プーリアのアドリア海沿いには最北部と最南部にそれぞれレジナ湖、アリミニ湖という海水湖があります。どちらも名物はウナギ。今回は北部のレジナ湖の畔にあるLe Antiche Sere(レ アンティケ セーレ)というレストランで天然ウナギ料理をいただきました。
大西洋のメキシコ湾流、北大西洋海流、カナリア海流、大西洋赤道海流に囲まれたサルガッソ海からアドリア海まで旅をしてこの細長いレジナ湖で育つウナギは12世紀の神聖ローマ皇帝フェデリコ2世も大好物だったという記録が残っています。
このフェデリコ2世はプーリアの世界遺産カステルデルモンテなど多くの城を築いた中世の英雄で私も大ファンの歴史的人物(詳しくは塩野七生著「皇帝フリードリッヒ2世の生涯」をご参照ください)なので、それを聞いたらワクワク感が大いに盛り上がりました。
名物と言っても日本のように店先にのぼりが立っていたり、ウナギの看板が出ていたりする訳でもなく、冬ということもあり人けの少ない漁師町の一角にこの店はあります。お父さんが25年前に始めたこの店、現在は20代の息子二人が跡を継ぐべく修行中。
イタリアの有名レストランは家族経営の名店がほとんどと言って良いくらい数多くありますが、こちらもそのうちの一軒です。観光客が少ないこの時期には長期休暇をとる店も多い中、客数は少なくとも店を開けているのは地元民にも愛されていることを感じされられます。
ウナギ料理と言うと蒲焼のイメージが強烈過ぎて他の食べ方の影が薄いですが、この店では、あの甘辛い蒲焼のタレを使った料理は出て来ませんでした。もっとも昨今の日本食ブームで醤油味や甘辛な照り焼きソース味はイタリア人の多くが親しんで来ているので、今後はどうなるかわかりません。
でも愛するフェデリコ2世が蒲焼のタレでウナギを食べていたとは考えられず、出来れば彼も食したであろう豪快にぶつ切りしたウナギをグリルしてレモンと塩で食べたい!
その思いをこの店は充分に満たしてくれました。ぶつ切りではなく開いて太い骨はとられており、外はカリッと中はふんわり焼き加減も香ばしい香りもバッチリ。さらに、おしゃれに茹で上げた身をロール状に巻いてオレンジのソースとアーモンドを纏った冷製の前菜も秀逸。ウナギにはアリアニコ種などちょっと強めのロザート(ロゼ)が相性抜群でした。
太いメスのウナギは昔から高級食材として都市の富裕層へ送られていました。地元では小さいオスのウナギを使ったズッパ(スープ煮込み)が特にクリスマスイブに食べる郷土料理として伝わっていて今でもその時期は一番の賑わいを見せるとのことです。次回はぜひこれをいただいてみたいと思います。