中小企業が取り組むべき環境対策(商業界 飲食店経営2000年10月号)
環境対策というとISO14000など大企業の取り組むべき活動で中小には縁が無いと思われる方がいるがそれは間違いだ。中小企業こそ環境対策に真剣に取り組み成果をだすべきだ。環境対策というと費用と手間がかかるだけでメリットはないと考えている方が多いが実は環境対策は無理無駄をなくす経費削減策であると言えるのだ。環境対策に対応できない企業はコストの上昇という圧力に耐えられなく企業となるのだ。では環境対策をコストダウンの手法としてみてみよう。
環境対策というと幅広い活動を意味するのだが、まず外食企業にとって最もメリットのある環境対策に取り組み、その実績を付けることが第一であるという観点から、地球温暖化対策を取り上げてみよう。
1) 地球温暖化対策=省エネルギー
地球温暖化対策というと堅く聞こえるが簡単に言い換えると飲食店営業に必要不可欠な電気水道ガスなどのエネルギー消費量を減らすと言うことだ。水道光熱費の中で最も費用が多いのは電気代であり、照明、看板、空調、調理機器、情報機器、と飲食業の運営に必要不可欠だ。そこでこの電気代の節約に焦点を当ててみよう。
資源エネルギー庁
http://www.enecho.go.jp/
のデーターを見てみると、「わが国の発電設備の電源別構成比率の推移」の資料がある。
http://www.enecho.go.jp/dayori/index04.html
その内訳を見てみると、96年で原子力発電が34.6%、石油などが17.7%、石炭が14.2%、天然ガスが23.3%、水力が9.6%となっている。発電量の55.2%を石油、石炭、ガス等の化石燃料が占めている。使うときはクリーンエネルギーのはずの電気も、発電に伴い大量の二酸化炭素を発生させる。つまり電気を使えば使うほど地球温暖化を促進することになる。
電気の消費形態を考えてみよう。電気を一番使用するのは空調機器だ。よく言われるのは夏の甲子園高校野球の中継時が一番電気を消費すると言われる。日中の暑い中家でクーラーを使用しテレビを見るという形態だ。この一番電気を使用する容量に合わせて発電所を作ることは、使わないとき、特に深夜の電力を無駄にするし、過剰設備投資となる。また、発電所は電気を最も消費する都会から離れた場所に立地することが多く、そこから高圧電線で送電するがその際の送電ロスは数パーセントにも及ぶ。
そのため、政府のエネルギー政策としてピーク電力を押さえ、なるべく満遍なく電力を使うように奨励するようにしている。深夜時間帯は電力を使わない時間帯なので、深夜電力量を割安に設定し、工場などで大量に電気を使用する場合は工場の稼働を深夜にさせたりする。工場の電気は契約電力量を設定し、それ以上使うとペナルティを支払わなくてはいけないようにするなどの工夫を凝らしている。飲食業でも同じで大量の電力を使う飲食業では使用する電力が多いほど単価が上昇するようになったり、ロスの少ない高圧電線で建物に電気を引き入れ、飲食店の負担で変圧器を導入させ、そこから電圧を落とし使用するなどなるべく使用量を増やさない仕組みを作り上げている。
飲食店は使えば使うほど高くなる電気代を節約することが、環境対策と経費削減に貢献すると言うことがおわかりいただけるだろう。
[1]電気エネルギーの購買形態の変化
電気は電力会社が供給しているが、その購買形態を変更することが可能になりつつある。
通常安定して使用する電源は電力会社から調達し、クーラーや調理機器を大量に使うピーク時の電力を自家発電やガス冷暖房で補おうという考え方だ。従来の自家発電は重油であったが排気ガス公害の問題から、近年はガスを熱源とする自家発電が中心となってきた。
例えば店舗客席や設備を増設する際に電気能力を増加しようとすると受電設備の変圧器の容量が不足し、困ることがある。それを補う手段として、エアコンをガス冷暖房にする例が増えてきた(GHP)。エネルギーを消耗するコンプレッサーを電気駆動から、ガスエンジン(車の小型エンジンを使用する)を使用してコンプレッサーを駆動するようにし、電気設備の増加を必要なくしている。
http://www.tokyo-gas.co.jp/ghp/index.html
効率の高い自家発電ではコジェネレーターという発電設備と廃熱回収装置を組み合わせた効率の高い物がある。
http://www.tokyo-gas.co.jp/toshiene/index.html
