コンビニの販売期限切れ商品の提供問題(商業界 月刊コンビニ2006年9月号)

ローソンの販売期限を過ぎた商品を横浜市のNPO法人の運営する「さなぎの食堂」で提供すると言う報道はコンビニの廃棄弁当のあり方に注目を浴びせており、食品衛生行政面で日本一厳しい横浜で行われるこの活動に飲食チェーンも注目している。
日本最大の外食企業はセブンイレブンなどのコンビニである。コンビニが巨大な産業の成長したのは、忙しく働く人たちに指示されたからだ。コンビニで販売する弁当、ファストフードなどの中食商品は、品切れを起こして機会損失がないように一定の廃棄数を想定して品揃えと発注をおこなう。通常の飲食店であれば客の注文後に料理を作るので、完成品としての廃棄は殆どでないが、コンビニの場合は事前に弁当やおにぎり、ファストフードなどを完成品として作り上げている。その完成品をまだ賞味期限があるうちに廃棄するために、飢餓と貧困にあえぐ後進国を引き合いにだして「もったいない」と言う論議だ。また、完成品を店舗に配送し販売するために賞味期限を設定し、食中毒などの事故を出さないように保存料などの食品添加物を使用するので、消費者からは体に悪いのではないかと言う懸念をもたれている。それらの問題を解決するために添加物を使わない冷凍弁当を販売しているチェーンがあるが、電子レンジで解凍加熱をするために客を待たせるという問題をかかえている。
食品の廃棄問題を冷静に見てみよう。コンビニは完成品の商品を廃棄するので無駄をしていると糾弾されるが、食品関連企業で食品製造工程における原材料加工時の廃棄処分は避けられない。製造した食品も賞味期限が切れると廃棄せざるを得ないし、廃棄処分が出ないと思われがちな飲料でも、乳製品はもちろん炭酸飲料やビールなど賞味期限が定められている食品は廃棄処分をすることは避けられな。
また、客が注文してから料理をする飲食店では食材の無駄が出ないかと言うとそうではない。野菜や肉魚などの原材料を加工する課程で食材のロスが発生するし、原材料を腐らせたり、賞味期限が過ぎれば廃棄をせざるを得ない。飲食店チェーンはそのロスをなくすためにセントラルキッチンや食材加工メーカーで集中処理を行い、ロスを最小限にしている。ラーメンチェーンで餃子を販売するのはロス対策の一つである。ラーメンの具材としてキャベツなどを使用するが、キャベツの芯などは使えない。しかし、芯などを細かく刻んで餃子の具材に使用すればロスがなくなる。このようにセントラルキッチンや食品加工工場の運営をしっかり行えばロスが低減し、それが飲食店チェーンの低価格の料理を実現しているのだ。それでも食材加工でのロスは避けられないのが現実だが、それが消費者の目に触れないので目立たないだけである。
米国は習慣の違いから日本のようにコンビニ店舗が多くないので、マクドナルドなどのファストフードの食品廃棄が非難の対象だ。マクドナルドは来客数を予測して、事前にハンバーガーを作り置きし、客の注文後1分以内で提供できる仕組みを作り上げた。作り置きしたハンバーガーは10分間の保存期間が過ぎると廃棄する。作り置きするハンバーガーの数が多ければ販売機会を失わないが、廃棄量が増えるし、少なければ客を待たせるなど販売機会を失う。廃棄の売上げ比率は3%前後が最適の数値であった。当初は2種類のビーフ・ハンバーガーだけであったので廃棄ロスは少なかったが、消費者の要望により牛に豚、鳥、魚、などのサンドイッチを追加し、メニュー数が大幅に増加した。そのために完成品を保温しておくと廃棄処分が増加したり、品切れで客を待たせたりする問題をかかえるようになった。また、ドライブスルーなどの新しい仕組みが導入されるようになると客を待たせないと言うことが課題となった。
廃棄するハンバーガー類がもったいないとアルバイトに食べさせたり、近隣の貧しい人に寄付することをマクドナルドでは許さない。その理由はアルバイトが空腹時に余分に作ったり、廃棄がなくなるからと言う安心感から予測をいい加減にし、結局食材コストが上昇するからだ。
