マックのマニュアル 22

レストランチェック

 マックのマニュアルをご紹介してきましたが、私がマックを卒業したのは30年前で、そんな古いマニュアルや管理システムは時代遅れだよと思われるかもしれません。

でも私が在籍していたころの実質的な創業者、フレッド・ターナーが作り上げたマックのマニュアルやシステムは完璧でした。その証拠が最近の日本マクドナルドです。

マクドナルドは2013年から2014年にかけての原材料製造工場での衛生問題や食品異物混入などの不祥事と、そのマスコミ対応の悪さから大きく売り上げを落とし、赤字に転落し店舗を1,000店舗閉店するという不振状態から見事に復活し、コロナ禍でも売り上げと利益を伸ばすなど好調です。その反面、問題が出ています。店舗や本社の社員のモラル低下です。

今年12月4日に元マック店長が約5,500万円横領と報道されました。

https://news.yahoo.co.jp/articles/3ce27862937572e2fc94c524d0c42a725f503036
https://www.jprime.jp/articles/-/26063?display=b

2019年10月の本社財務部社員の7億円横領報道

https://www.asahi.com/articles/ASMBT3SHFMBTUTIL00J.html

 私の頃にも横領はありましたが、金額は数十万円程度です。しかもその犯行はほとんどアルバイトによる報告で判明しています。ずいぶん変わったなと思って関係者に聞いてみると

「お世話なります。店舗はFCのJR芦屋店です。監査は今も年に2回あります。しかし、店鋪及び社員やクルーのモラルが、ひどく下がっているのも事実です。やはり、マック全体の8割がFCで、オーナーによってのレベルやモラルの差に、大きな違いがあることも原因の1つかと。

また、マックの経験のない素人のオーナーも増えているので、そこも今回の一因かと。入社3年程で、店長になれるシステムもどうかと思います。昔のような責任感は、今の社員には、無いのが現状です。

 また、詳細はわからないのです。表面上の話しは入ってきているのですが。OCも直営からの異動組が多くしっかりとした経験はあまりないみたいです。今は店長になれるのが、とても早く2年から3年でなれるみたいです。

昔に比べたら、やはり今の社員はレベルが低く、システムに働かされている、と言う感じです。また、勤務時間の制約があり、社員はすぐに帰宅します。」

と返事がありました。

 ちょっと私が統括SVとして6名のSVと30店舗を管理していた時の経験をお話ししましょう。私が関東地区の統括SVの後2年を米国に駐在後の関西での経験です。

1)問題のある管理者(SV、現在はOC)

<1>真面目だが能力のないSV

 一番困るのは真面目で上司に忠実で良く言うことを聞くが能力が無いSVだ。統括SVの言うことを良く効くからつい評価を上げてしまうが、細かく指示を出さないと成果が出なくなってしまう。統括がSVを評価する場合には、SVが仕事に対する自分なりの考え方、方針を持ち、計画を立て、優先順位をつけてスピーディーに仕事を進めているかを冷静に判断するべきだ。情におぼれてはならない。

<2>上司をだますSV、部下に甘いSV

 店長もSVも調子の良いやつは危険信号だ。筆者が関西・中国・四国の統括エリアを担当したときだ。早速私と前任者の歓送迎会を開いてくれた。和気藹々の歓送迎会だったのでなかなかチームワークの良いエリアだなと感心した。

ところが、私が店舗訪問のためにその地方を訪問すると必ず、各SVとその地区の店長が集まり、飲み会を盛大に開いてくれる。宴会の間に話しを聞いていると定例的に統括も交えてゴルフ大会も開催している。

前任の統括SVの評価の高いSVがエリアのSVや店長のリーダー格で人望も厚く、慕われているようだった。彼のSVエリアの店長の評価も比較的高い。当然店舗のQSCはきちんとしているはずだ。

ところが店舗を回ってみるとそんなにQSCの基準が高くない。3ヶ月ほどして評価会議の段になった。そのSVは担当の全店長の評価を上げてくるではないか。筆者は店舗の実態と比較しておかしいと感じ出した。当然、筆者の感じるQSCで厳しく修正をさせ、その後の店舗訪問で注意深く店舗を観察することにした。

 当時彼のエリアで一番評価が高く、SVに推薦した店長がいた。筆者は疑問を感じたので、店舗を移動し他のSVのもとでチェックをすることにした。その後任の店長に推薦したのがその店舗のファーストアシスタントだった。後に不正行為を働いた店長のことだ。移動した優秀であるという店長も成果を出せないでいた。

