外食産業強盗対策(柴田書店 月刊食堂1995年1月号)

緊急提言
凶悪化する強盗事件に外食業はこう対処せよ
外食産業安全対策

本年度は景気の悪さのためか強盗などの事件が続発している傾向にある。警視庁の上半期のまとめによると、深夜スーパーを狙った強盗や、少年グループによる恐喝などが増えているとのことだ。強盗は八十件(六・四%)増の千三百二十五件で、特に深夜営業のスーパーを狙った強盗が五十四件増の百十八件(検挙七十六件)と多発している。

また、暴力団対策法により金に困った暴力団が従来はしなかった窃盗や強盗などの犯罪に手を染めるようになったのが大きな特徴だ。また、暴力団から流れ出る銃器による犯行が増加しているようだ。

コンビニエンスストアーの状況は、新聞にでているだけで、1月から11月22日までの発生件数は128件だ。昨年は145件であったが本年の発生件数の総数は200件と予測されている。時間帯別発生時間は午後9時から明け方の7時までが多い。特に多いのは2時から6時までの間である。コンビニと同じく深夜営業が多いファミリーレストランは大変危険な状態だ。

では外食チェーンではどうだろうか。別表の様に金庫の盗難や、強盗事件が相次いでいるのがわかる。特に11月20日にカーサを襲った短銃強盗は、10月のガスト、11月にバーミヤンの短銃強盗と同一犯ではないかと見られている。

また、FF業界でもモスバーガー、マクドナルド社が強盗の被害に遭っている。マクドナルド社は米国式の厳しい安全管理マニュアルと店舗の安全設計をしているので、日本では過去20年以上強盗や外部からの盗難の経験はなかった。しかし本年の9月に東京近郊のドライブスルーの店舗が深夜、銃を持った強盗に襲われ280万円もの売上金を強奪された。

これから年末年始を迎え深夜営業が増加するのかで安全管理をしっかりすることが重要だ。現在の状況と、防犯上の必要な設備と心構えを見てみよう。

1)外食チェーン及び郊外型チェーンの被害状況
別表の様に深夜襲われるのが特徴だ。特に裏の通用門からの侵入が多い。また、開店前、閉店間際の油断をついた侵入も多いので、アルバイト社員のスケジュールを考え直す必要がある。

従来凶器の殆どはナイフ包丁などの手軽な凶器であったが本年は銃の使用が目につくようになった。狙われ易い店舗は店舗の周囲の人通りが少ない郊外型の店舗だ。車での逃走が多いようだ。

被害金額は日祭日または、連休などの売り上げの高い日の売り上げでの売上分で、少ないと50万円多くて300万円くらいだ。

犯行パターンはコンビニでは同一の店舗で同じ犯人と思われる人間に何回も襲われている。最大では7店を連続で襲っており、同一の店舗が同一の犯人に4回も襲われた例もある。金庫の盗難では、一晩に同じチェーンの店舗を数件を連続で襲ったり、継続して襲ったりしている。カーサをおそった強盗はその以前に、ガスト、バーミヤンを襲ったのと同一犯と見られている。

2)必要な対策<ハードウエアー>
<1>釣り銭を最小限にする。
被害金額を最小にするのが基本だろう。被害金額を少なくするには1万円札などをレジに入れず、従業員が開けられない金庫などに入れ口をつくりそこに小間目に保管することである。米国の飲食チェーンの強盗対策も全く同様で、1時間ごとに釣り銭以外の売上を封筒にいれ、金庫の内金庫に入れる。内金庫の鍵は店長と集金人の2人の鍵がないと開かないようにしてある。また、当然のことながら金庫は持って行けないような重量で、床に固定してある。

強盗は新聞にでる被害金額を見てその多い店舗をまた襲うのだ。被害金額が少なければそれだけ襲われる危険も少なくなるのだ。金庫内の金庫は店長が持ち日中の安全な時間に勘定し、納金する方が安全だ。アルバイトなどが深夜現金を数えるのは大変危険だ。

<2>開店と閉店時の注意
ファミリーレストランが襲われ易いのは、まず深夜だ。次に開店の早朝などの周囲に人気のないときなのだ。一番危険なのは閉店後だ。閉店時にはまずトイレや、ごみ箱などに人が隠れていないがチェックすることが重要だ。閉店までねばって人が居なくなってから居直って強盗する場合があるので、おかしいそぶりをする人間が居たら注意することが重要だ。残った人間が外部の人間に合図して襲うこともあるのだ。

