品川プリンスホテルの巨大レストランオペレーション手法(柴田書店 月刊ホテル旅館)

品川プリンスホテルの
巨大レストランオペレーション手法

ハイアット・リージェンシー・オーサカの
コンピューターによる料飲管理システム

品川プリンスホテルの巨大レストランオペレーション手法

昨年12月に新館(地上39階・地下2階建て、1,763室)をオープンし、既存の本館・別館と合わせて総客室数3,008室(日本最大規模)となった品川プリンスホテル。業界に与えた衝撃度はかなりのものがあった。その規模もさることながら、あらゆる部門において発揮されている斬新な運営手法は、従来の都市ホテルの限界を突破したといっていい。
料飲部門に関しても、これまでの都市ホテルの既成概念をことごとく打ち崩し、しかも見事な成果をおさめている点で、大いに注目するものだ。

<フードコート的に選ぶ“楽しさ”を提供する>
同ホテル新館のレストランは、5カ所で構成されている。ブッフェレストラン「ハプナ」(1階・47席)、コーヒーラウンジ「マウナケア」(2階・101席)、中国料理「品川大飯店」(4階・446席、東側は居酒屋「孫悟空」)、和食堂「味街道五十三次」(38階・555席)、ラウンジ&バー「トップオブシナガワ」(39階・524席)と、ほとんどが500席規模で、全館の総客席数は実に3,200席にものぼっている。
「これだけの規模を持ちながら利益を出していくには、とにかく数を入れなければならないということです」

副支配人(飲食担当)の池田豊氏は、“集中力”の追求を強調する。

数を入れるためには、第1に価格をリーズナブルに設定すること。このわかりやすい発想が、「価格によるグレード分けは、そもそもしていない」(池田氏)という全レストランに共通している基本戦力なのだ。

各レストラン(ハプナを除く)とも平日の昼は1,000円(税・サ込み)のランチメニューのみ提供、夜は3,000‾5,000円での提供で、各店舗の客単価はほぼ同じレベルで統一されている。

別掲表を参照してほしい。価格帯を見る限り、これはまぎれもなく、街中のレストランの標準的なプライスゾーン。とすれば、競合するのはもはや他のレストランだけではなく、街中の飲食店をも対象にする。独立した飲食店としてのパワーをもった施設が、館内に3,000席規模で備わっていると考えれば、競合店にとってはこれほどの脅威はない。そしてそれ以上に重要なのが、お客への訴求力だ。「品川プリンスに行けば、どのレストランに入っても、昼は1,000円、夜は5,000円たらず」という安心感は、一般客にとってはたまらない魅力に違いない。1,000円札一枚持ってさえ行けば、ホテル内のどこでもランチが食べられる。全レストランのプライドを統一しているからこそ、料理のジャンルによるセレクションが自由に楽しめる。この「気楽なセレクション」の提供、楽しさの提供という発想は、レストランをプライスでグレード分けしていた従来のホテルには、残念ながら欠けていたものだろう。

逆に、この都市ホテルの限界は、「開かれたホテル、敷居の高くないホテル」(池田氏)を標榜する品川プリンスホテルだからこそ突破できたともいえるのだ。

いわば、「フードコート」的なセレクションの楽しさという特徴が、もっとも強く打ち出されているのは、和食堂「味街道五十三次」だろう。寿司、鍋、鉄板焼、しゃぶしゃぶ、焼き鳥・おでん、串揚げ、天ぷらの7ゾーンからなる同店は、エントランスを一カ所とし、そこでお客が好きな場所を選択、係員が各ゾーンの入り込み具合を見ながら、誘導する仕組みだ。

各ゾーンの品目数は、昼1‾2品(各1,000円、税・サ込み)、夜2‾3品(900‾4,000円)と多くはないが、一フロア全体で一店舗と考えれば、お客にとっては十分にバラエティあふれる商品が揃うことになる。

特筆したいのは、商品提供の迅速さだ。とりわけ昼の時間帯は、オーダーしてほんの数分でメニューが提供される。これは、各ゾーンともメニューを1、2品に絞り込んでいるから可能なこと。さらに、客数の予測がたつこと、また、ある程度の作り置きが可能なシステムがあることからと推察される。

