95年度決算分析座談会(商業界 飲食店経営1996年5月号)

業績回復の企業に遅れをとるな!
着実に店舗力と商品力を磨き自店の特性を明確に訴求せよ
95年度8月号で実施した決算分析座談会を、今回は前回参加の井上恵次氏、山川守氏、王利彰氏に、新たに小林一博氏を加えて実施した。前回の座談会では、まだバブル崩壊後の余波で各企業とも業績回復につなげるための試行錯誤が展開されながら、商品とサービス向上につながっていないということが指摘された。95年度の業績の回復傾向は、まさにそれらの努力が着実に実った。一方、いまだ方向性が定まらないところも多く、その差はこれからどんどん大きくかけ離れていくことが予想される。約2時間に及んだ活発な議論からこれからの指針について検証した。
◆ FRチェーン第1グループ 年商1,000億円クラス
――多店化、多角化による副次的問題を抱えるが、QSCをブラッシュアップしたことが活性化の大きな決め手――
井上
経営というのは絶えず連続性があります。従ってある時期の12か月だけを区切って評価することができません。ある種の傾向をきちんととらえた上で見ていかなければなりません。ただ、それは非常に大変なことなので、今回の決算書を見ながら12ヶ月間に絞って話を進めていきたいと思います。95年度の決算を読んで、もっとも目立つのはFRグループの業績の回復でしょう。大手チェーンの動向は明暗さまざまですが、すかいらーく、デニーズジャパン(以下デニーズ)、ロイヤル、西洋フードシステムズといった一部上場グループの業績の状況からどんなことを強く感じますか。

ロイヤルは、出店数を抑えて各店の業績を均衡させることで全体を少しよくしたという印象を受けます。ペースを落とし内部を整理したという意味からいえば、本当の回復とはいえません。今後どうしていくかが問題でしょう。多角化してきたことによる問題を抱えざるを得ないので、95年度に整理してきれいにしたとはいっても、今後各事業を伸ばすときにどのようにするのかという難しさを持っていますね。
井上
すかいらーくは50店以上、デニーズは21店、西洋フードシステムズも29店それぞれ出店しています。それに対してロイヤルは9店しか出店していません。その点から見ていま指摘したことは当てはまるといえます。ただ、中身についてはこの1年間改装を積極的に行ったことは評価すべきかもしれません。
山川
ロイヤルの改善のひとつは、商品を得意なものに絞り込んだということです。もうひとつは昨年からやっているホスピタリティ宣言です。社内の空気をひとつにまとめるという点で意義があったといえるでしょう。
小林
数字的には、公開時の水準まで回復していないような印象を受けます。公開時の経常利益率は平均9%くらいですが、当時よりもいまだ低いレベルです。手放しで喜べるまでは至っていません。
井上
ただ、過去3、4年に言われた“外食産業は危ない”といった危機感は消えて、これからうまくいくのではないかといった安心感と明かりが見えたという感じがしますね。すかいらーくやロイヤルのこの半年間の株価が上がっているのも好材料です。
小林
2ケタで成長していた当時現場にいた我々の頭の中には、急成長を続けている外食産業というイメージがあるので、それから見ると近年の動向は少し寂しいという印象は否めません、外食産業の分母が大きくなったのだからやむを得ないということは認めますが…。
井上
すかいらーくの動きは、注目しなければならないことがたくさんあります。ガストを中心とした低価格政策が決算書にどのように出ているかを見る必要がありそうです。

それは今回の決算書ではなく、次回の決算書に表れるのではないですか。その時に業績が回復するかしないか評価の分かれ目となるでしょう。現時点で評価を下すと、かなり改善されてきている面があるので少しかわいそうな感じもします。
小林
上場会社の場合、たとえ現状が良くなくても何かトライしていくことがとても大事です。すかいらーくの姿勢には評価できるところがあります。
井上
それがないと日本に店数が500店以上のFRの大チェーンは出てこないかもしれない。そういう意味でもすかいらーくには頑張ってもらわなければならないですよ。もうひとつは今すごい勢いで展開しているガーデンズとグリルが、すかいらーく全体の収益にプラスになるのかどうかも気になります。