 SVは部下の評価を実力以上に上げ、それがSV自身の評価であるように見せかけ、それを前任の統括SVが見抜けなかったというのが現実だろう。しかしながら、部内でもゴルフ大会をセットアップしたりで、なかなかそつのない、人気のあるSVであった。

 しかし、あるときに妙なことに気がついた。その地区の販売促進担当がしょっちゅう出張をすることだった。地区販売促進担当者の仕事は地区の店長や担当者に販売促進の指導を行うことであり、そんなに頻繁に出張をする必要がないはずだった。

ま、独身の女性であるからその地区のマネージャーにボーイフレンドでもいるのかと思ったが、不要な出張は無駄でもあり、頻度を下げるように命令した。ところがそのSVが筆者のところにきて、強行に必要だと主張する。ま、優秀なSVの言うことだからしょうがないかと許可をしたが、違和感が残っていった。

 筆者が会社の厚生施設を利用したときだった。部屋に入ると店舗を訪問する常でつい、QSCをチェックしてしまう。何時も台所や換気扇の汚れなどをチェックする悪い修正がある。床の清掃状況をチェックしていたときだ。女性の長い髪の毛が落ちている。まったく、清掃がしっかりしていないな、総務に報告をしなくては行けないなと思い、筆者の前の利用者を見たらそのSVであった。

その厚生施設はSVの実家のそばであり、家族で実家に帰ったのかと思ったら、利用者は彼一人である。そこで過去の厚生施設の利用状況をチェックすると一人での利用をするのが頻繁にあることが判明した。

そして、関連のSVや社員の休日と厚生施設の利用状況をチェックすると、かの地区の販売促進担当者と休日がぴったり会うではないか。そんな状況が進んでいき、本人たちの事情聴取を行うことにより、その事実が判明し、かわいそうだが、販売促進担当者が退職をすることになってしまった。

女性問題は難しい問題であり、必ずしも罰則につながるわけではないが、会社の施設を不正に使用したり、出張を個人的な理由ですることは問題であり、処分は行わなかったが、それだけの評価と人事異動を行わざるを得なかった。

こんな事実を見逃すと統括SVも責任を逃れることができないから、常にSVの行動をチェックしなければならないのだ。部下のSVや店長たちとしょっちゅう飲み会やゴルフ大会、マージャン大会をやると彼らの本質を見抜けなくなってしまう。

<3>表裏のあるSV

 ある評価の高い店長がいた。仕事もできるし、エリアの会議や、懇親会でも積極的にリーダーになる実行力の高い店長だった。しかし、あるときに連続でマネージャーが退職してしまった。不審に思って店舗を訪問して色々話しを聞いたが、皆口をつぐんで問題点がわからないままであった。

担当のSVは大丈夫ですと言うので釈然としないままSVにしてしまった。積極的でバイタリティのあるSVであるからだんだん成長はしていったのだが、筆者などの上司にえらく気を使い、調子良いのが気になっていた。

 数年して筆者のエリアを離れてから事件は起こった。セクハラ事件だ。店長時代の部下の女子スイングマネージャーに対して昇進と交換にセクハラをしたというのだ。それも一人なら個人的な問題かもしれないが複数の女子からその問題を提起された。

良く調べを進めたら、われわれ上司には笑顔を見せて調子が良いが部下には厳しくあたり、怒鳴り散らす暴君だった。そして男子の部下はいじめ抜き退職に追いやり、部下の女子に対してはセクハラを働いていたわけだ。

<4>不正行為を働くSV:頭でっかちのSVも要注意だ。

 不正を働くSVと言うのも困る存在だ。SVの場合は店長と異なりお店の金に直接接することはないから、会社の金を盗んだり横領したりすることは難しい。しかし、他の方法で不正行為を働くことが可能だ。

 あるボーっとしたSVがいた。一緒に店舗を訪問しても、QSCで格段の能力や成果があるわけでもない普通のSVだったが、周囲のSVには尊敬されていた。数字的な能力や交渉ごとが強かったからだ。特に利殖に強く、どうやって金儲けをするかという能力にたけ、それで他のSVや上司に評価されていたわけだ。

 のちにその能力を変われ、他部に移動をしで実績を上げるようになった。交渉ごとは得意だから対外折衝に成果を出していったのだ。その結果、出世しかなりの地位まで上り詰めていった。

 ところが、あるときに社外の業者から会社に対して、本人に対する貸付金をどうにかしてほしいというクレームの電話が入り悪事が発覚した。当時はバブル華やかなときであり、サラリーマンの間でマンション投資が盛んであった。

