”古き良き”ところ

南イタリア美食便り

大分県佐伯市の地域おこし協力隊に着任してまる8ヶ月を迎えようとしています。そのうち半分はプーリアから仕事をしています。地域おこし協力隊という制度自体は総務省が制定し2009年に始まりました。都市部からの移住者を対象としている点以外、委託される職務の内容も諸々の規定も自治体によって違いますが、報償費や活動費は総務省から出ています。佐伯市では昨年度から雇用形態が市の準用職員ではなく、個人事業主となり、所属する市の部署への業務報告義務などはありますが、仕事の仕方の自由度が増したと言えます。

私の任務は、海外、主に欧米豪からの誘客とそのための準備活動です。そのためにはまず自分が佐伯について学ばなければなりません。九州で一番面積の広い佐伯市は海、川、山と自然に恵まれています。歴史的、文化的素養もあり穏やかでおっとりした人々が多いという第一印象でした。海外生活が長く、都会育ちの「外者」である私からすると佐伯には日本の原風景的な要素が溢れていて、それでもそれを全面に押し出して強くアピールするといったでしゃばり感がないところが、また日本的で良いところだと思えるのです。都会や有名観光地では失われてしまった”古き良き”ところが、食文化や祭りなどを始め生活習慣の中にまだ辛うじて残っている感じがするのです。この感じは、私がプーリアに出会った時の印象と実は重なるところが多いのです。

私がプーリアへ移住した当初、地元の人は口を揃えて「なんでこんな何にもないところへわざわざ来たの?」と言いました。佐伯でも同じことを言われます。私はなんと返答したら良いのかわからないというのが本音ですが、同時に「こんなに何でもあることに本当に気づいていないのかしら?」とも思いました。それが徐々に”気づいていないわけではなく、心の底では多くの人に知られたくないとさえ思っているに違いない”と思うようになりました。それは穿った見方をすれば、”外の人に大切な地元を荒らされたくない”という潜在意識かも知れないと感じたのです。

先週行われたG7サミットの会場となったプーリアは、いまだに決して誰でも知る場所とは言えません。今回の抜擢は対外的には知名度アップになったことは確かですが、地元では会場となったホテルに対して動いた政治的な働きや周辺の観光事業者からの不平不満などなどが声高に噴出しています。観光地としての知名度や評価が上がることによって、それまで相続人の不在で荒れ果てていた土地や家屋が地元以外の人や外国人に買い上げられて宿泊施設になったりするといった事がプーリアの、特に我が家周辺ではこのところ盛んに行われています。過疎化が進む農村部の人から見れば羨ましい限りと思われるかも知れませんが、ブームに乗じたそういった動きには、歴史や文化の礎やそれに対する敬意が欠如している事が多く、地元の人々の雇用は増えたとしても、それに伴う生活の変化に対して、一抹の不安感があることも否めないように思われるのです。

今後私が佐伯の観光面での発展になんらかの形で寄与することができるとしたら、プーリアの発展を見てきた経験が役に立つことがあれば良いと思っています。

大橋 美奈子

大橋 美奈子

東京生まれ。演劇プロデューサーを志し、高校卒業後アメリカ留学。ニューヨーク大学芸術学部在学中は舞台、映画で俳優及びプロデューサーとして活躍。卒業後、メディア関係のリサーチ、コーディネイト会社を設立。現在はホスピタリティビジネスのコンサルタントである夫ジョヴァンニの故郷であるイタリア・プーリアから“外食とはエンターティメントである”という考えのもと“感動”を創る仕事を支えています。

関連記事

メールマガジン会員募集

食のオンラインサロン

ランキング

  1. 1

    「ダンキンドーナツ撤退が意味するもの–何が原因だったのか、そこから何を学ぶべきか」(オフィス2020 AIM)

  2. 2

    水産タイムズ社 橋本様インタビュー

  3. 3

    マクドナルド 調理機器技術50年史<前編>

アーカイブ

食のオンラインサロン

TOP