ローザマリーナ

南イタリア美食便り

ブーツ型のイタリア半島の靴裏、土踏まずの部分のイオニア海に面したカラブリア州とバジリカータ州の境目の町、ロッカ・インペリアーレという町に行ってきました。

この街には毎年夏に数回訪れます。夫ジョヴァンニのロンドン時代からの親友の出身地で、美しく整備された長い海岸と丘の上の神聖ローマ皇帝フェデリコ2世の建てた城、そして果汁たっぷりのレモンが有名な町です。

プーリアは観光やワイン、ブラータチーズなどここ数年ブレイク中の感がありますが、カラブリア州の知名度は日本でも世界的にもまだのびしろがたくさんあります。私たちはあえて車で1時間半かけても、渋滞気味のプーリアのビーチを避けてここまで来る価値があると思っています。

ロッカ・インペリアーレとはイタリア語直訳すると「皇帝の石」。旧市街は海から4km程離れた小高い丘の麓から頂上の城まで急勾配な螺旋状に築かれており「イタリアの美しい村」連合に登録されている人口3000人ほどの小さな村です。夜、ロウソクがたくさん灯ったデコレーションケーキのように暗闇に浮かび上がる様子は幻想的な美しさです。

私たちがここに来る理由は、ロンドンから帰国後ここでリストランテ ピッツァリアを30年来経営する旧友とその家族に会うことが一番ですが、透明度の高い海と海から月が上るまでのんびりと過ごすこと、そしてカラブリア名物のンドゥイヤとローザマリーナを買って帰るためでもあります。

ンドゥイヤは唐辛子を効かせた豚肉ペーストとも言えるサラミの一種、ローザマリーナは生シラスの唐辛子漬けで、カラブリアの特産品です。両方とも唐辛子の赤みを帯びた色ですが、飛び上がるほどの辛さではなく発酵食品特有のマイルドな旨味があります。

私は特にローザマリーナが大好物。ちょっと調べたところではシラスを食する文化は世界中でも日本とイタリア、そしてオーストラリアの原住民アボリジニーぐらいのようです。イタリアではビアンケッティ、ネオナート、ノヴェラーメなどと呼ばれ北部ジェノヴァなどではフリットにする食べ方が一般的。

プーリアでは方言でスキューマ ディ マーレ(海の泡)と呼ばれ、生をレモンとオリーヴオイルで食べていました。「食べていました」というのは、2006年からEUでは海洋生態系保護のため11cm以下の青魚の稚魚を漁獲するのは禁じられており、2010年まではカラブリア州のみ認められていましたが、それも撤回されているので公式にはシラス漁は違法だからです。

イタリアでは取り締まりが緩く刑罰もないので現実的には密漁され販売もされていますが、ローザマリーナのような加工品には主に中国から原料を輸入しているのが現状とのこと。伝統的郷土料理の食材でしたが、手に入りにくい高級食材になってしまいました。

日本では一般的にはシラス漁に関してそれほど危機感を感じていないかと思いますが、遅かれ早かれ日本でもシラスがなかなか食べられなくなる日が来るというのが切実ですね。

大橋 美奈子

大橋 美奈子

東京生まれ。演劇プロデューサーを志し、高校卒業後アメリカ留学。ニューヨーク大学芸術学部在学中は舞台、映画で俳優及びプロデューサーとして活躍。卒業後、メディア関係のリサーチ、コーディネイト会社を設立。現在はホスピタリティビジネスのコンサルタントである夫ジョヴァンニの故郷であるイタリア・プーリアから“外食とはエンターティメントである”という考えのもと“感動”を創る仕事を支えています。

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