従来は大型で中小の飲食業には活用できなかった。ところが最近、米国最新の技術であるマイクロガスタービンを使う小型のコジェネのシステムが実用化されつつある。米国空軍用ヘリコプターの予備ガスタービンエンジンを活用し発電をさせる物である。エネルギー源にガスを使用するので、ガス配管さえあれば簡単に自家発電をすることができる。家庭用のタンスほどの小型の装置であり、特殊な取り扱い免許も不要(政府で規制緩和を検討中)であり、今、飲食企業での採用が検討されており、ファミリーレストランのデニーズでテストを開始する予定だ。
http://www.tepco.co.jp/corp-com/press/2000071801-j.html
また、政府の規制緩和でガス会社が電気を販売したり、電気会社がガスを販売したり、商社が電気を販売できるようになってきた。それらの新しい会社は発電設備を安価で容易なガスで発電するようになってきており、これからのエネルギーはガスをどのように活用するかにかかってくるので、技術動向には目を離せない物がある。
[2]一番効果のあるエアコンの温度調整
今年は異常に暑い夏であり、皆さんのお店に今頃届いた電気会社からの請求書の額の高さに驚いている頃だろう。こんなに暑い夏にはつい、室温を引くくし勝ちだが、設定温度を下げても冷却速度は変わらない。うっかりしていると温度が必要以上に下がり無駄な電気代を掃き捨てることになる。
室温度は26ー28℃に設定し、客にとって快適と感じる温度にする。温度を計測数場所はテーブルメント年、複数の場所を計測しその平均値を管理する。サーモスタットの位置も重要だ。数台のエアコンを設置する場合に配線の都合から(サーモスタットは作動スイッチを兼ねているので並べる場合が多い)サーモスタットを並べて配置しては温度コントロールができない。各エアコンの場所の平均的な場所に設置すること。
もしこの温度で熱く感じるなら、天井に扇風機を吊すとか、扇風機を置いて室内の空気を流動させ客の体感温度を低下させるとか、グリーンを置いたり、室内の色を涼しげにするなどの工夫を凝らす。
ガラス面の多い店舗では太陽光線が直接当たると冷房効果が大幅に低下する。光は通すが熱を反射する効果的なブラインドを使用し、時間帯毎に角度を変え、光を活用しながら太陽の輻射熱を遮断し冷房効果を最大限に高めるようにする。
[3]エアコンで冷やした空気を無駄にしない
飲食店では厨房という大量の熱発生源があり、大型のエアコンが必要でそれが夏場の電気代を高い物としている。飲食店では大量の熱機器を使用するだけでなく、せっかく高い電気代を使って冷やした空気を外部に排気してしまうと言うもったいない事をしている。ガス調理機器(電気調理機器も発生熱カロリーに応じてほぼ同等の排気風量が必要)は調理時に使用するガスの10-20倍の空気を排気しなくてはいけない。その空気がエアコンで冷やされた物であればもったいないわけだ。そこでエアコンで冷却していない外部空気を厨房に直接導入するメーキャップエアーというシステムを採用する。排気ダクトに沿って外部の空気を導入し、働いている人間の体に触れないように、排気フイルター面に沿うように流し、エアコンを通した空気を排気しないようにする。設備投資はかかるが長期的に見るとエアコンの容量を下げ、電気代を節約できるメリットがあるので、是非検討するべきだろう。
また、調理機器が複数ある場合にはそれぞれの排気ダクトを別々にし、忙しくない時間はなるべく停止するなどの工夫をすると効果が大きい。常時使用している調理機器と、ピーク時しか使わない調理機器がある場合に有効だ。もちろん、これらの工夫は新店舗を設計する際から考慮する必要がある。
[4]冷却機器のコンデンサー(室外機)の設置場所と対策
この暑い夏に空調機器が効かなかったり、壊れた経験をした方が結構いるだろう。暑すぎるからとか、能力を超えたからと諦めてはいけない。屋上のスペースの関係から、排気ダクトの温風が当たる場所に設置したり、室外機同士の排気が交互に干渉しあったり、外気の当たらない角に設置したりすると、冷却効果が極端に低下し電気代を過剰に消耗する。また、冷えないだけでなく高価な空冷却機器の寿命が短くなってしまう。
コンデンサーの吸気部分の空気の温度を計測し、外気とほぼ同じかどうかを確認する。もし外部の空気より異常に高い場合は設置場所の問題があるので、室外機を移動したり、向きを変更する。場所が無くてどうしようもない場合には園芸用のシャワースプレーにサーモスタット付きの水栓をつけ、一定以上の外気温度になったら水をコンデンサー面に噴射し、水の気化熱で冷却する工夫を凝らすと冷却能力が向上し、機械の寿命も延ばすことが可能だ。(この手法はコンデンサーの位置を変更できない場合や特別暑い地区の緊急避難策である。水が気化する際に水分中のカルシウムやマグネシウムなどの成分がコンデンサーのアルミフィンに付着し、しばらくすると熱交換率が低下することになる。その場合には特殊な酸性の洗剤でそれらの物質を溶解するという作業を伴うからだ。)