今ガーデンズとグリルの使い分けがお客に見えていませんね。グリルのローストビーフを除いてそれぞれの商品構成は非常に似通っています。サラダは目をつぶって食べたら分かりません。
井上
一般のFRバブル時代の客単価が1,160円です。ガーデンズの場合、客単価が1,200円を割っています。従ってFRのバブル時代の客単価とガーデンズの客単価がほぼ同じところにあります。これをすすめていけば以前のすかいらーくに近づくのではないかという感じがします。これではどう見ても生産性が高いとはいえません。むしろ、ガストの方が将来性が感じられます。
山川
ガーデンズは商品力の面で業態転換の効果が出ています。グリルはそれとは差別化されていないという意味で少し悲しい気がします。ガストの価格政策は外食産業に脅威を与えました。ですから、今後商品力が安定し、サービス、クレンリネスのレベルが高くなれば、それぞれが本当に強いチェーンになるでしょう。

ちょっと懸念されるのは、ガストが客単価の上げに入っているところですかね。和食膳のようなものを入れたり、ターゲットがずれてきています、それは危険な兆候といえるかもしれません。
<リニューアルで作業性の向上も成し遂げる>
井上
デニーズあるいはすかいらーく、ロイヤルというのは、先発部隊として走っています。その中で、デニーズの回復はどのように見ていますか。

デニーズは商品が良くなり、安定しましたね。サービスも強化しています。「デニーズへようこそ」という言葉も聞かれるようになりました。パンケーキもきちっとしてきました。
山川
この1年間で非常に良くなりましたね。一番良くなったのは遅かった提供時間が早くなり、きちんと出せるようになったことです。これは大きな成果だと思います。
井上
この2、3年の間にフードサービス業の技術の中でも最も向上したのは、早く商品を提供できるようになったことと商品のバラツキがなくなったことです。それと、店のクレンリネスが維持できなくなったときに売り上げが落ちるということをデニーズやガストなどが体験したので、クレンリネスを重視するようになってきています。イトーヨーカ堂グループとしてのデニーズは、ロイヤルやすかいらーくと何か違いを感じますか。
小林
ヨーカ堂グループには、なぜか堅実に儲けるという先入観を抱きます。それはさておき、私がよく行く千葉のあるデニーズの店では確実に良くなっています。ささいなことですが、ウエートレスがコーヒーを注いで回るようになったり、無理にカウンター席に座らせないようにしていますよ。

改装によってカウンター席を減らしてブース席を増やすなど、お客サイドに立ったサービスに取り組もうという姿勢が感じられますね。
井上
1年間に228店も改装しています。カネをかけて店をお客のためにきれいにして、クレンリネスを維持していこうという決意が数字に出ている気がします。

改装によって機能も向上させています。改装でレイアウトの改善などをやっているのはデニーズぐらいではないでしょうか。店はきれいにしても生産性や売上が向上するレイアウトまではどこもやっていません。
井上
そういったことで売上を増やし、収益を改善していくというのはやはりイトーヨーカ堂グループのすごさといえるかもしれません。
井上
西洋フードシステムズが売上ではロイヤルを抜きました。経常利益も42億円で14.6%アップというようにかなり努力した跡が見られます。カーサの1年間の商品に対する努力が数字の成果として表れてきたようにも思えます。

西洋フードシステムズは、給食の部分でがっちりと利益率を確保できる体制を持っています。ロイヤルやデニーズは全体の店がきちっとしていますが、カーサの場合、店はすごくいいのに店ごとにばらつきが見られます。その辺が課題になると思います。
井上
カーサの場合、凸凹はあっても平均してみると高い伸びを見せています。彼らは商品を早く提供していこうということを社内目標にして行っているので、その辺の成果が出ている気がします。
◆ FRチェーン第2グループ 年商300億円クラス
――主力業態に傾注したところ、立地の見直しと業態再編のポリシーを明確にした企業が成長をつかんだ――
井上
95年度決算で回復が著しいグループは、FRチェーンの第2グループです。第2グループとは、サト、サンデーサン、フレンドリーなど、昭和50年代から60年代にかけて上場した比較的歴史のある企業のグループという認識です。これらの企業は、一部上場企業と似た体質を持っているので、規模が小さい分だけ経営体質が弱いといえます。その辺でバブルがはじけたときに収益でマイナスとなったのだと思います。その中で健闘しいるのがサトでしょう。いろいろなチャレンジが見られますね。一部上場企業に負けないだけのエネルギーを感じます。
小林
極端にいえば店がきれいになりましたね。誰が行っても分かるくらいですよ。会社の勢いを感じさせる元気のいいメニューも多く見られます。