フロア中央が厨房スペース、その周りを各ゾーンの客数(個室を含む)が取り組み、38階から見渡す眺望のよさも満足度を盛り上げる。プライス的には街場のレストランと同じでも、クレンリネスを含めたファシリティのレベルの高さという点では、都市ホテルの強さ、設備能力の高さがここでも大いに発揮されている。

さらに、料理は中央の厨房一カ所からすべて提供という合理性も無視できない点だ。サービススタッフは、555席という客数からすれば、かなりタイトなかたちで運営されている。

人海戦術が命だったこれまでのホテルとは全く逆の発想。人件費分をプライスに反映させる。それが「数を入れる」ことを可能にする。つまり、「ランチ&ディナーで確実に集客できる」という、ホテル内レストランとして画期的なことを実現させることになる。

ちなみに、「ハプナ」(47席)の場合で、各時間帯の客数は、朝2,000人、昼400‾500人、夜400‾500人。全レストランの利用の8割を館外客が占めている。

<食材仕入能力を料理人自ら磨く>
品川プリンスホテルの料飲部門の強さを語る上で、重要な位置を占めているのが、料理人の存在だろう。
総料理長の大矢弘栄氏は、「職人と商人の使い分け」が大事だという。「つまり、料理人の発想と企業人としての発想のバランスです」(大矢氏)

本館、別館も合わせて3,200席規模の料飲部門を統括する大矢氏が、これまでもっとも力を入れてきたのは、食材の仕入能力を高め、コスト管理を徹底することだ。流通の仕組みを料理人自ら学び、現地まで実際に足を運んで産地調査を行い、品質のいいものを見きわめる。大矢氏はこれを新宿ホテル勤務時代の10年前より実践してきた。

つまり、「採算をとるため→お客を集める→お客が無理なく出せる価格設定→食材仕入れ価格の圧縮」という図式を、大矢氏は当時の経験から体得したというわけだ。

「高い品質の食材を確保し、しかも安く仕入れるには、食材業者との連携がものをいう」と大矢氏。そのためにも、料理人自らが産地に足を運び、各地の業者とのパイプづくり、ネットワークづくりが重要と強調する。

また、新館・別館・本館(レストラン総席数3,200席、宴会場15カ所)で用いる食材は一括購入しており、大量仕入れのスケールメリットも大事なポイントだ。

ところで、同ホテルのレストランには、いわゆるグランドメニューというものがない。常時メニュー改訂を行っているから、各店舗のメニュー表もワープロで作成したものである。無駄を排除するために、メニューを絞り込み、食材を限定して発注するのが通常のレストランの方式。しかし、同ホテルのレストランの場合、それとは全く逆の発想で、仕入に関しては全体のコスト管理を徹底した上で、ある程度業者に任せる。業者が売りたいものを大量に仕入れることは、つまり安価な仕入ができるということだ。その食材を見てから、その日のメニューを決定していく。これはもちろん、メニューを随時変えられるハピナのようなブッフェ形式には最適の仕入法だが、ハプナだけではなく全レストランでこの方式がとられていることは驚きだ。

これは料理人にとっては、ある意味で相当なプレッシャーであることはまちがいない。「しかし本来、料理人とはそういうもの、食材を目の前にして瞬時にメニューを作り上げる。職人としての真剣勝負ですよ」(大矢氏)

この“真剣勝負”があるからこそ、お客は「何度来ても飽きないメニュー、毎日来ても飽きないメニュー」を楽しむことができる。高い能力をもつ職人の存在があってはじめて、セレクションの楽しみの幅が広がっているのだ。それが前述の「ハプナ」の客数に明らかに現れている。

「お客と料理人と業者。三者のいい三角関係が大事」という大矢氏をはじめとする同ホテルの料理人は、皿の上の職人技のみを追求する料理人とは一線を画する。

利益の追求という、企業として大前提となる基本が現場レベルにまで徹底されている点で、新しい料理人集団といっていいだろう。

<メイン厨房は食品工場並の設備投資>
人海戦術を捨てて効率化を進める品川プリンスホテルだが、厨房部分に関する設備投資も、特筆に値する。本館・別館も合わせて、洋食部門でいえば料理人はわずか135人。これだけのキャパシティをもつ巨大ホテルとしては、考えられない少人数。かなりの機械化が図られていなければ、とてもこの数ではやっていけないはずだ。
新館の地下1階にメイン工場がある。ここは、新館・本館・別館の全レストランと宴会場のメイン厨房という位置づけ。いわば、品川プリンスホテル・料飲部門の心臓部分に当たる場所である。ここにすべての食材をいったん集中させて、下処理を施し、料理のベースとなるソースなどを製造・加工し、各レストラン、宴会場へと運搬されていく(専用エレベーター四基を完備)。

