キッチンスタディー 93年NRA報告#1(柴田書店 月刊食堂1993年8月号)

キッチンの能力を高める最新機器の知識

キッチンスタディー第八回

NRA現地レポート<上>

すいません図及び、写真が入っておりません。紙面をご参照下さい。

5月の22日から26日の間にシカゴにおいて,74回目のNRA(National Restaurant Association Restaurant ,Hotel-Motel Show)の展示会があったのでその動向を紹介する。
NRA SHOWは厨房機器及び、食品原材料を展示し、さらに調理のコンテストを行うなど単なる厨房機器のSHOWではない。開催場所が大手の厨房機器メーカーや、レストランチェーンの本社が多いシカゴで行われるためこのSHOWを見ていると、各チェーンが何を開発しているかを見る事ができ大変面白い。

ここ数年米国のレストランチェーンは不況のため業績が不振であったがやっと本年になってから、業績が上向きになり、今回のSHOWでも各チェーンが新しい方向を積極的に模索し出したのが目につくようになった。

ファーストフード業界ではメニューの多角化戦争に終止符を打ち、ファーストフード本来の、お値打ち商品の提供とサービスのスピードアップを図りだしている。また、店舗展開をさらにするためには、学校給食、コンビニエンスストアー、ガソリンスタンド、スーパーマーケット、ディスカウントストアー、飛行場、等の従来出店していなかった場所へ積極的に出店をしだしている。

また店舗の増大にともない、従来の既存の店舗との競合が発生したり、マーケットポテンシャルの少ないところへの出店をせざるを得なくなっている。そのため、店舗の投資を抑える事が必要になり、小型の店舗の開発が進んできている。 また、店舗のコストダウンの必要性から、従来の特注の機器の代わりに、市販の一般厨房機器の検討も始まってきている。

それでは、各ジャンル別の企業動向を見てみよう。

<ハンバーガーチェーン>
ハンバーガーチェーンでは、小型化の方向として、客席無しのドライブスルーで、限定メニューの展開がみられるようになってきている。
元々ドライブスルーは、先ほど食中毒で有名になったジャック・イン・ザ・ボックスがドライブスルーのみの店からスタートした。その成功を、マクドナルドやバーガーキング等が大型客席の店舗の売上を延ばすために採用し、大きく普及させたのである。

しかし、大型店にドライブスルーを追加し、更にそれをダブルウインドーへと改造し、客のメニューの多角化の要望に対し際限無く対応するためのキッチンの大型化、子供客への対応のためのプレイランドの設置等、ハンバーガーチェーンの店舗の投資額は巨大なものになってしまったのである。投資金額が大きくなると、店舗の損益分岐点が上昇し、良いロケーションでないと採算が合わないという問題点がでてきた。

ファーストフードの店舗の競合がない時代であれば、セールスの見込みの高いロケーションが幾らでもあったが、現在では競合相手どころか自社内の競合さえ出てくるようになってしまった。また、自社の店舗の間に良いロケーションが出ても従来のような大型の店舗では、自社内競合の為出せないが、それを放置して競争相手にとられると、自社への痛手を生じるという矛盾も出てくるのである。

そこで従来よりも、投資金額が少なく、商圏が小さくても成り立つ、ドライブスルーオンリーの店舗の展開が必要になってきている。従来の店舗の必要商圏人口は3~5万人であったが、このドライブスルーオンリー店舗では5千人で採算が合うように設計されている。

(写真1)ただ、商圏人口は小さくても、交通の便の良い場所での展開が必要である。 ドライブスルーオンリーの店舗展開をするためには、サービスのスピードが早くなければならないが、その為メニューを絞り、生産性を向上させている。また、焼いたミートパティやバンズを加湿保管庫に入れ、必要に応じてドレス、パッケージをし電子レンジで加熱をするアッセンブルツーオーダー法を取り入れサービングタイムの向上を図っている。ミートの調理もスピードを上げる為、クラムシェルグリドルの採用が一般的になりつつある。バーガーキングや、カールスジュニアで使用しているコンベヤータイプのブロイラーも作業が簡単で標準化し易いので普及し出している。