ひとつ懸念しているのは、すかいらーくの後追いをしていることです。業態再編のプロセスがすかいらーくより1年くらいのタイムラグがあるので、次回の決算が今回の決算を上回ればすかいらーくのようにはならないでしょう。今、サトでは5業態を展開していますが、店舗数の割には多すぎるのではないかと思います。内部体制が追いついているのかどうか心配です。
井上
5業態をやるには、5人の事業部長がいなければなりません。その意味で5つの事業部を引っ張れる人材がどれだけ育っているかということが重要です。すかいらーくの強さは、創業者の4兄弟をはじめ、創業の時からいた人達が育っているからです。ただ、サトにはすかいらーくのガストなどの低価格政策店を反面教師としてとらえて「オレたちは違うやり方をしなければならない」という考えがあるような感じはうかがえます。サービスの質を変えていないということなどには、非常に前向きな姿勢を感じます。

業態再編の真価は、エブリデイズがカギを握っているといえます。エブリデイズがガスト化しないでいけばこのままいくだろうし、ガスト化してしまえば苦しいでしょう。
井上
やはりドラスチックに変わったエブリデイズがどこまでいけるかが、この会社のポイントになるでしょう。ステーキ&ステーキも他のステーキ専門店と比べてバリューもあるのでかなりいけると思います。それから、赤字だったサンデーサンが202店を展開して280億円を売っています。フラカッソという新しい業態を開発したり、一番成長しているジョリーパスタをどんどん伸ばしていることが。約5億円の経常利益を出したことにつながっていると思います。

サトとサンデーサンとでは、基本的に体質が違いますね。サトの場合は、古くから儲かっている駅前立地の寿司店などを持っています。サンデーサンの場合はそうした基礎体力が弱いのでかなり無理をしてやってきているはずです。
井上
そういう意味では、サンデーサンやフレンドリーは大手グループと同じようなものを売っているから、大きく儲ける部分がありません。その辺がサトと違う部分といえますね。

だから、サトは経常利益が高いんですよ。
井上
フレンドリーは駅前立地の店を整理して郊外に出てしまいましたね。これに対し、サトの場合は大切にしてきた先代の遺産があり、いい場所にいい店を持っています。その辺が経常利益の差となって表れているのかもしれません。
<CKの稼働率向上と集中出店が利益を生む>
井上
藍屋とステーキ宮を見ると、藍屋は夢庵をもとの藍屋に戻したりしています。ステーキ宮は、大きく業態転換しながら、一方では居酒屋をやったり、またもとに戻したりしています。両社とも大きな転換をして混乱した会社という印象を受けますね。
山川
藍屋の夢庵は、最初に低価格で何の魅力もない商品を出して失敗しました。次にうどんを出しました。お客への訴求ポイントをはっきりさせないまま出店している感じがします。今は迷っている時期ではないでしょうか。ステーキ宮は無理して業態転換をして、いろいろなものをやってみようというところに無理があります。ローカルの良さをもっと出すべきですよね。
井上
ステーキ宮の決算の数字を見ると、売上が約318億円から約224億円へと大幅に減っているのに経常利益が微減。何かこの数字を素直に受けとめにくい感じですが…。
小林
前年並みの経常利益を必至になってクリアしているという感じがしますね。FRでFCが30店舗というのはステーキ宮ぐらいです。比率でいえば4分の1くらい。今体質転換を図っているのかもしれません。
井上
第2グループの中でバランスがとれているのは、ジョイフルではないかと思います。九州という狭い範囲に集中して出店をして、しかも同一エリアにはロイヤルホストという強い店がありながら、価格を3割低くということを明確にし、投資コストを抑えて全店24時間営業を行って2ケタ成長を維持しています。
山川
ジョイフルの一番の特徴は出店方式にありますね。地方の最大のメリットを生かしたドミナント形式の出店をしています。
井上
マネジメントが崩れないし、コストが抑えられるということですね。
山川
集中出店したところに自社のデリバリー機能が十分に満たされるようになっているのもいいですね。
井上
扱い品目の7割は自社工場で素材を加工しています。一般に日本のFRでは、セントラルキッチン(以下CK)を持っていても生産品目が非常に多いので、生産効率が低いのですがこの会社だけは、加工アイテムは少ないこともあってメリットが出ています。
山川
サトやフレンドリーなどの和食を持っているところが、洋食を出したときにCKが充分に機能しません。ハンバーグのミキシングができる程度でソースもできにくいようです。
井上
ジョイフルのようにローカルで店数を増やしていくと、人材の面が次第に弱くなりがちです。それをカバーするには、工場の品質管理が良くならなければ現場にブレが生じます。FRの傾向としてメニューの多いところは、店数が多くなるにつれて商品のブレが大きくなります。そういう意味で工場の加工度を含め、現場での商品のブレを少なくするためのポイントがどこにあるのかを的確にとらえた企業がお客の人気を得ています。もうひとついえるのは、集中出店をやり続けている企業が儲かっています。100店舗くらいで全国チェーンといっているところは、どこかが狂ってきます。