既製の品は一切使用せずにすべてここで製造できるのは、大量調理設備が完備しているからこそのこと。自分たちが望む品質のものを作るためには、既製品では対応できないという考え方で、すべて自家製という方針を貫き、結果としてそれが原価を抑えることにつながっているという。

メインの厨房の細部にいたるまでを、ここで紹介することは残念ながらできないが、ホテル内の厨房というより、それはさながら食品工場の様相を呈する迫力であることをお伝えしておこう。

魚処理(臭気などの関係から1階の搬入近くに配置されており、魚処理場としては珍しいドライキッチンを採用)、肉処理(立ち作業で体がつかれにくいノンスリップタイプの床)から、野菜洗浄・カット、加熱処理を含む一般加工(ローレンジやグリドル、スチームコンベクションオーブン設置)、冷蔵室、冷凍室に大別されており、それぞれが単独空調機を完備している。そして作業員はきわめて高い殺菌能力をもつ機器で身体を清潔に保った上で、各作業を実践している。

なかでも、野菜洗浄・カットの作業者には女性が目立っているのが特徴だ。すべてが洗浄・カットマシーンで処理されているので、特別な技能をもたないパートの女性でも十分に作業がこなせるというわけだ。ちなみに、仕込みに関しては、社員6‾7名に対し、パート4名が配置されている。作業マニュアルが確立しているからこそ可能なことだ。

そしてもうひとつ。食品工場並の設備として「クレーン」の設置が挙げられる。これは。ローレンジから水冷却器までL字型にわたされたもの。かなり長いラインである。レンジで大量に調理されたシチュー鍋を、一気にこのクレーンが運んでくれる。この重量のものを人力で一気に運ぶのは到底無理。体を傷めてしまう。となると、何度も分けながらやるしかないが、その分、時間のロスにもなる。そこでこのクレーンが活躍するわけだ。これも大量調理ならではの設備である。

また、床に関しても水まわりはノンスリップ、カートなどの移動を行うところはスリップと、区分けしている点も、細かいが重要なところだろう。

こうして見てくると、メイン厨房は、実際に作業する人間にとって、働きやすい、しかも安全に作業ができる環境が完備されている、きわめて緻密な設計がなされた高レベルの厨房といえるのだが、それもそのはず、厨房を作るに際しても、設計段階から同ホテルの洋食調理部次長(宴会担当)・平松卓夫氏が参加しているのだ。

平松氏の豊富な経験に基づいた的確なアイディアは、メイン厨房だけに見られることではない。5階の宴会厨房、さらに15カ所ある宴会場(4基のエレベーターを配備)それぞれのパントリーにも十二分に発揮されている。

例えば、宴会場のパントリーに関していえば、15カ所のパントリーすべてが、同一のレイアウトで統一されているのは注目したい点だ。同ホテルの場合、6階‾36階の偶数階は、フロアの中央に330㎡の宴会場、その周囲に客室という配置をとっている(別掲図参照)。宴会のオペレーションは、専門のチームを十数組作り(固定メンバー、キッチンは一フロア3人担当)、一チームが一日に3、4カ所の宴会を担当するようになっている。従って、どのパントリーに入っても同一作業ができるように標準化されているというわけだ。

また、宴会場の周囲に客室があるというレイアウト上、宴会場を二重壁にして防音対策が図られているが、厨房についても最新の防音対策が随所に施されている。水道のカット音を極力小さく抑える仕掛けなども、そのひとつだ。

人件費を抑えて商品価格に反映させるという、品川プリンス料飲部門の基本方針は、このような十分な設備投資に支えられているといっても過言ではない。中華饅頭の製造機械や、製パン工場並みの機器(25‾30人分の労働量に匹敵。3斤パンを含めて一日15,000‾18,000個製造)などは、一ホテルの厨房機器とはとても思えないものだ。

これだけの超重装備バックヤードを擁し、新しい料理人像とも呼べる企業内職人がそれをコントロールする。それにより、お客にとって魅力あら価格を引き出し、巨大ホテルのレストランを埋めている。品川プリンスホテル・料飲部門の強さはここにあった。