彼は取引先の業者から金を借りその投資に振り向けていたのだ。しかしながらバブルがはじけその返済に困るようになり、大きな問題となったのだ。やはり、店舗のQSCよりも金儲けに秀でたSVと言うのも要注意だと言うことだろう。

<5>人身御供を作るSV

 ずいぶん調子の良いSVで筆者が何か言うとにこにこしてはいそうですねとしか言わない。実に素直なSVで、もう少しでその調子の良さにだまされるところだったが、店舗を訪問して問題点に気がついたわけだ。

そこでさらに、店舗の状況だけでなく、SVの過去の状況を調査していったら、前任の地区で大きな問題に巻き込まれていた。

 彼の担当のエリアの先輩が社員フランチャイズになる際に、取得した店舗の改装や備品の購入を他店舗を利用して行っていたことが判明した。さらに、その店舗への社員の斡旋などを行っていた。

当然先輩の命令だから従わなくては行けないのだが、その結果そのSVの評価が下げられ、このエリアに左遷されてきた。先輩の言うことを聞いたのに処罰を受けたわけだから会社に対しては不信感を持っており、これ以上処罰を受けたくないと言う気持ちを持っていた。

 QSCなどのオペレーションが強ければ挽回できるのだが、調子が良いだけで能力の無いSVであったから、店舗のQSCを改善できないと自分の責任問題となるので、新人の店長とともにファーストアシスタントマネージャーを人身御供にして難を逃れようとしたのだった。

<6>モラルの低いSV

 やはり何時もにこにこして調子の良いSVがいた。人と旨くやるのが取り柄で、上司に旨く取り入ればいいんだというタイプだった。マクドナルドでは店舗社員が退職する際には、何故退職するのか、上司同僚との折り合いが悪かったのか、労働条件が悪かったのか、などの退職にいたる理由を聞くことになっている。

その退職面接であるとんでもないことが判明した。モラルの問題だ。階段のある店舗で店長が階段下に座り、女性の従業員や客が階段を上り下りする際にスカートの中を覗いて喜んでいたと言うのだ。そのモラルの低い店長がSVになったのは我慢ができないというのが退職のひとつの理由であった。

 それを聞いた筆者の上司はカンカンになり退職させろと言った。そこで筆者は懲罰的に深夜の店舗機械メインテナンスを担当させ、ギブアップさせようと考えた。

 当時エアコンディションのメインテナンスに問題があり、業者も旨く清掃できない状態だった。それを彼に担当させ清掃方法を開発させ、各店舗を自分で清掃させた。

その結果店舗のエアコンの効きが向上し、かえって電気代が大幅に下がるという結果が出た。それをSV会議で発表したら、その他のSVが驚いた。すごいじゃないか、と各SVが褒め称えたのだった。それに自信とやる気を得た彼は、それから機器のメインテナンスにすっかり自信を持ち、専門家としての道を歩むようになり、更に尊敬を受けるようになった。

 面白いことに機器にすっかり自信を持った彼の他の仕事内容も良くなり、問題のあったモラルも大幅に改善するという効果があった。その後、彼は昇進したのは言うまでもない。

 問題のあったSVで更正できた数少ない例の一つである。SVは店長への監督は母親が子供を見守るように密接に行っているが、統括SVのSVへの監督指導は大人と大人の関係であり、そんなに細かく監督指導をするわけではない。

そのため店長が問題を起こしそうになっても事前に修正が可能なので大事にならないで住む場合が多いが、SVは問題を起こすと修正が効かないほど大事となる。五感を働かせるのはフロアーコントロールだけでなく、SVの日頃の行動、仕事ぶり、部下への接し方、生活態度などのモラル、などから敏感に感じ取る能力が必要だ。

<7>お洒落な酒好きのSV

 なり立てだが何時もぱりっとしてお洒落なSVがいた。ま、客商売だからきちんとした身なりというのは重要だが、マクドナルドのSVは先頭をきって戦場に突入するタイプの隊長でなければならない。

SVと言うと恰好よく店舗で命令しているだけのように思われるが、前回に紹介したように店長が店舗のクレンリネスを解決できなければ、自ら汗だくになって清掃をしなくてはならない。

統括になっても部長になっても同じだ。調理機器の調子が悪いとか壊れているからと言う理由で商品の販売を止めることは許されない。常に調理機器や設備の調子を見たり、忙しいときには接客だけでなく、調理もカバーする。夜に人がいなければ清掃作業を手伝わなくてはいけない。