セントラルキッチンの稼働率によって収益率も違ってきますね。
小林
ジョイフルの収益率は際立っていますよ。
井上
ただ、人材の効率はそんなに高くありません。人事売上高もここより高いところはいくらでもあります。全店24時間営業なのでその分、人を多く投入しなければならないことがその要因として大きいですね。
◆ FFチェーングループ ハンバーガー、牛丼、喫茶
――商品特性のブラッシュアップに努めたチェーンが、再び得意ジャンルの中で独壇場の軌道を歩み始めた――
井上
FFでは、日本マクドナルドが売上高約2,534億円、前年比17%贈、経常利益が約187億円、前年比53%増ととてつもない成長を見せています。それと、吉野屋ディー・アンド・シー(以下吉野屋)の好調ぶりも目立っています。吉野屋には非常に高い点数を与えてもいいように思います。
小林
吉野屋は115店も改装しています。これは評価しなくてはいけないでしょう。
井上
私も同感です。それと「おいしくなった牛丼」という言葉を非常に大切にして、技術の向上を図った成果が出ています。

吉野屋は競争相手がないといっていいでしょう。まさに独壇場です。システムが完全に出来上がっています。改装とともに広告宣伝をしっかりやっています。うまくお金を使いながら、利益をしっかり出しています。
山川
女性を広告に起用するなど、イメージがソフトになって清潔感を強く打ち出していますね。

女性客やファミリー客を明らかに狙っています。ユニフォームもきれいになっています。ただ、メニューが牛丼だけですね。これからメニューを加えるかどうか迷うことこともあるでしょうね。
小林
単品メニューというのは、公開をするときネックになります。いくら成長が高くても、もしこの商品がつまずいたらどうするのかということが必ずでます。私が在籍したモスフードサービス(以下モス)が公開したときも、この点が議論の的になりました。吉野屋に限らず単品メニューは不安定な要素と見られがちです。

モスの場合は、ポークもチキンもありましたが…。
小林
それでも公開の審査の段階では、ハンバーガー屋としてくくられてしまうのです。我々がいくら違うといってもなかなか理解してもらえませんでしたよ。
井上
日本ケンタッキー・フライド・チキン(以下日本KFC)と同じようなことが言えます。フライドチキン一筋できて、ここしばらく低迷を続けてきてようやくここにきて上向きに転じました。日本KFCが吉野屋と同じ壁にぶつかりながらも、ある道を探し当てたという意味で評価すべきでしょう。
小林
本来は独走してもいいはずなのに、ビルドアップを怠ってきたため、相対的に毎年価値が低下し、自信を失っていましたね。しかし、ここ数年フライドチキンを前面に押し出してやってきたことが、良い結果に結びついています。
山川
日本KFCの回復のきっかけになったのはグラタン類ですね。チキンではありません。プラスアルファの商品できっかけを作り、本来の商品に戻りました。もうひとつ良いことは、素材を大切にして健康志向を打ち出していることです。それでも本調子とはいえません。もっと商品をグレードアップすべきです。
井上
次のものをつくることに夢中になってきましたね。本来の商品を軽く扱ったことが自信を失うことになりました。まだチキンはマイナス4%で、完全な回復はしていません。ただ、直営店を多く持っていて、店舗の売れ行きを本部で敏感に感じ取ることができるので、思い切った改善が期待できます。
<明確な商品政策が競合立地をものにする>