しかし、廃棄のハンバーガーをもったいないと言う世間の声が高くなり、廃棄処理のコストも増加するようになると新たな対策をしなければならなくなった。そこで、1990年代にステージングシステムを導入した。ステージングシステムは焼成後常温保管のバンズ(当初は焼いていたが後に焼かなくなった)、焼成後高精度な加湿保管庫で保管したミート、調味料、野菜、を組み上げ、包装後電子レンジで加熱するものだ。しかし、電子レンジで加熱するのは品質に問題があるし、イメージも悪い。そこで1999年からメイド・フォー・ユーと言うシステムを導入した。このシステムは電子レンジの代わりに、バンズを15秒以下で焼き上げる超高速トースター(従来は30-60秒かかった)を開発し、注文後即座にバンズを焼き上げ熱々のハンバーガーを電子レンジなしで提供できるようにした。従来は焼き上げたミートを保管する高精度加湿保温庫と、フライしたチキンやフィッシュポーションを保管する乾燥保温庫の2種類が必要であったが、複雑な作業とスペースを削減するため、ミートとフライ物を同時に保温保管できる高精度のユニバーサルホールディングキャビネットを開発した。(高速トースターとホールディングキャビネットはマクドナルド社がパテントを保有している)
さらに、従来は包装したハンバーガーをウオーマーに10分間保管していたが、それを廃止し、客の注文後、調理組み立てを行うようにした。できあがったハンバーガーは客に提供するまでの数秒の間にも冷めないようにランチングパッドという小型の保温スペースに置き、客に熱々のハンバーガーを提供できるように工夫を凝らした。
注文後組み立てて熱々のハンバーガーを作るのは良いが、客を待たせては売上げが低下してしまう。そこで、客の注文を素早く厨房に伝える工夫を行った。カウンターの販売員が客の注文をPOSに入力すると、その内容が厨房の各セクションに置かれたモニターに表示され、速やかに調理が開始される。このPOSシステムの導入により客の好みにあった熱々のハンバーガーを待たせないで提供できるようになったのだ。
マクドナルドがこの調理システムの改善を行った背景には、米国の過激な消費者団体やマスコミがファストフードトップ企業のマクドナルドを槍玉に挙げて非難したからだ。エリック・シュローサー著の「ファースト・フードが世界を食いつぶす」2001年8月14日発行 株式会社 草思社ではマクドナルドのフレンチフライの加工工場でのロスや環境破壊、牛肉加工の危険性などを厳しく指摘している。そのために調理工程のロスの見直しや、食材加工の効率化や安全性に関する改善をせざるを得なくなったのだ。
コンビニは本部が作成した精度の高い受発注システムと正確な天気予測システムを組み合わせて賞味期限のある商品の製造と配送を行い、発注を元に外食のセントラルキッチンにあたるベンダーが弁当などの製造を実施している。コンビニ業界が巨大になるにつれ投下資本や製造技術の難しさから、大手食品メーカーの子会社がベンダー業務を担うようになた。高精度な受発注システムとベンダーの技術力の高さから加工段階での食材のロスは飲食チェーンと比べても少ないと見られている。問題があるとすればコンビニ本部の商品政策の急転換が多く、ベンダーが時として大量の在庫処分を迫られることだ。その場合でもベンダーは商品をディスカウントするなどして無駄のないように処理をしている。
食品メーカーや飲食チェーンは食品加工で発生する廃棄食材を堆肥などへ使う循環型の仕組みを模索しているが、フランチャイジーの多いコンビニの場合店舗のオーナー任せにしていることが多い。それがオーナーの不満につながったり、消費者の目に触れて問題視されているのだ。コンビニも本部で回収し、それを堆肥に使用するなどの循環型にするなどを行っているが、食品加工から店舗の廃棄まで含めた実際の廃棄量と循環率を明確に消費者にアッピールする時代が来ているだろう。既にセブンイレブン社の社会環境報告書ではそれらの取り組みを説明しているが、レストランや食品メーカーなどのロス率と循環率との比較を具体的に示して、消費者をロジカルに説得する時代が来ているだろう。
日本ではファストフードよりも巨大な産業になったコンビニの無駄や添加物の問題を指摘する声が大きい。ローソンの報道はコンビニがそれらの問題に真剣に取り組んでいることを消費者にアッピールする時が来ていることを物語っているのだろう。

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