また、アシスタントマネージャーのトレーニングカリキュラムをチェックする際にQSCと言うおまじないだけでなく、自ら手本を示す必要もある。そういうわけで戦闘服ならぬ、汚れても構わないようなレベルできちんとした身だしなみをしなくてはいけない。有名ブランドのスーツでびしっと決めた身なりではどんな仕事をするか心配になる。

 筆者のエリアを離れある地方のSVとして赴任した後、そのエリアを訪問し杯飲んだことがあった。男前でブランドのスーツでびしっと決めて独身(一回結婚したが不幸なことに離婚を経験し女性不信に陥っていた)だから、飲み屋の女性に大もてだった。

筆者は不安を感じたが当時の彼の上司からの評価が高かった。しかし、そのSVは後に、依願退職(実質上の解雇)となってしまった。

 地方のSVというのは本社などから上司が殆どまわってこないから、エリアの絶対者として君臨できる。その絶大な力を利用し、部下の女子にセクハラを働いていたのだった。 ここで、問題だったのは当時の上司の統括がそのSVを高く評価していたということだ。

その理由をよく見てみたら、上司の統括は酒好きで夜になると集まって酒を飲む部下を高く評価していたのだ。勿論、仕事の上での評価をきちんとしているのだがそれ以上に酒の上での評価をしていたと言うことだろう。

 と言うように筆者が勤務していたのはまだおおらかな時代だったせいか、ずいぶんいい加減なSVが多かった。仕事が出来るがそれ以上に悪いこともできる人間が多かったようだ。

2)SVの選別の手法

 そんなSVを統括SVはきちんと評価、選別をし、更正可能なのかどうかを見極めなくてはいけない。SVの段階で適性がなければ再教育をするのは時間の浪費だ。早めに見極めて、それぞれに対する適正な処方箋を書き、薬や手術を等の対処療法を迅速に施さなくてはいけない。

 先ず、選別と優先順位をつけなくてはいけない。全員に教育をする時間が十分にあるわけでもないので、効率を追求しなくてはいけない。

 そのために選別をする技術を身につけるわけだ。この選別技術はマニュアルには全く記述されていない。統括SVが自ら学ばなくてはいけないノウハウだ。日本の会社では人事評価は人事部の仕事であり、評価自体も公正な実績評価をしないで年功序列で給与や昇進、昇給が行われれる。

また、人事異動も計画的に行わないから、上司と部下の癒着が起こりそれが派閥を生んでしまいがちだ。マクドナルドのように米国的な人事管理手法は上司が人事評価権を持ち、人事異動も計画立案する。

また、店舗展開のスピードも速いから一般の会社の10倍以上の人間と接する経験を積むことが出きる。それにより公正な人事評価や問題のある人間を見つけることが可能になってくる。選別技術は決定的な物はない。統括SV自らの経験と体験の中で、人を見極める選別技術を身につけなくてはいけない。人それぞれ得意な分野がありそれを通してみると選別が容易になってくる。

<1>モラルや性格の判断

 問題のあるSVをよく見てみると、必ず、女性問題、金の問題、酒の問題、を抱えている。それらはいずれも時間を浪費する。問題のあるSVの共通項目は仕事以外に時間を浪費しなくてはならないから、自ら先頭に立ってQSCや人物金の問題点を解決しようとしない。人を使うときに口で命令するだけで自ら実践することはしない。

 統括SVは普段からSVの生活態度、行動を良くモニターしていなくてはいけない。その場合、一緒になってゴルフや麻雀、飲み会、等をコミュニケーションというエキスキューズ(言い訳)で行っていると、部下の公正な評価を見抜けなくなるから、コミュニケーションは仕事を通じでとるようにして、ある程度の距離を置くという姿勢が必要だ。

<2>問題解決能力の判断

 SVは突撃隊長と同じで問題があるときには先頭に立って部下を指揮しなくてはいけない。

 人により選別の手法は異なるが、筆者は機械に対する改善を選別の手段として採用した。例えば店舗の調理機器の清掃やメインテナンスを教える場合には命令するだけでは改善できない。自ら手本を示す必要がある。口だけのSVはこれで選別できる。

 鬼の軍事顧問が選別で使用した手段は環境だ。日本語が通じない環境でどうやって仕事を他人に教えるかで判断していた。香港にSVを派遣し、現地の店長やSVに仕事を教えようと言う物だ。国が違うと習慣や法律が異なり、マネージメントを教えることは難しい。

そこで、一番課題の調理技術、調理機器やエアーコンディショニングのメインテナンス、店舗の清掃方法などを体で教えるわけだ。

 ある時に優秀だと言われたSVが選別された。彼は人材育成が得意だと言われていた。しかし香港では調理機器のメインテナンスなどを教えなくてはいけないので、筆者が夜間に徹夜で教えることにした。