閉店時には全員のお客様にかえってもらい、すぐに鍵をロックすることが重要だ。閉店後はどんな理由があってもドアーを開けてはならない。電話を貸してほしいとか、忘れものをしたといっても入れてはいけない。丁重にお侘びをしてかえってもらうこと。

<3>警報装置
強盗に襲われたときに、非常ベルなどを鳴らせるようにする。スイッチをレジのそばの目だたないところに置き、従業員によくトレーニングする。最近では、リモートスイッチを押せば、4カ所に自動的に電話がいくシステムがあるので危険な店舗では備え付けるべきだろう。

<4>裏口のドアーと鍵
事務所の扉は自動ロックにし外から簡単に入れないようにする。中から外が見えるように覗き窓を設置したりする。。裏口のドアーも同様に常時ロックして置く。24時間営業でないときには閉店時開店時に裏口で襲われるのが多いからだ。裏口には照明をつけ明るくして置くこと。裏口や玄関には邪魔物を置かないですっきりし、犯人が隠れる場所をつくらないことが必要だ。

<5>その他
襲われた後に犯人を捕まえることが重要だ。最近金融機関の防犯用に使用されるカラーボールも使用や、VTRカメラを設置し犯人像を正確にとりそうさに役立てることも必要かもしれない。

店内客席から見えるところに凶器になる包丁やはさみ等の刃物を置いては行けない。あるコンビニの店舗では護身用の木刀をレジの中に置いてあったために、犯人にその木刀で殴られた例もあるので注意されたい。

3)必要な対策<ソフトウエアー>
強盗を防ぐためには上記の設備の対策が必要だがそれだけでは防ぐことは出来ない。日常の心構えが重要なのだ。

<1>勤務体制
まず、深夜の勤務はマネジャーが最後まで立ち会うことが必要だ。特に危険な土曜日曜祭日などの売上の高いときには必要だ。

<2>店内を外から見やすくする。
店内が外から見やすいように窓ガラスにポスターをベタベタ貼らないこと。外から見えないと襲い易いのだ。店内の見晴らしを良くするべきだ。特にピロティタイプのように外から店内が見えない店舗は危険なので注意が必要だ。ピロティタイプの店舗ではコンビニで使用しているような、非常警報装置のスイッチを押すことにより作動する、回転式の非常ランプを設置も効果的だろう。

<3>交番の警官巡回
警察官に定期巡回をしてもらうことが重要だ。警察官立ち寄りのポスターが貼ってあっても、警官を見たことがないのでは有効ではない。警察官も人の子だから顔見知りではない店舗の中に入りにくいのだ。なるべく近所の交番と仲良くして、顔なじみになりことが重要だ。

<4>店長のフロアーコントロールを徹底する
防犯とは関係ないように思えるかも知れないが、特に店舗に客が入ってきたときには、いらっしゃいませと目を見ながらきちんと声をかけるべきだ。顔見知りだったら雑談をしても良いのだ。もし強盗をしようとして店に入ったときに、にっこりといらっしゃいませと声をかけられ、目をあわせたら犯行には及びにくい物なのだ。

また、普段から閉店間際に店長が安全を確認しながら挨拶をしていれば強盗も警戒して襲わなくなるのだ。強盗は必ず事前に店舗を訪問して襲いやすいかどうか下見をしているからだ。

<5>情報の入手
強盗犯は連続して近隣の店舗を襲う例が多いので、近隣の店舗警察と協力し、犯行があったら連絡し注意をする必要がある。最近警察でも緊急情報をファックスで流す場合もあるようで相談するべきだろ。普段からなるべく警察と仲良くして情報を早くもらえるようにしよう。

<6>銀行納金時の注意
売上金を納金するのは店長や経営者が昼間やるのだが、納金に注意する必要がある。時々異なった経路を使用したり、時間を替えたほうが安全だ。道を曲がるときにも強盗が隠れているかも知れないので、大回りをして安全を確認する。スーパーの管理者が売上を納金するときに車で当てられ、降りたら金ごと誘拐された例もある。これは暴力団が絡んだ事件であるが十分に注意されたい。

