10世紀のイギリス、カンタベリー大聖堂のシジェリック大司教の日記に記されたフランス、スイスを通りヴァチカンでローマ法王の祝祷を得る旅のルートを基本に、キリストの聖地エルサレムまで続く巡礼路、フランチージェナ街道をヨーロッパの文化と歴史、さらヨーロッパ人のアイデンティティの象徴として整備し繋げようという計画がヨーロッパ評議会の正式なプロジェクトとして進められています。1994年から始まったこの計画、陸路の終点となるプーリアのブリンディジ及びサンタ・マリア・ディレウカまでの道のりが繋がり2019年に正式に承認されました。
このヨーロッパフランチージェナ街道協会の総会が今年はプーリアのモンテ・サンタンジェロで行われたので地元オストゥーニ支部の会長と一緒に参加して来ました。
フランチージェナ街道は現在はイギリス、フランススイス、イタリア国内合計16州を通る全長3,200kmのルートです。さらに今後イギリス内では起点地をシジェリック大司教の日記が保存されているロンドンまで伸ばしたり、スペインのカミーノ・ディ・サンティアゴなど他の巡礼路とも連携してネットワークを広げる構想があります。ヨーロッパ文化の中心はキリスト教ですが、その聖地エルサレムはユダヤ教、イスラム教の聖地でもあり、その周辺では現在も戦火が絶えません。一方で、宗教を超えて文化や観光の交流を促すことを目的として歴史の道を繋げようという試みが進められています。とはいえ発足から30年、実情はそう簡単ではないようです。特に2019年に追加承認されたばかりのルートがある南部カンパーニア、バジリカータ、プーリアの3州では、認知度はまだまだです。
プーリアには「すべての道はローマに通ず」で有名なアッピア街道の終点であるブリンディジがあり、古代ローマの道アッピア・トライアーナ街道(ローマから途中のベネヴェントで二分されバーリを通る道をトライアーナ街道と言う。もう一方はターラントを通りブリンディジで合流する)を観光ルートとして整備しようという動きもありますが、こちらもボランティア頼みの市民団体が主体となっての活動でスローフードやスローライフのシンボルである、カタツムリやロバの歩みのごとくであります。
キリスト教巡礼路で一番有名なスペインのカミーノ・ディ・サンティアゴはフランスとスペインの国境地域で美食で有名なバスク地方を通ることもあり宗教を超えて毎年30万人以上の人々が訪れます。日本国内でも四国八十八カ所の寺社を巡るお遍路や熊野古道などやはり同様の実績のあるルートがあります。
サイクリングやフットパスなどのプログラムでアウトドアアクティビティをセールスポイントにする佐伯市は大分県の最南東で宮崎県延岡市との県境にあり、海山の良質な食材も豊富なことから、「東九州バスク計画」なると企画が持ち上がったこともあります。
昔栄えたルートを発掘して「繋げる」巡礼の道には、地域と地域を「繋げる」、昔と今を「繋げる」、体と心を「繋げる」など「繋げる」がキーワードのようです。
一度失ったものを「繋げる」のは容易なことではないと思われますが、努力する価値はありそうです。