ところが、日本語の通じない香港で苦手の機械を教えなければいけないと言うプレッシャーにそのSVは負けて胃が痛くなり、そのトレーニングから逃げ出してしまった。彼は人材育成という口だけで出きる楽なマネージメントしか出来なかったわけだ。その結果そのSVは統括SVへの道をたたれてしまった。

そのピンチヒッターが筆者の部下だったSVだ。彼も人材育成が得意な分野で機械のメインテナンスは不得意だったが、徹夜で教え、翌日には香港に旅立っていった。一晩の付け焼き刃で苦手な分野も何とか格好が付き、香港で教えたら現地のマネージャー達に尊敬されてしまった。

そして、香港から帰国後、自分の知識不足を痛感し、自ら毎日不得意な分野の勉強を重ねていた。それ以来、機械に対して自身を深め、統括SV、運営部長、本部長まで出世してしまった。

<問題点の把握と優先順位づけ>

店舗に問題があればSVに指示するのではなく、まず、問題点をどのように把握しているのか聞き、問題点把握能力を確認する。

次に、数多くの問題点の優先順位をつけさせ、きちんと整理出きるか確認する。人によっては問題点に優先順位をつけることが出来ず、簡単なことから着手し、それが解決できないと一切前に進めなくなる頭の固い融通の効かない場合がある。そうすると店舗の問題は改善せず、どんどん悪化してしまう。つまり、フレキシブルな人間かどうかと言う見極めが重要になる。

しかし、何時も店長やアシスタントマネージャーを差し置いて忙しそうに働いていると誰がその店舗を改善したのか分からなくなる。必要な際には一所懸命働く必要はあるが、出きるなら一歩退いて部下の店長やアシスタントマネージャーの仕事ぶりを客観的に見守る必要がある。

「SV育成の基本は現場でのOJTにつきる」

 マクドナルドのSVと言えども、最初から能力があるわけでもないし、SVになっていても色々な問題を抱えた人がいると言うことはおわかりいただけたと思う。しかし、人材の質が悪いからと言ってSV教育が出来ないと泣きを入れることは許されない。与えられた人材の範囲で最大限の効果を上げるのが統括SVの仕事だからだ。

 そのSVに対する教育は本社や本部での座学では出来ない。徹底した現場でのOJTが基本だ。OJTの基本は店舗訪問だ。SVが店舗を訪問し、QSCを正しく実行しているか、人物金の管理はしっかりしているかをしっかりとチェックできるかを教えなくては行けない。

まず、店舗の問題点の把握能力が大事だからだ。問題を発見できなければ当然の事ながら改善はできないのだ。

 筆者が統括SVになり立ての時に陥ったのがオーバーコントロールだ。

SVと店舗をまわるのだが、問題点の発見や解決を自分で行い、SVに問題点を指摘し、その解決方法まで指示してしまうと言うやり方だ。良い言い方をすれば強いリーダーシップといえるのだが、SVが本当に問題点を把握しているのか、発見した問題点を解決する能力があるのかの判断をせずに指示してしまった。

SVに対して競走意識があるからどれだけ自分が能力があるかを誇示してしまうのだ。そして、しばらくしてから再度店舗を訪問し、チェックすると何も問題解決していないことが多いと言うことになりがちだった。

 さらに悪いのは店舗をSVと巡回しないで、店舗を統括SVが1人でまわってしまうことだった。普段の姿を自分の目で確認したいと思うわけだ。1人でまわると自分のペースで店舗を回れるので効率よいし、店長が統括SVしかいないので、気兼ね無く色々話してくれる。問題点も数多く見つかる。

しかし、店舗で発見した問題点を店長や、アシスタントマネージャーに指摘し、解決方法まで指示してしまうことだ。

 そして、後でSVに店舗の問題点を指摘したり、怒ったりしてSVよりも管理能力があることを示そうとする。SVはその現場に居合わせなかったから、どんな状況だったかも分からないので、現場には自分なりの考え方で指導する。

現場の店長にとっては自分の上司がSVなのか、統括SVなのか分からなくなる。目的意識を明確に持ったSVであれば問題ないが、自分の考え方をもっていないSVは統括の言うとおりやっていれば問題ないということで楽をしてしまう。