4)強盗に襲われたとき
以上のように注意していても運悪く強盗に襲われたときの対処の方法をしっかりトレーニングして置く必要がある。

<1>ヒーローになるな
決して強盗に立ち向かってはならない。幾ら武術の有段者であっても立ち向かってはならない。お金は働けば戻ってくるが命は戻ってはこないのだ。今後、銃器の使用も予想され十分な注意が必要だ。時々、店舗の人や通行人が犯人を逮捕して、警察が表彰しているが大きなまちがいである。米国のチェーンでは犯人を従業員が逮捕したら処罰するくらいだ。86年にはコンビニに入った強盗を追いかけた大学生が、92年5月にはローソンの従業員がナイフで殺されているのだ。また、最近のパチンコ店や金融機関の強盗は本物の短銃を持ち発砲するのは平気である。現にカーサの従業員は抵抗もしないのに撃たれてしまった。決してヒーローになろうと思ってはいけない。

<2>冷静になれ
レジの内部に必要な釣り銭だけ入れて置けば被害額は5~6万円ですむのだ。重要なのは、冷静になって犯人の顔の特徴。鼻、目、眉毛、耳の形、ほくろの位置、服装、なまり、年齢、身長、靴など正確に覚えて置くことだ。この特徴を正確に警察に伝えることにより犯人の逮捕が早くなる。また、逃走する場合に車を使用するのなら、ナンバー、車の色、メーカー名などをすぐにメモし警察に連絡することが重要だ。また、凶器の種類、サイズも重要な証拠になるので覚えるとよい。

犯人の観察にはトレーニングが必要だ。米国マクドナルド社では強盗が店舗を襲うVTRを見せてトレーニングする。一回見せて「犯人の特徴を言って下さい」と言うのだが、ほとんどの人が正確に言えない。しかし、テープを何回も見せることにより、犯人の特徴を正確に記憶し、表現することが可能になってくる。テープがなくても普段からゲーム感覚でのトレーニングをすることが有効だろう。

<3>連絡
非常ベルがあるのなら、普段から押す練習をさせよう。犯人に分からないように押すことが重要であり、普段から練習していないと、慌てて押すことができないのだ。警報装置を押し、時間を5~6分稼げば警官が到着するので冷静な対応が必要だ。

非常ベルを押せなくても犯人が立ち去ったら、逃走用の車、自転車、逃走方向を確信したら、必要なことをすぐにメモし、110番をする。次に最寄りの交番、警察、経営者、店長、チェーン本部など必要なところへの連絡を忘れないようにする。

慌てると、電話番号がわからなくなるので、緊急用の電話一覧表を電話器のそばにおいておく必要がある。場合によっては犯人が電話を壊していく場合もあるので、最寄りの公衆電話の位置を確認し、電話用の10円玉などを用意しておくことが必要だ。

<4>現場の保管
犯行後は直ちに店舗を閉め、犯行現場を保存する。犯人の指紋や、靴跡など証拠を他の客に荒らされないようにすることが重要だ。

5)最後に
どんなに注意し防犯設備を整えても襲われるときには襲われるのだ。ハードウエアーの完備も大事だが、一番効果的な対策はトレーニングだ。防犯対策のトレーニングや襲われたときのトレーニングを常時実施する心がけが必要だ。

<筆者の経験、米国の状況>
窓ガラスまで黒く着色した黒塗りのワンボックスカーが音もなく店舗に横付けされた。左右のドアが開き、サングラスをかけたガッチリした運転手が散弾銃を手に降りた。もう一人はマグナム44の拳銃を片手に左右を見ながら店の横のドアーより店内に滑り込んだ。拳銃をいつでも撃てるように用意し、横のドアーを合い鍵で開け、厨房の中に入り込んだ。金庫のそばに立ち、マネージャーに金庫を開けさせた。
というとまるで強盗のようなのだが、実は店の売上の集金人なのだ。筆者は日本マクドナルドに勤務していたときに、米国の店舗に2年間責任者として駐在していたことがある。最初のカルチャーショックがこの売上金の集金方法だ。そばに銀行があるのだが、そこまで納金にいくまでの間に襲われる恐れがあるので、専門の集金会社に依頼しているのだ。集金車は定時にくると襲われるので、時間は一定でない。集金人は実際に上記のように拳銃を抜きいつでも発砲できるように身構えている。そして、金庫内の内金庫に納められた売上金は、マネージャーの鍵と、集金人の鍵2つが合わないと開かないようになっている。もし店舗のマネージャーが忙しくてもたもたして2分以上時間かかると、集金しないで立ち去ってしまう。余り長くいると襲われる危険があるからだ。