ハイアット・リージェンシー・オーサカのコンピューターによる料飲管理システム

大坂の湾岸開発エリア「南港・コスモスクエア」に昨年6月24日オープンしたハイアット・リージェンシー・オーサカは、延床面積で大坂地区2番目という大型ホテルである。同ホテルは、㈱大林組以下4社が土地・建物を所有し、経営は新たに設立されたハイアット・リージェンシー・オーサカ㈱が、運営をハイアット・インターナショナル・コーポレーションが担当している。ハイアットはまた経営会社にも20%の出資(資本金30億円)を行い、大林組とともに筆頭株主となっている。
このことからも推察できるように、同ホテルはハイアットにとって前出のパーク・ハイアット・東京以上に重要な日本における拠点ホテルであり、ハード、ソフトの両面で、ハイアットの持てるノウハウがすべて注ぎ込まれているといっても過言ではない。

しかし、同ホテルにとって最大のネックはその立地条件にあった。関空から大坂中心部に向かうルートにあるというメリットはあるものの、大坂中心部からは地下鉄とニュートラムを乗り継いで約40分、車でもはやくて30分という距離感は、純粋に都市型ホテルのコンセプトで統一するには、ちょっと厳しいものがあったに違いない。その点はハイアットも十分に承知していたようで、そのネックを克服するための“仕掛け”を数多く備えたホテルに仕上がっている。

例えば、一つにはリゾートホテル的な要素の導入であり、またレストラン群の構成、内容の工夫などもそのひとつだ。

同ホテルは、15店という多数のレストランを有しているが、その中にフランス料理はない。最上階に位置するメイン・レストランは「天空(162席)」という中華料理店なのである。この他主なレストランとして、1階に寿司と鉄板焼のコーナーをもつ和食店「彩(120席)」、「ザ・カフェ(130席)」、「マンハッタン・バー(42席)」、「ロビーラウンジ(120席)」がある。しかし、もっとも特徴的なのは、地下1階に設けられたレストランプラザ「ビー・ワン」である。ここには、イタリアン・トラットリアスタイル・レストラン「バジリコ(75席)」、ヨーロピアンカフェ「ボンボン(66席)」、昼は丼物、夜は居酒屋の「萬菜(70席)」、飯茶・チャイニーズヌードルの「バンブー(86席)」など、7店がすべて直営で営業を行っている。

それでは、これら多様なレストランがどのような発想から生まれ、どのような調理システムによって支えられているかを見ていくことにしよう。

<ハイアットの料飲改革は1990年に始まった>
「ハイアットにとって、料飲部門の大きな変化は1990年に始まりました。それまではメイン・レストランにコーヒーショップというかわりばえしない構成でしたが、90年以降はコンテンポラリーなレストランを多く導入するようになったのです」
と語るのは、同ホテル料飲部担当副総支配人のクリストファー・コーラー氏。同氏によれば、89年まではハイアットも多様な国籍の人たちの利用を考え、無難なホテル内レストランを作ってきたが、その結果、個性のないレストランは「期待されないレストラン」になってしまったのだという。そして一方でホテルの外に目を向ければ、そこにはカリフォルニア・キュイジーヌやイタリアンに代表される超繁盛店がいくらでもある。そこでハイアットの首脳陣は「ホテル内であっても、1軒のレストランとして人気が得られるものでなければならない」という発想に立ち至ったのである。

そして同社は90年以降、地域のマーケットを徹底して調査し、そのニーズや嗜好にあったレストランの開発に力を注ぐようになった。

ハイアット・リージェンシー・オーサカのレストラン群のコンセプトも、こうした理念に基づいて開発されている。コーラー氏の言葉によれば、それは「プティックレストラン」の集合体ということになる。ここでは、店を選ぶ楽しさを集客の目玉にしたいということだろう。

こうしたレストラン・コンセプトの変化にともない、ハイアットは調理システムの変更を行ってきた。

「90年以前のメイン・キッチン集中型を改めて、各アウトレットごとの調理機能を高め、メニュー内容などの権限を大幅に各レストランに分権していった」(コーラー氏)のである。こうした発想がベースにあればこそ「ブティック・レストラン」の集合体というコンセプトが具体化し得たのである。

