南イタリア プーリア便り- トマトソーススパゲッティ

南イタリア美食便り

プーリア料理の中で私が好きなベスト5に入るのが、インゲンとカチョリコッタのトマトソーススパゲッティです。同じ鍋で茹でたインゲンとスパゲッティを、オレガノを効かせたトマトソースで和えプーリア特産のカチョリコッタチーズをたっぷりかけるだけのシンプルな一品です。

インゲン、トマトソース、カチョリコッタ、この3つの食材の絶妙な味のコンビネーションが全てと言って良い料理です。

まずインゲンですが、イタリアで一般的なものは日本のインゲンより細めで柔らかい品種です。プーリアでよく目にするメートロ(メートル)と呼ばれる、それこそ1メートルはあろうかという長い細いタイプのものは特に柔らかく甘さもあってこの料理に適しています。日本では中部地方で生産されている伝統野菜「十六ささげ」という品種がこれと似ているようです。
プーリアの我が家では5月ごろに種をまくと今がインゲンの収穫期。この料理ではスパゲッティの半量ぐらいたっぷりインゲンを使います。採れたてのインゲンの甘さと柔らかさが重要なポイントです。

トマトソースのポイントは酸味がしっかりあって甘すぎないトマトを使うこと、オレガノの爽やかな風味を効かせること、そしてオリーヴオイルをたっぷり使ってコクを出すことです。少なくとも20分ぐらいはコトコトと煮る必要があります。南イタリアではトマトソースは出汁のようなものかも知れません。多くの料理のベースの味であり、家によって好みの味があります。我が家の基本のトマトソースは玉ねぎ、ニンニクも多めに使ってしっかり煮込んだ濃厚なタイプです。

そして、この料理に欠かせないのが、プーリア特産のカチョリコッタというハードタイプのチーズ。熟成は二ヶ月ほどでミルクの味とコクがシンプルに味わえます。このチーズがトマトソースの酸味とインゲンの甘みを繋ぐ役割を果たします。日本では未だに馴染みが薄いチーズで入手もほぼ不可能なのが残念です。日本でチーズを作っている工房も増えているようですので、是非カチョカヴァッロの次にはカチョリコッタ作りを研究していただきたいと思います。代用として何が近いかと言うと、パルメザンチーズよりも、モッツァレッラチーズを細かく切って使うか、リコッタチーズを少量加えるかの方が良いのではないかと思います。

最後にパスタですが、この料理にはスパゲッティの形状が一番あいます。それも太めのものが良いです。麺とインゲンを一緒にフォークでくるくるっと巻いて食べるのです。そのためインゲンはしっかり柔らかくなるまで茹でる必要があります。インゲンの歯応えはこの料理ではまったく求められておりません。この辺の野菜の扱いは日本人には驚きというか、慣れていないので心理的に抵抗感があるかも知れません。

最初にシンプルな料理と申しましたが、シンプルな料理ほど再現し難いし、食材の質や調理のちょっとしたディテールが重要になって来ますね。

大橋 美奈子

大橋 美奈子

東京生まれ。演劇プロデューサーを志し、高校卒業後アメリカ留学。ニューヨーク大学芸術学部在学中は舞台、映画で俳優及びプロデューサーとして活躍。卒業後、メディア関係のリサーチ、コーディネイト会社を設立。現在はホスピタリティビジネスのコンサルタントである夫ジョヴァンニの故郷であるイタリア・プーリアから“外食とはエンターティメントである”という考えのもと“感動”を創る仕事を支えています。

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