そうすると大変なのは実は統括SV自身であって、店舗を自ら駆けめぐり疲れ果て、部下のSVは能力がないと嘆くことになる。

 最近百貨店の経営が行き詰まっている例が多い。筆者がある数百年の歴史のある百貨店の中のマクドナルドの店長時代だった。

ある日、急に店内の改装が始まった。理由を聞くと実力者社長が店舗視察に来るという。社内では天皇と呼ばれる怖い実力者だ。数日であっと言う間にショーケースを並べ替え、カーペットや壁紙を張り替えていた。

 社長が訪問する日に立ち会っていたら、玄関で社長の車から店内まで赤いカーペットを引き詰めるではないか。まるで国賓扱いだ。そして、足早に店内を歩き回ると声を上げて現場指導をしている。そして、その場で店内のショーケース等の什器を並べ替えるではないか。ま、それだけ実力者社長は現場を把握しているということだと感心した。

しかし、社長が帰った翌日には、それでは使いにくいと言うことで、また元の什器のレイアウトに戻してしまい、いままでとまったく同じ店舗の状態に戻ってしまった。多額の金をかけたのは何だったのだろうか。 その社長は、現場の店長や責任者が何を考えて仕事をしているかではなく、自分がどれだけ優秀かということを誇示したくて(自分の権力を確認したくて)、軍隊の閲兵式のように店舗を視察したのだった。

この実力者社長は後に会社に対する背任行為で法的な責任を追及されたことでもそれは明らかだ。社長がそうだから社員全体が、部下や取引先に無理難題を押しつけることになる。社員通用門の守衛まで威張り腐るという状態だ。

店の売上を上げるには客に丁寧に頭を下げこまめに売らなくてはいけないのに、取引先や系列の会社の威光を笠に、強引な押し売りをして売上を上げていった。バブルのころはそれでも売上が上がったがそんな楽な商売のやり方をしているから結局、一般消費者からの評価は下がり売上が停滞し、なおかつ、部下が上司に何も言わない体質から、無理な投資のつけも重なり、経営陣が退陣し、大規模なリストラをせざるを得なくなってしまったわけだ。

 筆者が統括SVになった当初はこの百貨店の社長のように振るまい、部下がどのように考え、問題をどのように解決しようかと言うことをまったく考えていなかったのだ。それがわかったのが統括になり3年後に米国の統括駐在責任者として2年間駐在し、再度地方の統括SVとして赴任してからだった。

 米国に2年間駐在して店舗のフランチャズオーナーの仕事と、米国本社の業務を勉強していたが、実際の統括SVとしてのラインの仕事をしていなかったから、2年後に戻ったときには浦島太郎だった。

日本マクドナルドは直営中心の運営であり、シカゴ米国本社の方針をいち早くキャッチしどんどん改善を進めていた。筆者のいたのは米国西海岸でありシカゴとは3時間も時差があり、情報は日本よりも遅れていた。米国は各地域のリージョナルマネージャーやゾーンマネージャーに権限を与えているし、じっくりとテストをしないと新規のメニューやオペレーションを採用しないという状況があったわけだ。

 そんなのんびりした米国の田舎から帰ってみたら日本マクドナルドのオペレーションはものすごく進化していたのには驚かされた。

 筆者が東京の本社のエリアで統括SVをしていたときには、本社の各部のプロジェクトチームとしての活動やその他の仕事が多く統括の仕事に専念できなかった。しかし、久しぶりに日本の地方の統括として赴任するとそんな余分な仕事が無く、じっくりと統括SVの仕事に専念することが出来るようになった。

 店舗をじっくりと観察してみると、米国に2年駐在している間に日本のSVの力がものすごく向上していると言うことがわかった。2年間のブランクは大きく、筆者の店舗訪問時の問題点の発見能力よりもSVの力の方が向上しているのを実感した。

つまり、店舗を訪問してもSVよりも問題を多く発見することが無くなってしまったということだ。

 しかし、よくよく店舗を観察してみると、SVの能力は向上しているのに店舗の状態は改善していないことに気がついた。それは、SVの能力があるのだがそれを旨く発揮していないと言うことだった。

当時のマクドナルドの課題は急成長している中で社員の育成とともに退職率を下げるということだった。店舗が急成長する際には大量の社員を必要とするが、店舗展開に気をとられていると、社員を乱暴に扱い退職率が高くなってしまうと言うことだ。そこで、SVの大きな仕事は社員のやる気をどう維持するか、コミュニケーションをどうとっていくかと言うことであった。

 そのために会社で社員同士のレクリエーションとして、運動会や地区の飲み会などを積極的に行うようになってきた。それは良いのだが、あまりにも和気藹々とした雰囲気が気になってきた。統括SVとSVの関係もそうだ、地区を訪問すると夜は店長たちの飲み会だし、昼はゴルフをやる場合もあるようだった。