モスにあえて苦言を呈するとすれば、直営店の売上が前年比5.2%マイナスになっていることです。それでもチェーン全体の売上はプラスになっています。これは、加盟店に支えられている部分が大きいことを示しています。この状態が続くとなると不安要素になりますよ。日本マクドナルドとは競争しないというのがこれまでの通説でしたが、今はいいようにやられているというような感じがします。コンビニや弁当ショップも安売りになっているので、その影響も出ているような気がします。
井上
直営店の売上が前年割れで、利益がプラスなのもモスの特徴でしょう。

直営店が少ないので、モス本社としては商品の売価が変わらなければ、食材の原価が下がった分差益になりますね。非常に安定した収益構造になっていますが、1.1%増の売上増というのは、既存店ベースでかなり厳しくなっていることを示しているのではないでしょうか。本来前年の出店がオンされてくるので、黙っていても2.3%は売上増になるのが普通です。私が知る限りでは、近年まれにみる数字です。
井上
日本マクドナルドとモスに共通しているのは、非常に投資を落としてきているということです。だいたい半分の投資額になっています。それが収益の向上に寄与しています。その点、私の見解ではFRは落とし方が少ないですね。両社の投資に対する新しい基準は評価してもいいように思えます。

FFとFRとでは、収益構造が違うということもありますね。
小林
モスは、サプライヤー的な体質を持っています。店舗の95%が固定客であり、新商品を導入すれば必ず売れます。安定性に関しては、ほとんど問題ありません。

それにモスは、いろいろな業態を展開していますね。
小林
ミスタードーナツなどと同じように、1人のオーナーが2ケタの店舗を持っているのは普通です。今はFCが体力を持ちはじめています。本部が新しい手を打てば、それに乗ろうとするFCも多く出ることになります。それは、相乗効果にもつながります。
井上
FFの中で高く評価できるのがドトールコーヒー(以下ドトール)です。ドトールの安定した売上、収益の伸びは競争がないだけにこれからも続く可能性が高いですね。株価も当分期待できそうです。

大型店を出すことによって、マクドナルドと正面からぶつかるようなロケーションでもいい勝負をしています。あれはすごいですよ。
山川
ホットドッグにコーヒーをつけながらうまく売っています。最近はテイクアウトもよく売れています。安心しておいしいコーヒーが飲めるというのは強いですね。
小林
まさにわが道を行っているという感じです。モス以上の出店ペースで、オフィス街だけでなくどこにでもあります。ジャーマンドッグはどこも追随していません。不思議なくらいです。
井上
ドトールがモス以上の出店ペースできているのはすごいですね。競争のないところで多様性のある売り方をしているというのがこの会社の強さになっています。
小林
加盟店を多く持ちながら直営店も積極的に出店しています。将来、1,000店を超えたら、ナンバーワンのマクドナルドとの競争も激しくなります。今後どのようにFCを展開していくのか、あるいは商品にどんな特性を持たせていくのか興味があります。
◆ 専門店グループ 居酒屋、回転寿司など
――多店化してきた過程で収益体質を悪化させた企業は、お客の使い勝手を無視してきてはいないか――
井上
居酒屋は過去3~4年に不況に強い業種のように言われましたが、95年度では曇りというよりどしゃ降りのような感じがします。テンアライドと榮太郎からどんなことを感じますか。

テンアライドは、今戦略を変えつつあります。郊外出店を進めていますが、収益的に難しいような気がします。ダウンタウンの店では、自社競合がでているような気がします。いろいろなことで足踏みしているうちに、未上場で上場を目指している企業に追い上げられていることが数字に出ているのではないですか。天狗で懸念されるのは、客層が変わってきていることです。以前は洋風居酒屋といった雰囲気で、男女の比率がほぼ半々だったのに、今は山手線の周辺の店を見てもサラリーマンの比率がすごく高くなっています。
井上
お客の層が確実に高くなってきていますね。

それが売上の低下とダブって見えてなりません。ちょっととるべき方向が違うのではないかという気がします。それに比べると、上場を目指している企業の方がはるかに的確ですね。居酒屋というのは、夜の一発勝負です。FRのように昼も夜も営業して細かくきっちり儲けるという体質ではありません。だから都心のビルの7階とか8階の広くて家賃の低い場所があっています。それを路面の一等地でやっても苦しいのは当然です。
井上
他の企業産業は、苦しい中でいろいろな改善が見られます。が、居酒屋だけはほとんど改善が見られません。それが不思議に思えてなりません。

