飲食業とPL法 PL法施行により飲食業への訴訟も間違いなく増える(月刊ベンチャーリンク1995年12月号)
「PL法施行により飲食業への訴訟も間違いなく増える」PL法で訴えられると損害賠償の負担が大=PL法というと工業製品だけが対象だと考える人もいますが、飲食店も対象に入りますね。王現代のPL法からすれば、飲食店における製造物というのはその飲食店が客に出す
料理になり、それがPL法の対象となります。となるとPL法で問題になるのは料理における異物混入、食あたり、食中毒などです。=PL法で、何か変わりますか。王PL法で訴えられて店に非があると判決が出たら、被害者に損害賠償金を払わなければならないわけです。食中毒や食あたり、異物混入などは、当然ですが以前からあったことで、店側がそれなりに対処してきました。ところが仮に食中毒を起こして訴えられ、店の非が認められれば、これまでの行政処置としての営業停止処分などのほかに被害者に損害賠償をしなければならないのです。=金額的にはどのくらい。王食中毒ではありませんが、94年の有名なマクドナルドの例(老婦人がドライブスルーでコーヒーを購入し、ドライブ中にカップをあけようとしておお火傷をした。老婦人はコーヒーが熱すぎたとして訴訟を起こした)では、被害者が2,900万ドル(27億8,000万円)の損害賠償を起こし、判決で被害者の主張を認めて48万ドル(4,600万円)の支払いを命じています。もちろんこれが一般的なケースとはいえませんが、そのような可能性はあるということですね。=アメリカと日本では、PL法の運用も違うのでは。王アメリカの例がそのまま日本でも当てはまるわけではありません。しかし法律のトレンドをみていくと、日本はアメリカの後追いをしていることが多いわけです。その背景には日本の国際化があり、国内だけで通用する基準ではなく、国際的に通用するものが必要だと言うことですね。
マクドナルドのケースほど極端でなくとも、消費者が堂々と訴える傾向はますます強まるとみてよいでしょう。PL法でなくとも、現実に訴えるケースは増えているのです。PL法でいちばん大きな影響を与えるのは、むしろ消費者心理のほうなのです。私も外食産業に従事して25年になりますが、25年前と比べても現代のほうが明らかに客側が店を相手どって訴える、訴訟にするというケースが増えています。PL法はこの傾向に拍車をかけることは間違いないのではないのでしょうか。狭い意味でのPL法の影響というより、そのような習慣を消費者がもつということのほうが、いろいろな意味で影響が大きいと思いますね。
過失がないことの証明に工程の管理・文書化が必要
= 店側はどのような心構えが必要ですか。王PL法というのは、消費者保護の立場を明確に打ち出し、訴訟になった場合、その立証責任は訴えられた店側にあるというのが、これまでとの大きな違いです。したがって、自分のほうに非がなかったということを、店自身が立証しなければならない。供給者のほうに問題点の解明の責任があるわけです。
PL法そのものは、具体的な品質管理を述べているわけではありませんので、国際的にも通用するような品質管理が必要です。
その考え方の具体的な基準としては、ISO9000などがあります。これは、輸出機器メーカーなどの基準と思われていますが、すべての業種に生かせるものです。そしてとくに重要な点は、文書化にあります。製品の品質を管理するために、その工程をキチンと文書化・データ化しておく。それがPL法対策としても、必要なことなのです。=文書化してデータを残しておくというのは、日本の飲食業では行われてきていないのでは。王文書化の狙いは、これまでの日本的な、人に頼った品質管理から、人が変わっても、組織的に品質、安全管理に取り組めているか、またその証拠があるのかどうかという点です。つまり、結果的に製品に問題がなければいいじゃないかという結果オーライではなく、その過程をどう管理しているのか、データをとっているのか、第三者にわかるような形で残す、これを重視しようというのが世界的な傾向です。料理でいえば、調理の仕方や温度管理などの工程を文書化し、実践してデータを残しておくということなんですよ。文書として残っていれば、かりに訴えれれても、過去に問題はなかったという証拠になりますから。=飲食、食品分野に限定した具体的な基準となるべきものはありますか。王アメリカで用いられているACCP(Hazard Analysis Critical Control Point)という考え方ですね、これなどは全米レストラン協会が傘下のレストランにも推薦しています。概略を簡単にいえば、食品や料理の製造工程の管理に焦点を合わせ、る可能性のある危害を分析、予測し、起こりうる危害の優先順位をつけて管理していくというもので、欠陥品をひとつも出さないということを目標にしています。
簡単にいえば、従来の完成品の料理に問題がなければそれでよいという考え方ではなく、各工程で重点的に管理していく方法ですね。たとえば、カレーライスを作るとします。いちばん食中毒の原因になりそうなものは、やはり肉です。牛肉ならサルモネラ菌などの食中毒の原因になる菌が付着しています。火を通してそれを殺すのであれば、何度の温度で時間はどのくらいかけて殺すのかというのをちゃんと計って、管理していくという方法ですね。調理する全部の食品にそれをやるのは不可能なので、優先順位を食品ごとにつけて、いまいったような方法で各食品の調理の過程でチェックしていくにです。たとえばライスなどはあまり食中毒の原因にはなりにくいので、チェックの優先度は低くなります。飲食店にとっては手間がかかりますけどね。=面倒に聞こえますが、どの程度浸透しているのでしょうか。王アメリカではまだ法律かはされていませんが、じきになるでしょうね。日本の場合は、厚生省がどの程度取り組むかですね。ただ間違いなくこうした管理は、強化せざるをえないでしょう。たとえ強制ではなくとも、ちゃんと文書化して管理しておかなければ、何か事件が起きてPL法で訴えられたときに困ります。
ドアやガラスの事故でも訴えられる可能性増大=レストランチェーンなどはともかく、街の定食屋さんでも必要になりますか。王チェーン店であろうが、個人経営の店であろうが、PL法対策は変わりありません。
まず、調理のレシピを作ることから手をつけるべきでしょうね。経験に頼っているところがほとんどですが、たとえば煮る温度は何度とかそれを明確に作ることが必要でしょう。温度管理などは、大手のチェーン店では行われていますが、これからは経験だけでは通らなくなる。いちばんクレームの多い異物混入などでも、たとえば、掃除に使うブラシの」抜け落ちたものが料理に入らないように、ブラシ状のものは掃除には使わないとか、洗剤を誤って入れないようにとか、調理場には置かないとか、きちんと文書化し実践しなければいけないということです。ブラシが調理に交じって、のどにささっておお怪我をすることも実際にあります。=PL法以外でも、飲食店が訴えられるケースが多くなってきたということですが。王これはたとえば、建物の構造的な欠陥によって、客がけがをしたというケースです。
たとえば自動ドアにはさまってこどもが怪我をしたとか、ガラスに気付かずに突き抜けようとして怪我をしたとか、そういったケースで、建物や店の管理が悪いといって訴えた例は日本でも実際に多いですよ。
また調理器具の使い方をよく教えなかったために従業員が怪我をして、それで店の責任を問われたりします。こういったもので訴えられるケースは非常に多くなっています。これが、PL法の間接的な影響ですね。=グレーンゾーンですね。現代の狭い解釈のうえでは、含まれません。専門家も判例がないのでわからないといっていますし、あまり解説もされていません。しかしやがて、このような建物などの管理上の責任も、消費者保護の観点から、店側の責任を問われることになるでしょう。PL法対策と同じように、こちらもキチッとした安全管理をして文書化しておく必要が生じているのです。いずれにせよ、消費者意識も高まり、これまでなあなあで済まされてきたことでも、訴えられる時代になったということですね。