パン菓新聞 2006年6月15日号

フードビジネス・プロフェッショナルに聞く

日本フードビジネス市場を巡る 海外資本の動き

王利彰氏は長年マクドナルドという大舞台で活躍し、店の現場から米国駐在統括など事業展開まで幅広く携わってきた。現在は立教大学大学院でビジネスデザインについて教鞭を取る一方、自ら会社を設立し、外食産業向けのコンサルタント事業を展開し、授業、執筆、イベントと多忙な毎日を送る。 日本市場を虎視眈々と狙う海外投資チームも厚い信頼を置く王氏に、フードビジネスにおける外資系企業の参入の現状と展望について語ってもらった。

米チェーン参入ラッシュの背景

外食産業では去年あたりからだいぶ外資参入が活発化してきた。それ以前は景気が悪く、海外の企業も日本の企業も新規ビジネスに興味がなかった。日本企業にとっても単一ブランドでの展開に限界が来たというタイミングもあるだろう。業態開発がひとつのテーマとなり、海外の業態を日本へ持ってくるというやりかたに注目が集まった。つまり多角化の一環として海外ブランドを入れようという動きが去年当たりから活発になってきた。 いま、ファストフード(以下FF)、ファストカジュアル(以下FC)、高級レストランとあらゆるジャンルで業態開発が活発化している。それも、これまではレストラン経験のない商社などが海外と提携するスタイルが多かったが、いまは既存のレストランチェーン、いわゆる経験者が次なるブランドとして海外と提携する傾向がある。

米レストランのカジュアル化

勘違いされることが多いけれど、FCは、FFとカジュアルレストランの合いの子という意味合いではない。 アメリカのレストラン産業では「カジュアル化」と「南」がキーワードだ。いま、人口が南へとシフトしている。これは新しい産業ができると、土地と人件費が安い南で展開するという傾向があるからだ。特にアメリカは産業労働組合が強いことも要因のひとつ。五大湖の沿岸など北部は重工業が立地しており、人口は減少方向。アトランタやニューメキシコでの創業や人口増加が増えている。もうひとつ南下に拍車を掛けるのは高齢化現象だ。アメリカでは退職後、気候の良い南へ移住するケースが多い。

いよいよ上陸!押し寄せるファストカジュアル

こうして服装にも現れているように、南へ行くに従いカジュアル化が進む。さらにレーガンが行った税制改革により接待需要が減った背景もカジュアル化を助けた。レストラン利用も個人需要へと移り変わり、フォーマルな服装を要求する高級店が軒並みつぶれ、カジュアル化が進んだ。 多くの高級店は生き残りを賭けてカジュアルレストランへと転換した。結果、料理がおいしくお酒も飲めるカジュアルレストランが巷に溢れた。この状況に人々がすっかり馴れてしまったとき、ひとりで気楽に食事ができる店が必要になった。FCという新業態の誕生だ。カジュアルレストランは、基本的にみんなでわいわいガヤガヤと楽しむところだったからだ。居心地の良いカジュアルレストランが標準装備になったとき、消費者は、ひとりで食事をするからといってFF店まではレベルを落とせなくなったのである。

ファストカジュアルは ファストフードのアンチテーゼ

FFはそのころ、「スーパーサイズミー」(※)でも話題となったように、肥満やトランス脂肪酸などで健康に害を及ぼすとして、マクドナルドを始め多くの企業が訴えられた。FFは、ますます高まる健康志向を背景に、調理の現場が見えないことなども手伝って、消費者の不信感を募ってしまった。 それに対するアンチテーゼとして出てきたのがFCともいえる。FCでは調理場を見せるスタイルを中心としており、調理は注文後に始めるのが基本。材料は健康志向を鑑みて揃えられており、サービスはセミセルフサービスの導入が多い。 ※スーパーサイズミー…世界中の映画祭で注目を浴びたドキュメンタリー映画。2002年、10代の少女が肥満問題を引き起こした元凶としてマクドナルドが告訴した。有名な”マクドナルド訴訟”である。映画ではこの事件を受け、FFを一日三食1ヶ月間食べ続けるとどうなるかという実験などを行い、米国社会の肥満問題をとりあげた。