今、居酒屋のマーケットですごく競争が激化しているせいもありますね。
井上
どこも特徴がなくなっているように思えます。看板があってもなくても同じなのではないですか。

サービスはいいし、メニューも頑張ってはいますが、お客が求めているものからずれてきているんですよ。
小林
居酒屋は意外に公開企業が少ないですね。それに対して回転寿司は10年くらいで簡単に公開していくケースが結構あります。そういう目で見ると、居酒屋というのは産業化が難しいのかなという気もします。

居酒屋というのは、システムがほとんどないために、誰でも比較的簡単に参入できます。脱チェーンではじめるケースも多く見られます。確かに看板があってもなくても同じというところがあります。
井上
最近の居酒屋は、どこが経営母体なのかはっきり分からない、みんな横並びという感じがします。
山川
一時期のFRの何でもありのメニューに似ています。品数が多くてもひとつひとつはお粗末な印象が否めません。
井上
店数が増えれば増えるほど特徴がなくなっていきます。お客は、新しいということだけで足を運ぶ傾向が見られます。その辺が居酒屋の弱さといえます。
山川
特に焼き物が弱いですね。焼き鳥の専門店と比べると非常にレベルの低いものが出ています。
井上
自店の商品がお客に納得してもらっているのかといったことを見直していかないと、これから消えていくような気がしてなりません。他の飲食業が建て直しに努めている中で、居酒屋だけがどんどん時代遅れのものになってしまっています。非常に危機感を感じます。

どうせ居酒屋に行くのならきれいな店がいいですね。
井上
和民や白木屋といった勢いのあるチェーンは、上場企業よりも店が新しくて清潔感を感じますね。

それに居酒屋は流行の変遷が速いですね。3年から5年で変化します。
井上
お客をバーッと入れてバーッと帰すのでは、使い勝手が限られてしまいます。団体でないと利用しにくくなっていることにもひとつの限界を感じますね。
<「わかりやすい商品」で先行企業を闘え>
井上
居酒屋グループと対照的なのが、元気寿司とアトムの回転寿司グループです。日本人の一番好む魚とご飯の需要は大きいですから、出店の方法を間違えず人材の育成からうまくいけば急成長できる企業です。アトムと元気寿司を比べると、アトムの方が元気寿司より売上が伸びていて、客数が多いにも関わらず収益は低いという現象が出ています。

元気寿司は、社名のようにすごく元気があります。従業員の数が違うのではないかと思うくらいです。入った瞬間に圧倒される迫力が感じられます。売ろうとする気構えが違います。
山川
アトムは他の業種にも力を入れていることによって、力が分散しているように思えますが…。
井上
売上の規模が100億円そこそこなのに力が分散していては、企業の成長力が散漫になるような気がしますね。
小林
元気寿司の商品は、通常の回転寿司のレベルを超えています。そのことを消費者もよく知っています。それが売上に出ているともいえます。
井上
後発企業は、先発企業と比べて分かりやすくいいものを出さなければ勝ち目はありません。寿司はシャリとネタしかなく、はっきりしています。そして元気でなければいけません。元気寿司はその当たり前のことをきちんとやったことが、消費者に受け入れられたということでしょう。元気寿司の主力エリアは北関東でステーキ宮も同様ですが、ステーキ宮は大きく間口を広げていったのに対し、元気寿司は自分の得意なものだけに集中しています。その差が出ていますね。