[5]エアコンや冷却機器のコンデンサー、エバポレーターの清掃
電気を一番消耗するのがエアコン等の冷却機器だ。コンデンサー、エバポレーターを頻繁に清掃し、効率よく冷却できるようにしよう。コンデンサー類は屋上の排気ダクトのそばに置くことが多いので排気と一緒に排出されたオイルミストがコンデンサーにこびりつき、そこに外部の埃などがフイルターのように付着し、空気の通りを妨げ冷却効果を大幅に低下させる。埃が油にまみれていなければ掃除機で取り去れるが、油でまみれている場合は、弱アルカリ系の洗浄剤を噴霧して洗い流す必要がある。大型のコンデンサーには専用の圧力の強い洗浄機を使うが、小さい場合は家庭園芸用の噴霧器を使って汚れを落とすことが可能なので試していただきたい。
[6]一番簡単な厨房機器のこまめなスイッチON,OFF
特殊な省エネルギーの機器より、きめ細かにスイッチをつけたり、消したりすると言うのが基本的な省エネだ。グリドルやフライヤー等の調理機器はサーモスタットがついていても、周囲に熱を放熱してガスや電気を消耗する。何も調理をしなくても最高出力の30%位のエネルギーを消耗するから、使用しない場合はこまめに消すという手間暇を惜しんではいけない。調理機器を消したら、それに会わせて排気ダクトを消す。そのために、調理機器のそばに排気ダクトのスイッチを置き簡単に消したりつけたりできるようにする。先ほども述べたが空調機が排気する室内の空気はエアコンの電力で冷やされていることを忘れてはいけない。
但し、排気ダクトをつけないままガス機器を点火すると排気ダクト内が高温になり火災を発生する危険があるので、排気ダクトを入れないと調理機器に点火できないような工夫をする安全への配慮を忘れてはいけない。
[7]照明等のこまめな調整。
照明の電力使用量は大したことがないように思われるが実は結構な消費量だ。エアコンや冷蔵庫、調理機器は通常30%、ピーク時でも50%位の稼働率にすぎないが、照明はスイッチを入れれば100%稼働している。
削減の一番のポイントは白熱灯を熱効率の良い蛍光灯に交換すると言うことだ。雰囲気を重視する飲食店では蛍光灯の白々とした色を嫌い、白熱灯を使う例が多い。しかし最近の蛍光灯は電灯色などがあり、白熱灯と遜色ないし、ダウンライトの形状の蛍光灯も発売されている。できるだけ蛍光灯に切り替えよう。また、蛍光灯の設置器具に反射板を取り付けることで照度が大幅に増加するので、天井面に取り付ける蛍光灯の本数を減らせることが可能だ。後付の反射板も販売されているので検討しても良いだろう。
次に日中の太陽光を活用する為に照明器具の配置を計画的にしよう。日中の窓際は十分な太陽光線があるから照明は無くてもすむ。照明器具のレイアウトを設計家に任せるとブロック単位でON、OFFできるようにする。その方が施工が簡単だからだ。そうすると肝心の窓際の照明だけを消すことができない。そこで、照明図面を詳細にチェックし、太陽光線の当たる窓際に沿った形で電灯のスイッチをコントロールできるような照明レイアウトにする。
また、照明のスイッチもこまめに消すことができるように出入り口に配置する。特に倉庫や休憩室などの照明のスイッチは必ず入り口に設けないと、面倒くさいので消さない事になる。また、客席照明の点灯をスケジュール化し、きめ細かく管理を行う。
[8]看板の管理
店頭の大形看板やキオスク型の看板も電力を消耗する。どのチェーンも同じような大型の看板を使用しているように見えるが、省エネルギーへの取り組みは随分異なる。コンビニのセブンイレブンの外部看板は、普通3本蛍光灯が必要なスペースを、反射板を使用することにより一本の蛍光灯で済ませている。また、色がはっきり出る演色性の高い蛍光灯を使用したり、プラスチックの色の透過性を工夫することでより明るくすることが可能だ。
このあたりは看板屋と良く打ち合わせて、単にイニシャルコストを削減するだけでなく、ランニングコストがどうなるかまで検討するべきだ。
また、看板は日中には不要であるが暗くなったら点灯してないとみっともないし、閉店時には直ちに消灯しないともったいない。時間を見ながら管理をすればよいのだが、うっかり忘れることも多いので、タイマーを使用したり、照度センサーを使用して管理を行う。しかし、機械頼りにせず自分の目で確認するという習慣を忘れてはならない。
