飲食業の環境維持への取り組み検証(商業界 飲食店経営1998年9月号)

アンケート「環境対策」取り組み実体
1)グラフの説明
外食各社への環境対策のアンケートの結果を表にまとめてみた。(図1参照)

図1
図1
大きなジャンル別に並べると

「ゴミ処理関連」
ゴミの減量化 21%
ゴミ処理 16%
再生紙などのリサイクル 14%
使い捨て食器容器の改善 11%
包装材の処理 4%

「下水処理」
下水処理 9%
廃油処理 11%
洗剤の改善 3%

「省エネルギー」
排煙廃熱処理 3%

「緑化及びその他の対策」
店舗及び周辺の緑化 4%
その他の対策 4%

となっている。

では項目別の具体的な対策を見てみよう。

「ゴミ処理関連」 小計66%

1.ゴミの減量化 21%
2.ゴミ処理 16%
3.再生紙などのリサイクル 14%
4.使い捨て食器容器の改善 11%
5.包装材の処理 4%

・セントラルキッチンの効率化により生ゴミなどのロスを出さないようにする。
・セントラルキッチンでのゴミの分別処理とリサイクル
・生ゴミの脱水、脱臭による減量
・テナントデベロッパー別にゴミ分別を実施
・生ゴミの堆肥化(テスト中)し、リサイクル(農家に提供し農産物を食材として使用)
・ペットボトルのリサイクル
・簡易包装
・ゴミの分別、減量化
・トイレのペーパータオルを廃止し、ドライヤー(エアタオル)に変更
・ゴミ焼却炉のテスト
・食品などの包装容器の見直し
・再生紙を使用。(メニューブック、POP、テイクアウトの食品に触れない部分、コピー、名刺、ちらし、社内報、トイレットペーパー)
・一部の包装用紙に非木材パルプであるケナフを使用する。
・セントラルキッチンから店舗通い箱で材料を運び段ボールを削減する。
・ファーストフードなどで店内飲食の際に使い捨ての容器から陶器、ガラス、金属スプーンなどに変更
・発泡スチロールの容器を低発泡容器へ変更し、ゴミを減量する。
・割り箸のリサイクル
「下水処理」 小計23%

6.下水処理 9%
7.廃油処理 11%
8.洗剤の改善 3%

・無洗米の導入
・浄化槽のバイオ技術による消臭
・下水処理の対策
・グリストラップ内をバクテリアで浄化と機械浄化の比較テスト
・廃油を石鹸や洗剤などにリサイクルする
・調理済み油脂の再生装置のテスト
・ドライクリーニングから水洗いクリーニングへ(無リン洗剤)
・洗剤の変更
「省エネルギー」 小計7%

9.その他の対策 4%
10.排煙廃熱処理 3%

・省エネルギーをおこなう。
・(ガスヒートポンプエアコンの導入で電気使用量削減)
・(省エネ電球を使用、白熱灯から蛍光灯電球へ)
・(高効率の燃焼ボイラーの使用)
・CO2の削減(物流センターの整備と効率化を行い店舗配送回数を減少)
・排熱再利用の麺釜
「緑化及び」 小計8%

11.店舗及び周辺の緑化 4%
12.その他の対策 4%

・店舗入り口周りの緑化
・環境ホルモン対策(食品のラップを環境ホルモンの影響のないポリオレフィン系へ変更)店舗及び周辺の近隣環境対策(騒音、悪臭などへの苦情対策)
全体の傾向を見ると以下の順になる

「ゴミ処理関連」 小計 66%
「下水処理」小計 小計 23%
「緑化及びその他の対策」 小計 8%
「省エネルギー」 小計 7%

2)アンケートの分析
「タイプ別企業における環境への対応の仕方」
今回のアンケートを見ると回答者のグループが4タイプに分かれており、業態により環境への対応が異なるのが分かった。

1.食品スーパーやコンビニエンスストアーなどの小売業をグループに持つ企業
2.持ち帰り容器を使用するファーストフード企業
3.ビール会社などの食品メーカーをグループに持つ企業
4.ファミリーレストランなどの独立企業
1.食品スーパーやコンビニエンスストアーなどの小売業をグループに持つ企業
このグループは食品スーパーなどで発泡スチロール容器、過剰包装、持ち帰り用のポリ袋、来店客による交通渋滞、騒音に対するクレームや、コンビニの深夜営業がもたらすエネルギー問題、配送トラックが生み出す交通渋滞とエネルギーの消耗、弁当などの廃棄物の処理、など社会問題化を経験しており、そのフィードバックが外食部門にも生きており、大変真剣な取り組みを具体的に行っている。