今、企業を問わずきちっと絞り込んでいるところが全般的にいいようです。これは、本業に力を注げるからでしょう。
山川
いくつもの業態を持っていて、うまくいっているところが少ないのは事実ですね。
◆ 96年度短期戦略を読む
――リニューアルで店舗力を蘇らせ、自店・自社の商品価値の向上を明確に訴える努力が成長につながる――
井上
今期の決算から来期以降に向かってどんな変化が予想されますか、あるいはどんな期待をしていますか。
小林
今回の決算短信を見ると、いくつかの長期予報が満載されているように思います。その中には、食材・包材の見直しや季節感を出す、無農薬野菜の提供といったことが異口同音に言われています。それは、いわばこれから共通語といえるかもしれません。来年以降もローコストオペレーション、ヘルシー、安全といったことを謳い文句としてやっていくのかなというのが私の結論です。
山川
せっかくリニューアルを行っても、お客に分かりにくいと効果が薄れてしまいます。10年、15年来ている店に対して、お客になって気持ちがいいという印象を与えるのがリニューアルの第一歩です。その次に来るのはよい商品を提供するためにキッチンを変えるということです。仕組みが変わってもお客が居心地が悪くては何にもなりません。お客にとって店に入ったときも席についたときも楽しくて、出てきた商品が今までより価値があることが大切です。もちろん、価格を下げることもひとつの価値観ですし、価格を据え置いて商品をレベルアップすることもひとつの価値観です。その辺のバランスがとれないと良い評価はできません。

今、外食産業はバランスを崩しています。少し前は低価格、今はコスト削減といったことがテーマです。とにかくバランスをとったやり方をしないといけません。例えば、デニーズはメニューがすごく良くなったわけではありません。店長がオン・ザ・フロアを心がける、サービスを良くする、改装を行うといった着実な手を打ったことがいいのです。いかに少しずつステップ・バイ・ステップで改善していくかが重要です。今期の決算で良くなった企業のうち、経費を絞ることで良くなったところは、来期以降もさほど良くなることは期待できないでしょう。逆に投資をして良くなったところは来期以降さらに良くなるでしょう。今後はそのあたりの差が開いていくと見ています。
井上
外食の楽しさをお客に分かるようにしていこうというのが、皆さんの意見のようです。来期の決算短信では、店数を増やして増収増益のバランスがとれている企業がもっと増えて欲しいですね。特に1店あたりの売上がもっと高くなって欲しいですね。それとこの5年間くらいの間に上場した企業は、自社の方向を明確にしていくべきです。昭和50年代に上場した企業は厳しい嵐の中から現在の姿を明確にしてきたのですから、5年以内に上場した企業も、もう一度自社の洗い直しをすることが必要です。その意味では、例えば元気寿司のような企業がたくさん出てくることが望まれます。今年から来年にかけても上場企業が随分と出てくるので、そのモデルになる企業になることを目指して欲しいですね。
“本業”に力を注ぎ業績回復をつかむ
FR大手のチェーン化企業では、すかいらーく売上高1.9%減、経常利益高22.1%減、ロイヤル同1.3%増、同9.4%増、デニーズジャパン同4.8%増、同14.0%増、西洋フードシステムズ同1.4%増、同14.6%という状況。ガストに揺れたすかいらーくが苦戦したが、それ以外は一様に明るい兆しを見せている。特に前期にストアオペレーションが乱れたデニーズジャパンは完全に回復させている。
サト、サンデーサンの業態再編に注目
年商300億円クラスの企業でも、サトが売上高8.0%、経常利益高39.8%増、サンデーサン同2.0%増、前期赤字決算が4億7,600万円の黒字、フレンドリー同8.9%増、同64.1%増と好調な企業が目立つ。一方、低価格路線を急激に展開した藍屋が同2.1%増、同83.6%減、ステーキ宮同29.4%減、同2.2%減と低迷している。規模が比較的に小さい分、早期の立ち直りが期待される。
“商品力アップ”で強いチェーンが復活
95年度のFFは日本マクドナルドの一人勝ちの様相を呈したが、他のチェーンも健闘した。特に吉野屋ディー・アンド・シーは売上高4.9%増、経常利益高21.3%と回復が顕著。ドトールコーヒーでも同18.3%増、同45.8%増と独壇場的な強さを見せている。日本ケンタッキー・フライド・チキンは同0.9%減ながら、同37.1%増となり回復の兆しを見せている。商品のブラッシュアップが奏功した。
居酒屋が減益基調、回転寿司は伸び盛り
居酒屋グループでは、テンアライド売上高7.1%増、経常利益高15.6%減、榮太郎同4.7%増、同22.2%減と減益基調。テンアライドでは販管費のアップ、榮太郎では原材料のアップをその要因としている。伸び盛りの回転寿司では、元気寿司が同18.2%増、同9.5%増、アトム同5.4%増、同3.0%増と一様に好調。元気寿司ではテイクアウト専門店を撤退し、効率化を図って一層の業績向上を図る。

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