っています。もちろんパスタソースにもなりますし、マヨネーズと混ぜて野菜スティックのディップとしても美味しいです。 アラブ系の料理に多用されているタヒニに魚と醤油の旨みが加わった味は、海外でも受け入れられるポテンシャルはとても高いと思います。
18軒のごまだし製造販売者がメンバーの「佐伯ごまだし暖簾会」は各メーカーがそれぞれの味を追求していますが、「素材は安心・安全なものにこだわる」「使用する魚は地元産にこだわる。」「made in 佐伯に誇りを持ち、郷土の味を後世に伝える」という会則はイタリアでポピュラーなスローフード運動の指針とも重なります。
未来に残したい味として国際スローフード協会の「味の箱舟」に登録されている食品の数は本家イタリアではなんと現在1202品。それに比べて日本国内では83品です。同じように伝統的食品・料理の継承を目指すために作られた文化庁の「100年フード」への登録は250件。一度失われてしまった味を復活させるのは至難の技だと思いますが、数だけ見ると、日本にはまだまだ掘り起こすべき伝統の味がありそうに思われます。
「佐伯ごまだし」を検索してみると、カルディでも売っているようですし、無印良品のネット通販にも載っています。Amazonでも買えます。その中でも「漁村女性グループめばる」というメーカーのものが多くヒットします。このメーカーさんは最近、地元出身ではなく元々近畿大学で養殖用の餌の開発などを研究なさっていた30代の方を社長に迎えられたとのこと。
個人的には勝手に海外進出も含め将来の展開を大いに期待しております。