プーリアでしか体験できないようなワークショップ

南イタリア美食便り

プーリアに戻って早々、日本からお料理教室の先生とその生徒さんたちが我が家においでくださいました。プーリアでしか体験できないような手作りの素材を家庭で作るワークショップをコーディネイトさせていただきました。

講師は我が家のお隣に住むジョヴァンナさん。彼女はマッセリアと呼ばれるプーリアの伝統的な農園の管理人の家に生まれ育ち、農作業からチーズやパスタなど農産物の加工品作りを幼い頃からおばあさんやお母さんの手伝いをしながら覚えた方です。現在65歳、20歳の頃に結婚して夫と一緒にドイツへ移住、ジェラート屋さんを経営して約30年ほどドイツ暮らしでした。ドイツで生まれた子供が小学校へ上がる年齢になるとイタリアの教育を受けさせるためプーリアの親戚の元へ預けてドイツで働き続けそれなりの財をなしました。若い頃にプーリアの自分が生まれ育った家の近くに土地を買い、家を建てて15年ほど前に夫婦揃ってドイツからUターンして来来ました。今は近くのアグリツーリズモで料理や食育のデモンストレーションをしたり、複数のドイツ人オーナーの貸別荘の管理を仕事としています。

彼女の経歴や生き様はここ50年ほどのプーリアの農業と観光業、農民文化の変遷とプーリア人の郷土愛や家族愛の強さを象徴的に表しているようにも思えます。プーリア魂というようなものを感じずにはいられません。

日本から来たお料理教室の先生と生徒さん達には、オレキエッテパスタとモッツァレッラチーズの作り方を体験していただきました。オレキエッテというのはイタリア語で「小さな耳」という意味のショートパスタ、細長い紐状にした生地を小さく切り片方の端を指で抑えながらナイフで引き伸ばし親指に引っ掛けてくるりと回して窪みを作ります。プーリア郷土料理の代名詞でもあるパスタです。目をつぶっていてもできそうな彼女の手捌きの良さはまさに名人芸。オレキエッテだけでなく彼女の手にかかると小麦粉と水だけでのパスタ生地が成形の仕方で様々な形に変わっていくマジックを目の前にして生徒さん達は目を丸くしていました。見るのとやるのでは大違いで簡単そうに見える作業も一筋縄では行きませんが、皆さん200gの小麦粉の生地を撚り終わる頃には少しコツを掴んで来られた様でした。

モッツァレッラチーズ作りも大量に作るチーズ屋さんではなく家庭のキッチンで目の前で牛乳が姿を変えていく様を見ることはとても貴重な経験です。実際そのプロセスがいかに手間のかかる作業であり、牛の生乳の状態やその日の天気などなど作る人の経験と五感を駆使してのみ出来上がる一つの作品であることを感じていただけたかと思います。また、最近日本でも知名度が上がっているブッラータというチーズが元々余ったモッツァレッラを新たな商品として作り上げたプーリア人の知恵であることもお伝えすると、さらに驚かれておられました。

実はジョヴァンナさんには日本のプーリア料理を愛する料理人たちも多くを学んでいます。受け継いでいきたいのは食べ物作りへの愛情の深さです。

大橋 美奈子

大橋 美奈子

東京生まれ。演劇プロデューサーを志し、高校卒業後アメリカ留学。ニューヨーク大学芸術学部在学中は舞台、映画で俳優及びプロデューサーとして活躍。卒業後、メディア関係のリサーチ、コーディネイト会社を設立。現在はホスピタリティビジネスのコンサルタントである夫ジョヴァンニの故郷であるイタリア・プーリアから“外食とはエンターティメントである”という考えのもと“感動”を創る仕事を支えています。

関連記事

メールマガジン会員募集

食のオンラインサロン

ランキング

  1. 1

    「ダンキンドーナツ撤退が意味するもの–何が原因だったのか、そこから何を学ぶべきか」(オフィス2020 AIM)

  2. 2

    マックのマニュアル 07

  3. 3

    水産タイムズ社 橋本様インタビュー

アーカイブ

食のオンラインサロン

TOP