コンビニは環境に対する問題の矛先に上がっている。その中でも24時間営業をするという特殊な業態から、深夜煌々と明かりをつけていることに対する批判が多い。最近ではガス冷暖房(GHP)や看板照明に対する反射板などの使用による積極的な電力量削減に取り組みだした。弁当などの賞味期限切れの廃棄問題に関しても、コンビニでは天気予報、過去のデーター等や効果的な棚割を衛星中継を利用して店舗に配信し、発注予測制度を 向上させ、廃棄処分と機会損失の両方を削減しようとしている。

2.持ち帰り容器を使用するファーストフード企業も[1]の企業と似たような状況である。
ファーストフードは持ち帰り容器や、ポリ袋などに企業のロゴマークを貼ってあり、道路などに放置されると大変目立ち、社会的な批判を浴びるようになった。その為かなり以前から容器の改善、真剣なゴミの減量、回収とリサイクルなどに取り組んでいる。また、多くのファーストフード企業でイートインの客に陶器やガラスなどの容器で提供し、店内で使い捨ての容器を使用しないように努力している。その他、廃油の処理などの具体的な数多くの対策を行いつつある。

3.ビール会社などの食品メーカーをグループに持つ企業は、ゼロエミッションつまり、廃棄物を一切出さないと言う運動の影響を受けており、今後、色々な対策を打ち出す物と思われる。ビールメーカーは発酵課程で使用した穀物の滓や、洗浄液を排出するが、それを魚の養殖に使用し、完全なリサイクルを目指すもので、これは究極の環境対策となると注目を浴びている。
4.ファミリーレストランなどの独立企業は元々、使い捨ての容器を使用するような業態でないため、仕込みや食べ残しの食材等の生ゴミと排水、廃油の処理などが主であり、あまり進んだ対策を必要としていないようだ。生ゴミの処理については堆肥を作る装置を店舗に設置し、その堆肥を農家に配り、それにより栽培した農産物を仕入れるというリサイクルをテスト中なのが目立つくらいだ。
「取り組み別の項目」
「ゴミ処理関連」
小計66%と最も取り組みの多かった「ゴミ処理関連」の中身を見てみると、セントラルキッチンの活用により店舗段階でのゴミを出さないようにし、セントラルキッチンから店舗への配送の際の食品を包装する段ボールを使用しないようにすると言う基本的な手法が効果的なようだ。

また、ゴミを出さないようにするために使い捨て食器容器と包装材の改善という基本的なことを行っている。

リサイクルの面ではほとんどの企業で再生紙を使用しており、積極的な企業ではメニューや持ち帰りの包装紙まで採用している場合もあった。

数件、ゴミの焼却を店舗でテスト中のケースがあったが、この場合慎重にゴミの分別を行わないとダイオキシンなどが発生する危険があるので注意が必要だろう。現実に学校等で使用していた焼却炉は廃止の動きも出ているようだ。

「下水処理関連」
小計23%とゴミ処理関連に続いて対策だ。これは廃水処理の規制がうるさいためと、浄化槽やグリストラップのにおい処理の問題もあり、数多くの企業が取り組んでいる。

油の処理に関しては回収し、石鹸や飼料などへのリサイクルを多くの企業が実施中だ。以前は販売できたが最近では回収業者に費用を払う必用が出てきており、将来は油を使わないでも揚げ物を出来る調理法が必用になるかもしれない。(米国では真剣に取り組みつつある)

下水対策では店舗で使う洗剤やクリーニング用の洗剤を富栄養化をもたらすキレート剤である燐酸塩を使用しない無リン洗剤への変更が多かった。また、ユニフォームなどのドライクリーニングは揮発性の溶剤を使用するので、無リン洗剤を使用する水洗いクリーニングに変更するという積極的な企業もある。

「省エネルギー」
小計7%と大きなジャンル別では一番少ないのが目に付く。これは環境対策イコールゴミ処理だと勘違いしている企業が多いのだと推測される。ゴミ処理は環境対策の一部であるが全てでない。今環境で問題になっているのは、地球温暖化であり、その最大の原因であるCO2の排出規制だ。昨年に京都で行われた地球温暖化の国際会議でそれを大きく取り上げ注目されたのは記憶に新しい。

つまり、車のガソリンや、工業製品などの製造に使用する化石エネルギーの使用量を押さえなくてはいけないと言うことだ。これは2通りの対策があり、一つは発生するCO2をどう吸収するかという緑化対策と、少ないエネルギーで物を生産する省エネルギーという考え方だ。それでなくても砂漠化や熱帯雨林の焼失などで緑が失われていく現状の中での可能な対策は省エネルギーだろう。