2) 環境関連の数値管理=モニターリング
水道光熱費をどのように費用計上しているかを検討しよう。まず、水道代、電気代、ガス代と分けて比較する。電気代でも単に請求金額をその月の損益計算書に計上していると請求金額は締め日がずれており、正確な売上との対比ができない。店舗で使用量を月末に計測し、電気単価をかけて比較するべきだ。
電気代の場合、大きなビルに出店している場合には、大家の計算する電気単価により大きく異なる。ビルは受電設備(キュウビクル)をテナントの電気容量にあった容量で設備する。その契約電気容量で基本料金が変わる。電気代は基本料金と使用した電気料金(従量)で決まるのである。使用量が10万kwであるとすると、基本料金を10万でわり、1kw当たりの従量料金を足して1kw当たりの料金を計算する。さらにキュービクルの設置費用に基づく減価償却費と金利、外部委託のキュービクルの保守点検費用、を電気料金に加算する。この計算方法はビルのオーナーによって異なり、経済環境の変動の際には料金の明細を検討しもし高すぎるようであれば交渉する。
つまり、店舗ごとの電気の使用量をkwで比較し、さらに単価も比較する事が重要である。使用量は店舗の客席の大きさによる、照明、空調機器、厨房の使用機器の種類と数により変わってくる。ある程度の標準化をしていない場合には、店舗ごとに妥当使用量を明確にする必要があると言うことを忘れてはいけない。
『ウイークリー管理』
環境関連の数値は月次の管理であるが、結果がでてから騒いでも数字は良くならない。プラン通りの数値を達成するためにはウイークリーでコントロールし月次には目標の数字を達成する必要がある。ウイークリーコントロールとは週単位で数値を把握し、コントロールする。
週単位で経費を把握するためには、何をコントロールするかを決めなければならない。コントロールする費目を定めたら、その数字の把握をする必要がある。ここでは環境関連の費用の管理項目を見てみよう。
ウイークリーでコントロールするのは
・売上(昨年、目標、の累計対比)
・客数(昨年、目標、の累計対比)
・客単価(昨年、目標、対比)
・原材料費(POSデータより計算)
・原材料ロス金額(売上対比、総額、標 準原価との対比)
完成品の廃棄処分、試食分、従業員消費分、接待分、
未完成の材料の廃棄(賞味期限切れ、味付け調理などの失敗、)
下ごしらえの際のロス(イールドと言う)
・電気使用kw
・ガス使用立方メートル
・水使用立方メートル
等である。これらの項目をバラバラに管理するのでなく、1ページで一覧表にし見やすくする工夫が必要である。
数件のお店を持っている場合、できるだけ店舗の標準化を行い、経費を容易に比較できるようにする。電気水道ガスの使用料を毎日計測している場合でも、その使用数値が正しいのかどうか、正しくなければ何をするのかを定めないで、只言われたから、会社の方針だからと言う習慣的な行動が多い。
数値管理は計測し、その内容が正しいのかどうかを判断し、もし問題があれば具体的にどんな行動をとらなければいけないかまで具体的に定める。
十分な店舗がない場合でも、経費の要素を分解し細かく見ていく事で管理がより綿密になるからだ。
3) 最後に
環境対策の一部である電気代のコントロールだけで上記のように色々な努力が必要だし、科学的に対応しないといけないと言うことがおわかりいただけるだろう。飲食店の経営を考えるとまず売れないといけないと言うことで、攻めの経営を心がける方が多い。経費管理というと後ろ向きの守りの姿勢で従業員のモラルが低くなるのでイヤだと言う方が多い。そこで格好の悪い経費管理ではなく、環境へ貢献しようと言う攻めの経費管理を考えようではないか。従業員にもやりがいが出るだろ。
「環境対策をやろう」と大上段に構えるのではなく、まず効果の一番ある電気代の節約にチャレンジする。しかし、単に電気代の削減というのではなく、何故電気代の節約は環境対策に有効なのか、地球の温暖化とはどんな問題なのか、を上記で紹介したホームページを参考にしながらディスカッションし、従業員一人一人に理解をさせ、環境対策に自主的に取り組める体制を作るべきだ。
中規模のチェーンから大チェーンへ脱皮しようとしているワタミフードサービスはいち早くISO14000を取得した。取得経費に2500万をかけたが、その見返りとして単年度で5000万円の経費を削減することに成功した。それだけでなく、環境対策への取り組みのノウハウを元に、大手チェーン数社と環境対策部門での別会社の提携を実現させた。環境を企業成長の武器として活用している良い実例だろう。