実際、同ホテルのキッチンはそれぞれコンパクトにまとめられてはいるものの、その機能性は高く、“客の近くでの加工度”を非常に重視したものとなっている。また、ザ・カフェやバジリコなどでは積極的にオープン・キッチンを採用しているのも特徴のひとつである。

<各レストランごとのコスト管理をサポート>
この調理システムの変更と同時併行して勧められたのは「MAXIAL」と名づけられたコンピューターによる管理システムの開発である。このシステムはハイアットのオリジナル・ソフトで、基本的には同一のものが世界中のハイアット・インターナショナル・コーポレションのホテルで使用されている。
以下、このシステムの流れを、総料理長ウォルター・ワグナー氏のデスク・トップを見ながら追ってみることにしよう。

まず画面には、あるメニューのレシピが表示されている。そこには各食材名、分量の他、各食材の価格も明示され、商品価格と原価率も表示される。これらレシピの作成は各レストランの調理長の責任範囲だ。そしてこの中のある食材のポーションまたは食材そのものを変更すると、一瞬にしてその原価率も変化する。従って、この画面上でレシピを作成するだけで、原価率や売価の調整が可能なのである。このようにして、各レストランの調理長は原価率などの管理を簡単に行うことができるわけだ。

では、各食材の原価はどのようにして割り出されるのだろうか。同ホテルの食材は、購買部→コミサリー→各レストランのキッチンという順に流れていくが、各レストランに渡される食材の原価はコミサリーで決定される。例えば、牛肉を例にとると次のようになる。枝肉で仕入れられた牛肉は、コミサリーでポーション・カットなどの下処理が加えられるが、その際、ロスとなる部分がカットされ、ステーキ用、ハンバーグ用などに分けられる。そして、分けられた後の市場価格などを参考に、ハンバーグ用の部分の価格が決められ、購入価格からマイナスされた後、単位ごとのステーキ用の価格が割り出される。いわばここでは歩留りがきっちりと計算されているわけでる。こうしたデータは、数社の取引先から入手した見積書をもとに、3カ月ごとに現在の市場価格に合致するよう修正されている。もちろん、キーをひとつ叩けば、これら取引先が納入した過去のデータを即時に見ることも可能だ。

したがって、各レストランの端末で、レシピ作成と同時に表示される原価率などはあくまで推定のものが、同時にその誤差が極力少なくなるような工夫もなされているわけである。

ワグナー氏は、このシステム導入で三つのメリットがあったという。

「各調理長が行うコスト管理が容易になった。そのため、デスクに向かっている時間が減り、調理場や客席に出る時間を長くすることができる。二つ目に、食材をチェンジするなどして、お客さんに高いバリエーションを提供することができる。これは、原価率をかけるということではなく、たとえば旬の安い素材を使うなどすれば実現できる。そして三つ目としては、現実に原価率が1.5%ほど下がるということ。これは私の感覚的な実感ですが」

もちろん、このシステムの内容は、こうした単品ごとの管理にとどまらない。各職位ごとにアクセスできる範囲は限られているが、各レストランの調理長、マネージャー、副総料理長、総料理長と、職位が上がるごとに、広い範囲にアクセスができるというかたちになっているのである。また、このシステムはレジのPOSとも連動しており、実際の出数などもリアルタイムで確認することが可能だ。ワグナー氏は、

「各レストランごとの原価率、人件費、エネルギーコストの管理は、各調理長、マネージャーの責任です。このコンピューター・システムは、その責任を彼らが果たすためのサポートという位置づけ」と説明するが、彼自身はこのシステムで、1週間単位のトータル原価率などを見ながら、調理部門や全体の管理を行っているわけである。

また、コンピューターの導入により調理場は一切張り紙などがなく、すっきりとした職場環境が維持されているのも、大きな特徴である。

しかし、実際に現場の人間がどこまでコンピューターを使いこなせるのだろうかという疑問も残る。この問いに対し、コーラー氏は、

「各レストラン単位で行う作業はそんなに複雑のものではありません。もちろん、ベースが英語で作られていますから、中華料理や和食のシェフのなかにはちょっととまどう人もいるでしょうが、使う単語は限られていますから、すぐになれるし、必要なフォーマットさえ覚えてしまえば簡単です。たとえば`レジの担当者はレジを打つだけでこのシステムにアクセスしているわけですから」とのことである。

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