多様化する業態への対応

FCというひとつの業態に注目しても、FFに高級感をプラスした店舗、高級店をFF風にアレンジした店舗、有名シェフのレシピを核にしたカジュアル店舗などその幅は広く、既存の業態の枠を超えたスタイルも多い。 全米に拡がるカジュアルレストラン「PF CHANG’S(チャン)」では、同店をFC化させた新店舗「PEI WEI(ペイウェイ)」を急ピッチで展開している。フルサービスのPFチャンに対し、ペイウェイではFF式にイートインとテイクアウトのふたつのカウンターを設置して話題を呼んだ。東京・赤坂にも出店したプライムリブ専門店の名門・�Lawry’s(ロウリーズ)�も、3年前にFCのサンドウィッチ店をCAにオープンしている。

ファストカジュアルのこれから

FCは外食市場のたった3%だ。また手作り感と多店舗展開は両立しづらいことから、現在FCブームは一段落したとも見える。しかし主要顧客が30-40代で高所得のトレンドセッターであることが外食市場全体を牽引するという側面は見逃せない。いまマクドナルドやウェンディーズといった大手がFCチェーンの買収を次々と図っている。全国展開を柱とする大手に経営を委ねたのち、果たしてFCという業態の特色は維持され拡大を続けるのか、あるいは規模を拡げず個性を追求し、原点に立ち返るのか。FCはいま転機点に立たされている。

What Is ファストカジュアル?

ファストカジュアルという業態については、厳然たる定義が存在していない。 そこで、アメリカで多くのフードビジネス関係者たちと話してきた王氏の経験を元に 体系付けられた王式ファストカジュアルをまとめてみよう。
●「ファッドラッカー」「ラ・マドレーヌ」などにルーツをもつとされるが、 ファストカジュアルというジャンルの認知が広まり始めたのは21世紀に入ってから
●価格帯はファストフードのおよそ倍($7-12) ファミレスよりやや高いがアルコールが頼め、ファストフード同様チップはいらない
●健康志向で調理場が消費者から見える安心なつくり
●セミセルフサービスだが温かみのある照明やソファの設置などのインテリアで、ゆっくりと寛げる空間を演出

●ファストカジュアルの展開例●

バハ・フレッシュ…メキシカン料理のバハ・フレッシュ(Baja Fresh)は現在ウェンディーズの傘下で300店あまりを展開中。同社のメニューコンセプトがファストカジュアルの特徴を大きく物語っている。
●バハ・フレッシュのメニューコンセプト
No Microwaves(電子レンジ不使用) No Can Openers(缶詰不使用)
No Freezers(冷凍食品不使用)
No Lard(ラード不使用)
No M.S.G. (うまみ調味料不使用)
No Compromises(妥協なし)

モスバーガー…既存店すべてをファストカジュアルスタイルの「緑モス」へと転換を進めているモスバーガーは、ファストカジュアルを以下のように定義している:「当チェーンが志向するファストカジュアル業態とは、レストランなみの高品質な商品をゆったりと落ち着いた快適な空間で、ていねいなサービスで提供する仕組みであり、ファストフードのように手軽にご利用いただけ、かつテイクアウトもできる、レストランとファストフードの双方の利点を活かした新業態です。現在、アメリカで急成長を続けている業態で、日本においても注目されつつあります」

クイズノス…既に一度日本市場へ参入したが、2年前に撤退した経験がある。今回はドミノ・ピザが新たに手掛け、年内に銀座に1号店をオープンする。グリルドサンドウィッチの専門店で、手作り感があり美味しさに定評がある。ファストカジュアルの中でもファストフード寄りの業態で、サブウェイにも近いスタイル

パネラ・ブレッド…全米に約900店舗のサンドウィッチカフェを展開中。1981年、今も別会社として二百数十店舗を展開するオーボンパンの運営からスタートした同社だが、スターバックスの台頭と過剰投資により同部門を売却、買収したセントルイス・ブレッドをテコ入れしてパネラ・ブレッドとして再生・急速拡大させた。

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