(写真2)ドライブスルーもシングルではなくダブルレーンにし客数のさばきを向上している。 店舗の投資コストを下げるために、モービルユニットを採用している。工場でユニット化した店舗に機器を据えつけ、それを、舗装、給排水、ガス電気工事を終了し基礎工事を終えた現場に搬入し据え付けるだけで終了する。そのため店舗建設時間が大幅に短縮し、家賃負担が少なくなり、また標準化が進むため、店舗の投資コスト全体が安くなるのである。現在チェッカーズ、ラリーズ、ホットアンドナウ等のチェーンが展開を進めており、大手チェーンも参入を検討しており、すでにテストを開始しだしているのである。

学校給食、コンビニエンスストアー、ガソリンスタンド、スーパーマーケット、ディスカウントストアー、飛行場、等の従来出店していなかった場所への展開の為には、さらなる小型店舗の開発が進められている。バーガーキングではNRA SHOWにおいて写真3、4のキオスクタイプの店舗を展示している。これはカウンターや内部の調理機器類をプレハブ化し、それを組み立てるだけで店舗が出来る物であり、店舗の大幅なコストダウンが可能になる。キオスクコンセプトは他の大手ハンバーガーチェーンも採用しており、特に東南アジアへの出店に際しては大きな武器として使用する予定である。

キオスク店舗は単に店舗を小型化、プレハブ化した物ではない。厨房の機器の効率も同時に検討されているのである。ミートパティ焼いたり、フレンチフライを揚げるのに、ガス機器を使用すると、排気ダクトの設置が必要になり、大がかりな設置工事が必要になる。そこで、電気のグリドルやフライヤーを使用し、排気循環式のダクトを使用し、煙や油煙は内蔵の特殊フィルターで取り去るという工夫をしている。

(写真5、6)また、調理方法は現在の所、従来の店舗と同じであるが当然アッセンブルツーオーダーを取り効率を上げている。アッセンブルツーオーダーというのはよく考えてみると、厨房で、ミートパティやバンズを焼く必要があるわけではなく、工場で調理後冷凍し店舗で解凍加熱すれば良いのである。現在各チェーンではその効率の良い解凍加熱の方法を懸命に開発しているのである。

ミートパティを焼き上げ冷凍するのは簡単であるが再加熱をする時、多くの水分が失われるので、どうやって水分を失わず加工するのかが各社のノウハウである。また、店舗での再加熱も如何に水分を失わずに短時間で加熱するかがポイントである。具体的な機器については1月から7月号の中で詳しく述べているので参考にされたい。

そのほかサービスのスピードを向上させるために色々な検討がなされている。写真7は12個のバンズにケチャップ、マスタードをワンショットでドレスする機械である。写真8はワンショットづつケチャップ、マスタード、マヨネーズ等をドレスしていく物である。今後の人手不足を見越して大変面白い機械である。また、写真9のようにカウンターのスペースを削減する為に1ヘッドから2種類の飲物が出るようにしスペースを半分にするとか、写真10のように150m先からシロップと炭酸水を圧送するリモートシステム等、ユニークな機器が出始めている。

<ピザのチェーン>
ピザの業界は現在デリバリーの時代からバリユーを訴える大型のピザの時代に突入している。
米国における1992年度のピザのセールスは1兆8000億円に達している。店舗数では 77000店ほどになる。その内大手3社のマーケットシェアーは48%になる。(以下93年5月26日のUSA TODAYの記事による)

マーケットシェアー

92年 91年度 店舗数
ピザハット 24.3% 24.1% 7、200
ドミノ 13.0% 14.1% 5、000
リトルシーザー 11.2% 9.8% 4、500
上記以外のローカルチェーンの数は約6万店あるといわれている。