そんなことを言うと、筆者の居た場所がまるで危険なところであるように思われるが、サンフランシスコから80km位はなれたシリコンバレーの中に店舗があり、カリフォルニアの中では犯罪率は低いところで、まあ平均的な犯罪の発生率であろう。

マクドナルド社では毎年ファウンダーズデーといって、なくなった創業者のクロックさんを偲んで店舗実習をする。全世界同じ日に実施するのだ。その当日筆者は偶然米国本社に滞在しており、機器開発部の連中と店舗実習にいくことになった。

郊外の本社から車で30分くらいのダウンタウンに5人のメンバーで出かけた。高速道路を降りてしばらくすると、上に鉄条網の設置した高い塀が見えたので、何故こんな町中に刑務所があるんだと聞いたら、刑務所じゃない、墓だとの返事だった。何故墓に鉄条網付きの塀があるんだと聞いたら、外から侵入者がいるからだとのことだった。米国では土葬だが、埋められた人の金歯や装身具を盗むために深夜忍び込む奴が多いからだとのことだった。

しばらくして窓ガラスがすべて破られた朽ち果てたビルの間にある店舗について。ここはシカゴのスラム街のど真ん中だ。店舗の中は柄の悪い黒人たちばかりだ。まあ、厨房の内部にいれば安全だと思い、店舗の中で働き始めた。

しばらくカウンターで働いていると、ドライブスルーにいるもう一人とクルーの会話が耳に入ってきた。クルーはドライブスルーの車が会計が終わって品物を受け取り走り去ると必ず扉を閉め厳重にロックするのだった。何故だと聞いたら、閉めないと銃が突き出されるとのことだ。

つまり強盗だ。何回位やられたのだと聞いたら、週に2回は被害にあっているとのことで、それを聞いて全員顔が真っ青になり沈黙した。しばらくして筆者は飛行機の時間があるので先に帰ろうとしたら、全員が俺も帰るといって、筆者について全員慌てて逃げ出した。店をでるときは無言であった。もう一人が運転していたが彼はもう少しで高速道路から逆行してはいるくらい緊張していたのだ、筆者がおいしっかりしろと怒鳴ってやっと我に帰った位だ。日が暗くなるまでいたら間違いなく殺されるところだったのだ。

米国の社員のトレーニングコースに参加したときに、安全対策の授業があった。その時、教授が店舗で強盗に会った人は手を挙げなさいと言ったら、クラス40人の内全員が手を挙げた。

更に2回以上強盗の被害に会った人はその内半数もいたのには驚いた。強盗に襲われたことのない飲食店はないと言って良いだろう。当然、コンビニセンスストアーも同様だ。米国の飲食業では労災の死亡原因のトップは銃による強盗や発砲事件によるとのことだ。

そのため、トレーニングコースでは安全対策の授業があり、強盗に襲われたときの対処を具体的にトレーニングしているし、安全管理用のVTRテープも作成している。当然のことながら会社には安全対策マネージャーがおり、授業をしたり実際の店舗の安全対策の指導に当たっている。

筆者が滞在していたのは10年ほど前であった。米国で強盗が多いのは、銃が簡単に買える。人種問題が複雑でスラム街化して危険なところが多い。麻薬の売買が多くその金を稼ぐために強盗をする。など特殊な状況にあると思っていた。

例えば、以前マクドナルドではコーヒーのマドラーはスプーンの形状をしていたが今では平らな細い板の形状だ。また、ストローも自由に取ることはできないようにした。スプーン状のコーヒーマドラーは、1匙のコカインが1gであり、正確な計量に使用された。ストローは半分に切って、糸状に細くしたコカインを鼻で吸入するのに使用される。そのため形状を変更し、手渡しにしたのだ。

その位麻薬がはびこり、その金を稼ぐためには強盗も朝飯前であった。 だから日本に帰ったきたときにはホットしたものだ。まさか安全な日本が現在のように危険な国になるとは思ってもいなかったのだ。

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