 このエリアを回って気がついたのは、店長とSVの人間関係は良いが店舗のQSCの状態と店長の評価が異なると言うことだった。どうもSVの緊張感が欠けており、店舗の社員もSVに対する緊張感が無い。また、SVもQSCなどでうるさいことを言うと、社員の退職率が高まるのではないかという遠慮もあるようだった。

 そこで、店舗をSVと回りながらQSCの状況をどう判断するかをチェックしていった。そうすると、店舗に入るときにQSCをまったくチェックしないで店舗に漫然と入るという傾向に気がついた。勿論、店舗の社員とは和気藹々なのは良いのだが、店舗のQSCの状態を性格に把握し伝えないので、QSCのレベルが向上しないと言うことだった。

 あるSVなどは遠隔地を担当しており、統括SVがくるときだけ仕事をして、普段は時間管理も良い加減であった。統括SVが店舗を訪問するのはSVと一緒が望ましいのだが、あらかじめスケジュールを言っておくとその場だけ取り繕うようになる。かといって上記のようにSVがいないときに店舗を訪問してもスーパーSVになってしまうわけだ。

そこで、SVが店舗を訪問する時間に無予告で先に店舗に到着し、SVが店舗に到着してから何をするか冷静に見ることした。つまり、店舗の状態そのものではなく、SVが何をするかに焦点を当てて観察するようにしたわけだ。

 以前にも述べたが抜き打ち訪問といっても、ずる賢いSVの中には統括SVの予定をひそかに入手し、事前に対処する場合もある。そこで、スケジュールをわざと空白にしたり別の予定を入れ店舗で待つようにした。

ある場合には、東京に出張した後、翌朝の始発便で空路遠隔地に朝9時には入店するという離れ業をつかい、SVの仕事の内容をチェックしたりした。そして油断して遅刻をしたSVは東京にいるはずの筆者が店舗にいるものだから驚くわけだ。

 その時に筆者は担当のSVに激怒した。遅刻することに怒ったわけではなく、店舗のQSCをまったくチェックしていなかったからだ。

 SVが店舗を訪問する際にはQSCと人物金の状態を詳細にチェックしなくては行けないわけだ。SVが抜き打ちにチェックをし、正確な評価をするから店舗の社員やアルバイトは一生懸命働いてくれるわけだ。SVが店舗にきても何もチェックしなくては張り合いが無くなるのだ。

 SVが店舗に到着するには到着のし方がある。地方の店はドライブスルーだから、SVは車で訪問する。その際に店舗からちょっと離れた死角に止め、わからないように店舗に入らなくては行けない。店舗に入る際も社員から見えない位置からさりげなく入り、店舗のQSCを一瞬に判断する。

店舗に入る際には周囲の清掃状態や窓ガラスの曇り、看板の汚れ(地方だと蜘蛛の巣が貼っている場合が多く、藤田社長に激怒された社員が数多くいた)をチェックし店舗に入り、品質を瞬間に把握する。そして、カウンターに近づき、ハンバーガー類を注文する。

 その時に重要なのはどの種類のハンバーガーを購入するかと言うことだ。当時のマクドナルドのハンバーガーの提供のし方は、時間帯の売上を予測し、事前にハンバーガーやポテトを製造し、保温ビン(ウオーミングビン)に保管しておく手法であった。

保温するといっても許容時間は10分間と短時間であり、時間を経過したハンバーガーは廃棄処分しなくては行けない。そのためにウオーミングビンに保管してあるハンバーガーに1-12の数字をつける。製造して包装してからウオーミングビンに入れたのが、9:10だったら、10分後の20分まで販売できるわけだ。

20分は12進方の数字で言うと4の位置だから4のカードをつけ、販売をするカウンターパーソンと、製造を管理するプロダクションコントローラーの双方が時間管理をする。

 SVはその内の一番時間が経過しているものを購入し、品質をチェックしなくてはいけないのだ。同時に、ウオーミングビンの中のハンバーガーの数とそれぞれのホールディングタイムカードの数字を記憶する。

 SVが入ってくると慌ててそのカードを差し替えて誤魔化すマネージャーもいるから店舗に入った瞬間にハンバーガーの数とカードの数字を把握する。同時に客席とカウンターの客数をチェックし、保温してあるハンバーガーと客数のバランスが合っているかをチェックする。廃棄処分してもだめだし、保温数がすくなくて客を待たせてもいけないからだ。