70年代の前半にドミノがデリバリーピザを武器に急速に店舗数を増加しその為に1986年にはピザハットがレストランスタイルの店舗から持ち帰りも出来る店舗への転換を開始したのである。デリバリー戦争の一方で、やはり70年代にリトルシーザーズが1つの値段で2つのピザを提供するという低価格路線で急速に店舗を拡大した。上記のチェーン別のマーケットシェアーの推移を見ると、最近ではバリューを訴えるリトルシーザーズの一方的な勝利であることが明白である。低価格路線という事では1988年にスタートしたタコベルのバリューメニューの強力な効果に同じペプシコーラの傘下にあるピザハットは同調を迫られているのである。

その結果ピザハットが5月3日から全国の店舗で導入したのが2×1(60CM×30CM)の巨大なピザBig Footである。値段は9~11ドルである。広告宣伝に100億円を投入し95年までに1000億円の売上の増加(23%の増加になる)を目指しており、現在の店舗数7200店に50000人のアルバイトの増加をするとの事である。

それに対抗してドミノは2×2.5のピザをDominatorの名称で登場させる。値段は9~11ドルである。広告宣伝は15億円とピザハットに比べると少額であり、展開も全国同時でなく地域毎となる。ドミノにとってこのピザは利益が上がる物でないので、デリバリーはしないで、持ち帰りのみとする。この大きな問題点は、お客様はドミノの電話番号を知ってはいるが、どこに店舗があるかはほとんど知らないので、売上には大きく貢献しない物と思われる。ピザハットへの対抗上、追随するようである。

バリューピザ元祖のリトルシーザーズも当然参入する予定であり9ドルで24切れの大型のピザを販売する予定であるがマーケティング戦力をまだ明確に打ち出していない。 この大型のピザは利益率が従来のピザよりも15~20%低いといわれており、それをセールスの増大と、飲物類の利益率の高い物の増販売で補おうとしている。しかしながら、従来のプライスのピザの売上を食い合う事は十分に考えられ、利益面で大手3社の中でも大きな差が出る事が予想される。

しかし、大手3社の競争相手は競合の大手のみではなく、地元のピザ店や、スーパーやCVS等で売っているピザをもターゲットにしている。また最近では低価格のアップスケールのディナーレストランとの競合もあり、この低価格路線を武器にさらに大手3社のマーケットシェアーが高まっていく物と思われる。いずれにせよ現在の米国のマーケットはバリューのある商品しか受け入れられない状況にあるのでこのピザ戦争のようなバリュー戦略は他のジャンルでも多くみられるようになると思われる。

この大型ピザ戦争は当然ピザオーブンにも影響が大きく、各社は大型のピザオーブンの開発を始めた。写真11はその大型のピザパイ用の皿をいれた状態の物である。米国のピザオーブンはコンベアータイプのエアーインピンジメントオーブンが主流であるが、メーカーにより製造できるサイズに限界があり、機械メーカーのマーケットシェアーにも大きく影響が出る物と思われる。また、現在各チェーンのオーブンの入れ替えが発生しており、今後中古の程度の良いオーブンがマーケットに多く出ていき、日本でも中古のオーブンの採用の可能性があるのではないかと思われる。

ピザのマーケットは単に大型のピザばかりではない。小型のキオスクタイプの店舗を開発し、従来出せなかったロケーションに積極的な展開をねらっている。 また、小型の店舗や、バー等ではピザを早く調理したいという事で高速のピザオーブンの開発が望まれている。最近各社でそのオーブンを開発しており、今回のSHOWでもユニークな物が出ていたので紹介する。

Flash Bakeというオーブンで、サンフランシスコ郊外にあるシリコンバレーに所在するQuadluxというベンチャー企業が発表した物である。2種類の大きさがあり、大型の物は13インチ、小型は9インチのピザを焼く事が出来る。

写真12。原理は、熱源にハロゲンクオーツランプを使用する。ハロゲンクオーツランプは一般的には、照明器具として車の前照灯や、映写器のランプとして使用されている。最近ではそれを熱源として家庭用の電気コンロとしても使用されるなど熱機器としても用いられ始めている。熱源としてのハロゲンクオーツランプの特徴は、電流を通してから1秒ほどで100%の温度に達する事と、温度が2000℃と高温にする事が可能な点である。