しかしながら、外食産業で具体的な省エネルギーを上げた企業は少数であり、ほとんどの企業が意識していないのが気にかかる。

図 2
図2その現れが図 2のグラフで、それを見ると環境への取り組方を判断するために専門部署を設置しているのは53%にすぎないということだ。
最後のグラフ図 3はISO14001への取り組みがある企業は18%だと言うことだ。つまり、全社的に積極的に環境対策に取り組んでいるのは18%にすぎないと言えるだろう。食品衛生対策で必要になっているHACCPの導入でも外食産業の出遅れが目立つが、どうも論理的な対策を立てるという習慣が少ないようだ。

環境問題などの規制は企業にとって、経済的にも人的にも余計な負担を強いられるように思われるが、その取り組み方によっては企業の大きな武器にもなる。

図 3
図 31960年代後半から世界的な経済の拡大と共に自動車の生産量が増加し、排気ガスによる大気汚染が世界的な問題となった。その結果米国において排気ガス基準強化をするマスキー法が制定され、米国輸出市場への依存の高かった自動車メーカーはその対策に追われた。短期間の間に日本メーカーは燃費と性能を犠牲にしながらもその対策を打ち立てた。しかし、その対策の目途がついたときに、1973年の第4次中東戦争をきっかけに勃発した第一次石油ショック、78年のイラン革命によって起こった第2次石油ショックにより上昇した石油価格に対処するため、省エネルギーが最大の課題となり、米国において燃費規制が要求されるようになった。
大気汚染の防止と燃費の向上という矛盾を突きつけられた日本車メーカーは不可能だと言われながら、その対策に取り組んだ。その結果、エンジンへのガソリン供給を旧型のキャブレター方式から、電子制御による燃料噴射方式に変更することに成功した。その結果大気汚染の防止と同時に燃費向上を成し遂げただけでなく、車全体の品質の向上に成功し、日本車は燃費が良いだけでなく壊れないと言う神話を確立することに成功した。さらにその課程で品質とコストダウンと言う矛盾を同時に解決することに成功した。その証拠は、米国におけるトヨタ自動車の「ミスターオオノ、カンバン、カイゼン」という日本語が英語として定着していることだろう。

これは大気汚染と燃費向上、コストダウンという矛盾を追求するためにTQCという総合的な品質管理運動に取り組んだ成果だ。その結果世界でも有数の自動車生産国となり得たわけだ。

今回の環境ISO14000への取り組みは全社的な品質管理としての取り組みとなり、最初はコストが上がるかもしれないが、最終的には車産業のように競争力を身につけることに成功するのではないだろうか。

現実にはすでに取引時に環境対策を要求されるケースも出てきている。東京都の管轄下にある都庁を初めとする色々な施設ではコーヒーやお茶等の飲料を提供する場合、ゴミが出ないような濃縮液体タイプの飲料ディスペンサーを要求されている。今後、規制緩和による国や地方自治体、公共施設への外食産業の進出の増加が予想されるが、その際に環境対策が条件となる可能性が高い。

外食産業も単なるゴミ処理の段階だけでなく、以下の課題に取り組む姿勢を取るべきだろう。

[1]オゾン対策
エアコンなどの機器でオゾンを破壊しない安全なフレオンに切り替える。

[2]地球温暖化
CO2の排出を削減するように配送車の合理化や燃料に見直し、省エネルギーの調理機器や照明、暖房施設の採用をする。熱効率が36%前後と効率の悪い電気のピーク需要を下げるため、ガス冷暖房の採用などを考慮するべきだ。ガス厨房器具も電気の熱効率を上回る40%以上の効率を達成できる物に切り替える。

[3]森林減少
セントラルキッチンなどの徹底的な活用による店舗段階の生ゴミの削減や、店舗における徹底したゴミの分別とリサイクルをする。当然の事ながら再生紙の徹底した活用を行う。

[4]環境ホルモン
安全な使い捨て容器や洗剤の使用などだけでなく、建物などの建築資材までもダイオキシンやその他の有害な物質を拡散しない物であるかの検討をおこなう。

[5]海洋汚染の防止
店舗からの油脂の排水を徹底的に押さえるために、グリーストラップや浄化槽のメインテナンスをきちんと行う。

このような総合的な環境対策を考えて行くには、将来の動向まで見越した全社的な環境対策をとれるようにISO14001の取得を考えるべきだろう。

ワタミフードサービスは来年度ISO14001取得を目指している。同社の渡邉社長にその理由を伺ったら、ISO14001を取得するにはかなりの労力と投資が必用だが、無駄なエネルギーや資源の削減につながるので最終的にコストが下がるのではないか」と喝破されていた。これからの外食産業もこのように投資をするが、しっかりと元は取るのだと積極的な取り組みが必用になるだろう。

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