角川書店 月刊Biztage 2002年4月号

世界標準となった日本のSUSI

~逆輸入のロール寿司~

「グローバルスタンダードとなった日本のロールスシ」

鮨はつい最近まで、醤油味だけで単調、生魚が気持ち悪い、美味しいワインがない、デザートがない、と言う欧米人には不人気な料理だった。その欠点を改善したのが、87年にLAビハリーヒルズにmatsuhisaを開いた松久信幸氏だ。松久氏は鮨をコース風に組み立て、生魚が嫌いな人には熱いオイルで軽く火を通して提供、醤油の味付けは単調だという人には、ペルー仕込みのお酢やピリ辛ソースを使った味付けで変化を出すようにするなどの工夫を凝らし、豊富なワインとフレンチのパティシェが作る素晴らしいデザートと共に提供した。その熱烈ファンになった俳優ロバート・デニーロは93年に自分の住むニューヨークに、松久氏と共同でnobuを開店し、短時間でニューヨークのトップレストランの評価を築きあげた。その後、英国、フランス、イタリアなど世界に支店を開店した松久氏は、スシをグローバルな料理に仕立て上げた功績者と言われている。

米は料理の付け合わせに使う野菜であり、ヘルシーな魚と共に食べるスシは健康的な料理として人気急上昇中だ。米国ニューヨークではボンドストリート、スシオブガリ、ルービーフーなどのファッショナブルなスシレストランが続々と誕生している。レストランだけでなく、ニューヨーク最高級食品スーパーのディーン・アンド・デルーカなどでも販売されており、スシコーナーのないスーパーは高級ではないと言われるようになっている。サンフランシスコのオーガニック専門の食品スーパーホールフーズでは何と玄米のロールスシが売られており、米国人女性はフレンチフライの代わりに茹でた枝豆とダイエットコークと共に食べている。もう米国料理としての市民権を取得したようだ。
その鮨が今日本国内でいわば逆輸入と言う形で受け入れられている理由は3つある。

1) 日本人は逆輸入商品が好きだ。
車のレクサスは(日本名セルシオ)小型車規格と言う日本の規格から離れ、徹底した欧米人に対する嗜好調査を通じて開発され、キャデラックやベンツ、BMWと並ぶ、高級車ブランドとしての評価を受けた。左ハンドルのまま日本逆上陸したレクサスは大人気となり日本でもセルシオと言う高級車のブランドを築き上げた。日本生まれの商品やデザインでも、車やファッションの世界のように、海外で評価され逆上陸すると人気がより高まるのが日本人の傾向だ。

2) 外食がカジュアルになってきた
官官接待の禁止や不景気による接待経費の減少により、外食はフォーマルなもてなしから、家族、カップル、友人達で、カジュアルな格好で気楽にわいわい騒ぎ楽しむようになってきた。老舗高級江戸前鮨は、ネタにこだわり、食べ方もうるさく、2万円前後と高価すぎる。しかし、従来の回転鮨等ではカップルや女性にはチープで満足できず、ファッショナブルでカジュアルな店舗が望まれるようになってきた。

3) カリフォルニア料理の中心地、LA人脈がスシブームを日本逆上陸させた。
豊富な農産物と海産物、そしてハリウッドの住む俳優や実業家という舌の肥えた客、東南アジアからの移民、この組み合わせが,LAでカリフォルニア料理というジャンルを生み出した。その立て役者はウオルフギャング・パック氏で数々の名店を作り上げている。松久氏はそのカリフォルニア料理をベースにスシや魚介類料理組み合わせnobuを完成させた。そのLAに大きな影響を受けた経営者達がいる。LAのウオルフギャング・パック氏と提携しSPAGOを20年前より経営しているWDIの住谷社長。10年ほど前よりLAに高級イタリアンのラ・ボヘムやシノワのモンスーンカフェを経営しているグローバルダイニングの長谷川社長。LAでラ・ボヘム、シノワ・オン・メイン等の超一流のレストランで調理人としての経験を積んだカーディナスオーシャンの長坂代表、達だ。単に海外の繁盛店を真似するのではなく、現地店舗経営を通じて口の肥えた客の要望に応える経験を積み、海外人脈を豊富に持つ経営者達が、逆上陸のロールスシブームを担う主役になっている。

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