また、電流を遮断したときに、温度がすぐに下がり、オーバーシュートがないので温度コントロールが正確に出来る事である。また、電球管内に封入するガスの種類と、電球管の材質により、遠赤外線の発生をコントロールできる。その為に高温で表面を焦がすと同時に、内部に早く熱を加える事が出来、加熱調理が早くなるのである。加熱調理を高速に行うことで、食品の水分に含まれている旨味、香り、を失う事が少なくなり、美味しく仕上がるのである。

製品開発のきっかけは、Quadlux社のメンバーの一人がシリコンバレーのコンピューター関連の部品製造メーカーとして活動していた事から始まる。コンピューターチップの製造行程で、乾燥にハロゲンクオーツランプを使用していたのに着目し、その温度の立ち上がりの早さを活用するオーブンの開発を思い立ったのである。

会場の実演では、ピザを約1分間で調理し、その他に、フレンチフライ、ターキーブレスト、サーモン等も実演調理しており、今回のSHOWでは最も人気を集めていた。

小型の電気入力は10kw、大型は15kwであり、値段はそれぞれ、7000����9000ドルである。大型のオーブンでピザを1時間に150枚焼く事が出来る。気になる電気使用料であるが、毎日200枚のピザを焼くとして年間のコストは750ドルにすぎないとの事である。(コンベアータイプのピザオーブンは年間5000ドルのランニングコストが必要であるとの事である。)

現在、キオスクタイプに大変適していると見られているので、それを積極的に開発している、ピザハットやバーガーキング等の、大手ファーストフードとの交渉を進めている。

日本にも既に売り込みがスタートしているようである。会場ではかなり人気で、ピザの味も良かったので大変良いと思われた方も多いと思われる。しかし、注意して戴きたいのは、会場では、パーベイクドウ(事前に焼いてある)を使用していた点である。そのドウが大変おいしかったためにかなり良い印象があった。フレッシュのドウでは時間は倍の約2分かかるとの事であり、オーブンの特性に合わせた専用のドウの開発も必要になると思われる。またフレンチフライもフレーバーとでんぷん質をコーティングした物を使用し、品質を良くみせている。その点を理解し、大手のチェーン等ででキオスク用の商品を開発して採用するならかなり有効な機器と思われる。

写真13はこのハロゲンクオーツランプをマイクロウエーブオーブンと組合わせた物である。マイクロウエーフ゛を発生するマグネトロンを上下に2つ付け調理時間の短縮を狙っているのである。上下にマグネトロンを付けると半分に調理時間がなると思われるが、実際は、マグネトロンから放射される電磁波の波長がお互いに干渉しあうため、同時に放射せずに、交互に放射するのである。それでは何故、2つ付けるかというと、それは温度ムラを無くすのが主な目的であった。このオーブンでは電気回路の設計によりその電磁波の干渉を無くし、かえって増幅するようにし調理時間を短縮するようにしたのが大きな特徴である。

調理時間が早くなっても、食品の表面には焦げ目が付かず、電気ヒーターの必要性があるが、一般的なヒーターでは立ち上がりが遅いので、加熱の立ち上がりの早いハロゲンクオーツランプを使用しているのである。アイディアは大変良いが庫内が小型すぎ能力が低いのが欠点である。

このクオーツハロゲンヒーターで調理をするという考え方は日本では既に実用化されており、フライヤーの加熱や、冷凍麺の急速解凍器のスーパースチーマー等に使用されている。まだ小さなメーカーであるが技術力があり今後楽しみである。現在、このヒーターを使用し焼き鳥やバーベキューチキン等を両面から高速で焼く機械を開発中である。ハロゲンクオーツランプヒターそのものは簡単なコンセプトであるが、電流を流したときの突入電流のコントロールをしないと、電球管がすぐに焼き切れる問題とか、電球管の端子の接続の信頼性などかなりのノウハウがあり開発の際は十分に注意して戴きたい。

以下次号へ続く

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