 カウンターについたらすぐにストップウオッチをスタートし、オーダータイム、オーダー後の提供時間、他の客への提供時間をチェックする。その際に仰々しくストップウオッチを出すのは厳禁だ。デジタルのストップウオッチ内蔵型を携帯するべきだし、少なくとも秒針の無い時計などを持っているのはとんでもない。

 そして、試食を手短にして温度やバンズミートの焼け具合をチェックし、問題があればそれを保管しておく。全部食べるなどもってのほかだ。後で時間帯の責任者に具体的に説明しなくては行けないからだ。

 次に客席トイレのチェックをし、それから時間帯の責任者や店長と会話をしながら状況を把握し、厨房、マネージャールームをチェックする。キチン内を手早く巡回し、調理機器の状態、温度管理、時間管理、食材の在庫の過不足、夜間の清掃状況のチェックをする。

 マネージャールーム内の金庫の鍵が2重ロックになっているかチェックし(ダイヤルロックと鍵の両方がかかっていないと行けない)、金銭残高表と売上の記入チェックを行い、場合によっては、つり銭の用意やキャッシュドロアーの内容もチェックする。

マネージャールームでは、伝言ノート、メインテナンスチェックリスト(清掃状態のチェック)、カリブレーションチェックリスト(機械のメインテナンス記録)、納金伝票(銀行などへの)、食材紙製品の発注表などのチェックを行う。

そして、当日のアルバイトのスケジュールと売上の状況が正しいかをチェックする。つまり、カウンターの外ではQSCを瞬時にチェックし、カウンター内部では人物金の確認をすると言うわけだ。勿論訪問する前には店舗の月報、週報、運営日報を元に問題点を予測しその部分を集中的にチェックする。

 これだけの作業を長くても10分間で行わなくてはならない。ところがこのSVはQSCや人物金のチェックをまったくしないで、自分の仕事を開始したので、筆者は激怒した。

また、月報、週報、運営日報、損益計算書の内容も把握していない。この傾向は他のSVも同様で、店舗を単に訪問し店長と雑談するだけであった。

そして、全店の過去のQSCのチェックである、MVR(マネージメントビジテーションリポート)の状況を確認してみたらほとんど使用していないと言うことが判明した。人間関係は重視するが肝心要のQSCや人物金の管理がおろそかになり、それが、前回の問題のあるSVと言う現象に現れていたようだ。

 そこで全SV(担当は6名)への店舗訪問のトレーニングを開始した。いわゆるSVのアウエアーネス(注意力)を身に着けさせるわけだ。一人一人教育していたら筆者の時間は幾らあっても足りない。

そこで2人のSVのペアを組ませ、店舗を巡回することにした。SVは自分の担当の店には先入観があり、冷静に判断する事が難しい。そこで、他のSVエリアを無予告で巡回することにした。店舗に到着してから、QSCと人物金の項目をMVRを使って詳細にチェックをさせるのだ。

 最初にやらせてみると一店舗で数時間もかけたり、MVRの用紙を手に持ってチェックを開始し店舗の時間帯責任者を緊張させてしまった。そこで、チェックと用紙に記入までを30分間とし短時間で内容を把握する練習をさせるようにした。

そして、短時間に正確に問題点を把握できるようになったら、今度は自分の担当店舗のチェックをさせる、そして、過去の自分のつけたMVRとの違いを確認させるわけだ。この作業は一人のSVとやるよりも2人のSVで行ったほうがお互いの競争になるし、気がつかなかった個所を見つけることもできる。

そしてMVRの内容を筆者と2名のSVでじっくりとディスカッションを行うと、SVは自分の気がつかなかった個所や、不足している知識、チェックの技術を学ぶことができるのだ。筆者としても一人のSVを怒鳴り飛ばす必要も無いので精神的にも楽であったし、SVの本当の能力、これからの可能性もじっくりと判断することができた。

 また、筆者にとっても全店を客観的に自分の目で見られるが、他のSVが克明なMVRで記録するので、評価会議の際に正確に評価を把握することが可能になるという副次的なメリットも出てきたのだった。

続く

王利彰(おう・としあき)

王利彰(おう・としあき)

昭和22年東京都生まれ。立教大学法学部卒業後、(株)レストラン西武(現・西洋フードシステム)を経て、日本マクドナルド入社。SV、米国駐在、機器開発、海外運営、事業開発の各統括責任者を経て独立。外食チェーン企業の指導のかたわら立教大学、女子栄養大学の非常勤講師も務めた。 有限会社 清晃(せいこう) 代表取締役

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